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定番トラックボールの新型はどこが変わった?ロジクール「ERGO M575SP」と「MX ERGO S」を試す

ロングセラーのトラックボールがリニューアル。左奥が「MX ERGO S」、右手前が「ERGO M575SP」

 ロジクールからトラックボールの新モデル「ERGO M575SP」、「MX ERGO S」の2製品が登場した。ロングセラーモデルである「M575」、「MX ERGO」のリニューアルモデルということで注目度も高い。メーカーから機材を借用したので、従来モデルとの違いを中心に、ファーストインプレッションをお届けする。

スタンダードなトラックボール「M575SP」

 まず製品の概要をざっと紹介しておこう。ERGO M575SP(以下M575SP)、MX ERGO Sのどちらも、親指でボールを操作するタイプのトラックボールで、前者のM575SPは拡張ボタンを2つ備えた、マウスで言うところの5ボタンマウスに相当するスタンダードな製品だ。

 同製品は従来モデルの「M575」、さらにその前の「M570」と、型番を変えながら進化してきた経緯があり、固定ファンも多い。そのボディ形状は事実上トラックボールのデファクトスタンダードとなっており、他社製品の中には、本製品にそっくりなモデルをラインナップしている場合もあるほどだ。

 解像度は最大2,000dpi。接続方法はBluetoothのほか、付属レシーバを用いたLogi Bolt(後述)での接続もサポートしている。水平スクロールには非対応なほか、DPI切替のボタンを本体に搭載しないのは、後述する「MX ERGO S」との相違点だ。電源は単3形乾電池で、最長18カ月の駆動が可能とされている。重量は公称145gだ。

 カラーは今回紹介しているグラファイトのほかオフホワイト、ブラックの計3色がラインナップされており、実売価格は8,470円。なおブラックのみ、保証期間を2年から1年に短縮した特定販路向けのモデルも用意されている。

ボールは親指で操作するタイプ。左ボタン横には拡張ボタン2つを備える
実際に操作している様子。拡張ボタンは左の人差し指で押す
上面。ボディ全体に施された流線のモールドが特徴的
左側面。ボールは青で、ブラックモデルのみ灰色となっている
下面。傾斜はなだらかだ
右側面。ホイールは水平スクロールには対応しない
正面。電池駆動ゆえ後述のMX ERGO Sと違ってUSBポートはない
ボールは裏面から押し込むことで取り外しが可能
底面。電源ON/OFFボタン、ペアリングボタンがある。左下には電池ボックスがある
ワイヤレスレシーバ。従来と異なりLogi Bolt規格の品に改められている
専用ユーティリティ「Logi Options+」。ボタンの割当設定などが行なえる
ポインタ速度は本体側では操作できず、このユーティリティ上で調整する
パッケージ。従来よりもコンパクトになっている

角度調整可能なハイエンド向けトラックボール「MX ERGO S」

 もう一方のMX ERGO Sは、拡張ボタン2つに加えて、側面にDPI切替ボタン、さらに上面には接続先を切り替えるためのEasy-Switchボタンを搭載した、ハイエンドに相当する製品だ。

 最大の特徴は、底面のマグネット吸着式プレートを倒すことで、ボディの傾斜を約20度切り替えられるギミックを有していることだ。持ちやすさに応じて片方に固定して使うのもあり、気分転換で切り替えるのもありと、柔軟な使い方が可能だ。また前述のM575SPにはない水平スクロールにも対応している。重量は公称259gとずっしり重い。

 解像度は最大2,000dpi。接続方法はM575SPと同様、Bluetoothのほか、付属レシーバを用いたLogi Boltでの接続もサポート。こちらは電池駆動ではなく充電式となっており、ボディ先端にあるUSB Type-Cポートから充電することで、フル充電では最長120日間の駆動が行なえる。1分間の充電で24時間使用できる高速充電に対応しているのも心強い。

 カラーは今回紹介しているグラファイトのみで、実売価格は1万9,580円。こちらもやはり、保証期間を2年から1年に短縮した特定販路向けのモデルも用意されている。

ボールは親指で操作する。左ボタン横に2つの拡張ボタン、さらにボールの手元寄りにDPI切替ボタンを備える
実際に操作している様子。これは角度をつけた状態
上面。こちらはM575SPのような流線のモールドはなく全体がツルッとしている
左側面。ボールの右上にあるボタンはDPI切替に使用する
下面。傾斜の角度は2段階で調節可能だ
右側面。ホイールは水平スクロールにも対応する
正面。充電用のUSB Type-Cポートを備える
ボディの傾斜の角度は2段階で変更できる。本製品の最大の特徴だ
角度をつけた状態では約20度の傾斜がある
角度をフラット寄りにした状態では、前述のM575SPと握り心地は近い
ボールは裏面から押し込むことで取り外しが可能
底面。プレートはマグネットで吸着しているだけなので簡単に取り外せる
ワイヤレスレシーバ。こちらもLogi Bolt規格の品に改められている
パッケージ。ケーブルが同梱されなくなったためコンパクトになった
専用ユーティリティ「Logi Options+」。ボタンの割当などが行なえる。複数デバイスを操作できるFlowもここで設定する
ポインタ速度調整のほか、水平スクロールなどの設定が行なえる

変更点その1:左右ボタンの静音化

 さてこれらの製品は、従来モデルとどこが変わっているのだろうか。両製品とも外見に変化はないのだが、共通する変更点が2つある。まず1つは、左右ボタンの静音化がなされていることだ。

