イベントレポート

半導体の性能を引き上げるガラスのサブ基板と光導波管。AGCがCESで展示

AGCが展示したガラスのサブ基板。3Dチップレット技術を利用するためのホールが開いており、すでに多くの半導体メーカーから引きがあるという

 1月9日~1月12日(米国時間)まで開催されたCES 2024では、多数の発表や展示が行なわれた。主に生成AI、メタバースなどの、一般消費者向け技術はもちろんこと、ビューティーテックやアグリテックといったこれまであまりITとは関係がなかったような、さまざまな産業へのAIの浸透などが目立った展示会になっていた。

 もちろん、半導体メーカーや半導体関連メーカーの展示もあった。本リポートではそうした半導体関連のソリューションに関して紹介していく。

AGCはガラスサブ基板とガラス光導波管を展示、20年代後半にコンピューティング半導体で重要になる技術

AGCブース

 世界最大のガラスメーカーAGC(かつての旭硝子、2018年に社名変更)は、本年初めてCESにブースを出展し、自動車向けの各種ソリューションなどを展示していた。

3D実装を可能とする微細孔付きガラスサブ基板」(Through Glass Vias)

 だが、最も注目すべきなのは自動車向けの展示の裏側に用意されていた半導体向けのソリューションだった。現在半導体メーカーから熱い視線を集めているガラス基板の一種となる「3D実装を可能とする微細孔付きガラスサブ基板」(Through Glass Vias)、「ポリマー光導波管」(Poymer Optical Waveguide)、「ガラス光導波管」(Glass Optical Waveguide)の3つの要素技術を展示していた。いずれも現在半導体メーカーが抱えている課題を解決する技術になる。

 「3D実装を可能とする微細孔付きガラスサブ基板」(Through Glass Vias)は、現在多くの半導体メーカーが実用に向けて研究開発を行なっているガラスサブ基板で、かつ3D方向にチップを積載する場合に必要な微細孔という配線用のホールが用意されていることが大きな特徴になる。

 CPUやGPUなどのハイパフォーマンスな半導体では、素材にプラスチックを利用したサブ基板が一般的に使われている(Intel、AMD、NVIDIAなどのCPU/GPUで現在使われているサブ基板のこと)。

 今後プラスチックのサブ基板に換えて、ガラスサブ基板にすることで、より高い絶縁性と低い誘電正接を実現することが可能になり、より高い周波数で動作させ、高速通信ができるのが特徴だ。

 このため、半導体メーカーはこのガラス基板の実用化に向けて競って開発をしており、昨年の9月にはIntelが20年代の後半に導入に向けて技術的な目途が立ったと明らかにしており、今後の展開は要注目だ。

AGCが展示したガラス光導波管(Glass Optical Waveguide)
ガラス光導波管(Glass Optical Waveguide)の説明

 ポリマー光導波管、ガラス光導波管はいずれも素材がフッ素系ポリマー、ガラスという違いはあるが、要するに光通信を半導体チップに統合するシリコンフォトニクスと呼ばれる技術の伝送路に、新しい素材を利用したものとなる。

 この技術が重要なのは、今後AIや生成AIへのニーズが高まるにつれて需要が拡大していくGPUやAIアクセラレータの性能向上に必要になると考えられているからだ。

 現在のGPUやAIアクセラレータは、内部バスで複数のGPUなどを接続していく「スケールアップ」、InfiniBandや数百ギガビットのイーサネットなどでサーバー同士を接続していく「スケールアウト」という2つの手法で大型化が実現されている。

 いわゆるスーパーコンピュータなどでは、スケールアップして8つのGPUを接続しているサーバー機器を、数百台スケールアウトしていくのが一般的で、それにより高性能にAIの学習処理などが行なえるようになっていく。

 今後さらにそうしたスーパーコンピュータの性能を引き上げるためには、もっとスケールアップする時の接続数を増やし、スケールアウトできるサーバーの数を増やしていく必要がある。そのときに有望だと考えられているのがシリコン同士を高速な光通信で接続するシリコンフォトニクスなのだ。

