やじうまPC Watch

フィリップス、人工呼吸器の増産や遠隔ICUなど新型コロナ対策ソリューションの現状を紹介

~早期かつタイムリーな提供を強調

株式会社フィリップス・ジャパン 代表取締役社長 堤浩幸氏

 株式会社フィリップス・ジャパンは、2020年4月28日、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)拡大防止にむけて、同社のヘルステック・ソリューションについてプレス向けセミナーを行なった。

 株式会社フィリップス・ジャパン 代表取締役社長の堤浩幸氏は、はじめに患者と家族へのお見舞いと医療従事者へ労いの言葉を述べたあと、同社のソリューションについて紹介した。フィリップスは同社が「Health Continuum(ヘルスコンティニウム)」と呼ぶ、日々の暮らしのなかでのパーソナルヘルス、予防、診断、治療、ホームケアと、一連のヘルスケアプロセスでソリューションを展開している。

 新型コロナウイルスに対してはグローバルで在宅を基本としながら、現場での生産強化、機器の納品および据付、不足機器と消耗品の分配などを行っており、サステナブルなオペレーションを目指していると語った。そして実際のCT設置の様子などを示しながら、現場と情報交換しながら万全の注意を払って医療機関への導入、メンテナンスサービスを行っていると述べた。

フィリップスのヘルスコンティニウム(一連のヘルスケアプロセス)
フィリップスによる現場での医療サポートの様子。右端がCT設置の様子

人工呼吸器は4倍の増産

 新型コロナ対策としては、人工呼吸器や生体情報モニタ、CTや超音波診断装置、各種ソフトウェアを用いてソリューション展開をしていると紹介。遠隔ICU、遠隔モニタリングなど新たなソリューションも展開し始めている。

 とくに人工呼吸器については従来の4倍の生産体制を整えている。もともとは500台/週規模だった生産体制を1月に1,000台/週まで引き上げ、さらに4倍とし、今は週に4,000台規模とした。また、新型の汎用型人工呼吸器(軽症~中等症患者に対してマスク・挿管の両方で使用可能な人工呼吸器)は週に15,000台を生産している。

 生産能力は工場の生産能力だけで決まるわけではない。サプライチェーンも重要だ。人工呼吸器においては650以上の外部調達部品が必要となる。フィリップスではサプライチェーンの強化を重要視して、すべての拠点においてプロトコルを安全に実行しているという。

 そのために各所の協力を得ており、具体例としては日本のメーカーに一部のパーツのアセンブリを発注したが、部品は海外から調達しているものもあり、中には今は物流が滞っているものもあったが、緊急事態のため政府に働きかけて流通させることができた例があるという。

 なお、生産した人工呼吸器の供給先については専門チームで毎週、定期的に対処方法をアップデートしており、サードパーティも含めて色々な情報をベースにして、各国に対してフェアに供給できる方法で対策を取っていると述べ、堤氏は「週ごとに状況が変わるので毎週検討している。どこかの国に優先しているということはない。あくまで現状を把握してベストな方法を協議して供給している」と強調した。

人工呼吸器を大幅に増産
生産のためサプライチェーンを重視

無症状・軽症者向け、中等症例、重症化症例の三段階それぞれに向けてソリューションを展開

 新型コロナウイルス感染症において一番重要なことは予防だ。しかし感染した場合は、無症状・軽症者向け、中等症例、重症化症例の3段階に分けて対処しなければならない。フィリップスでは医療崩壊を防ぐために、できるだけ前の段階で症状を止めるために、それぞれに適した手段を明確化し、タイムリーに手を打つことを重視している。

3段階それぞれに向けてソリューションを展開
フィリップスによる各症状ごとのソリューション

 発症前・無症状・軽症者については遠隔による患者と医師のコミュニケーションを密にすることを重視している。そのため同社が心肺停止急病人対策として製品化した「SOSボタン」を新型コロナウイルス対策専用とした「SOSボタン Lite」を用いた緊急ボタンによるナースコール代替、パルスオキシメーターなどをパッケージ化したソリューションを提供する。

