イベントレポート
【前日レポート】FinFET(トライゲート)の信頼性データが続出
(2013/4/17 00:00)
プロセッサやメモリなどの半導体デバイスの信頼性に関する世界最大の国際会議「国際信頼性物理シンポジウム(IRPS:International Reliability Physics Symposium)」(IRPS 2013)が4月14日(現地時間)に米国カリフォルニア州モントレーで始まった。
IRPSは50年を超える長い歴史を有する国際会議で、第1回は1962年に遡る。半導体デバイスの歴史とともに歩んできたとも言える。最近では米国カリフォルニア州のアナハイムとモントレーを会場として毎年春に開催されている。一昨年(2011年)がモントレー、昨年(2012年)がアナハイム、そして今年(2013年)はモントレーの開催である。
発表を目指して投稿された論文(アブストラクト論文)の数(投稿論文数)は2009年が272件、2010年が264件、2011年が210件、2012年が210件と近年は減少傾向にあった。しかし2013年のアブストラクト論文は244件と増加した。採択された論文(採択論文)は168件。内訳は口頭発表(講演論文)が92件、ポスター発表が76件である。このほか招待講演(招待論文)が22件ある。
IRPS 2013のスケジュールは4月14日~15日がチュートリアル、4月16日~18日がメインイベントであるカンファレンスとなっている。カンファレンスで採択論文と招待論文が発表される。以下は、カンファンレンスの概要をご紹介したい。
4月16日午前:金属配線不良の様相を探る
カンファレンス初日の午前は、2件のキーノート講演が予定されている。1件はFinFETの信頼性を論じる講演、もう1件はNASA(米国航空宇宙局)の火星探査計画に関する講演である。
キーノート講演の次は、3つのセッション(セッション2Aから2C)に分かれて講演論文と招待論文の発表が始まる。セッション2Aは「コンパクトモデリング」、セッション2Bは「ESDとラッチアップ」、セッション2Cは「エレクトロマイグレーション」がテーマである。
「コンパクトモデリング」は、通常のシリコンMOSトランジスタはもちろんのこと、特殊な形状や材料などのトランジスタを含めて、トランジスタの信頼性を予測するシミュレーション技術である。3次元形状のトランジスタである「FinFET(トライゲート)」の実用化や、微細化に伴う製造ばらつきの増大などにより、急速に注目を集めている。
「ESDとラッチアップ」は、静電気放電に対する保護回路の設計や、ラッチアップを緩和するデバイス構造の開発などが課題である。半導体製造の微細化によって常に改良が求められている分野だ。微細化は基本的には静電気放電に対する耐性を弱めるとともに、ラッチアップを発生しやすくするからである。
「エレクトロマイグレーション」は、金属配線中の金属イオンが移動することで、配線が断線したり、短絡したりする現象である。エレクトロマイグレーションは電流密度が高まると顕著になる。プロセッサやロジックなどの主流である銅配線は基本的にはエレクトロマイグレーションに強いものの、最近の微細化と高速化によって銅配線でも大きな問題となっている。
4月16日午後:自動車用半導体の潜在不良を検出
昼食休憩を挟んで午後も、3つのセッション(セッション2Dから2F)に分かれての発表が予定されている。セッション2Dは「トランジスタ」、セッション2Eは「システムの信頼性」、セッション2Fは「バックエンド工程の誘電体」がテーマである。
「トランジスタ」のセッションでは、高誘電率/金属ゲート(HKMG)技術のMOSトランジスタにおける劣化を扱う。劣化モードとしては、基板バイアスと温度変化による不安定性(BTI)と、ホットキャリア(HC)が2大テーマである。
「システムの信頼性」では毎回、さまざまなテーマの研究成果が披露される。今年は自動車用半導体デバイスの潜在的な不良を取り除く技術や、火星探査機のモーター駆動技術、自動車用マイコンの埋め込みフラッシュメモリを修復する技術などの発表がある。
「バックエンド工程の誘電体」セッションでは、多層配線の層間絶縁膜の経時劣化を扱う。層間絶縁膜には配線間容量の低減を目的として誘電率の低い材料を使うことが多い。この低誘電率(Low-k)材料による絶縁が、長期間の電圧印加によって劣化し、絶縁破壊を起こす。
4月17日午前:マルチコアSoCの信頼性を予測
カンファレンス2日目の午前も、3つのセッション(午前の前半はセッション3Aから3C、午前の後半はセッション3Dから3F)が並行して進む。セッション3Aは「回路シミュレーション」、セッション3Bは「メモリ」、セッション3Cは「化合物/光半導体」がテーマである。
