やじうまPC Watch

ダルビッシュ選手にもわかるようにGeForce RTX 2080 Tiの解説記事を翻訳してみる

GeForce RTX 2080 Ti(左)とGeForce RTX 2080(右)

 弊誌はPC関連の専門媒体であり、いずれの記事も、PC関連についてある程度の知識があることを想定して書かれている。もし、弊誌が紙の雑誌であったら、PCに興味がない人が書店で手に取ることはおそらく一生ないだろう。しかし、SNSがこれだけ発達した現在、Web媒体であるPC Watchの記事は、ひょんなことから、そういったPCにまるで関心がない人の目に触れることもある。そんなことが、まさに本日発生した。

 シカゴ・カブス所属のメジャーリーガーであるダルビッシュ有選手が、本誌のGeForce RTX 2080 Tiの記事をたまたま目にし、ツイートしたのだ。果たして、その感想は、

「この数年で一番敗北感を感じた。

リプでこの商品くれって来たから調べました。パソコンに詳しくない自分が最後まで読みきった結果、何に対しての商品かすら理解できんかった。

結局これはなんなんや。。」

というものだった。

 氏の名誉のために言うと、PCに興味がない人にとって、GeForceが何をする商品か理解できなくても当然である。天才科学者であっても、PCに疎い人であれば同じような感想を持つだろう。Twitterの見出し画像も、大きなファンがついており、GPUを見たことない人だと、「ドローンかな?」と思っても不思議ではない。

 その後、上記のツイートに対して、GPUがどんなメリットを持つのかを説明してくれた人がいたのだが、それに対してのダルビッシュ選手のツイートは、

「20万未満でそれだけ変えられるって絶対買いじゃないですか。。

自分は買っても使い道ないから買わんけども。。」

というものだった。

 氏は大のゲーム好きとしても知られている。ここ最近はフォートナイトに嵌まっているようで、ビクロイ(ビクトリーロイヤルの略でフォートナイトでの1位のこと)を取ったときに、その画面をよくツイートしている。そういった人がGPUの価値を理解できないのは、PC業界のみならず、世界経済にとっても大きな損失だと言っても過言ではないだろう。

 数十万円の機材・PCをポンと買える経済力がある人が、「すごそうだけど、使い方がわからないから、いらない」と言っているのだから。

 ということで、この1年前に掲載したGeForce RTX 2080 Tiの記事を、PCを持ってすらいない人にもわかるように、なるべく平易な言葉や、例えを使って"翻訳"してみることにする。

新世代グラフィックスの幕開けを告げる「GeForce RTX 2080 Ti」をテスト

 2018年9月20日に、リアルタイムレイトレーシングに対応するNVIDIAの新GPU「GeForce RTX 20 シリーズ」の販売がスタートした。

 レイトレーシングとは、いままで以上にリアルに絵を描くための技術。ゲームの絵がリアルになるということが、どういうことかを説明すると、下記の初代トゥームレイダーの絵が、最新版シャドウ オブ ザ トゥームレイダーのようになると思ってもらえばいい。

初代トゥームレイダー
最新版シャドウ オブ ザ トゥームレイダー

 この比較が乱暴この上ないことはわかっている。初代トゥームレイダーは20年以上前のゲームだ。しかし、テクノロジーの進化に興味がない人に、「高性能なGPUを使うことで、これだけリアリティのあるゲームがプレイできるようになるよ」と伝えるための方便だと思って見逃してもらいたい。

 もう1つひじょうに重要なのが、高性能なGPUを使うと、ゲームがよりスムーズに動くことだ。スムーズさは、対戦型ゲームでは勝ちに直結する部分。「初代トゥームレイダーのララ・クラフト(主人公の女性)の絵でも、じゅうぶん萌えるから、GPUなんていらない」という奇特な人もいるかもしれない。しかし、対戦で勝ちたいのであれば、高性能なGPUを選ぶべきだ。

 さて、ここまでさらりと書いた「GPU」というのは、パソコンやゲーム機において、グラフィックを描画するための専用装置だ。何の略かは興味がないだろうから書かない。GPU以外に、ビデオカード、グラフィックカード、グラフィックボード(グラボ)などと呼ばれることもある。グラボは、基本的に弊誌の競合である週刊アスキーで使われる呼び方なので、本誌ではGPUで統一する。

 パソコンにもゲーム機にも、あるいはスマホにも、イマドキのものは、すべてGPUが入っている。ただ、PlayStationやXbox、Nintendo Switchなど、ゲーム機のGPUは、基本的に本体が同じ世代なら同じものが入っていて、ユーザーが買うときに「このGPUがいい!」と選んだり、取り外したり、交換したりはできない。

