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極秘指令「10万円以下でゲーミングPCを作れ」。Ubuntuを使えばコストも節約可能!?
2024年5月3日 06:14
最近はパーツの価格が全体的に高騰しており、自作PCにかかるコストは大幅に上昇している。特に高性能なパーツを組み合わせて作る「ゲーミングPC」だと、予算として20万円は見ておかないと苦しい。6~7年前なら、10万円の予算でもそこそこのゲーミングPCは組めたのにな……。
とはいえ、そこで諦めては終わりだ。今回はこの10万円という予算感をベースに、最新ゲームをきちんと遊べるようなPCを作れるのかどうかについて考えていこう。またOSを無料のUbuntuにすることで、Windows 11を購入するコストをほかのパーツやゲーム購入費に振り分けられる。今回は、こうしたWindowsを使わずPCゲームを楽しむ方法も簡単に紹介しよう。
ビデオカードに集中投資し、CPUはローエンドクラスを選択
価格に縛りがある場合、目的に合わせて「重要視しなければならないパーツ」と、「型落ちでも安さを重視するパーツ」の切り分けが必要だ。その意味で、今回もっとも重視するべきはビデオカードである。最新PCゲームの精細な映像を表示するためには不可欠のパーツで、ここをケチりすぎるとゲーミングPCとしての適性が大きく低下する。
今回はGPUとして「GeForce RTX 4060」を搭載する、Palitの「GeForce RTX 4060 StormX V1 8GB」を選択した。最新のGeForce RTX 40シリーズに属したミドルローモデルで、対応するゲームならAIによるフレーム生成機能「DLSS 3」が利用できる。
シンプルなシングルファンモデルで、長さが169mmと小型のMini-ITX対応PCケースでも利用しやすい。ドスパラの専売モデルで価格は4万3,800円だ。今回の構成パーツでは一番高いが、フルHD(1,920×1,080ドット)~WQHD(2,560×1,440ドット)の解像度なら最新ゲームも充分遊べる。DLSS 3の将来性にも期待したい。
逆にCPUやマザーボードのグレードは、それほど重要ではない。PCゲーム中のCPUへの負荷は、基本的にあまり高くないからだ。またビデオカードがミドルロークラスなので、性能の低いCPUを組み合わせてもボトルネックにはなりにくい。
今回は、Intelの12世代Coreシリーズから「Core i3-12100F」を選んだ。4基の高性能コアのみで構成されており、4コア8スレッドに対応する。同じグレードで同じコア/スレッド数をサポートする14世代の「Core i3-14100F」は1万9,000円前後だ。一方でCore i3-1200Fの実売価格は1万5,000円前後で性能差は微々たる物であることを考えると、Core i3-12100Fに軍配が上がる。
マザーボードはASRockのLGA1700対応モデル「H610M-HVS/M.2 R2.0」。低価格なDDR4メモリに対応しており、チップセットにはローエンドのIntel H610を採用している。PCI Express 4.0 x16スロットを搭載しており、最新ビデオカードも問題なく利用できる。M.2スロットはPCI Express 3.0 x4対応だが、ここは妥協してもいいところ。実売価格は9,000円前後と安い。
メモリはPC4-25600対応の8GBモジュールを2枚組み合わせたCFD販売の「W4U3200CS-8G」で、SSDはSolidigmの「SSD 670p SSDPEKNU010TZX1」。どちらも容量と価格のバランスに優れており、低価格なゲーミングPCに組み合わせるにはぴったりだ。
電源ユニットは、玄人志向の「KRPW-L5-500W/80+/REV2.0」、定格出力が500WのATX対応電源ユニットだ。REV2.0でEPS12V電源ケーブルが70cmになり(旧モデルは40cm)、裏面配線や電源ユニットを下部に置くケースでも扱いやすくなった。
PCケースはZALMAN TechのmicroATX対応モデル「T3 PLUS」だ。4,000円前後と非常に安いが、前面と背面に1基ずつ12cm角ファンを備えるほか、左側板に強化ガラスを採用して内部を眺めて楽しめる機能もある。CPUクーラーはCPU付属の物を使ってもいいが、今回はThermaltakeのトップフロークーラー「Gravity i3」を組み合わせた。
