2024年11月8日 14:00
高知工科大学(学長:蝶野 成臣)は、筑波大学と共同で多元素酸化物触媒を常温常圧下で化学合成する方法を開発しました。
【研究成果のポイント】
●高い活性と優れた耐久性を持つ多元素触媒は、実用化が期待されているが、触媒の作製に高温・高圧環境や特殊な装置が必要なことが課題であった。
●本研究では、常温常圧下で簡便に多元素酸化物触媒を化学合成する方法を開発。
●従来の製造コストを大幅に削減できるとともに、工業化を見据えた大量生産も可能に。
【概要説明】
世界的な脱炭素化の流れの中で、次世代エネルギーとして注目される水素を効率的に生成し、また、発電、製油、製鉄等の過程で発生する二酸化炭素やメタンガスなどの温室効果ガスを有用資源に転換あるいは無害化する上でも、高性能な触媒が求められています。多元素からなるナノ合金や酸化物触媒は、従来に比べて高い活性と優れた耐久性という触媒機能を持つため、実用化が期待されています。これまでに様々な合成法が提案されてきましたが、主に高温・高圧環境で行うハイドロサーマル法や、瞬間加熱炉を用いた複合化法が採用されてきました。このため、より安価で簡便な製造方法の開発が求められていました。
本研究では、多元素酸化物触媒を常温常圧下で化学合成する方法を開発しました。この手法は、金属塩、アルカリ溶液、酸化剤を混合するだけの非常に簡単な方法であり、容易に大量生産が可能です。高温・高圧条件や特殊装置を必要とせず、室温で簡単に化学合成が可能です。これは、12元素を含む酸化物触媒を作製し、水の電気分解における酸素発生電極としての優れた活性と高耐久性を実証することで、その有効性を確認しました。
さらに、この方法は33種類の元素に適用可能であることが判明し、多種多様な多元素酸化物の合成が可能となります。これにより、人工知能(機械学習)を活用した新規触媒の開発も期待されます。
この新しい手法は従来の製造コストを大幅に削減し、実用化に向けた大きな前進をもたらしました。これにより、多元素酸化物触媒はカーボンニュートラルの実現に貢献していくでしょう。
【研究代表者】
高知工科大学 理工学群
藤田 武志教授、伊藤 亮孝教授、Saikat Bolar助教
筑波大学 数理物質系
伊藤 良一准教授
【研究の背景】
これまでは、多元素合金や酸化物を作製する方法として、超臨界条件(高温・高圧)で行うハイドロサーマル法や、瞬間加熱炉やレーザー照射を用いて瞬時に複合化する方法が提案されていました。しかし、これらの手法では、エネルギー(熱・圧力)の大量投入や特殊装置を必要とし、大量生産などの工業化に向けた高い障壁が課題でした。
【研究内容と成果】
藤田教授らは、より簡便な作製方法を実現するために研究を進め、常温常圧下でコロイド状の多元素酸化物を化学合成することに成功しました。図1に示すように、6元素および12元素からなる酸化物のX線マッピング像において、50nm程度の粒子サイズで各元素が均一に混ざっていることが確認できます。
図1 走査透過電子顕微鏡(STEM)による元素マッピング像 (a) 6元素酸化物 (b) 12元素酸化物
この合成方法は非常に簡単で、金属塩、アルカリ溶液(水酸化ナトリウム水溶液やアンモニア水など)、および酸化剤(過酸化水素水)を混合するだけで行えます。常温常圧下で実施可能であり、熱や圧力を加える必要はなく、特殊な化学原料や高価な装置も不要です。図2に示すように、溶液を混ぜた直後に化学反応が進行し、多元素酸化物が生成されます。この方法はスケールフリーであり、経済効率が高いため、工業化にも容易に対応できます。
図2 合成時の写真
どのような元素が適用可能かを検討したところ、これまでに33種類の元素に適用できることが確認されました(図3)。これにより、実用的な元素をほぼ網羅し、多様な組み合わせで新奇な酸化物を作製することが可能です。
図3 適用できる元素(丸印の元素)
【今後の展開】
作製した12元素酸化物触媒は、水の電気分解における酸素発生電極として優れた活性と高耐久性を示しました。今後、本研究グループは人工知能(機械学習)を活用してさらなる高性能化を図り、多種多様な触媒の開発を通じて、カーボンニュートラルの実現に貢献してまいります。
【研究資金】
本研究は、科研費による研究プロジェクト(JP22K18929 and JP24H00478)、東北大学金属材料研究所新素材共同研究開発センター共同研究(Proposal No. 202212-CRKEQ-0010)の一環として実施されました。
【論文情報】
タイトル: Rapid Chemical Synthesis of High-Entropy Oxide Colloids under Ambient Conditions(常温常圧下での多元素酸化物の迅速化学合成)
著者 : Saikat Bolar, Akitaka Ito, Chunyu Yuan, Yoshikazu Ito, Takeshi Fujita
掲載誌 : ACS Materials Letters
公開日 : 2024年11月5日
DOI : https://doi.org/10.1021/acsmaterialslett.4c01849