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複雑怪奇なCore Ultraシリーズを理解する

Core Ultra 200Hシリーズ

 Intelは、2024年9月に発表したCore Ultra 200Vを皮切りに「Core Ultraシリーズ2」を展開。今年(2025年)1月初頭にラスベガスで開催されたCES 2025で残りのモデルをすべて発表し、フルラインナップが出揃った。

 シリーズ2の名称からも分かるように、Core Ultraとしては第2世代にあたり、開発コードネームで言う「Lunar Lake」、「Arrow Lake」の2つの製品が混在している。しかも、市場にはMeteor Lakeの開発コードネームで知られる第1世代の「インテルCore Ultra プロセッサーシリーズ1」(以下Core Ultraシリーズ1)も残っており、たくさんのCore Ultra搭載PCがあふれている状況だ。

 本記事ではそうしたCore Ultraの違いを理解できるように、それぞれのシリーズの特徴、ダイ構成、CPUやGPU、NPUなどの世代、プロセスノードなど製品を理解する上で重要な情報を整理していきたい。

シリーズ1には2種類、シリーズ2には5種類の製品があるCore Ultra、違いは筐体のサイズ

 Core Ultraの正式な製品名は、「インテルCore Ultra プロセッサーシリーズ1」ないしは「インテル Core Ultra プロセッサー シリーズ2」で、従来は第1世代、第2世代……と呼んできた世代の表記が後ろに回され、シリーズ1、シリーズ2のように表現する形に変更されている。

【表1】Core Ultraシリーズ1とCore Ultraシリーズ2のハイレベルの概要
シリーズ名Core Ultraシリーズ1Core Ultraシリーズ2
サブシリーズ名-(Hシリーズ)-(Uシリーズ)Core Ultra 200SCore Ultra 200HXCore Ultra 200HCore Ultra 200VCore Ultra 200U
ターゲット市場薄型ゲーミングノートPC/プレミアム薄型ノートPC薄型ノートPCデスクトップPCゲーミングノート薄型ゲーミングノートPC/プレミアム薄型ノートPCプレミアム薄型ノートPC薄型ノートPC
PBPのターゲット45/28W15W125/63/35W55W45W30/15/8W15W
SKU(型番)の例Core Ultra 9 185HCore Ultra 7 165UCore Ultra 9 285KCore Ultra 9 285HXCore Ultra 9 258HCore Ultra 9 288VCore Ultra 7 265U

 Core Ultraシリーズ2以降は、製品のターゲット別にサブシリーズ名が用意されており、デスクトップPC向けは「Core Ultra 200S」、プレミアムゲーミングノートPC向けは「Core Ultra 200HX」、プレミアム薄型ノートPC向けは「Core Ultra 200V」のように命名されている。本誌の記事などで「CPUにCore Ultra 200Vを採用し……」などと書かれている場合には、ものすごく厳密に言うと「インテル Core Ultra プロセッサー シリーズ2の200Vシリーズを搭載している」と書かないといけないのだが、それだとものすごく冗長な文章になってしまうため、「Core Ultra 200V」と表現することが通例だ。

 なお、シリーズ1の時代にはCore Ultra 100HやCore Ultra 100Uといった呼び方はされておらず、それぞれHシリーズ(Meteor Lake-H)、Uシリーズ(Meteor Lake-U)と呼ばれていたため、それぞれ便宜的にCore Ultraシリーズ1 Hシリーズ、Core Ultraシリーズ1 Uシリーズと呼んでいく。

 PCにはさまざまなフォームファクタがあるため、CPUもそれに合わせて複数のバリエーションを用意しないと対応できない。電力が高ければ高いほど性能は増すが、必要となる放熱機構や電源回路も大きくなる。また、デスクトップPCとノートPCでは求められる機能が異なるため、パッケージも各々に最適化する必要がある。このため、Intelは複数の製品を用意している(それは従来の製品もそうだった)。