 今回AGCが展示したのはその伝送路に相当する新しい光導波管で、トランスミッターにフッ素系ポリマーを利用したポリマー光導波管、ガラスを使ったガラス光導波管を展示し、従来の素材と比較して転送時のロスが少なく、熱に強く高性能であるとアピールされた。

NXPがスマートホームソリューションをデモ、未来の家はよりパーソナライズ化が進む

CES 2023のメイン会場であるLVCC(ラスベガスコンベンションセンター)のセントラルホールの中庭に設置されているNXPブース

 オランダのNXP Semiconductors(以下NXP)は、毎年CESに参加して、新しい半導体ソリューションの展示を行なっている。

 本年のCESに関しては、自動車向けの新しい半導体を発表して展示したほか、スマートホームと呼ばれる家庭内におけるIoT機器がWi-Fi、Ethernet、Thread(IPv6ベースのメッシュネットワーク)などで相互に接続して、自動で電気をつけたり、カーテンを開けたりということをできるようにするソリューションを展示した。

 すでにそうしたスマートホーム用のIoT機器の共通プロトコルとしては「Matter」(マター)が2022年に策定され、実際に対応する機器も出回っている状況だ。

こちらは将来の自動車にUWBのモジュールを多数搭載し、UWBで子どもが置き去りになっているのを検出したりするソリューション。車両の前後だけでなく、キャビンもカバーするセンサーを用意して、検知する(緑になっているのは検知しているUWBのセンサー)。本邦でも車両への子どもの置き去りは社会問題となっており、こうしたテクノロジを応用して救えるソリューションを検討したいところ

 今回NXPが展示したのは、Matterに対応した機器から構成されているスマートホームに、UWB(Ultra-Wideband、超広帯域無線)を活用した、自動応答機能を追加するソリューションだ。UWBはすでにApple iPhoneやSamsung Galaxyなどのスマートフォンにも近年は搭載されており、それを利用した活用例も増えている。

 その代表例は、スマートフォンを利用した自動車のワイヤレスキー化だ。スマートフォンを、自動車のワイヤレスキーの代わりとして利用する場合には、このUWBが自動車とスマートフォンを接続する無線として利用されており、たとえばBMW iXシリーズにはUWBの機能が搭載、iPhoneを自動車の鍵として利用できる。

 UWBがそれを可能にしているのは、狭い範囲で高度な位置検出が可能という特徴を備えているためだ。このため、自動車の周辺にUWBに対応したスマートフォンが確実に存在していることを検出できるため、従来のドングル型ワイヤレスキーの代わりにスマートフォンを利用できるのだ。

NXPのスマートホームに入るときにはUWBに対応したスマートフォンが鍵であり、誰が家に入ってきたのかを検出する機器にもなる。家族の誰が入ってきたのかで設定を変えたリが可能になっている
スマートフォンを持って帰宅すると、それにより自動でエアコンがついたり、カーテンがあがったりなどを、スマートフォンの持ち主に応じて行なえる、未来だ…
NXPのMatterなどをコントロールする基板、将来的にはこうしたものが家の壁などに統合されて利用されることになる。

 今回NXPがデモしたスマートホームにUWBを利用するのも、同じロジックで行なわれている。あらかじめ登録しておいたUWB対応のスマートフォン(今回のデモではSamsung Galaxy S23シリーズが使われていた)がスマートホームに近づくと鍵がアンロックされ、中に入れる(もちろんユーザーが能動的に鍵を開けるような設定も可能)。

 そして、家族の誰のスマートフォンが入ってきたのかがMatterのネットワークに接続されている装置に通知され、MatterのIoT機器に指示を出す仕組みになっている。たとえば子どもが帰ってきた時には、エアコンはつけないが、親が帰ってきたときにはエアコンを自動でつけるなど、家族それぞれに最適化した設定をあらかじめしておくことで、より自動化を進められる。

 現在玄関の鍵に、Wi-FiやBluetoothでサムターンを回す形になる、スマートロックの普及が進んでいるが、将来的にはそれがUWBになって、よりスマートな形でロックが解除され、さらに家庭内のIoT機器と連携して動作する、そんな未来が垣間見えた展示だった。