イベントレポート

競合はズバリApple M4 Proだっ!AMDの強化型CPU「Ryzen AI Max」

AMDが公開したAMD Ryzen AI Max+/Maxシリーズ

 AMDは、CESの会期前日となる1月6日(現地時間)に記者会見を開催し、以下の新製品を発表した。

  • デスクトップPC向けの3D V-Cache対応Ryzen 9000シリーズ(Granite Ridge)
  • ゲーミングノートPC向けのRyzen 9000HXシリーズ(Fire Ridge)
  • 開発コードネーム「Strix Halo」で知られてきたAMD Ryzen AI Max+/Maxシリーズ
  • Ryzen AI 300シリーズ(Strix Point)の廉価版SKU
  • Ryzen 200シリーズ(Hawk Point)

 この中でも特に注目なのはRyzen AI 300 Maxシリーズで、AMD 上級副社長 兼 クライアントビジネス事業本部 事業本部長 レイハル・ティコー氏は「Ryzen AI 300 MaxシリーズはこれまでWindowsプラットフォームにはなかった、強力な統合GPUを搭載した新しいカテゴリを切り開く製品だ」と述べ、そのターゲットになる競合製品は、Appleのカスタムシリコン「Apple M4 Pro」だと強調した。

2つのCPUダイ+巨大なGPU/IODというチップレットで作られる「Ryzen AI Max+/Max」

Strix Haloの開発コードネームとなるRyzen AI Max+/Max

 今回AMDがCESで発表したAMD Ryzen AI Max+/Maxシリーズは、これまで開発コードネーム「Strix Halo」の開発コードネームで呼ばれてきた製品で、Ryzen AI 300シリーズ(以下Ryzen AI 300)の開発コードネーム「Strix Point」と前半部分が同じことからも分かるように、そのバリエーションとして開発されてきた製品だ。

 最大の違いはパッケージ上での実装方法。Strix PointことRyzen AI 300が、CPUもGPUも1つのダイに統合されているモノリシック構造になっているのに対して、Strix HaloことRyzen AI Max+/MaxではCPUダイが2つ、GPU/IODダイが1つを、2Dでダイ上に統合したいわゆるチップレットになっている。AMDによれば、いずれのダイもTSMCのN4B(4nm)のプロセスノードで製造されている。

8xZen 5コアのダイが2つ搭載されている
40CuのGPUが統合されているGPU/IOD
メモリコントローラは256bit幅
Ryzen AI Max+/Maxの特徴

 Strix HaloのCPUダイはZen 5の8コアとなっており、そのダイを2つ搭載することで16コア/32スレッドを実現。Strix Pointでは、CPUのZen 5コアが8コア、Zen 5cが4コアという2クラスタが1チップの中に異種混合で混載されているのと比較すると、構造もCPUの種類も異なっている。

 このStrix HaloのCPUダイは、製造プロセスノードがTSMCの4nmという点からしても、シンプルに考えればRyzen 9000シリーズで採用されているCPUダイそのものだと考えられる。それが2つ搭載されていると考えればいいだろう。その意味で、CPUダイに関しては特に特殊な点はないと言える。

 Strix Haloの特徴はGPU/IODにある。このGPU/IODには、従来のIODと同じように、メモリコントローラやGPU、NPUなどのI/Oや各種プロセッサが搭載されているのだが、GPUがStrix Pointに内蔵されているGPUに比べて圧倒的に強力になっているのだ。

 GPUのアーキテクチャはStrix Pointと同じRDNA 3.5だが、CUは40基と、Strix Pointの16基から2.5倍になっているのだ。GPUの性能がほぼ演算器の数に比例すると考えれば、Strix HaloのGPU性能が高くなるのは容易に想像できる。

 また、メモリコントローラのバス幅が256bit幅のLPDDR5x-8000をサポートしていることも、GPU性能の向上に大きな意味がある。通常のPC用のSoCではメモリコントローラは64bitのデュアルチャンネルで128bitだが、Strix Haloはその倍のバス幅になる。LPDDR5x-8000を利用すれば、256GB/sという帯域幅を実現できる。

Ryzen AI Max+/Maxシリーズの競合はIntel+NVIDIAではなく、Apple M4 ProとAMD

Ryzen AI Max+/MaxのSKU

 AMD 上級副社長 兼 クライアントビジネス事業本部 事業本部長 レイハル・ティコー氏は「Ryzen AI 300 MaxシリーズはこれまでWindowsプラットフォームにはなかった、強力な統合GPUを搭載した新しいカテゴリを切り開く製品だ」と述べ、AMDの主要な競合であるIntelには競合製品がなく、WindowsプラットフォームではRyzen AI Max+/Maxが唯一の製品だと強調した。

