【COMPUTEX 2012】
Windows RTを武器に新しい市場へと乗り出すQualcomm

Qualcomm CDMA Technologies 製品マネジメント上級部長 スティーブ・ホートン氏

会期:6月5日~6月9日(現地時間)
会場:Taipei World Trade Center Nangang Exhibition Hall
   Taipei World Trade Center Exhibition Hall 1/3
   Taipei International Convention Center



 スマートフォン・タブレット向けプロセッサベンダーのQualcommは、COMPUTEX TAIPEI会場近くで記者会見を開催し、同社のスマートフォン・タブレット向けプロセッサ「Snapdragon」シリーズに関する説明会を行なった。

 その中でQualcomm CDMA Technologies(QCT)製品マネジメント上級部長 スティーブ・ホートン氏は、QualcommがMicrosoftと協力して開発しているWindows RT端末のデモを行ない、QualcommのSnapdragon S4のクアッドコアモデルである「APQ8060A」を搭載したこのリファレンスデザイン端末は、2GBのメモリが搭載されており、Windows RTが軽々と動作していた。

 また、Qualcommは、同社のスマートフォン・タブレット向けプロセッサのSnapdragonシリーズに、新しいブランドスキームを導入する計画があることも合わせて明らかにした。

●新しいブランドスキームを導入する予定のQualcomm

 QualcommはもともとCDMA方式の携帯電話やモデムチップベンダーとしてスタートした企業で、現在はSnapdragonのブランド名のマイクロプロセッサをスマートフォンやタブレット向けに販売している。Qualcommは、W-CDMA/CDMA200などの3G通信方式の携帯電話を製造する上で必要な特許を所有しており、スマートフォン市場において大きなシェアを握っている。

 Qualcommの製品ラインナップには、最初から3GやLTEに対応したモデムを内蔵したSoCが多数用意されており、1チップでほとんどの機能を網羅することができるのも強み。競合となるTI、NVIDIA、Intelなどはいずれもモデムは別チップとして提供されているため、システムボードの面積をできるだけ小さくしたいといったニーズではアドバンテージを持っている。実際、NTTドコモの夏モデルとしてラインナップされたAndroidスマートフォンは、NVIDIAのTegra 3を搭載した「ARROWS X LTE F-10D」を除き、すべてがQualcommのSnapdragonを搭載している。

 スマートフォン市場で非常に強いQualcommだが、近年はコンシューマ向けのマーケティングも重視しており、PC用のプロセッサやGPUのようなブランド名をつけてマーケティングを行なっている。それが「Snapdragon」で、Intelの「Core」やNVIDIAの「GeForce」のようなものだと考えれば理解しやすいだろう。

 そのSnapdragonは、プロセッサの世代に応じて「S○」サブブランドがつけられており、2012年にリリースされた新製品はS4がつけられた。このSnapdragon S4は、一部の例外を除き、28nmのプロセスルールで製造され、Krait(クレイト)の開発コードネームで呼ばれるQualcomm自社設計のARMコア(1コア、2コアないしは4コア)を搭載している。

 ホートン氏によれば、Qualcommは今回さらにS4のブランドをさらに細分化し、S4 Prime、S4 Pro、S4 Plus、S4 Playというカテゴライズを加えていくことを明らかにした。

 S4 PrimeがいわゆるスマートTVなどの組み込み向け、S4 Proはタブレットやクラムシェル端末向け、S4 Plusはハイエンドスマートフォン向け、S4 Playは廉価版スマートフォン向けという位置づけになるという。ただし、現時点ではどのS4プロセッサが、どの製品に該当するのかなどは公表せず、今後発表していくことになるという。

 なお、Qualcommは、より低価格な端末を開発するODMメーカーやOEMメーカー向けにQRD(Qualcomm Reference Design)というリファレンスデザインキットを提供している。これにはチップだけでなく、基板やソフトウェアなどがパッケージとして提供している。あまり規模が大きくないODM/OEMメーカーでも、外側のデザインさえできれば、低価格なスマートフォンを製造することが可能になるのだ。ホートン氏は「我々は成長市場へのアプローチを重視している。QRDによりそれが可能になると考えている」と述べ、低価格スマートフォン市場でもQualcommのプレゼンスを高めていきたいと説明した。

QualcommはSnapdragonのサブブランドとしてS3、S4などを導入したS4はさらに細分化され、S4 Prime、S4 Pro、S4 Plus、S4 Playと分類されることになるという。ただし、現時点ではまだ詳細は決まっていないようで、詳しい分類(どのプロセッサがどれに該当するか)は今後発表される予定だという

