【MWC 2011レポート】【Intelカンファレンス編】
32nmプロセスのスマートフォン向けMedfieldをサンプル出荷開始
~NokiaのMeeGo陣営離脱は「ただ残念」

Medfield搭載スマートフォンを披露するチャンドラシーカ氏

会期:2月14日~17日
会場:Fira de Barcelona(バルセロナ国際展示場)



 IntelはMWC 2011が開催されている会場において記者会見を開催し、同社が今年出荷開始を計画している、スマートフォン向けAtomとなる「Medfield」(メッドフィールド、開発コードネーム)を、顧客にサンプル出荷開始したことを明らかにした。

 Intel上席副社長兼ウルトラモビリティ事業部 事業部長のアナンド・チャンドラシーカ氏は「我々のMedfieldは、32nmプロセスルールで製造される唯一のスマートフォン向けプロセッサだ」と述べ、Intelの強みである先進のプロセス技術と製造施設を武器に、スマートフォンへのIA(Intel Architecture)採用を働きかけていくという姿勢を明らかにした。

 さらに、IntelはMeeGoのタブレット対応版をリリースしたことを明らかにしたほか、Infineon Technologiesから買収し、子会社化した3Gチップ製造会社であるIntel Mobile Communicationsが、LTE/3G/2Gのマルチモードに対応した通信コントローラを、年内にサンプル出荷、2012年に市場に投入することなども発表した。

●Intelの強みであるプロセス技術と製造能力をスマートフォンにも

 Intelは、2010年5月に、開発コードネームMoorestown(ムーアズタウン)で知られるAtom Z6xxシリーズをスマートフォン向けのプロセッサとして投入した。しかし、率直に言って結果は散々たるものだったと言ってよい。

 MoorestownはLGのスマートフォンに搭載されて同年秋に発売される予定だったのだが、今なお発売されていない。LGから正式に発表はされていないが、おそらくキャンセルされたと考えるのが妥当だろう。それ以外にも、採用した大手のOEMメーカーは今のところ存在しない。

 Intelはこの状況から巻き返す必要がある。Intelの半導体戦略は、その強みである他社より進んだプロセスルールと膨大な製造キャパシティを活かし、他社と差別化を図るというのが基本だ。そして、その強みを活かすべく、すでにPC向けプロセッサなどでは採用されている32nmプロセスルールを、Medfieldによってスマートフォンにも展開する。

 チャンドラシーカ氏によると、第2世代のHigh-Kメタルゲートを採用した32nmプロセスルールは、さらに漏れ電力が減っており、アクティブ時の消費電力が大きく減っているという。スマートフォンでは、スタンバイパワーよりもアクティブ時の消費電力が低くなることが、結果としてバッテリ駆動時間を延ばすことになる。

 というのも、一般的に消費電力を議論するときには、プロセッサが停止している時の消費電力(アイドルパワー)と、何らかの演算をしている時の消費電力(アクティブパワー)の2つがあるが、これまでの携帯電話では、電話機能が主であり、アプリケーションプロセッサはアイドルになっていることが多かったため、アイドルパワーが低いことが重要だと考えられてきたからだ。

 しかし、スマートフォンでは、何らかのデータ処理をやらせている時間の方が圧倒的に多い。画面を切ってアイドルさせていても、裏ではメールで受信していたり、マルチタスクのOSでは裏側のタスクがなんらかの演算を行なっていることが少なくない(だから、スマートフォンの電池はすぐなくなるわけだが……)。

 つまり、ほとんど常時プロセッサがアクティブになっているというのがスマートフォンでの実態となる。従って、スマートフォンでバッテリ駆動時間を延ばしたいのであれば、むしろアクティブパワーにこそこだわるべきだというのがチャンドラシーカ氏の言い分なのだ。

 チャンドラシーカ氏は「Medfieldでは前世代に比べてアクティブパワーも、アイドルパワーも減っており、かつ処理能力は大きく向上している」と話しつつ、Medfieldプロセッサを披露した。