 いわゆるSKU(CPUの世界では製品グレードの型番のことをSKUと呼ぶのが通例)名称の仕組みも変更されており、Intelの場合は図1のようなプロセッサー・ナンバーの仕組みになっている。

【図1】Core UltraのSKU名の仕組み

 プロセッサー・ナンバーは、基本的に数字が大きい方がより強力なグレードを意味し、かつ最後のアルファベットでそのSKUがどの市場をターゲットにしたものなのかを理解することができるようになっている。

 しかしCore Ultra 200Vだけはプロセッサー・ナンバーの例外になっており、3文字のアルファベットの最後はSoCパッケージ内に封入されているDRAMの容量を示している。8の場合は32GB、6の場合は16GBを意味する。

Foverosとを採用したことで、製品の構成が柔軟に行なえるようになったCore Ultraシリーズ

【図2】Core Ultraから発展したCore Ultraシリーズ2

 各製品の違いを説明する前に、どうしてこうした違いが生まれたのか、歴史を順に追っていこう。

 Core Ultraシリーズ1(開発コードネーム:Meteor Lake)は2023年の12月にニューヨークで行なわれた発表会の会場で発表された。Core Ultraシリーズ1の最大の特徴は、Intelが「Foveros」(フォベロス)と呼んでいる3Dチップレット(チップレットとはパッケージの上に複数のダイを混載すること)技術を、メインストリーム向けの半導体製品として初めて採用したことだ(実際にはニッチ用途の製品に採用例はあったが、Core Ultraシリーズ1のように大規模に生産され出荷される製品としては初めて)。

 Foverosは、ベースダイと呼ばれる静的なタイル(電源や配線の役割を果たすだけで、回路などはないダイのこと、Intelではチップレットでのダイのことをタイルと呼んでいる)の上に、複数のダイを3D方向に積載していく技術となる。Foverosでは、Intel自社の工場で製造したタイルだけでなく、TSMCなどの外部のファウンドリで製造したタイルも混載できることが特徴で、非常に柔軟な製品構成が可能。

 実際、Core Ultraでは、CPUだけから構成されているコンピュートタイルこそIntel自社のプロセスノードであるIntel 4を採用しているが、GPUから構成されているグラフィックスタイル、NPUや低電力で動作するLP Eコアと呼ばれるCPU、ディスプレイコントローラなどから構成されているSOCタイル、Thunderbolt 4やPCI Expressなどの機能を実現するIOタイルという3つのタイルはTSMCの工場で製造されたダイだ。

【表2】Core Ultraシリーズ1の2つの製品
HシリーズUシリーズ
シリーズ名--
開発コードネームMeteor Lake-HMeteor Lake-U
ターゲットフォームファクター薄型ゲーミングノートPC/薄型プレミアムノートPC薄型ノートPC
CPUアーキテクチャRedwood Cove(P)+Crestmont(E)+Crestmont(LPE)Redwood Cove(P)+Crestmont(E)+Crestmont(LPE)
CPUコア数最大16コア(6P+8E+2LPE)最大12コア(2P+8E+2LPE)
内蔵GPUIntel ArcIntel Graphics
dGPU用PCI ExpressPCIe Gen 5 x8PCIe Gen 4 x8
NPU第3世代第3世代
タイル構成コンピュート+グラフィックス+SOC+IO+ベースコンピュート+グラフィックス+SOC+IO+ベース
コンピュートタイルプロセスノードIntel 4Intel 4
グラフィックスタイルプロセスノードN5N5
SOCタイルプロセスノードN6N6
IOタイルプロセスノードN6N6
ベースタイルプロセスノードP1227P1227
プロセッサベース電力(PBP)45W/28W15W

 なお、Core Ultraシリーズ1には、薄型ゲーミングノートPCおよびプレミアム薄型ノートPC向けのCore Ultraシリーズ1 Hシリーズ(Meteor Lake-H)と、薄型ノートPC向けのCore Ultraシリーズ1 Uシリーズ(Meteor Lake-U)の2つの製品が存在している。