 一方、パソコン用には、多数のグレードのGPUが用意されており、パソコンを買うときに好きなものを選んだり、あるいは買った後に、より高性能なものに交換したりもできる。ただし、ノートブック型では、基本的に交換などはできない。GPUを開発・製造するメーカーも1社ではなく複数ある。ホンダやメルセデスなど、車のエンジンをいろんな車(エンジン)メーカーが作っているようなものだ。パソコン本体のメーカーが違っても、なかには同じGPUが入っていることも多い。

一般的なデスクトップパソコンは、側面を開けると、中身はこんな感じになっている。知らない人には怖そうかもしれないが、GPUは、ドライバー1本あれば、取り外し、取り付けができる

 NVIDIAとは、そんなGPUを作る企業の1社だが、パソコン業界以外では知名度がやや低いようで、一般的には「謎の半導体メーカー」として知られている。読み方は「エヌビディア」だが、それも忘れていい。GeForce(ジーフォース)だけ知っていれば、パソコンを知らない人にはマウントが取れる。

 ここまでのおさらいをしよう。デスクトップ(非ノートブック型)パソコンにGPUを取りつけると、絵がめちゃめちゃリアルになるし、スムーズに(勝ちやすく)なる。GeForce RTX 2080 Tiは、そんなGPUとして、ほぼ最高性能を持つものの1つ。GPU界のフォーミュラカーなのだ。

 本記事では、その性能の検証結果をお伝えする。

GeForce RTX 20 シリーズの紹介

 現在までに発売されているGeForce RTX 20シリーズは、元記事掲載時から、いくつか増えており、GeForce RTX 2080 Ti、同2080 Super、同2080、同2070 Super、同2070、同2060がある。GeForce RTX 20からはじまる型番がついているので、GeForce RTX 20シリーズと呼ばれる。

 この種類の多さも初心者には混乱の元凶だろう。とりあえず本稿はセレブの方を想定しているので、一番高性能なGeForce RTX 2080 Tiの名前だけ知ってもらえばいい。たぶん、これも長すぎるだろうから、買うときには「一番高いGeForceください」と言ってもおおむね大丈夫だ。

 だが、じつはこのシリーズには、「TITAN RTX」なるスーパーサイヤ人的な製品がひっそりと存在している。ので、悪い人に捕まると「一番高いGeForceください」と言ったときに、GeForce RTX 2080 Tiではなく、TITAN RTXを売りつけられる可能性もある。値段は前者が16万円くらい、後者が32万円くらい。しかし性能差は1~2割といったところ。金に糸目をつけないのであれば、TITAN RTXを買ってもいいが、GeForce RTX 2080 Tiで十分すぎる性能を持つことは覚えておいて損はない。

GeForce RTX 2080 Tiと似ているが、こちらはTITAN RTX。万が一、GeForceをくださいと言って、これを売りつけられたら、しかるべきところに訴え出た方がいい

 元記事では、ここからGPUのアーキテクチャ(設計図)についての話が続くが、それはばっさり割愛する。ゲーマーなら、GPUのアーキテクチャを覚える暇があったら、攻略動画などを観た方が役に立つだろう。

デュアルファンGPUクーラーを搭載するFounders Edition

 今回のテストにさいして、謎の半導体メーカーよりGeForce RTX 2080 TiとGeForce RTX 2080のFounders Editionをお借りした。

GeForce RTX 2080 Ti Founders Edition

 GeForce RTX 20 シリーズには、同じ型番でもノーマルとFounders Editionの2種類がある。Founders Editionは、公式オーバークロック版ともいうべき高クロック仕様となっており、消費電力も標準仕様から10Wずつ高い。こうした仕様を支えるため、従来のFounders Editionとはまったく異なるデュアルファンタイプのGPUクーラーを採用している。

 オーバークロックというのは、言うなれば半導体のドーピングだが、違法性や犯罪性は一切ないので安心していい。オーバークロックにより、単純に性能が上がる。ただし、オーバークロックを行なうと、GPUの消費電力と発熱が大きくなる。「昨日、仕事で頭使いすぎて、知恵熱出ちゃったよ~」的なものを想像してもらえばいい。

 なお、「知恵熱」というのは、乳児に知恵がつくとされる1歳頃に起きる急な発熱のことであって、頭を使っても、本来、発熱はしないし、もししたとしてもそれは知恵熱ではない別の病気だ。この誤用はよく見かけるので、GeForceの名前は忘れても、このことだけは覚えて帰っていただけたら幸いだ。

