やじうま配信者Watch

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Twitch CEOに聞く、日本の配信者に向けた施策。そして、縦横レイアウト同時配信など新機能の狙い

オープニングセレモニー。DJのDIPLOが演奏を披露

 10月17日から19日にかけて、米国カリフォルニア州サンディエゴのコンベンションセンターで動画配信サービス「Twitch」のオフラインイベント「TwitchCon 2025」が開催された。TwitchConは、Twitchをプラットフォームにするストリーマーや、その配信を視聴するファンやオーディエンス、関連企業が集まる年次イベント。TwitchCon 2025は記念すべき10周年となり、例年以上の盛り上がりを見せた。

 オープニングイベントではDan Clancy CEOも登壇し、縦横レイアウトでの同時配信のデュアルフォーマットやMetaとの連携によりAIグラスからの配信、代理人による収益やモデレーターの管理などが発表された。現地でDan Clancy氏に話を聞くことができたので、今回発表された件の詳細や日本市場への対応、施策などを伺ってきた。

デュアルフォーマット配信の狙い

Twitch CEOのDan Clancy氏

 まず、デュアルフォーマット配信について。すでに一部のチャンネルで対応していた機能だが、β版を配布することで、さらなる配信者が使用できるようになる。

 「これまで以上にモバイル体験が向上するでしょう。人々はスマホを縦に持つことに慣れていますよね。なので、縦に持ちながら横向きのストリームを観るのは観やすいとは言えません。より多くの人がモバイルを利用しているので、デュアルフォーマット配信を使うことで、よりモバイル視聴者を増やすことができるようになるわけです。

 これは発見性の向上にもつながりますね。配信者は、2つのビューを作成する必要があるので、少し手間はかかります。ただ、そこまで複雑ではないので、大きな負担ではありません」(Dan Clancy氏)。

 この機能はTwitchがゲーム配信に特化したプラットフォームから、スマホで直接ライブ配信をするストリーマーが増えてきたからこその対応と言える。実際、現在は、Twitchを使ってゲーム以外の配信をするストリーマーが増えている。

 「Twitchは、ここ1年でますます"文化が生まれる場所"としての存在感を高めています。人々はライブ配信に本物のつながりを求めています。Twitchのライブ配信はそのニーズに応えています。自分の活動にTwitchをどのように組み込めるかを考えるストリーマーが増えていて、コミュニティとのつながりを深める二次的な手段として使われるようになっています。これによりTwitch全体の成長やライブ配信の拡大にもつながると考えています」(Dan Clancy氏)。

Artist Alley。ストリーマーのワークショップブースやパフォーマンスをする場
Tabletop Play Area。ポケモンカードゲームやMTGなどカードゲームの対戦場

日本のストリーマー特有の悩みを支援する施策

 Twitchの2024年の日本市場での総視聴時間は、前年比17%増と大きく成長している。言語の問題から日本の配信はローカルにとどまるとみられていただけに、この成長の高さは動画配信において日本市場が注目される理由の1つとなっている。

 「日本市場は非常に興味深い市場です。以前まで日本市場ではYouTubeが先行していました。しかし、最近では日本も他の国や地域の市場と同じように、Twitchが主要なライブ配信プラットフォームとして成長しています。

 日本と他の国を比較する時、多くの人が文化の違いを口にします。しかし、実際には類似点の方が多いと感じています。さまざまな施策を実際にやってみると、他の国と同じように機能することが多いですね。

 一方、日本のストリーマー特有の特徴として、コミュニティに支援をお願いすることに少し抵抗があるように感じます。そのため、プラットフォームとしても、視聴者側から支援を得やすくなるような工夫をする必要があると考えます。

 ちなみに、視聴者の支援意欲自体は、国によって違いは感じられません。視聴者の感情的につながりを持ち、支援したいという気持ちは同じです。ただ、日本ではストリーマーがコミュニティを非常に尊重しており、直接の支援をあまり求めないんですよね」(Dan Clancy氏)。

 そこで、日本のストリーマーのある種の奥ゆかしさに対して、Twitchとしてはプラットフォーム側が視聴者に支援を促すようなプロモーションで対応するようにしているというわけだ。

 たとえば、ストリーマーがギフトサブスクリプションを25%オフのプロモーションを実施した場合、ストリーマー自身が「今、25%オフなので購入してください」と言う必要はなく、プロモーションの仕組みによって、視聴者にその情報が届けられるようになっている。

Exhibitors。スポンサーや関連企業のブースエリア。写真はヤマハブースでライブステージで音楽配信を行なっている
CAPCOM「RESIDENT EVIL」(バイオハザード)のアトラクション。実際のトイレを1つ封鎖し、暗い中、懐中電灯1つで、ヒントとなる文字を探す
TwitchRivals Area。ストリーマー同士でゲーム対決をするステージ

 日本の配信がグローバルに展開しにくい理由の1つとして、日本語と言う言語の壁がある。しかし今では、AIの発達によるリアルタイム翻訳で言語の壁を突破することも可能となった。この件に関してもTwitchは対応を考えている。