 続いて登場したCore Ultraシリーズ2でもFoverosが採用されており、より多くのバリエーションを展開する上でIntelにとって大きな武器になっている。しかし、コードネームとしては大きく2つ分けられている。1つが2024年9月に投入したCore Ultra 200Vになった開発コードネームLunar Lake、もう1つがそれ以降に投入されたCore Ultra 200S、Core Ultra 200HX、Core Ultra 200H、Core Ultra 200UのArrow Lakeだ。

【図3】Lunar Lakeだけは構造がやや特殊

 このうちArrow Lakeは、基本的にはCore Ultraシリーズ1のタイル構成がベースになっている。Arrow Lakeは、Core Ultraシリーズ1の構成であるコンピュートタイル、グラフィックスタイル、SOCタイル、IOタイルという4つのタイルがベースタイルの上に置かれているという構成は全く同じで、かつSOCタイルとIOタイルは基本的にCore Ultraシリーズ1のタイルを(若干のリビジョンアップなどはあるが)そのまま引き継いでいるからだ。また、製品によってはグラフィックスタイルもそのまま引き継がれており、すべての製品で更新されたのは“コンピュートタイルだけ”となる。

【表3】Core Ultraシリーズ2の5つの製品
SシリーズHXシリーズHシリーズVシリーズUシリーズ
シリーズ名Core Ultra 200SCore Ultra 200HXCore Ultra 200HCore Ultra 200VCore Ultra 200U
開発コードネームArrow Lake-SArrow Lake-HXArrow Lake-HLunar LakeArrow Lake-U
チップセットIntel 800シリーズ・チップセットIntel 800シリーズ・チップセット---
ターゲットフォームファクターデスクトップPCゲーミングノートゲーミング/コンテンツクリエーションプレミアム薄型ノートPC薄型ノートPC
CPUアーキテクチャLion Cove(P)+Skymont(E)Lion Cove(P)+Skymont(E)Lion Cove(P)+Skymont(E)+Crestmont(LPE)Lion Cove(P)+Skymont(LPE)Redwood Cove(P)+Crestmont(E)+Crestmont(LPE)
CPUコア数最大24コア(8P+16E)最大24コア(8P+16E)最大16コア(6P+8E+2LPE)最大8コア(4P+4LPE)最大12コア(2P+8E+2LPE)
内蔵GPUIntel Graphics(Xe)/4xXeコアIntel Graphics(Xe)/4xXeコアArc(Xe with XMX)/8xXEコアArc(Xe2)/8xXe2コアIntel Graphics(Xe)/4xXeコア
dGPU用PCI ExpressPCIe Gen 5 x16PCIe Gen 5 x16PCIe Gen 5 x8PCIe Gen 5 x8
NPU第3世代(13TOPS)第3世代(13TOPS)第3世代(11TOPS)第4世代(48TOPS)第3世代(11TOPS)
タイル構成コンピュート+グラフィックス+SOC+IO+ベースコンピュート+グラフィックス+SOC+IO+ベースコンピュート+グラフィックス+SOC+IO+ベースコンピュート+プラットフォーム・コントロール+ベースコンピュート+グラフィックス+SOC+IO+ベース
コンピュートタイルプロセスノードN3N3N3N3Intel 3
グラフィックスタイルプロセスノードN5N5N4-N5
SOCタイルプロセスノードN6N6N6-N6
プラットフォーム・コントロール プロセスノード---N6-
IOタイルプロセスノードN6N6N6-N6
ベースタイルプロセスノードIntel 1227Intel 1227Intel 1227Intel 1227Intel 1227
プロセッサベース電力(PBP)125W/65W/35W55W45/28W30/17W15W