 そんなしゃかりきなFounders Editionの発熱を抑えるため、このシリーズには普通よりも大型のファンがついている。放熱にファンが必要なのは、車のエンジンと同じなのだ。

 元記事では、ここでGeForceの電源コネクタの解説が入る。これまた、知らない人にはとてもややこしいところ。説明してもいいのだが、だいぶ長くなってしまうので、GeForce RTX 2080 Tiがほしい人は、最初からそれが入ったパソコン本体を買ってほしい。

 ここまで読んで、「自分が持ってる昔のパソコンにGeForce RTX 2080 Tiをつければ、ゲームが快適になるのか。なら買いに行こう」と思った人もいるかと思うが、デスクトップパソコンであっても、すべてにこのGPUが取りつけられるわけではない。ので、最初から入っているパソコンを本体ごと買っていただきたい。そして、そのパソコンなら、数年後に上位のGeForce RTX 30シリーズが出たときに、GPUだけを交換できるし、筆者がハイエンドGeForceを収納するのに必要なあれこれ説明する手間も大いに省ける。

 どうしてもいま、古い(性能が低い)パソコンのGPUを交換したい、あるいは新たに増設したいが、パソコンのことは全然わからないという人は、「PC自作・チューンナップ虎の巻 二〇一九」というムックが弊社から発売されているので、そちらを参考にしてほしい。

性能テスト結果

 元記事では、ベンチマーク(性能テスト)結果として、多数のアプリやゲームでの性能を計測、比較し、ずらりとそのグラフを並べている。これらは、筆者のようなパソコンマニアにとってはひじょうに重要なもので、このグラフ1枚を肴にして酒が3杯は飲める。

 しかし、非マニア向けの本稿では「シャドウ オブ ザ トゥームレイダー(v1.0)」の結果に絞って紹介する。今回は、APIをDirectX 12、描画品質プリセットを「最高」、アンチエイリアシングを「TAA」にそれぞれ設定し、3つの画面解像度でテストを実行したが、この1文も読み飛ばして構わない。とにかく、いくつかの設定で性能を計測した。

シャドウ オブ ザ トゥームレイダー(v1.0)での性能検証

 ここで元記事にはないゲーマー目線の解説を加える。

 グラフの「フルHD」と書かれたところの右を見てもらいたい。とくに注目したいのが、薄い黄色のGeForce GTX 1080の「92」と、濃い緑色のGeForce RTX 2080 Tiの128という数値だ。

 この数字は、ゲームの滑らかさを示している。GeForce GTX 1080とは、2016年に発売された1世代前のGPUだ。それに対して、GeForce RTX 2080 Tiでは、1.4倍程度の差をつけているが、差だけでなく、数値自体も重要だ。

 というのも、このゲームの滑らかさは「fps」と呼ばれるが、通常はこれが60を超えていれば、じゅうぶん滑らかだとされている。しかし、フォートナイトやApexのようなシューティング系におけるプロゲーマーの世界では、144が基準になってきている。つまり、GeForce RTX 2080 Tiは、その基準にひじょうに近い性能が出せているということだ。

 もっとも、トゥームレイダーはシューティング系ではないし、同じGPUでも、プレイするゲームによって、この滑らかさは変わってくる。だが、ざっくり言うと、GeForce RTX 2080 Tiは、前世代ではムリだったプロが求めるレベルの滑らかさを実現しているのだ。

 元記事ではこの後、消費電力についても検証しているが、これもここでは割愛し、高性能なGPUは、より消費電力が高いとだけ書いておく。しかし、趣味でスポーツカーに乗る人が、細かい燃費は気にしないだろう。

GPU欲しくなりました?

 というわけで、パソコンのことを知らない人を想定した解説記事を書いてみた。筆者はPC Watchでかれこれ17年くらい記事を書いているが、初の挑戦である。だいぶかみ砕いて、余計なところは端折ってみたが、おそらくこれでもまだ「難しい、何のことを言っているのかわからない」という方もいらっしゃると思う。

 最後にまとめると、自分で選んで高性能なGPUを買ったり、取りつけたりできるのは、ゲーム専用機にはないパソコンのメリットだ。先に、ゲームの滑らかさが144がプロゲーマーの基準になっていると書いたが、じつはこれはゲーム専用機では不可能で、これもパソコンならではの別のメリットでもある。

 その分、ゲーム機に比べると非常に高価(GeForce RTX 2080 Ti搭載機は、本体だけで30万円くらい)だが、パソコンは、たとえば自分のプレイ動画をYouTubeにあげるために編集したり、ゲーム以外にもいろんな用途で使うことができる。本稿を読んで1人でもパソコンに新たに興味を持ってもらえる人がいたら幸いである。