 「翻訳の分野については私自身も良く考えていおり、サーバー側で処理する仕組みと、視聴者やストリーマー側の端末で処理する仕組みの両方を検討しています。最近では、ストリーマーがOBSなどにプラグインを導入することで、ローカルPCの処理能力を使って、音声の字幕化(Speech to Text)が可能になっていっます。

 さらに、視聴者側でも同様の機能が使えます。たとえば、Chromeブラウザで音声認識+翻訳の機能を使用することで、日本語の配信を英語の字幕付きで視聴できます。この機能を使って、配信者の発言をリアルタイムで翻訳・字幕表示させることができ、視聴者は言語の壁を超えて配信を楽しめます。

 こうした仕組みにより、ストリーマーと視聴者の間で双方向のやり取りや追加コメントも可能になり、言語の違いによる障壁は大幅に低くなっています。実際にChromeで試すとうまく機能するので、視聴者やストリーマーにとって、非常に便利なツールです」(Dan Clancy氏)。

 日本発祥とも言われているVtuberも、今や世界各国で人気を博しており、配信の世界では国や人種などのアイデンティティはそれほど重要でなくなってきている。さらに、言語の壁が突破されれば、まさにボーダレスで配信を楽しめるようになるだろう。

配信者の増加に対して

 他方、ストリーマーが増えると、1人あたりの視聴者数は単純に減っていく懸念はあるが、そこはどうなのだろうか。

 「現状で考えると、ストリーマーが増えることで、それぞれのストリーマーの視聴者数が必ずしも減るとは限りません。というのも、ライブ配信を視聴していない人がまだまだ多く存在しているからです。実際、InstagramやTikTok、YouTubeで配信者のことを知って、新たにTwitchに来る人も多いです。

 クリエイティブや芸術的表現の分野では、クリエイターが生活をしていけるだけの収益を得られる機会が多く整備されています。Twitchにとっても重要なのは、才能がある人が成長できるエコシステムを整えることです。すべての人がトップになれるわけではありませんが、成長する人がいる一方で、まだ成長していない人もいます。

 たとえば、現在のTwitchトップ10のストリーマーと、4年前のトップ10の顔ぶれは変わっています。Kai Cenet氏やCinna氏など、今をときめくトップストリーマーとして知られている人たちも、実は4年前は無名のストリーマーでした。つまり、新しいストリーマーが次々と成長しているのです。私たちは次のスーパースターが誕生できる機会を常に提供することを重視しています」(Dan Clancy氏)。

今後はショートにも注力

TwitchConはサンディエゴの街全体を巻き込んでのイベントで、街中のサイネージにもTwitchConの映像が流れている
街の一区画を封鎖し行なわれたわれたBlock Party。参加費とは別の料金がかかるが、3杯のアルコール飲料のチケットがもらえ、中での飲食は無料。ライブステージやカラオケステージ、アーケードゲームを並べて路上ゲームセンターなども展開

 最後にTwitchの今後の展開と課題、目標を聞いてみた。

 「私たちの最大の課題は、より多くの人にライブ配信に触れてもらうことです。Twitchの価値の大きな部分はコミュニティ体験にあります。しかし、コミュニティ体験をするには多くの時間が必要です。現実世界のコミュニティを思い浮かべてみてください。そのコミュニティに所属感を持つには、他のメンバーと時間を過ごす必要があります。

 現代はスピーディで、SNSでページをスワイプしながら、次々と移動するスタイルが定着しつつあります。私たちがもっとも取り組むべきことは、人々に立ち止まって時間を使ってもらい、クリエイターと本当の意味でつながってもらうことです。そうすることでTwitchの魔法を体験できるようになります。

 私たちはライブ配信市場を成長させることに力を入れています。ショート動画への投資も、その一環としてより多くの人にクリエイターを知ってもらい、ライブ時の魅力を先行体験してもらうことを目指しています。

 さらに、将来のスターをほかのプラットフォームから招き入れる取り組みも行なっています。その多くは、音楽家や、俳優、アスリートなどです。彼らはTwitchをセカンダリチャンネルとして活用してくれています。日本でも同じ状況にあります。音楽家などがTwitchで配信を始め、自身のオーディエンスと接点を持っています。

 今後の計画としては、ショート動画を通じて、より多くの人がチャンネル上でクリエイターとつながる機会を増やしていきたいと考えています」(Dan Clancy氏)。

 TikTokやInstagramなどショート動画が人気を博し、YouTubeでもショート動画がライブ配信の視聴者を増やすきっかけの1つとなっていることはすでに周知の事実。Twitchでもショート動画を導入することで、さらなる視聴者を呼び込み、クリエイターとの接点を増やしていく可能性はあるだろう。

 TwitchConも10周年を迎え、会場ではゲーム配信だけでなく、音楽配信、雑談配信などさまざまなコンテンツのストリーマーが集っていた。Twitchの新たな施策により、5年後、10年後のTwitchConも今回とは様変わりする内容で開催し、Twitch自体の主要コンテンツも変わる可能性は十分にあると思えるイベントだった。