やじうまPC Watch

【懐パーツ】VRAM搭載で“謎のメモリ”が利用できたAladdin TNT2搭載マザー「ASUS CUA」

ASUS(当時はASUSTek Computer)のCUA

 ASUS、本誌の読者には説明する必要はないと思うが、念のために説明しておくと、マザーボードメーカーとしてはトップメーカーとして知られており、現在はノートPCやスマートフォンなどデジタル機器メーカーとしても知られる総合メーカーに成長し、PC市場ではグローバルのトップ5に常に入る大手メーカーとなっている。

 そのASUSが2000年8月に日本で販売を開始したマザーボードが「CUA」だ。CUAは、IntelのSocket 370向けマザーボードでチップセットは「Aladdin TNT2」という統合型チップセットを採用していた。

 このAladdin TNT2、当時としてはまだ珍しい部類だった他社IPを採用した半導体製品で、ALiとNVIDIAの両者のロゴが入った製品になっている。今となっては、他社にIPライセンスを渡してチップを製造するのはあたり前になっているが、当時はこうした取り組みはまだ珍しく、その意味では歴史に残るチップセットと言って良い。

 そしてこのAladdin TNT2、よく見るとCPUソケットとメモリの間に“謎のメモリ”チップが搭載されている。また、利用できるメインメモリも当時の主流であるSDRAMだけなく“謎のメモリ”チップを搭載したメモリモジュールが利用できた。

現在のGPU統合型CPUではあまり例がないVRAMをマザーボード上にオンボード搭載

Aladdin TNT2のノースブリッジとなるM1631(下)と4つのVRAM(上)

 多くの読者からは「そんなの簡単だよ」という声が聞こえてきそうなので、いきなり前者の方の答え合わせをすると答えは「VRAM」だ。VRAMとは、Video Random Access Memoryの略称で、平たく言えばグラフィックスコントローラがそのデータを展開するローカルメモリのことだ。現代でも、GPUを搭載したビデオカードには、GDDRなどのVRAMが搭載されており、GPUが処理するデータを展開する場所として利用されている。

 まだGPU(GPUなる言葉が使われたのは2000年にNVIDIAが初代GeForceとなるGeForce 256を発表して以降になる)になる前の3Dグラフィックスチップを搭載したビデオカードにも、VRAMが搭載されていたのはいうまでもない。このAlladin TNT2という統合型チップセットを搭載したCUAには、32MBまたは8MBのVRAMをオンボード搭載しており、チップセットに内蔵されている3Dグラフィックスのローカルメモリとして利用することができた。

VRAM、外側により大きなチップ用のパターンが用意されているため、この個体は8MB版であると考えられる。32MB版、8MB版、VRAMナシ(メモリ共有のみ)版があった。

 「今のIntelやAMDのGPUを統合したCPU用のマザーボードにはVRAMは搭載されていないのでは」という疑問は当然だ。たしかに、今のIntelの最新チップセットIntel 400チップセットを搭載したマザーボードは、第10世代Coreプロセッサの内蔵GPUを利用できるようになっているが、どこにもVRAMは搭載されていない。

 現代の統合型GPUは、CPUとGPUがメインメモリを共有する仕組みになっており、別途VRAMを搭載する必要がないからだ(厳密に言うと、IntelのCoreプロセッサに内蔵されているIrisにはeDRAMというビデオメモリのキャッシュとなるDRAMがCPUパッケージの基板上に搭載されており、それも一種のVRAMと言えばVRAM。ただしeDRAMはVRAM以外にもCPUのL4キャッシュとしても使えるので、厳密にVRAMとは言えない)。

 しかし、この当時のメモリと言えば、SDRAMで、しかもシングルチャネル構成になっており、現代のDDR4などと比較しても帯域幅は圧倒的に低く、CPUと3Dグラフィックスチップがメモリを共有すると、帯域幅が足りなくなって3Dグラフィックスチップの性能が十分に発揮できない可能性があった。当時はそれを回避するために、VRAMをオンボードで搭載する取り組みが行なわれており、今回紹介するCUAに搭載されている統合型チップセットの「Aladdin TNT2」でも、CPUとメインメモリをシェアする方式と、ローカルのVRAMの両方がサポートされていたのだ。

NVIDIAのロゴとALiとのダブルブランドになっているAladdin TNT2
サウスブリッジはM1535D

 なお、このAladdin TNT2はALiという、もともとはAcerの子会社からスタートした半導体メーカーが製造し販売したチップセットだが、統合されている3DグラフィックスチップはTNT2という名前からもわかるように、NVIDIAのRIVA TNT2になっている。NVIDIAのRIVA TNT2は、GeForceの初代の前世代となる製品で、当時のハイエンド3Dグラフィックスチップだった。Aladdin TNT2にはそれが統合された統合型チップセットとして話題を呼んだ。