 ただ、今回はチップと搭載されたスマートフォンのサンプルを壇上で見せた程度で終わり、Medfieldにどのような機能があるのかなど具体的内容には公開されなかった。

Medfieldは現在サンプル出荷中、搭載製品の出荷は2011年の予定チャンドラシーカ氏が右手(写真では左)にもっているのがMedfield

●Intel Mobile CommunicationsからLTE、HSPA+などのコントローラがリリースへ

 Intelは昨年、Infineon Technologiesから3Gコントローラを製造する部門を買収し、新しい子会社としてIntel Mobile Communicationsを設立したが、MWCではその最初の製品を公開した。

 チャンドラシーカ氏は「今後、さまざまなものがスマート化(筆者注:データ処理可能なという意味)されていくにつれて、回線速度が重要になる。そのため、それらを快適に使うには100Mbpsを超えるモバイルブロードバンドが必要になる」と説明。Intelもモバイルブロードバンドのさらなる高速化に向けて、さまざま投資して行く計画があり、その一環として今回の買収を行なったと背景を語った。

 同氏によると、Intel Mobile Communicationsは、HSPA+のコントローラをすでに出荷開始。現在はLTEのコントローラの開発を進めており、今年中にはサンプル出荷し、2012年に市場に投入の予定だ。高速無線コントローラとAtomプロセッサの組み合わせで、OEMメーカーなどへの売り込みを図っていく。

 また、チャンドラシーカ氏はIntel Mobile CommunicationsがデュアルSIMと呼ばれる、1つの端末に2つのSIMスロットを持つソリューションを開発しており、こちらもサンプル出荷をしていることを明らかにした。デュアルSIMにより、ユーザーは仕事用のSIMと、プライベート用のSIMを1つの端末で利用することができるようになる。

スマートデバイスの普及には高速なモバイルブロードバンドが必須Intel Mobile Communicationsの製品。HSPA+(下り最大21Mbps)はすでに出荷済み、デュアルSIMは現在サンプル出荷中、LTEは今年の末までにサンプル出荷し、2012年に出荷される予定
●NokiaのMeeGo陣営離脱は「ただ残念」、MeeGoの開発は続行

 IntelのスマートデバイスのOS戦略については、上席副社長兼ソフトウェア・サービス事業本部 事業本部長のレネイ・ジェームス氏が「従来と変更はない」と述べ、Intel自身が旗振り役になって推進しているオープンソースのMeeGoだけでなく、GoogleのAndroid、Chrome OS、MicrosoftのWindows、各種Linux、WindRiverのVxWorksなど、さまざまなOSの選択肢の中からOEMメーカーが自由に選択できるのがIAの良さであるとアピール。

 続いてMeeGoに関して、タブレット機器向けの新しいUIであるTablet User Experienceを新たに公開した。これはタブレット機器向けに最適化したUIで、マルチタッチの機能を活かしてMeeGoの操作が可能になっている。このTablet User Experienceは、IntelのアプリケーションストアであるIntel AppUp Centerから提供される予定だという。

 質疑応答で、折しも先週、MeeGoのパートナーだったNokiaがMicrosoftと戦略的な提携を行ない、MeeGo陣営から事実上離脱したことについて質問が出ると、Intel上席副社長兼ソフトウェアサービス事業本部 事業本部長のレネイ・ジェームス氏は「ただ残念だというほかない」と失意を表明したが、引き続き他のパートナー企業とともにMeeGoを推進していくというIntelの方針に揺らぎはないことを示した。

レネイ・ジェームス氏IntelのOS戦略は、MeeGoも含めてすべてのOSを対等に扱い、OEMメーカーは自由にOSを選択できるというものMeeGoの開発は続けられていく
MeeGoのタブレット向けUIであるTablet User Experienceが発表されたIntel副社長兼ソフトウェア・サービス事業本部システムソフトウェア事業部 事業部長 ダグ・フィシャー氏が手に持つのが、Tablet User Experienceが搭載されたMeeGoタブレット

(2011年 2月 15日)

[Reported by 笠原 一輝]