 これに対してLunar Lakeの方はタイルの構成も一新されている。Meteor Lake/Arrow Lakeでは、コンピュートタイル、グラフィックスタイル、そしてSoCタイルの一部機能(NPUやディスプレイエンジン、メモリコントローラなど)に分割されていたプロセッサが、Lunar Lakeではコンピュートタイルにまとめられ、従来のチップセットのサウスブリッジに相当する機能がPCT(プラットフォーム・コントロール・タイル)にまとめられている。また、パッケージ内にDRAMが搭載されているのも特徴で、16GBないしは32GBのメモリがパッケージに混載されている。

 そのため、OEMメーカーはノートPCの基板にDRAMを搭載する必要がなく、より小さな基板を作ることが可能だ。ただし、Intelが製造する段階でDRAMを搭載する必要があるため、IntelにとってはDRAMという他社製品の在庫を管理する必要が出てくる。場合によっては、その入手がうまくいかないと、SoCの製造がうまくいっていてもDRAMがなくて出荷できない、あるいはその逆にSoCの製造の方が足踏みするとDRAMの在庫が積み上がるというリスクがある。なお、Intelが次世代製品としてCESで公開した「Panther Lake」ではこのメモリオンパッケージの仕組みは採用されない。

Intel 3/4、TSMC N3/N4/N5/N6という6つのプロセスノードで製造されるタイルが利用されているCore Ultra

【図4】Core Ultraで使われているタイル

 IntelがCore Ultraシリーズ1以降の製品で、Foverosという3Dチップレット技術を採用していることは、Intelの強みになっている。

 たとえば、Core Ultraシリーズ2に絞って話をすると、Intelはコンピュートタイルで4種類、グラフィックスタイルは3種類、そしてSOCタイルやIOタイル、PCTで3種類のタイルを用意していることが分かる(図4)。このように複数のタイルを用意できるのも、CPUやGPUがスケーラブル(伸縮可能)な設計になっていて、プロセスノードから独立してIPデザインとして設計されているためである。

 以前のIntelは、製品の設計となるIPデザインとプロセスノードへの最適化が一体になっており、両者は不可分になっていた。当時はそうした方がメリットがあったのだが、Intelの製造技術がTSMCなどの外部ファウンドリに遅れを取るようになると、それが逆にデメリットになってきてしまっていた。そこで、IntelはCPUやGPUをそうした分離設計にすることを、2018年に開催した「Intel Architecture Day」で明らかにし、その戦略が着実に実行されてきた結果、Intel、TSMCのプロセスノードが混在する複数のタイルが用意できるようになった。

 Core Ultraではそうしたタイルを、それぞれのターゲットとなる市場に向けて製品を構成して組み上げている形になる。

【図5】Core Ultraではターゲット市場ごとに選択されているタイルが異なる

 たとえばCore Ultra 200Hであれば、4つあるコンピュートタイルのうちPコアが6基、Eコアが8基となるタイルを選択し、グラフィックスタイルでは初代Xeコアが8基、XMXが8基というタイルが選ばれ、Meteor Lakeでも使われていたSOCタイルとIOタイルの4つを、ベースタイルになるP1227の上に3D方向に積層することで製品を構成している。Lunar Lakeなら、Lunar LakeのコンピュートタイルとPCTが選ばれP1227上に積層されている。

 Core Ultraシリーズ1では2種類、Core Ultraシリーズ2では4種類のタイル構成が存在し、具体的には以下のようになっている。

【図6】Core Ultraのダイバリエーション

 これだけのダイを、Intelのプロセスノード2種類(Intel 4、Intel 3)と、TSMCのプロセスノード4種類(N6、N5、N4、N3)で柔軟に作り上げることに成功している、まさにこれこそがFoverosのメリットであって今のIntelの強みだ。

