やじうまPC Watch

【懐モバ】2in1を先取りしたPDA、ソニーCLIE「PEG-NR70V」

 もはや1年近くモバイラーが憧れた名機を今風に蘇らせる」を更新していない筆者。実は紹介したい機種をたくさん購入したのだが、デバイスたちの活路を見出すのが難しくなり、当初の目的を大きく外れてしまった。

 そこでコーナーを改め、懐パーツコーナーと同様、シンプルに製品を紹介するとともに、筆者の簡単な分析と意見を述べることとしたい。だが第1回は、普通のx86ノートPCではなく、ソニーのPDA“CLIE”「PEG-NR70V」だ。

 ソニーのCLIEは、Palmのオペレーティングシステム「Palm OS」を搭載したPDA(Personal Digital Assistant)だ。もはやPDAは死語となっているが、名前の通りスケジュールやToDoリスト、住所録、メモなどを記録するデバイスである。とは言えこの機能なら、もう1つ死語になった「電子手帳」の方が適切かもしれないが、電子手帳は機能が固定されているのに対し、PDAはユーザーが自由にソフトウェアをインストールできる点が異なる。

 従来のPDAは主にスケジュール管理やToDoリスト、住所録といった、どちらかと言えばビジネス寄りの機能がメインだったのに対し、ソニーのCLIEは「Communication Linkage for Information & Entertainment」の頭文字から名前を採った通り、どちらかと言えば写真や動画、音楽などのマルチメディア/個人ユースを重視した。

 今では信じがたいだろうが、初代の「PEG-S500C」が登場した2000年は、「PictureGear Pocket」というイメージビューワで、メモリースティック内の写真を閲覧できるのが“ウリ”だった。

 さて今回取り上げるPEG-NR70Vは2002年に発売されたモデル。OSにはPalm OS 4を搭載している。何よりも特徴的なのはそのフォルムで、タッチパネル付き液晶部が180度回転し、閉じた状態では液晶を保護、開いた状態ではキーボードによる高速入力、液晶を回転させ閉じた状態では従来のPalmと同じように使える“WING STYLE”が特徴的だった。今で言えば2in1なPDAだ。

 そして300度回転する10万画素のCMOSカメラを装備している点もPEG-NR70Vの特徴(同時発表の下位モデルPEG-NR70には非搭載)。最大320×160ドットの静止画も撮影できる。今の時代ではスマートフォンでも2,000万画素は珍しくないので、まさに隔世の感がある。

 オーディオ用DSPも備えており、ATRAC3とMP3の再生に対応した。本機にはメモリースティックスロットを備えているので、そこにジュークボックスソフト「SonicStage」で変換した音楽を保存し、プレーヤーソフト「AudioPlayer」で再生する。

 余談だが、SonicStageはインストールするとPC起動時から常駐するが、当時PCのメモリが256MBや512MBがせいぜい、128MBでも珍しくなかった時代、SonicStageだけで60MB強メモリを消費するのには閉口した記憶がある。

 PEG-NR70Vの最大の特徴は、やはりこれまでのPalmデバイスにはないキーボードの搭載だろう。確かにキー自体が非常に小さく、一見扱いにくそうだが、適度なクリックで押しやすく、意外にも実用的だ。日本語変換システムにはATOKが搭載されているため、精度もそこそこである。

 本体はマグネシウム合金で作られていることもあり、剛性は高く安心感がある。液晶の解像度は解像度は320×480ドットで、当時としては高解像度であり、ドットが細かく綺麗だ。半反射型のため、バックライトなしで直射日光下や屋内でも視認できるのも便利だ。

 本製品のCPUにはMotorola製のCPU「DragonBall Super VZ 66MHz」が使われている(型番MC68SZ328VH66V)。MC68000互換の「FLX68000」コアを内包し、32bitの内部バスおよび16bitのデータバスを持つ。メモリコントローラや最大16bit/ピクセルのLCDコントローラを内蔵しているほか、クロックジェネレータおよび電源管理モジュールを内包し、PDAのような低消費電力/小フットプリントに好適なプロセッサである。

 その近くに見えるソニーの「CXD1859GA」はソニーのカスタムチップで、おそらくメモリースティックのコントローラである。「HY5V26CLF-H」はHynix製のSDRAMで、4バンク×2Mbit×16bit(合計1MB)のSDRAMで、133MHzで駆動する。

 その近くにある「C10FA」と書かれたチップは由緒不明である。おそらくフラッシュメモリの類で、システムを格納し、ユーザー領域も確保している。さらに上のMediaQの「MQ1168-GCC」はおそらく内蔵カメラ用のイメージプロセッサである。MediaQは2003年にNVIDIAに買収されている

 全体的に見てもソニーらしく非常に高密度に部品が実装されており、感心させられる。ちなみに基板から伸びる配線も実に多く、分解や組み立てに一苦労する。

 2000年に登場したCLIEだが、2004年9月に発売した「PEG-VZ90」が最終機種となり、短命に終わったシリーズである。当時、筆者はファイナルファンタジーXIのプレイ日記を電車の中で立ったまま書くために、台風の中「PEG-UX50」を発売日に買いに行ったのは記憶に新しいところだが、とにかくその先進的なスタイルには感心させられ、インプレス入社時まで毎日手放さずに持ち歩いた記憶がある。

液晶を開いたところ。確かに“Wing Style”の通り、はばたく羽のように見える
キーボードは小さいながらもPCに近い配列を維持しており、操作性は高い
Palmデバイスお馴染みの機能に直接アクセスできるホットキー。閉じてしまうと使えなくなるのが難点だった
液晶を閉じれば液晶面を保護して、気軽にポケットに入れて持ち運べる
液晶が360度回転し、ペン入力が前提のスタイルに変身できる
本体上部。メモリースティックスロットとIrDA、10万画素カメラを備える
ヒンジ部の左側はカメラのシャッターボタンになっている
ヒンジ部の右側はストラップホールになっている
付属の説明書など。当時のデバイスの付属の説明書は分厚く、さまざまな機能について詳しく解説していた。製品付属のプロバイダの案内が時代を物語っている
クレードル。USBでPCと同期する
右側面にペンスタンドを備えており、据え置いたまま使用できる
付属のACアダプタは5.2V/2Aタイプ。クレードルに接続してCLIE本体を充電できる
付属のリモコンで曲の操作が可能だった
内蔵バッテリはもう持たないが、ACアダプタに接続した状態で使用可能だった
懐かしいPalm OSの画面
Graffitiはソフトウェア化されており、液晶を回転させると表示も自動的に回転し、本体を持ち替えることなくその向きで使える
取り出した基板。ここまでたどり着くのに苦労した
基板裏面
本機の心臓部、Motorola製CPU「DragonBall Super VZ 66MHz」。MC68000互換のCPUだ。その下の「ADS7846N」はBurr-Brownブランド(Texas Instruments)製のタッチスクリーンコントローラである
「HY5V26CLF-H」はHynix製のSDRAMメモリである
ソニー製チップ「CXD1859GA」。おそらくメモリースティックのコントローラだ
MediaQの「MQ1168-GCC」。おそらくカメラ用のイメージプロセッサ
電源関連と思われる回路は裏面に実装されている