イベントレポート
Lenovo Tech World基調講演詳報
~メーカーとして初めてWindows 10搭載PCの8月出荷を公言
(2015/5/29 13:47)
Lenovoは、同社の本社がある中華人民共和国北京市内のChina National Convention Center(CNCC、北京国家会議中心)で、初のグローバル向けプライベートイベントとなるLenovo Tech Worldを開催し、今後の新方針に関する講演や、幹部による記者会見などを行なった。
この中でLenovoの会長 兼 CEOのヤン・ヤンチン氏は、開発中製品のコンセプトモデルを公開した。公開されたのは「Magic View」という名のスマートウォッチ、および「Smart Cast」と呼ばれるスマートフォン。
Magic Viewは、光学反射を利用したディスプレイを備えたスマートウォッチで、「世界初のセカンダリディスプレイを備えたスマートウオッチ」とのこと。Smart Castは、スマートフォンの上部に回転可能なレーザープロジェクタを備えており、それを仮想タッチ画面として利用したり、普通のプロジェクタとしても利用することができる。
ヤンチン氏の基調講演には、Intel CEOのブライアン・クルザニッチ氏、Microsoft CEOのサティヤ・ナデラ氏、Baidu CEOのロビン・リー氏といった業界のリーダーも登壇するなど豪華な顔ぶれが揃うことになった。
Lenovo初のグローバルなプライベートイベントとなるLenovo Tech World
Lenovo Tech Worldは、Lenovoが初めてグローバルな規模で行なうプライベートイベントということもあり、世界中から3,800人以上の来場者を集めて行なわれた。メインイベントはこの記事で紹介する基調講演になるが、それ以外にも同社のディストリビューター向けの説明会、同社ユーザーの交流イベントなど、多数のセッションが行なわれた。
CEOのヤン氏は「Lenovoはハードウェアだけを作る企業だと思われている。しかし、これからの来たるべきインターネットプラス時代には、デバイスの革新性、接続性、インフラ、これら全てが重要になる」と述べ、Lenovoが新しい時代に向けて大きく変わりつつあるのだとアピールした。
実際、これまでのLenovoは言ってみればPC一辺倒の企業で、売り上げの多くがPC由来の売り上げになっていた。しかし、昨年(2014年)の段階でスマートフォンも市場3位、タブレットも市場3位と、売り上げの多様性が増してきており、今後はIBMからx86サーバー部門(System X部門)を買収したこともあり、バックエンドのITインフラの部分にも事業を拡大しようとしている。PCでの市場シェア1位という圧倒的な購買能力を、スマートフォン、タブレット、サーバーなどの市場にも拡大して、スケールメリットを出していく、それがLenovoの戦略だ。
しかしユーザーからすると、Lenovoはデバイスを大量に作って売るメーカーだと考えられていたため、あまり革新的な製品をリリースするメーカーだとは思われなかった側面がある。実際のところは、2-in-1デバイスの新しい形を作ったと言っても過言ではないYOGAシリーズをいち早く送り出すなど、革新的な製品も出しているのだが、スマートフォンやタブレットの市場シェアで1位、2位を占めるAppleやSamsungといったメーカーに対抗していくためには、そうしたスマートなデバイスも作れるメーカーであると認識される必要があり、今回のようなイベントの開催に至ったと言っていい。
ユニークな2画面スマートウォッチなどが公開される
今回のキーノートでは多くの新製品が紹介されたが、グローバルな観点で注目に値するのは3つの試作品だろう。
最初に紹介されたのはMagic Viewというスマートウォッチの試作機。Magic Viewは世界初の2画面スマートウォッチで、子会社Motorola Mobilityが米国などで販売しているMoto 360に似たデザインだが、リストバンド部分に2つ目のディスプレイが用意されている。
このディスプレイは、光の反射を利用してディスプレイを画面の中に描く。このため、目の焦点を遠くに合わせたまま、視界の中に時計を移動すると画面が見えるイメージだ。簡単に言ってしまうと、スマートグラスで採用されているような小型プロジェクタが時計の中に入っている感じだ。基調講演後に実際に触ることができたが、中で動画が再生されていることが確認できた。すぐ実用になるかどうかは別にして、技術としては大変面白い。
もう1つの製品は、上部にプロジェクタと赤外線モーションセンサーが入ったスマートフォン「Smart Cast」。レンズを回転させてプロジェクタの代替として使ったり、机に向けて照射して、赤外線モーションセンサーと組み合わせることで、仮想タッチスクリーンとして使うことができる。