CPUコアの違い

【図7】CPUコアの違い

 それでは各タイルごとの違いを見ていこう。まずはCPUが入ったコンピュートタイルであるが、これも少し歴史から振り返っていく。

【表4】IntelのPコアとEコアの進化
SoC製品名第10世代Core第11世代Core第12世代/第13世代CoreCore Ultraシリーズ1/2Core Ultraシリーズ2
SoCの開発コードネームIce LakeTiger LakeAlder Lake/Raptor LakeMeteor Lake/Arrow Lake-H/ULunar Lake/Arrow Lake(U以外)
登場年2019年2020年2021年2023年2024年
Pコア開発コードネームSunny CoveWillow CoveGolden CoveRedwood CoveLion Cove
PコアL0(データ)48KB
PコアL1(命令/データ)32KB/48KB32KB/48KB32KB/48KB64KB/48KB非公表/192KB
PコアL2/CPUコアあたり512KB1.25MB1.25MB2MB2.5MB
PコアHTT対応-
Pコア製造ノードIntel 10nmIntel 10nm SuperFinIntel 7Intel 4/Intel 3TSMC N3
Eコア開発コードネームGracemontCrestmontSkymont
EコアL1(命令/データ)64KB(命令)+32KB(データ)64KB(命令)+32KB(データ)64KB(命令)+32KB(データ)
EコアL2/クラスターあたり最大4MB最大4MB最大4MB
Eコア製造ノードIntel 7Intel 4/TSMC N6TSMC N3

 2019年に発表した第10世代Core(Ice Lake)から、CPUのIPデザインが独立してコードネームが用意されるようになった。それが「Sunny Cove」で、その後第11世代Coreで「Willow Cove」に進化している。さらに第12世代Core(Alder Lake)では、ハイブリッドアーキテクチャが採用され、PコアとEコアという2種類のCPUコアが1つのSoCに搭載されるようになった。Alder LakeではPコアは「Golden Cove」、Eコアは「Gracemont」がCPUとして採用された。

 しかし、コアのコードネームとプロセスノードが分離して設計される最初の具体的な製品となったのが、実はCore Ultraシリーズ1だ。Core Ultraシリーズ1では、Intel 4で製造されるコンピュートタイルにはPコアの「Redwood Cove」とEコアの「Crestmont」が実装されており、さらにSOCタイルというTSMC N6製造されるSOCタイルに、同じCrestmontだが、超低電圧で動作する“LP Eコア”と呼ばれるデュアルコアCPUが実装された。1つのIPデザインのCPUが、複数のプロセスノード(Intel 4とTSMC N6)で製造されるということが現実になったわけだ。

 このCrestmontのデザインは、Core Ultra 200H(Arrow Lake-H)でも利用されている。既に説明した通り、Core Ultra 200S/HX/H/Uは、SOCタイルとIOタイルは基本的にMeteor Lakeと共通であり、SOCタイルにはCrestmontのLP Eコアがそのまま実装されている。ただし、Core Ultra 200S/HXではこのCrestmontのLP Eコアは無効にされており使われていない。それに対して、Core Ultra 200Hと200Uに関してはCrestmontのLP Eコアが使われている。

LP EコアはCore Ultraシリーズ1で導入されたが、Core Ultraシリーズ2ではH/Uプロセッサのみで有効だ

 また、Core Ultraシリーズ2のコンピュートタイルは“1つの例外”を除いて、TSMC N3という3nmプロセスノードで製造され、PコアがLion Cove、EコアがSkymontになる。いずれのCPUコアも従来製品に比べてIPC(1クロックで実行できる命令数)が大きく改善されており、同じ電力ならより高性能で、同じ性能なら低電力で動作させることができる。

 “1つの例外”とは、Core Ultra 200U(Arrow Lake-U)のことだ。200UのコンピュートタイルはIntel自社のプロセスノードであるIntel 3で製造されており、CPUのアーキテクチャもRedwood CoveとCrestmontに据え置かれている。つまり、Core Ultra 200Uに関しては限りなく「Meteor Lake Refresh」に近いが、プロセスノードがIntel 4からIntel 3へと微細化されていることが違いとなる(もっともIntel 3はIntel 4のバリエーションなので、同じ世代の中での微細化版ではある)。