AMD 上級副社長 兼 クライアントビジネス事業本部 事業本部長 レイハル・ティコー氏、手に持っているのはHP ZBook Ultra G1a

 実際には同じような性能を発揮するプラットフォームはIntelにもある。ただし、それはIntelのSoCとNVIDIAのGPUという組み合わせで、Ryzen AI Max+/Maxと同じような性能を実現できるという意味だ。そこで問題になってくるのは消費電力。IntelのCore Ultra 200HのPBP(ほぼTDPと同義)が45W、NVIDIAのGPUはcTDPなので可変なのだが、たとえばGeForce RTX 4090 Laptop GPUであれば120~150WのどこかのTDPにOEMメーカーが設定して利用する。両方を合わせれば、低い方でも165W、高い方に合わせると200Wに近くになる。

 それに対して、Ryzen AI Max+/MaxのcTDPは45~120Wのレンジで設定できるため、Core Ultra 200H+GeForce RTX 4090 Laptop GPUよりもTDPが低くなる。つまり、Ryzen AI Max+/MaxはdGPU搭載の製品と同じような性能を実現しながら、TDPも、そして実際の消費電力も低く抑えられているということだ。ティコー氏の言うところの「Windowsプラットフォームでは競合はいない」というのは、同じような消費電力で同じような性能を実現しているIntel+NVIDIAのプラットフォームがないという意味だ。

IntelのCore Ultra 200Vとの比較、2倍以上の性能を発揮
M4 Proを搭載したMacBookとの比較

 そのため、今回AMDは競合製品の比較として、Intelとの比較(Core Ultra 200Vと比較しているが、消費電力が異なるし、Core Ultra 200Vはクリエイター向け製品ではないのでほぼ意味がない)よりも、プラットフォームはWindowsとmacOSという違いはあるが、同じようにクリエイター用途が想定されるApple M4 Proを搭載しているMacBook Proとの比較をしている。

 「我々の製品はM4 Proを搭載したAppleの製品を性能で上回っている。かつ、現在ビジネスパーソンやワークステーションユーザーがWindows環境で使っている3Dなどのアプリケーションがそのまま動作する」(ティコー氏)との通り、持ち運びができるモバイルワークステーションとして、これまでMacBook Proの購入を検討していたユーザーにとってみれば、新しい選択肢が登場したと言える。

 もっとも、AppleはM4 Maxというさらに最上位のSKUを用意しており、今回AMDはM4 Maxとの比較データは公開していない。つまり、Ryzen AI Max+/MaxはM4 Proには十分匹敵するが、M4 Maxには敵わないということだろう。それはStrix Haloの次世代製品に期待したいところだ。

搭載製品
HP ZBook Ultra G1a
ASUS ROG Flow Z13

 今回発表されたRyzen AI Max+/Maxは、HPの「ZBook Ultra G1a」、およびミニワークステーションPCとなる「Z2 Mini G1a」、ASUSの脱着型タブレットの「ROG Flow Z13」に採用されており、いずれもCopilot+ PC準拠となっている。AMD Ryzen AI Max+/Maxに搭載されているNPUが、Ryzen AI 300と同じXDNA2で50TOPSの性能を実現してCopilot+ PCの要件を上回っているからだ。

 AMD Ryzen AI Max+/Maxは第1四半期に順次提供開始予定で、HPによればZBook Ultra G1a、Z2 Mini G1aは今春に発売予定で、価格は未定とのことだ。

Ryzen 200シリーズはRyzen AI 300シリーズとピン互換、同じマザーボードと筐体で廉価版の展開が可能に

 AMDはこのほかにも、Ryzen AI 300の廉価版SKUと、Ryzen 200シリーズという新しい製品を発表した。

 Ryzen AI 300の廉価版SKUに関して特に説明の必要はないと思うが、Ryzen 200シリーズについて説明しておこう。これは、開発コードネームでHawk Pointで知られるRyzen 8040シリーズのリフレッシュ版という位置づけの製品になる。ただし、通常のリフレッシュ版がいわゆるリネーム(プロセッサーナンバーなどのブランドを変えただけのもの)であることが多いのだが、Ryzen 200はリフレッシュ版ではない。

 AMDのティコー氏によれば「Ryzen 200は確かにダイに関してはHawk Pointだが、パッケージがStrix Pointとピン互換になっていることが、従来のRyzen 8040との大きな違いになる。つまり、Ryzen AI 300のマザーボードを使って、Ryzen 200シリーズのマザーボードを構成できる。これにより、OEMメーカーは、上位モデルをRyzen AI 300を、下位モデルにはRyzen 200を採用するということが可能になり、より柔軟な製品構成が可能になる」とのことで、Ryzen 200はRyzen AI 300とピン互換になっていることが最大の特徴だと説明した。

 Ryzen 200とRyzen AI 300がピン互換であることは、OEMメーカーの設計の観点では設計コストの最適化の観点でも、製品製造コストの観点からも大きな意味がある。日本でも、Ryzen 8040を搭載して1kgを切る「HP Pavilion Aero 13」などが話題になっている。そうした高コストパフォーマンスなノートPCに採用される可能性があると考えられるだけに、要注目の製品と言えるだろう。