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でかいデスクトップPCはもう不要か?ミニPCで解決できるか検証した結果……
2025年7月2日 06:02
小型ながらもパワフルな性能を持つミニPCの注目度が高まってきている。以前は「ハイパフォーマンスなゲーミングPCには大きなタワー型デスクトップを」というのが半ば常識だったところ、最近はそれを覆すような状況にもなりつつあるようだ。
今回はそんなミニPCのメリットを改めて探るとともに、本当にデスクトップPC並みのゲーミング性能まで得られるものなのか、確かめてみることにした。
ミニPCのメリットはどんなところに?
ミニPCのメリットや特徴として挙げられるポイントは、おそらく下記のようなものだろう。
- 場所を選ばずに置けるコンパクトさ
- 高いコストパフォーマンス
- 比較的豊富なインターフェイス
- 一定程度の拡張性を考慮した設計
ミニPCの比較対象になりやすいのは、おそらくノートPCではないだろうか。大型筐体のデスクトップPCは置くスペースがない、ということであれば、できるだけ小さく、しかしパフォーマンスは可能な限り高いものが欲しい。となると、ノートPCかミニPCのどちらかにほぼ絞られることになるからだ。
ただ、持ち運んで使うニーズがないのであれば、やはりミニPCがベターな選択肢になる。ノートPCと比べて、モニターやキーボードなどのデバイスが省かれる分、基本的には同等の性能がより低価格で手に入る、という有利な面もある。
機種にもよるとはいえ、ミニPCは外部インターフェイスを比較的多く備えるのも特徴と言える。ノートPCだと、薄型・軽量化などのためにThunderbolt 4/5やUSB4といったポートが1つ、もしくは2つだけ、のような割り切った装備になっていることも少なくない。が、ミニPCは大型デスクトップPC並み、とまでは言えなくとも、前面や背面に多くのポートを備える。
ノートPCの場合は、インターフェイス不足を補うためにハブやドッキングステーションを追加することも考えられるが、そうすればコストパフォーマンスはさらに低下する。最初から豊富なインターフェイスを持つミニPCなら、そうした余計な出費を考える必要もないはずだ。
また、メモリやストレージをユーザー自身の手で拡張できるようにしているミニPCも最近は増えてきている。将来の予測は難しいけれど、「最初にこれだけ積んでおけば大丈夫だろう」と思っても、後で足りなくなるのはよくあること。そうしたときに拡張する手段を持つミニPCなら安心だ。
弁当箱サイズに高性能を詰め込んだ「MINISFORUM AI X1 PRO」
ミニPCは最小限の性能・装備に抑えたエントリー機から、ゲーミング用途を見据えたハイエンド機まで、メーカー各社から多彩な機種がラインナップしている。が、カスタマイズ性に優れた大型デスクトップPCを相手取れるミニPCが欲しいのであれば、その中でも高いポテンシャルを持つモデルを選びたいところ。
その一例として今回取り上げるのが、MINISFORUMの「AI X1 PRO」というモデルだ。縦横はそれぞれ195mm、高さは47.5mmで、少し大きめの弁当箱サイズといったところ。平置きすれば、モニター下にすっぽり収まるようなコンパクトさだ。
MINISFORUM AI X1 PRO | |
---|---|
OS | Windows 11 Pro(24H2) |
CPU | Ryzen AI 9 HX 370 (12コア24スレッド、最大5.1GHz、TDP 28W) |
内蔵GPU | Radeon 890M(共有メモリ) |
メモリ | 32GB(DDR5 SO-DIMM、2スロット) |
ストレージ | 1TB(NVMe/M.2、3スロット) |
インターフェイス | USB4 2基、USB 3.2 2基、USB 2.0、HDMI 2.1、DisplayPort 2.0、SDカードスロット、ヘッドセット端子、内蔵マイク、OCuLink |
通信機能 | 2.5Gigabit Ethernet 2基、Wi-Fi 7、Bluetooth 5.4 |
セキュリティ | 指紋認証 |
サイズ | 195×195×47.5mm |
直販価格 | 14万9,590円~ ※7月1日時点 |
搭載しているCPUは、Ryzen AI 9 HX 370(12コア24スレッド、最大5.1GHz、TDP 28W)。モバイル向けのプロセッサではあるものの、Ryzenシリーズは内蔵GPUの性能の高さにも定評があり、単体で3Dゲームをある程度楽しめるほどのゲーミング性能を誇る。また、現時点でトップクラスのAI性能を持つ50TOPSのNPUを内蔵しているのもポイントだ。