 なお、IntelがCore Ultraシリーズ2で(Core Ultra 200Uを除いて)コンピュートタイルの製造をTSMC N3で行なっていることは、シンプルにその方が高い性能が実現できるからだ。実際、昨年のCOMPUTEX 2024の記者会見でLunar LakeがTSMC N3で製造するのはなぜかと問われたパット・ゲルシンガーCEO(当時)は「現時点で最適なものを選んだということだ」と明言している。

 ただし、その状況は次世代製品となるPanther Lakeでは大きく変わる。IntelはPanther Lakeのプロセスノードは、Intel自身のIntel 18Aであり、Intel自身が評価した結果としてIntel 18Aの方がより高性能で高品質な製品が実現できると判断したということだ。IntelにとってはIntel 18Aの成否は、Intelが社運をかけて取り組んでいるIntel Foundry Services(IFS)の主力ノードになると考えられているだけに、Panther Lakeの出来がどうなのかに大きな注目が集まるところだ。

GPUコアの違い

【図8】GPUコアの違い

 GPUに関しても同様で、プロセスノードからの独立したIPデザイン、そしてスケーラブルな「Xeアーキテクチャ」となっている。第11世代Core(Tiger Lake)の内蔵GPUで最初に採用し、その後Intel Arcブランドの単体GPUに拡張し、最終的にはデータセンター向けGPUとなる「Intel Data Center GPU Flex」、そしてHPC向けの「Intel Data Center GPU Max」などにも採用されている。

 Core Ultraシリーズ1、そしてCore Ultra 200Vを除くCore Ultraシリーズ2の各製品には、このXeアーキテクチャベースのGPUが採用されている。Xeアーキテクチャでは、複数の演算器を1つにまとめたXeコア(NVIDIA的な言い方をするならSM)、そして複数のXeコアをまとめたスライス(NVIDIA的な言い方をするならTPCないしはGPC)と階層構造になっており、スライスの数を増やしたり減らしたりすることで、GPUの規模を伸縮自在にできるように設計されている。Xeコアが一番少ないデザインがXe-LP(Xeコア×8)で、これがIntelのプロセッサに採用されているGPUデザインとなる。

 このXe-LPそのものが搭載されているのがCore Ultraシリーズ1のMeteor Lake-Hで、Xeコアが8つあるデザインになっている。そして、Core Ultraシリーズ1のうちMeteor Lake-U、Core Ultraシリーズ2のうち、Arrow Lake-S、Arrow Lake-HX、Arrow Lake-Uに採用されているのが、Xe-LPのハーフ版(Xeコア×4)の製品となる。これらは、いずれもTSMC N5で製造されるグラフィックスタイルになっており、ベースタイル上に積層されている。

 これに対して、Core Ultraシリーズ2の中でもArrow Lake-Hだけは、Xe-LPの改良バージョンが採用されている。具体的にはXMXと呼ばれる行列演算が可能なエンジンが内蔵されているのだ。このXMXが何かと言うと、1つのエンジンに256bitの浮動小数点演算エンジンと1,024bitの行列演算エンジンを備えており、1クロックでFP16なら128命令を、INT8なら256命令を、INT4なら512命令を処理する性能を備えている。要するに推論時に必要なFP16、INT8、INT4などの精度のデータ処理を高速に行なうことができる演算器となる。誤解をおそれずに平たく言えば、GPUの中にNPUが入っているようなものだと考えると分かりやすい。

 このXMXは、単体版のArcで初めて導入されたが、それがArrow Lake-HにはGPUとして採用されている形になる。Arrow Lake-HのGPUは8つのXeコアと8つのXMXが搭載されており、ノートPC向けの単体GPUとして投入されたArc Aシリーズのうち、下位チップになるACM-G11相当のスペックになっている。こちらも、平たく言えば、Arc Aシリーズの下位グレード相当のdGPUがSoCに内蔵されていると考えることが可能だ。なお、このArrow Lake-HのGPUはTSMC N4(4nm)に微細化されており、その点も性能向上などに貢献していると考えることができる。