●Snapdragon S4のサーマルアドバンテージをアピールするビデオを公開

 ホートン氏は、今年(2012年)になって端末メーカーからの採用が相次いでいるSnapdragon S4の優位性をアピールした。「Snapdragonでは、各プロセッサの周波数が独立して変動するaSMPというマルチコアを実現している。これは各コアが負荷に応じて必要なだけ周波数を上げることで、消費電力を下げることができるほか、熱設計の観点でもメリットがある」と述べ、Snapdragon S4の優位性をアピールした。

 そして、Snapdragon S4(MSM8960、28nm)と、他社製品(45nm世代)およびSnapdragon S3 (MSM8660、45nm世代)の発熱の様子をサーマルモニターで比較した様子を公開し、Snapdragon S4が、前世代と比べても発熱が少なく、他社製品とは圧倒的に少ないということをアピールした。なお、この様子は動画でも公開されており、各端末の上にバターを置いて、その溶ける時間を計るというユニークなデモが行なわれている。興味がある読者は見てみるといいだろう。

 なお、今回のセッションでは、同社の新しいロードマップなどは特にアップデートはなかった。報道陣からは「今後も自社設計のARMコアの開発を続けるのか、64bitへの対応はどうするのか」という質問がなされたが、ホートン氏は「将来のことにはコメントできないが、我々のKraitコアのプロセッサは、ARMがライセンシーに提供しているCortex-A15を現段階でも上回っており、独自コアを設計するアドバンテージは小さくない。今後も自社開発のIPには投資を続けるだろう」と述べ、Qualcommとしてはこれまで通り自社開発のプロセッサコアなどへの研究開発を続けていくだろうという見解を明らかにした。

Snapdragon S3、競合他社、Snapdragon S4の稼働時の温度比較。25分たってもSnapdragon S4はほとんど温度が上がっていないことがわかるQualcommが公開しているビデオによるバターの溶け方の比較動画。Qualcommのものが最も溶けないで残っている

●Windows RTの開発をMicrosoftと協力して行なうことで、市場を拡大していく

 ホートン氏はQualcommとMicrosoftの長年の関係について触れ「我々はWindows Phoneの開発においてMicrosoftとよい関係を保ってきた。皆さんがご存じの通り、Windows PhoneのUIは、Windows RTのUI開発に大きな影響を与えており、それをMicrosoftと協力して発展させてこれたことを誇りに思っている」と述べた。

 その上で、同社が開発したWindows RTが動作するタブレットのリファレンスデザインを公開した。このタブレットでは、SoCにとしてAPQ8060Aを搭載しており、メモリは2GBを搭載しているのだという(それ以外のスペックは未公表)。Windows RTを搭載されたタブレットは、昨年の9月にロサンゼルスで行なわれたBuild、1月にラスベスがで行なわれたInternational CES、2月にバルセロナで行なわれたMobile World Congress(MWC)などでも公開されていたが、いずれも基調講演などのステージ上だけで、報道関係者のアクセスは極端に制限されていたのだ。しかし、今回はもう少しすすんだデモを見せることが可能になっており、デバイスマネージャなどを確認することができた。

 ホートン氏によれば、Qualcommがリファレンスデザインとして作成したタブレット端末は、すでにLTEが動作しており、今回のデモに関してはLTEを利用してインターネットにアクセスしている様子などが公開された。なお、このWindows RTリファレンスデザインは、同社のSnapdragonを利用して端末を設計するベンダーに対しても提供されており、設計時の参考にすることなどができるようになっているとのことだった。ホートン氏によれば、同社の製品でWindows RTをサポートするのは、現状ではMSM8960で、今後リリースされるクアッドコアでもサポートされることになるという。

 冒頭でも述べたとおり、Qualcommはモデム内蔵という強みを生かし、スマートフォンでは大きな市場を握っているが、タブレットに関してはモデムが内蔵されていない製品が多いため、そこまで市場が広がっていないのも事実だ。従って、Qualcommとしては、Windows RTを機に、スマートフォンだけでなくタブレットに関しても市場を広げる狙いがあると考えることができるだろう。

QualcommはMicrosoftとWindows Phoneの開発で協力してきた。それはWindows RTの開発にも生かされているMicrosoftと協力してWindows RTの開発を続けている。ドライバの開発なども協力して行っているという。なお、今後のロードマップにはWindows RTのサポートも意識した製品構成になることも言及されたホートン氏が手に持つのがQualcommのWindows RTタブレット
QualcommのWindows RTタブレットのシステムプロパティ。プロセッサはAPQ8060Aで、2GBのメモリが搭載されていることがわかる。Build番号は8422でIA版のRelease Preview(RP)版のBuild 8400よりやや進んでいるWindows RTのアプリケーションを表示させたところ。Windows Media PlayerなどIA版ではある標準アプリケーションが一部無い

(2012年 6月 6日)

[Reported by 笠原 一輝]