メモリは最大128GBまで拡張でき、ストレージはNVMe M.2 SSDを3本まで搭載可能と、拡張性はかなり高い。USB4ポート2基のほかにUSB Type-Aポートが3基あり、周辺機器との接続性は十分。ネットワークは2.5GbEの有線LANポートが2つ、無線LANはWi-Fi 7だ。指紋認証インターフェイスやCopilotボタンを本体に備えるといったユニークな要素もある。
ずいぶんと盛りだくさんな装備のAI X1 PROだが、昨今のヘビーな3Dゲームを快適にプレイできるほどのパフォーマンスを単体で持っているかというと、さすがにそこまでではない。こういうとき大型デスクトップPCであれば、高性能なディスクリートGPUを搭載すればあっさり解決できるが、本機に限らずミニPCのサイズに収めるのは不可能だし、必要な電源容量を確保することも難しい。
そこで、さらなるゲーミング性能を達成するための仕組みとしてもう1つ用意されているのが、「OCuLink」というポートだ。
OCuLinkは、ストレージや外部GPU(eGPU)を利用するためのインターフェイスとして知られる。同じく外部GPUを接続するインターフェイスにはほかにThunderbolt 4(最大40Gbps)やThunderbolt 5(最大120Gbps)もあるが、Thunderbolt 5がまだ一般的ではない中で、OCuLinkは今すぐに実用できるインターフェイスの中では64Gbpsという広い帯域を実現している。
もちろん、ミニPCを選ぶ上で必ずしもOCuLink(eGPU)が必須というわけではない。ただ、最初はミニPC単体で使い始め、ゲームを遊んでいるうちに力不足を感じてさらなるパワーを手に入れたくなったとき、OCuLinkによる拡張が可能であればスムーズに、最小限のコストでそれが可能になる、という意味では大変重要だ。
MINISFORUMは、OCuLinkに対応するeGPU用のドッキングステーションとして「DEG1」という製品をリリースしている。AI X1 PROからOCuLinkケーブルを1本接続すれば、DEG1に搭載した外部GPUのパワーを使えるようになるというものだ。
ただし、DEG1を組み合わせることでミニPCのコンパクトさという特徴が多少犠牲になってしまうところは覚悟しなければならない。タワー型ほどのスペースではないにしろ、DEG1にはGPUのほかにPC用電源も必要で、デスクに置くと存在感をそれなりに主張するからだ。
また、OCuLinkの帯域はPCIe 4.0 x4接続が上限となるため、ハイエンドクラスのGPUを使用したところでその本来性能を発揮しきれない可能性がある点にも留意しておきたい。
大型デスクトップPCの性能に迫れるのか、ベンチマークで比較
では、本当にミニPCが「大型デスクトップPC並み」の性能を持ちうるのだろうか。本格3DグラフィックのAAAタイトルと、AI関連のベンチマークテストなどを実行して、その実力を確かめてみよう。
使用した機材以下の3パターンだ。
- 素の状態のミニPC(GPUメモリに16GB割り当て)
- eGPU(GeForce RTX 4070)と組み合わせたミニPC
- 筆者が普段の仕事に使っているデスクトップPC(Core Ultra 7 265、GeForce RTX 4070)
MINISFORUM AI X1 PRO | 比較用デスクトップPC | |
---|---|---|
OS | Windows 11 Pro(24H2) | Windows 11 Pro |
CPU | Ryzen AI 9 HX 370 (12コア24スレッド、最大5.1GHz、TDP 28W) | Core Ultra 7 265 (20コア20スレッド、最大5.30GHz、65W) |
内蔵GPU | Radeon 890M(共有メモリ) | Intel Graphics |
eGPU/dGPU | GeForce RTX 4070(12GB) | GeForce RTX 4070(12GB) |
メモリ | 64GB(DDR5 SO-DIMM、2スロット) | 64GB(DDR5) |
ストレージ | 1TB(NVMe/M.2、3スロット) | 4TB+2TB+2TB |
軽量級ゲーム