 中等症例向けには病院と連携しながら酸素濃縮機・汎用人工呼吸器を活用するトータルパッケージを用意している。重症化した例にはICUとの連携やベッドサイドモニターが重要になる。またこれらに対してドクターカーを使ったMaaS(モビリティ・アズ・ア・サービス)ソリューションも展開しながら新型コロナ対策を進めていく。すでに多くの顧客から問い合わせがあるという。

無症状・軽症者向けソリューション
ホテル滞在者などには「SOSボタン Lite」を供給可能
「SOSボタン Lite」の特徴
ホテルでの滞在者や自宅療養者に適用することで医療現場と密なコミュニケーションが取れる

 クラウドを用いた遠隔問診については、ドクターが患者の状況を把握した上で問診することになるので効率性や正確性があがると利点を強調した。これまで同社のシステムは英語版だったが、日本語化して提供する。

患者と医療従事者互いのリスクと負荷を減らすための遠隔問診
実際の画面

 中等症者に対しては、超音波診断装置「Lumify」と前述の汎用型人工呼吸器、モニタ装置を中心に、各部屋ごとにソリューションを駆使して少しでも早く回復する手伝いをすることができると述べた。

軽症者~中等症者向けのソリューション
汎用型人工呼吸器を用いたケア

 MssSソリューションは、ドクターカーに生体モニタ装置や超音波診断装置などを装備して、新型コロナ専用ソリューションを作りこんだ車で複数の軽症者受け入れ施設をまわり、医療従事者への感染をできるだけ防ぎながら医療を届けることを目的としている。将来的には全く新しい車を作ってしまう可能性もあるという。

 また、逆に、新型コロナウイルスのため、従来の外来患者が来院しにくくなっているという現状もあり、そこで従来の患者向けにMaaSソリューションを提供することも進めており、両面でサポートしていきたいと述べた。なおフィリップスは2019年4月から、ソフトバンク株式会社とトヨタ自動車株式会社の共同出資会社であるMONET Technologies株式会社が設立した「MONETコンソーシアム」に参加している。

新型コロナウイルス対策 MssSソリューション

 重症者向け遠隔ICUソリューションについては、2018年から昭和大学と進めている「遠隔集中治療患者管理プログラム(eICU)」を新しい標準化として新型コロナ対応を目指す。目標はICUの効率化とドクターのワークロード軽減、人手不足への対応だ。遠隔ICUによってさまざまな負担を軽減すること、効率性の向上が可能で、大きな価値創造が可能になると考えているという。

 とくにICUの崩壊を防ぐために、今後、さらに強化して役に立てるかたちにし、貢献していきたいと述べた。診断だけでなく治療に従事できるようにしていきたいという。国もポジティブだという。

ベッドサイドのスタッフと支援センターの専門スタッフが連携する遠隔ICU
臨床現場の課題解決に挑む

医療現場でも共有プラットフォームでインフォマティクスを重視

 フィリップスでは、患者と医療従事者を助けるための土台になるのは「繋ぐこと」だと考えており、データを蓄積して価値を生み出すための1つのプラットフォーム、共有プラットフォームが重要だと堤氏は述べた。遠隔ICU、フィリップスのトータルホスピタルマネジメントソリューション「Tasy(タジー)」、デジタル遠隔病理システムなどをつなげ、インフォマティクスで情報を抽出する。

 堤氏は「トータルで考えてシナジーを作り、一人一人にマッチングした医療を考え、負担を減らせる新しいヘルスケアのあり方を皆様と共に考えていきたい。インフォマティクスの重要性はますます高まっている。よりデータオリエンテッドでマッチングする最適な医療を提供する環境を整えていきたい」と語った。

 フィリップスは「有意義なイノベーションを通じて世界をより健康でサステイナブルにすること」をミッションとしている。堤氏は最後に、「ソーシャルディスタンシング」について述べ、「密になってはいけないが、人と人との繋がりは重要。人が互いに繋がって助け合い、一緒になってアクションし問題解決できるヘルスケアテクノロジーをつくっていきたい。一緒に新型コロナウイルスに対処していきたい。1日も早く収束することを願っている」と締めくくった。

共通プラットフォーム上でヘルスインフォマティクスを強化