 そして、Core Ultraシリーズ2でも、Lunar LakeのCore Ultra 200Vには、第2世代のXeアーキテクチャという意味になる「Xe2アーキテクチャ」のGPUが採用されている。Xe2は、Xeアーキテクチャの特徴を受け継ぎ、同時に内部構造の見直しを行ない、演算効率が改善されていることが大きな特徴。

Xe2アーキテクチャ

 具体的には浮動小数点演算のエンジンが、XeではSMID8と呼ばれる8つの浮動小数点演算器が2つある形になっていたが、Xe2ではSIMD16と呼ばれる16の浮動小数点演算器が1つあり、その2つのSIMD16を束ねてSIMD32として利用できるようになっている。さらに、XMX性能の大幅に引き上げられており、1クロックあたりFP16なら2,048命令、INT8なら4,096命令になっており、XeのXMXに比べて8倍のスループットを実現している。なお、Lunar LakeのGPUはそのXe2コアとXMXがそれぞれ8基搭載されている。

 また、Lunar Lakeでは、CPUとGPUはどちらもコンピュートタイルに実装されており、最先端のプロセスノードとなるTSMC N3で製造されている。このため、性能面では、N4やN5で製造されているMeteor Lake/Arrow Lakeのグラフィックスタイルと比較して性能的に優位にある。このため、性能的にはLunar LakeのXe2 GPUが性能としては最も高く、次いでArrow Lake-HのXMX搭載したXe-LPのGPU、XMXには未対応だがXeコアが8つあるMeteor Lake-HのGPU、そしてXe-LPの半分のコアしかない残りの製品と考えることができる。

NPUの違い

【図9】NPUの違い

 NPUに関しては割とシンプルで、Lunar LakeのNPUだけがIntelが第4世代NPUと呼んでいるNPUで、SKUによるが48~40TOPSの性能を発揮し、MicrosoftのCopilot+ PCの要件を満たす。それ以外のMeteor Lake、Arrow LakeベースのCore Ultraはすべて第3世代NPUで、11~13TOPS程度のAI性能になっており、Copilot+ PCの要件を満たすことはできていない。

 Intelの第4世代NPUは、第3世代NPUに比べて演算器や内部メモリなどが増えている。第3世代NPUでは演算器(Neural Compute Engine)が2基になっていたが、第4世代NPUでは3倍の6基になっている。そのままでは性能が3倍になっても40TOPSには届かないが、メモリ容量が増えているほか、GPUと同じでNPUもSOCタイルからコンピュートタイルに移動しており、それにより最先端のプロセスノードで製造され、クロック周波数などが引き上げられている。それにより、第3世代NPUと比較して4倍の性能となる、48〜40TOPSという性能を実現していることになる。

Core Ultraシリーズ2の中でももっとも先進的なのがCore Ultra 200Vの第4世代NPU

 ここで誰もが思い浮かぶことは、「Core Ultraシリーズ1の時は致し方なかったとしても、Arrow LakeなCore Ultraシリーズ2でも第4世代NPUを採用することはできなかったのだろうか?」という疑問だろう。

 しかし既にここまで読んで頂いた方にはもうお分かりだと思うが、それは難しい。Arrow Lakeでは大枠として、Meteor Lakeのタイル構成を引き継いでいるからだ。Arrow LakeのSOCタイルとIOタイルはMeteor Lakeのそれで、プロセスノードなども変わっていない。Arrow LakeのNPUはそのSOCタイルにあるため、新しくするのは難しかったのだ。

 こうなってしまった原因は、おそらくIntelが、MicrosoftがCopilot+ PCで40TOPSのNPUを必要とする方針を決めたことを知った段階が、Arrow Lakeの大枠が変えられるタイミングを過ぎてからだったからだと推測できる。これを解決するには、NPUをCPUに近いところ、具体的にはLunar Lakeがそうであるようにコンピュートタイルに統合するのが合理的な解決策で、もともと新しいモバイル専用のSoCとして設計されるLunar Lakeは間に合ったが、Arrow Lakeはそうではなかったということではないだろうか。おそらく、次世代製品となるPanther LakeではNPUがコンピュートタイルに移動しているか、SOCタイル自体がもっと進んだデザインになっているのではないだろうか。いずれにしてもその答えは今年の後半に分かる。