 両製品とも従来モデルは、左右クリックのボタンが「カチカチ」と甲高い音がする仕様だったのが、今回の新モデルは「カコッカコッ」という低い音がする仕様に改められ、クリック音が周囲に響きにくくなっている。同社は「前モデルと比較し80%ノイズをカット」をアピールしている。

 以下の動画はM575SPと、従来モデルにあたるM575で左右のクリック音を比較したものだが、違いは明らか。外見では区別がつきにくいこの新旧モデルだが、左右ボタンのクリック音を比べれば、どちらが新モデルなのか簡単に判別できる。

左がM575SP、右が従来モデルのM575。外見での判別はほぼ不可能だ
底面も酷似しているが、よく見ると型番のモールドが異なっている
クリック音を比較している様子。左が新製品(M575SP)、右が従来モデル(M575)。明らかに異なっていることが分かる。ちなみに従来モデルは以前の類似製品との比較レビュー時に購入し、以後使用していない個体なので、ほぼ摩耗のない、実質的に新品同士での比較となる

 この仕様変更が、当初から静音化ありきで設計されたのかまでは定かではないが、高いクリック音が近隣の作業者の集中力を知らず知らず削いでいるというのはよくある話で、進化の方向は正しいだろう。クリック音をマイクに拾われたくない動画配信者などにもプラスのはずだ。

 ただユーザーによっては、従来のマイクロスイッチならではの甲高いクリック音が好きな人もいるはずで、万人にウケる仕様かというとそうではないだろう。また「MX ERGO S」については、左右ボタンの静音化によって、逆にほかの拡張ボタンのクリック音が耳につくようになっており、このあたりも使っていてやや気になった。

MX ERGO Sの各ボタンのクリック音。左右ボタンはM575SPと同じく静音化されているが、左ボタン隣りにある2つの拡張ボタンやボール横のDPI切替ボタンは静音仕様ではないためかなり音が響く。ちなみにM575SPの拡張ボタンは2つとも静音仕様なのでこうした問題はない

 試した限り、左右ボタンの「軽さ」は従来と変わらないように感じる。筆者はこの両製品(の従来モデル)を使っているときに手を乗せたままにしていると、薬指が無意識に右ボタンを押し込んでしまうことがそこそこの頻度で発生するのだが、これは今回の新製品でも変わらず起こる。これについては筆者が多数派ではなく少数派のはずだが、よくも悪くも変化はないということになる。

変更点その2:独自の無線規格Logi Boltに対応

 もう1つの変更点は、2.4GHz帯のワイヤレス通信規格が、従来の「Unifying」から「Logi Bolt」へと改められたことだ。

 ロジクールの独自規格Logi Boltは、多数のデバイスが存在する環境でも混線しにくいことを特徴としたBluetooth Low Energyベースの通信規格で、1つのレシーバでマウスやキーボードを複数接続できるといった強みもある。

 Logi Boltが登場したのは2021年で、それ以前から販売されていたM575やMX ERGOは非対応だったが、今回のモデルチェンジで対応したことにより、無事Logi Boltファミリーの一員になったというわけだ。同社にとっては、両製品を長く売っていくために欠かせない要件だったのだろう。

 ちなみに、USBレシーバのサイズは従来モデルで付属していたUnifyingレシーバと変わらないので、ノートPCに挿した時の突出サイズの違いを気にする必要はない。なお、M575SPが本体底面にレシーバを収納できるのに対して、MX ERGO Sに収納のギミックがないのは、従来のモデルと同様だ。

レシーバの相違。左がM575SP(Logi Bolt)、右が従来モデルのM575(Unifying)。サイズはまったく同一だ
M575SPは本体底面にレシーバを収納できる。MX ERGO Sにはこのギミックはない

使い勝手は変わらず、乗り換えても違和感なく使える

左がMX ERGO S、右がM575SP。全体的なフォルムは似ている

 両製品に共通する主な違いは以上2点だ。これに加えてMX ERGO Sでは、本体のUSBポートが従来のMicro USBからUSB Type-Cへと改められている。さらに従来は付属していた充電ケーブルが、今回のモデルでは省かれているといった違いがある。

 いずれにしても使い勝手に大きな変化はなく、従来モデルのユーザーは違和感なく使えるであろうことから、乗り換えにあたっても不安はない。専用ユーティリティ「Logi Options+」には、2023年にマクロ登録機能「Smart Actions」も追加されており、製品の入れ替えを機に試してみるのも一興だろう。

MX ERGO Sは先端に給電用のUSB Type-Cポートを搭載する。従来はMicro USBだった
マウスボタンをトリガーにさまざまなアクションを実行できる「Smart Actions」も利用できる

 一方、新規に買うユーザーにとってどちらがよいかは、価格差もあって一概には言えないのが難しいところ。5ボタンマウスの機能で十分ならばM575SP、それ以上を求めるならばMX ERGO Sというのが、1つの目安になるだろう。個人的には、腱鞘炎対策が主な購入の動機ならば、試した上で納得感を得られやすいMX ERGO Sをおすすめしておきたい。

MX ERGO S(左)は角度を調整できるのが最大の特徴だ
MX ERGO S(左)は角度をフラット寄りにするとM575SP(右)と概ね同様の握り心地になる