基調講演のデモでは、中国の有名なピアニストであるラン・ラン氏が、仮想タッチ画面上に表示されたピアノの鍵盤で音楽を奏でたり、本物のピアノを弾いている横で、ヤンチン氏がSmart Castを利用して演奏に参加する様子がデモされた。
基調講演終了後には、実際に触れられるSmart Castが公開され、OSはAndroid 4.4.2であることなどを確認することができた。また、プロジェクタ部分は360度回転できた。ただ、現状では完全に試作といって趣で、このまま発売されそうにはない。将来的に、この技術を応用したスマートフォンが市場に登場する展開は十分にあり得る。
また、ヤンチン氏の講演では、もう1つのプロトタイプ製品として、スマートシューズが公開された。スマートシューズには、LEDのオン/オフで表現されるディスプレイが用意されており、簡単な文字やマークなどが表現できるようになっている。ユーザーの気分、例えばハートマークを表示したり、ちょっとした文字を表示したりという使い方が可能になる。
また、このシューズの中にセンサーが入っており、歩数計などとしても活用できるという。このスマートシューズ向けにはSDKが公開され、サードパーティのソフトウェアベンダーがアプリを開発したりすることができる。
Intel、Microsoft、Baiduといった業界のトップ企業がゲスト講演
このほか、今回のイベントには業界のリーダーとも言うべき3社のCEOがゲストスピーカーとして駆けつけるという豪華な講演となった。
登壇したのは、Intel CEOのブライアン・クルザニッチ氏、Microsoft CEOのサティヤ・ナデラ氏そして中国の検索最大手のBaidu CEOのロビン・リー氏。
Intelのクルザニッチ氏は、Lenovo製品にも多数採用されているIntel RealSenseをアピールした。RealSenseの3Dカメラが内蔵されているタブレットで、ヤンチン氏の3Dスキャンを行ない、それを3Dプリンタで出力してプレゼントするデモを行なった。
しかもそのプレゼントは、最近盛んにアピールしているEdisonを利用したドローンを利用して運んでくるという演出付きで、会場は大いに盛り上がった。なお、ヤンチン氏は、クルザニッチ氏にそのお礼として、同社が同日発表したThinkPad 10をプレゼントし、「このIntelプロセッサを採用したThinkPad 10は8月に発売する」と述べ、Windows 10が搭載されたPCの出荷時期をOEMメーカーの中で初めて具体的に明らかにした。
これまでのところ、Microsoftは公式にRTM(Release To Manufacturing)バージョンのリリース時期などを明らかにしていないが、PC業界では既にOEMメーカーに対してMicrosoftから7月リリースされるということが通知されており、各メーカーがそれに併せて8月に製品が出荷できるように準備をしている段階にある。今回のヤンチン氏の発言は、それをOEMメーカーとして初めて公式に認めた形となった。
その後、MicrosoftのCEOであるサティヤ・ナデラ氏が登壇した。ナデラ氏はWindows 10の概要や、Windows 10に搭載される新しい音声認識の機能であるCortanaについての説明を行なった。
今回Lenovoは、同社の検索サービスであるREACHitをCortanaに連携させることを発表した。REACHitではローカルファイルやMicrosoftのクラウドサービスだけでなく、Google Drive、Dropbox、Boxなどのクラウドストレージも含めて検索できることが特徴で、Cortanaの音声認識機能を利用してこれらのクラウドストレージ上にあるファイルも検索することができるようになるという。
また、Baidu社のロビン氏は、同社のディープラーニングの成果を披露した。ディープランニングをバックエンドサーバーに利用しているBaiduの音声認識サービスを利用して、韓国語を中国語に変換したり、韓国語のメニューをスマートフォンのカメラで読み取って、それを中国語に変換するなどのデモが行なわれた。
Baiduは現在ディープラーニングに力を入れており、米国でディープラーニングの著名な研究者を招いて研究しているなど、中国でその成果に基づいたサービスを提供しており、今回のデモにもそれらが使われたのだ。
このように、今回のLenovo Tech Worldでは、業界のリーダーが多数招かれ、Lenovoと業界とのパートナーシップが強調されたほか、ユニークな試作が公開され、興味深いイベントとなった。ただ、テクニカルな説明などはあまり多くなく、もう少し技術に振った内容があってもいいのではと感じたのも事実で、来年以降のイベントではそのあたりが課題となるだろう。
ヤンチン氏は講演の最後に「来年またお会いしましょう」と最後に挨拶したので、おそらく次回以降もあると考えられる。今後どのように進化していくのか楽しみだ。