まずは比較的軽量なタイトルである「Apex Legends」から。解像度は1,920×1,080ドットとし、フレームレートを無制限(上限300fps)、画質に関わるオプションをすべて最高に設定した(フレーム生成は対応していない)。下記は訓練場で一定のルートを2分間歩行したときの平均フレームレートをグラフ化したものとなる。
これを見るとミニPC単体でも70fpsと、十分にゲームとして楽しめる性能になっているように思う。が、多人数の戦闘が発生するなど負荷の大きい場面になれば、フレームレートが低下して対戦で不利になることも考えられそうだ。
ところがOCuLinkのeGPUを利用すると、フレームレートは4倍超に激増。上限の300fpsに張り付くタイミングもあり、外部GPUの実力をまざまざと見せつける結果に。大型デスクトップPCとの差はわずか6fpsで、これなら同等と言っても良さそうだ。
中~重量級ゲーム
続いて、中程度の負荷がかかる「モンスターハンターワイルズ ベンチマーク」。こちらも解像度は1,920×1,080ドットとし、画質は「最低」「中」「ウルトラ」に加えてレイトレーシングをオンにした「ウルトラ」の4パターンで計測。いずれのパターンでもフレーム生成をオンにしている。
ミニPC単体だと、画質が「最低」であれば動作面においてはそこそこ快適にプレイ可能だが、画質低下が著しくゲームとして楽しめるかどうかは微妙なところだ。しかし、そこにeGPUを組み合わせることでフレームレートは一気に2~4倍へと向上する。レイトレーシングありの「ウルトラ」画質でもしっかり楽しめるパフォーマンスとなった。
ただ、大型デスクトップPCとの差はApex Legendsのときより大きくなっている。OCuLinkのPCIe 4.0 x4接続と、デスクトップPCのPCIe 4.0 x16接続との違いによる帯域幅の差が如実に現れたようだ。データ転送量の大きくなりがちなリッチなAAAタイトルにおいては越えられない壁がありそうだが、それでも満足度高く遊べるレベルになっているという意味では、ミニPC+OCuLinkの組み合わせは効果的だろう。
AI性能
最後はAI性能の比較。CPU内蔵GPUとeGPU、大型デスクトップPCのGPUとの比較に加えて、NPUの結果もグラフ化している。ここでポイントとなるのが、AI X1 PROのようなモバイル向けのCPUを搭載するミニPCは、強力なNPUを搭載する(モデルもある)こともメリットだということ。
今のところデスクトップPC向けのCPUは、内蔵しているNPUが最小限の性能しか持ち合わせていない。けれども、ミニPCはそうではない。内蔵GPUがAI処理向きでなかったとしてもNPUが肩代わりできることがあり、ミニPC単体でも効率的なマルチタスク作業を行なえる可能性があるのだ。
ベンチマークのグラフを見ても、そうした想定を裏付けるような結果になっている。ミニPCは内蔵GPUだとAI処理性能が不十分に感じられるものの、NPU処理では圧倒的に高いスコアを記録している。一方でデスクトップPCのNPUは13TOPSということもあり、スコアは相応に低い(それぞれ別のベンチマークテストなので単純比較はできないが)。
eGPUでも、内蔵GPU比較で最大10倍もの高速処理が可能で、大型デスクトップPCのGPUに迫る。今後ローカルAIのトレンドが広がっていけば、このようなNPUやGPU(eGPU)のAI性能の高さはますます重要になってくる。
その意味で(高性能なNPUを持つ)ミニPCは、大型デスクトップPCと同等かそれ以上のポテンシャルを持ち、将来性を考えても今選ぶ価値は高いと言えそうだ。
コンパクトさを重視しても性能をあきらめなくていい
以上のように、コンパクトなミニPCでもAI X1 PROのような最新モデルであれば、eGPUを組み合わせることで大型筐体のデスクトップPCと遜色のない性能を発揮することが分かった。
メモリやストレージの強化ができるなど自由度が高く、長く使い続けられるようになったことで、ミニPCのデメリットも解消されつつある。
AI X1 PROは実売価格約15万円と、性能から考えればリーズナブルだ。予算や用途を考えて、とりあえずミニPC単体を導入して様子見しつつ、必要になったときにeGPUを追加する、というように段階的にアップグレードが可能なのもいいところ。
コンパクトさを重視しても性能をあきらめずに済む、ということで、いよいよ選択肢の幅が広がってきた。PCを買い替えようかと考えているけれど、ノートPCや大きなデスクトップPCになんとなくピンと来ていない……なんてときは、試しにミニPCも候補に入れて検討してみてはいかがだろうか。