やじうまPC Watch

核融合研、放射線出さない核融合反応に世界初成功

 核融合科学研究所の小川国大准教授、大舘暁教授らおよび米TAE TechnologiesのR. M. マギー博士、田島俊樹博士らの研究グループは9日、磁場で閉じ込めたプラズマ中で軽水素とホウ素11の核融合反応を世界で初めて実証したと発表した。この核融合反応では放射線である中性子が生成されておらず、クリーンな核融合炉に向けた前進となる。

 核融合炉は、磁場で高温のプラズマを閉じ込め、その中で核融合反応を起こしてエネルギーを発生させている。温室効果ガスを発生しない有望なエネルギー源として期待されており、その中でも放射線である中性子が発生しない「先進的核融合燃料」を用いた核融合に関する研究が進められている。

 核融合科学研究所および米国の核融合スタートアップ企業のTAE Technologiesは、これまでその先進的核融合燃料である軽水素とホウ素11を用いた共同研究を進めてきたが、その核融合反応は、核融合燃料の第一候補である水素同位体燃料と比べて極めて高い温度のプラズマが必要で、実現が難しいと考えられてきた。また、効率よく核融合反応を起こすためには軽水素を時速1,500万kmの速さでホウ素11に衝突させる必要がある。

 今回研究グループは、高温プラズマを制御するために、プラズマにホウ素の粉末を振りかける装置を設置。また、プラズマを加熱するために時速1,500万km超の速度で軽水素をプラズマに入射する装置を独自開発した。さらに、信頼性が確認されている数値シミュレーションで発生するヘリウムの数と磁場の影響によって複雑な動きをするヘリウムの動きを予測し、ヘリウムが飛来する予定のプラズマの表面近くに検出器を設置した。

ホウ素粉末のふりかけ装置(2022年1月17日のリリースより)

 この結果、予測通り軽水素とホウ素11の核融合反応によって生成した高エネルギーヘリウムの検出に成功し、世界で初めて磁場で閉じ込めたプラズマ中での軽水素とホウ素11の核融合反応を実証したとしている。

 軽水素とホウ素11から高エネルギーヘリウムを生成する核融合反応は、放射線である中性子を生成せず、クリーンな核融合炉を将来的に実現できる可能性があるとし、クリーンな磁場閉じ込め核融合炉実現のための大きな第一歩であるとしている。今後はより深くこの核融合反応を理解するための計測器開発や、高エネルギーのヘリウムの閉じ込め特性の研究を推進していくとしている。