合計金額は9万3,800円と、合計で10万円以下というミッションは無事にクリアした。Windows 11 Homeを追加すると約1万6,000円上乗せされるが、ゲーミングPCとしてちゃんと使えるスペックながらトータルコストで10万円を切れるというのは、筆者としてもちょっと驚いた。
パーツカテゴリ | メーカー名 | 製品名 | 実売価格 |
---|---|---|---|
CPU | Intel | Core i3-12100F | 1万5,000円 |
マザーボード | ASRock | H610M-HVS/M.2 R2.0 | 9,000円 |
メモリ | CFD販売 | W4U3200CS-8G | 5,000円 |
ビデオカード | Palit Microsystems | GeForce RTX 4060 StormX V1 8GB | 4万3,800円 |
SSD | Solidigm | SSD 670p SSDPEKNU010TZX1 | 8,000円 |
PCケース | ZALMAN Tech | T3 PLUS | 4,000円 |
電源ユニット | 玄人志向 | KRPW-L5-500W/80+/REV2.0 | 7,000円 |
CPUクーラー | Thermaltake Technology | Gravity i3 | 2,000円 |
合計金額 | 9万3,800円 |
最新ゲームも設定をちょっと緩めれば普通に遊べる
完成図はこちらだ。PCケースのT3 PLUSは、幅206mm、奥行き355mm、高さ422mmのミニタワーケースなので、比較的コンパクトで置き場所に困らない。筆者は普段は奥行きや高さが500mm近い大型のミドルタワーケースを扱うことが多いため、小さくて扱いやすいのはいいなあと感じる。
シンプルなパーツ構成でPCケース内部も余裕がある構造なので、組み込みはラクだった。各パーツが物理的に干渉することもなく、スムーズに組み込めるだろう。天板とマザーボード上辺の隙間は実測値で約60mm前後確保しており、EPS12V電源ケーブルや各種ファンケーブルをマザーボードベース裏面から引き出して挿したり、整理したりする作業も簡単に行なえた。
まずはWindows 11をインストールし、一通り基本的なベンチマークテストを行なってみた。基本性能を計測できるPCMark 10 Extendedの総合スコアは8,697。Windows 11や各種アプリの起動や挙動、操作感は快適で、普段使いのPCとして不満を感じる場面はなかった。
3Dグラフィックス性能を計測し、ゲーミングPCとしての適性を確認できる3DMarkの結果は下の画面の通りだ。GeForce RTX 4060搭載のビデオカードを組み込んだゲーミングPCとしては妥当な結果を出しており、全体のコストが10万円以下と言うことを考えると、なかなかスゴイ。10コア以上の高いCPUでなくとも、GeForce RTX 4060の性能を引き出すことは可能だ(ちょっと言い過ぎ感)。
ゲーミングPCとしての適性をチェックするため、いくつか実際のPCゲームのベンチマークテストを試してみた。まずは比較的描画負荷の低いMMORPGタイトル「ファイナルファンタジーXIV:黄金のレガシー ベンチマーク」と、マルチ対応のFPSタイトル「レインボーシックス シージ」だ。
解像度はフルHD(1,920×1,080ドット)、WQHD(2,560×1,440ドット)、4K(3,840×2,160ドット)の3通りで計測した。ファイナルファンタジーXIV:黄金のレガシー ベンチマークのグラフィックス設定はもっとも高い「最高品質」、グラフィックスアップスケールタイプは「DLSS」を選択。レインボーシックスシージのグラフィックス設定は、もっとも高い「最高」に設定している。
このクラスのPCゲームの場合、フルHDやWQHDであれば問題なく快適なプレイが楽しめるだろう。ただ4Kともなるとところどころで60FPSを切る場面もあった。だからといって描画がおかしくなるようなこともなく、描画クオリティを若干下げればさらに快適になる。