 その意味で、Intelにとっては不運だったとも言えるし、OSパートナーとの関係に揺るぎがないと油断があったのか……そこをNPUで先行していたQualcommに突かれてCopilot+ PCへの対応で先行を許してしまったと考えることが可能だ。近年のMicrosoftとIntelはかつて「Wintel」などと呼ばれて鉄板のパートナーシップだったことが嘘のように隙間風が吹いているように見える。

 たとえば、IntelはLunar Lakeに内蔵しているMicrosoftのPlutonの取り組みに対応したセキュリティエンジンを「Intel Partner Security Engine(PSE)」と呼んでいて、Microsoft Plutonとは積極的に言っていないことなどもその1つになる。なんかしっくりいってないなという印象づけられることが多いのが現状だ。その意味で、IntelにとってはMicrosoftとの隙間風をどうやって埋めていくのか、それが製品開発などとは別にIntelにとっての長期的な課題の1つだと言って良い。

性能重視ならS、HX、H、バッテリ駆動時間とのバランス重視ならVというのがシリーズ2でのベストチョイス

 以上のように、Core Ultraシリーズ1、Core Ultraシリーズ2の各製品について詳しく解説してきた。

 CPU性能という観点からまとめると、Core Ultraシリーズ2ではCore Ultra 200Uを除き、Lion Cove(Pコア)+Skymont(Eコア)という構成になっており、違いはコア数とクロック周波数になる。基本的にCPUの性能は同じアーキテクチャなら大電力で高い周波数で動かせる製品が高くなるので、Core Ultra 200S>Core Ultra 200HX>Core Ultra 200H>Core Ultra 100H>Core Ultra 200V>Core Ultra 200U>Core Ultra 100Uの順番になる。ただ、電力効率という意味では、Eコアが低電圧アイランドに置かれているCore Ultra 200Vが高い。

 GPUに関して言うと、新しいアーキテクチャ(Xe2)を採用し、Xeコアも最大の8つを搭載しているCore Ultra 200Vがもっとも高い性能を発揮する。その次が旧Xeではあるが、Xeコアが8つありXMXにも対応しているCore Ultra 200Hが次に高性能で、Core Ultra 100Hへと続く。デスクトップPC向けのCore Ultra 200S、Core Ultra 200HXなどに搭載されているGPUは、dGPUを接続することを想定しているため、「おまけ」と考えて良く、性能に関しては推して知るべしだろう。

 NPUに関しては、世代が新しく演算器が3倍も用意されている第4世代NPUを搭載するCore Ultra 200Vがもちろん最上で、それ以外は第3世代NPUとなるので比べるまでもない。ただ、Windows Studio Effectsのような性能よりも電力効率が重視されるアプリケーションでは第3世代NPUでも十分活用できる性能が実現されており、アプリケーション次第だと言える。

 どれを選べばよいかと言えば、基本的にはユーザーがどのフォームファクタやアプリケーションで使いたいか次第だ。デスクトップPCならCore Ultra 200Sだし、ゲーミングノートPCならCore Ultra 200HXで決まりだ。やや悩むのが薄型ノートPCで、Core Ultra 200Hの28W版と、Core Ultra 200Vの30/15Wはキャラクター的にややかぶっている。こちらは純粋なCPU性能が重視ならCore Ultra 200H、GPUやCopilot+ PCへの対応、バッテリ駆動時間との兼ね合いを重視するならCore Ultra 200Vという選択になる。

 今年PCを購入する時に、どのSoCがどんな製品なのかということを理解する上で本記事が役立ってくれれば幸いだ。