「回路シミュレーション」のセッションでは、プロセッサのBTI解析やSRAMの製造ばらつき解析、ロジックの経年劣化予測、マルチコアSoC(System on a Chip)の微細化と信頼性などに関する研究成果が発表される。「メモリ」のセッションでは、NANDフラッシュメモリの信頼性が主要なテーマとなっている。20nm以下の微細化や誤り予測、蓄積電荷の放散などを扱う。「化合物/光半導体」のセッションでは、窒化ガリウム(GaN)系の高速トランジスタが主要なテーマである。
午前の後半は、セッション3Dの「ソフトエラー」、セッション3Eの「半導体製品の信頼性」、セッション3Fの「エレクトロマイグレーション」に分かれて論文が発表される。
「ソフトエラー」は中性子線やアルファ線などがシリコン半導体に突入して生じる、一過性の不良である。22nmのトライゲートトランジスタやネットワークプロセッサなどのソフトエラーを研究した成果が披露される。
「半導体製品の信頼性」セッションでは、不良SRAMにおける接合リークのメカニズム、モバイルプロセッサの高温動作寿命、高性能マイクロプロセッサにおける性能と信頼性、消費電力のトレードオフなどを扱う。
4月17日午後:高性能プロセッサの長期信頼性実績
カンファレンス2日目の午後は、セッション4Aから4Cの3つのセッションが進む。セッション4Aのテーマは「回路の信頼性」、セッション4Bのテーマは「光発電デバイス」、セッション4Cのテーマは「製造プロセス」である。
「回路の信頼性」セッションでは、高性能マイクロプロセッサの長期信頼性をモニターした結果や経時劣化センサーの開発成果などが登場する。「光発電デバイス」のセッションでは、結晶シリコン太陽電池モジュールの劣化や色素増感型の紫外線照射ストレスなどの研究成果が発表される。「製造プロセス」セッションでは、ゲルマニウム(Ge)トランジスタや22nmトライゲートトランジスタの信頼性が議論される。
夕方には、ポスター発表のセッションが予定されている。ここではボードに実装した半導体チップに対する過電圧ストレスの影響を研究した論文や、ストレージの信頼性を検討した論文、中性子線ソフトエラーを起こりにくくしたSRAM技術などが登場する。
4月18日午前:抵抗変化型メモリの信頼性を検討
カンファレンス最終日の午前は、前半が3つのセッション(セッション5Aから5C)、後半が2つのセッション(セッション5Dから5E)に分かれている。セッション5Aは「ゲート絶縁膜」、セッション5Bは「故障解析」、セッション5Cは「3次元実装とチップ/パッケージ相互作用」、セッション5Dは「トランジスタ」、セッション5Eは「メモリ」がテーマである。
「ゲート絶縁膜」のセッションでは、高誘電率材料の信頼性に関する研究成果が相次ぐ。「故障解析」のセッションでは、銅ワイヤボンディングの開放不良を非破壊で検出する手法の発表がある。「3次元実装とチップ/パッケージ相互作用」のセッションでは、シリコン貫通ビア(TSV)の信頼性を検討した結果が発表される。「トランジスタ」のセッションでは、22nmのトライゲートトランジスタにおける自己発熱の影響を検討した結果や、28nm技術による完全空乏型SOIトランジスタのBTIとホットキャリア劣化をシミュレーションした結果などが登場する。「メモリ」のセッションでは、抵抗変化型メモリの信頼性を検討した結果の発表が相次ぐ。
4月18日午後:カーボン集積回路が登場
カンファレンス最終日の午後は、3つのセッション(セッション6Aから6C)が並行して進む。セッション6Aのテーマは「CMOSを超える技術」、セッション6Bのテーマは「MEMS」、セッション6Cのテーマは「ソフトエラー」である。
「CMOSを超える技術」のセッションは全て招待講演である。高い信頼性を備えるMEM(微小な電気機械)スイッチ技術、カーボンナノチューブトランジスタのグラフェン配線の集積回路技術、トンネルトランジスタ技術の講演が予定されている。
「MEMS」とは微小な電気機械システム(Micro Electro-Mechanical System)の事である。このセッションではMEMSのパッケージングに関する信頼性の検討結果やMEMSスイッチの寿命を伸ばした研究成果などの発表がある。「ソフトエラー」のセッションでは、600MHz動作のマイクロプロセッサについて宇宙放射線の耐性を高める研究や、CMOSを微細化していった時に寄生バイポーラが中性子線ソフトエラーに与える影響を調べた研究などが登場する。
このほかにも興味深い研究成果が少なくない。PC Watchでは現地レポートを随時、お届けするのでご期待されたい。