さらに、比較的グラフィックス処理が重いゲームとして「サイバーパンク2077」と、「アバター:フロンティア・オブ・パンドラ」を試した。どちらも緻密で精細なグラフィックスを用いて美しい世界を表現するゲームで、4Kなど高解像度環境ではかなり重い。またどちらのタイトルもフレーム生成機能に対応するので、これについても検証した。
サイバーパンク2077のグラフィックス設定は「レイトレーシング:中」で、最高設定ではない。フルHDまでならほとんどコマ落ちする場面もなくプレイできる状態だったが、WQHDからはさすがに厳しい状況になる。ただフレームレート生成機能を有効にすることでFPSはかなり改善し、WQHDまでなら普通にプレイできる。
4Kは問題外といった状況だが、なぜかフレームレート生成機能を有効にするとより悪くなった。何かトラブルが起きているのかもしれないため、参考値として考えてほしい。とはいえフルHDやWQHDでの結果を踏まえれば、フレームレート生成を有効にしても4Kはかなり厳しかろうという予想はできる。
アバター:フロンティア・オブ・パンドラのグラフィックス設定は、「グラフィックスプリセット:高」だ。このゲームでは、フレーム生成機能を有効にしない状態だとWQHDでコマ落ちがやや気になる印象だった。ただフレーム生成機能を有効にすると状況は一気に改善し、WQHDでも普通にプレイできる。このクラスのゲームをこのFPSでプレイできるのはなかなかスゴイ。そしてこのゲームでも、4Kはかなり苦しい。
このようにいくつか実際のPCゲームのベンチマークテストも行なったところ、解像度やグラフィックス設定を選べば最新ゲームでも快適にプレイできることが分かった。10万円のゲーミングPCとは思えない結果だ。
UbuntuでもSteamのゲームはプレイできる!
最後に、UbuntuをインストールしてSteamのゲームをプレイしてみた。SteamにはUbuntu用のクライアントが存在し、これをインストールすることで購入したゲームをプレイできる。詳しい手順はこちら(Ubuntuでもエルデンリングを動かせる! SteamでWindows用のゲームをプレイしよう)を参照してほしい。また検証のタイミングの関係で最新の24.04 LTSではなく、「Ubuntu 23.10 日本語 Remix」を使用している。
普通に考えれば、Windows向けのゲームがUbuntu上で動作するはずはないのだが、Steamに組み込まれた「Proton」という仕組みによって、Windows向けのゲームをUbuntu上で動作するように変換してくれる。実際に筆者も試したところ、Steamのインストールさえ終わってしまえば、Windows上での操作とほぼ同じような感覚でゲームをインストールしたりプレイしたりできることに驚く。
手持ちのゲームをいくつか試したところ、前述のサイバーパンク2077や筆者がいまハマっている「パルワールド」、UBIコネクトアプリからUBIアカウントの認証が必要なレインボーシックス シージや「ウォッチドッグ レギオン」も問題なくプレイできた。
仕組みを考えると、Steam以外のアプリで認証を要求するゲームはプレイできないのでは? と考えていたのだが、これは意外だった。さらに筆者の好みで申し訳ないが「ネオアトラス1469」、「カプコンアーケードスタジアム」、「タクティクスオウガ リボーン」も試したところ、普通にプレイできた。
ただ、これもSteamからインストールできたので試した3DMarkに関しては、Fire Strikeは動くがTime Spyは動かないなど、必ずしもすべてのタイトルが実行できるというわけではないようだ(当たり前だが)。それでも無料のOSでここまで試せるというのは、なかなかスゴイ。
また各タイトルともにプレイ感は、Windows 11の時と変わらない。とはいえ変換によるオーバーヘッドがあるかないかは気になったので、3DMarkのFire Strikeの結果をWindows 11の時と比較してみたところ、おおむね10%前後の性能低下は見られる。タイトルによっては問題が発生する可能性はあるので、描画設定を変更して対応するとよいだろう。
このように、ギリギリだが10万円以内でも充分楽しめるゲーミングPCを作れることは分かった。またPCケースは長さ290mmまでのビデオカードに対応するため、将来的にビデオカードを強化するのも容易だ。激安ながら実用的で、しかも拡張性にも優れるゲーミングPCと言ってよいだろう。