 ただし、前述のVRAMのバス幅は64bitになっており、RIVA TNT2の128bitの半分になっていた。このため、どちらかと言えば、ローエンド向けとして販売されていた「RIVA TNT2 Vanta」が統合されているという表現の方が正しい。

 なお、このAladdin TNT2はALiが製造、販売するチップセットとなっていたが、NVIDIAのチップがオンダイで統合されていることもあって、チップの表面にはNVIDIAのブランドロゴも入れられている。今風に言うと、NVIDIAがRIVA TNT2 VantaのIPライセンスをALiに供与した製品だろうか。その意味では、今流行のIPライセンス供与のはしりとなった製品と言っても良いだろう。

NECが開発したVCM技術を応用したVC SDRAMをサポートしていたCUA

VCM技術を活用したVC SDRAMのメモリモジュール。現バッファロー(当時はメルコ)が販売していたVC-128M

 そしてもう1つの「謎のメモリ」を搭載したメモリモジュールの方だが、その答えは「VC SDRAM」だ。VC SDRAMはNECが開発したVCM(Virtual Channel Memory)という技術を応用したSDRAMの高速版で、DRAM内部のメモリセルとI/Oの間に一時的にデータをキャッシュする複数のチャネルを装備することで、メモリコントローラがメモリを読み書きするときにそのチャネルからデータを読み書きすることで高速にデータ転送できるようにしていた。前回の記事で紹介したDirect RDRAMに比較すると追加コストがほとんどなく、高性能かつ低消費電力を実現できるというメリットがあった。

現在のバッファローと言えば、Wi-FiやHDD/SSD/BDドライブなどの周辺機器を販売する総合メーカーというイメージが強いと思うが、メルコという社名だった80年代後半~90年代にはPC-98用などのPC用メモリモジュールを販売するメモリモジュールメーカーだった。もちろん今でもメモリモジュールのビジネスは続けられている

 そのVC SDRAMにAladdin TNT2は対応しており、利用することができた。なお、前回のVC820で紹介したDirect RDRAMも結局メインストリームにならずに消えていく運命だったことは前回説明したが、このVC SDRAMはどうなったのだろうか? もちろん現在では話を聞かないから、こちらもメインストリームになることはなく消えていった。なぜかと言えば、VC SDRAMを利用するにはチップセットのメモリコントローラがVC SDRAMに対応していなければいけないのだが、対応していたのは、ALi、VIA Technologies、SiSなどの台湾のチップセットベンダーの製品がほとんどで、チップセットベンダーとしては最大手のIntelがサポートしなかったからだ。

 余談になるが、当時のNECはDRAMを製造している大手半導体メーカーだった。その後NECのDRAM部門は日立のDRAM部門と合併してエルピーダメモリとして独立し、その後2012年に会社更生法の申請を行ない経営破綻。現在は米Micron Technologyに吸収され、その日本法人の1つとなるマイクロンメモリジャパン合同会社になっている。

CUAのメモリソケット

 このため、NEC以外のDRAMベンダーが追随することもなく、「鶏と卵」のジレンマ(対応チップセットが少ないから、VC SDRAMのニーズも高まらないので供給が増えない)を回避することはできず消えていったのだった。

TV/LCD Slot

 CUAのもう1つの特徴(というよりもAladdin TNT2の特徴)としては、AGPスロットには未対応という点がある。現在のGPU統合型チップセットは、内蔵されている統合型GPUをオフにして、単体型GPUを利用することができるのが一般的。しかし、このAladdin TNT2は、当時の3Dグラフィックスチップを利用するためのAGPスロットをサポートしておらず、CUAにはAGPスロットは用意されていない。

 一見するとAGPのようなスロットが用意されたが、それがDVIなどのデジタル出力を拡張カードの形で接続する「TV/LCD Slot」という独自のコネクタだ。

 なお、この後ALiのチップセット部門はULiとしてスピンアウトされ、さらにその後2006年にNVIDIAに買収され、その後のALi+NVIDIA GPU統合型チップセットはNVIDIAブランドで出されるようになる。そして、2010年にNVIDIAはIntelプラットフォーム向けの統合型チップセット市場から撤退し、今では影もかたちもなくなっている。

CUAの外箱、この時期のASUSのマザーボードは皆このテイストだった。
マニュアル
内容物
基板全景、当時のチップセットとしては珍しくノースブリッジにファンが付いている、それだけRIVA TNT2の発熱が大きかった
基板裏面
電源コネクタ、20ピン
I/Oパネル
ロゴ、Rev1.03
クロックジェネレーターDIPスイッチ。DIPスイッチではベースクロックと倍率などを変更できた
IDEとFDDコネクタ
AMR(Audio Modem Riser)とCOMポート拡張用端子
6本のPCIスロット
Award BIOSを採用
ASUS製のハードウェアモニター用のASICを搭載。ASUSの半導体部門は後にASMedia Technologyとして分社化されている
AC97用コーデックが標準搭載だが。パターンに書かれている「RTL8139」はイーサネットコントローラ、モデルによっては標準搭載の場合があったようだ。