イベントレポート
お肌の調子は、LLMに聞け!「ロレアル」が生成AIを利用したビューティテックをデモ、電力を31%削減した新ドライヤーも発表
2024年1月11日 11:28
フランスの化粧品メーカー「ロレアルグループ(L'Oréal Group)」(以下ロレアル)は、1月9日(現地時間)から米国ネバダ州ラスベガス市で開催されている、CES 2024に出展し、ビューティテックと呼ばれるデジタルと化粧品を組み合わせたソリューションの展示を行なっている。
そのロレアルは、CESの開幕初日朝に行なわれる「開幕基調講演」に、同社 CEO 二コラ・イエロニムス氏が登壇し、同社のビューティテックと生成AIなどのIT技術の組み合わせなどに関しての講演を行なった。
この中でイエロニムス氏は、LLM(大規模言語モデル)を利用したチャットボットを紹介し、スマートフォンを利用して肌の写真を撮ることで肌の状況をAIが判定し、最適な化粧品をユーザーに提案する機能などを紹介した。また、同社は性能を落とすことなく従来よりもエネルギー消費を31%削減した新しいドライヤー「AirLight Pro」を発表した。
今年のCESで注目されているビューティテック、世界トップシェアのロレアルがCESの開幕基調講演に登場
CESの会期初日の朝に行なわれる基調講演は、CESの主催者であるCTAにとって非常に重要な講演になっている。その理由は2つあって、1つはこの講演がCESの開幕を告げるものであり、そこにはCTA 社長 兼 CEOのゲアリ・シャピロ氏をはじめとする幹部が勢ぞろいし、CESの開幕を祝うイベントになる。
もう1つの理由は、この初日朝の講演がその年のCESを象徴するような内容になっていることだ。開幕前日に行なわれる前日基調講演が、元々はMicrosoft創始者であるビル・ゲイツ氏の指定席だったことがよく象徴しているように、ここはIT関連のCEOが登壇することが多い。PC Watchの読者がよく知っている企業で言えば、AMD、Intel、Microsoft、NVIDIA、Samsungなどがこの前日基調講演に過去に登壇しており、そうした企業が新製品を発表し、ソリューションを説明する場になっている。
それに対して開幕講演にも、そうしたIT企業が参加することもなくはないが、近年はここにはIT以外の企業が登壇することが多い。たとえば、去年で言えば、アメリカの農機メーカーであるジョン・ディアが参加し、AIを利用したアグリテック(農業テック)をアピールした。その流れで登場したのが、今回のCESで初日基調講演に登壇したロレアルになる。
男性読者が多くを占めていると考えられるPC Watchの読者にとって、ロレアルはあまり馴染みがないかもしれないが、同社はグローバルに30以上のブランドを持つフランスの化粧品メーカーで、グローバルにおける化粧品の市場シェアでトップメーカーであるという。日本では資生堂やコーセー、花王などの化粧品メーカーのグローバルでの競合先ということになる。
そうしたロレアルが今回の基調講演に選ばれたのは、今回のCESの注目ポイントの1つがそうしたビューティテックだからだと考えられる。化粧品というと、製品そのものはアナログな製品であり、デジタルとはあまり縁がないように見える。しかし、シャピロ氏によれば、ロレアルは2016年に初めてCESに出展し、今年(2024年)まで継続して出展しているという。
今年のCESでは、ロレアルだけでなく、日本における化粧品でトップシェアを持つ資生堂もCESに出展するなどしており、こうした従来はテックとはあまり縁がなかったような企業をCESに誘致したい、CTA側にはそうした狙いがあるし、それと同時に企業の側にも特に若い世代にアピールするのにテックを活用しないと振り向いてもらえないという事情がある。
そうしたCTA側、企業側の事情がマッチして、ビューティテックはCESでの注目の内容になっているのだ。そうした今回のCESをまさに象徴するのがロレアルの開幕基調講演ということになる。
生成AI、メタバース、画像認識を利用した「ビューティジニアス」、化粧品にはテックが必要だと強調
CTAのシャピロCEOに紹介されて登壇したロレアルグループ CEO 二コラ・イエロニムス氏は「我々は1909年に創業した企業で、実に100年の歴史がある。その中で、これまでも化粧品の世界にさまざまなイノベーションをもたらしてきたが、現在はビューティテックに力を入れて開発を行なっている。テックは消費者を助けるし、消費者はそれを必要としている」と述べ、同社がビューティテックに力を入れる理由は、消費者がそれを必要としているからだと強調した。
そうした一例として同社が「ビューティジニアス(Beauty Genius)」と呼んでいる、AIを活用したアドバイザーツールを紹介した。イエロニムス氏によれば、ビューティジニアスに利用されているのは、生成AI、メタバースそしてコンピュータビジョンという3つの技術だ。ユーザーは、ビューティジニアスと自然言語でやりとりすることができ、自分のお肌の状態にあった化粧品などを提案してもらえるという。
また、スマートフォンのカメラを利用して自分を撮影することで、AIがお肌の状態を解析する機能が用意されており、いわゆるコンピュータビジョン(画像認識)の機能を利用して、ユーザーの肌の状態にあった化粧品を提案する。また、ARの機能を利用して写真に化粧品を適用した状態を付加することが可能で、たとえば自分の髪の毛にその提案された毛染めの色を適用した状態などを確認できるという。
ロレアル 研究・技術革新・技術担当 副CEO バーバラ・ラベノス氏は「我々は多大な化粧品などに関するデータを持っており、そこに6,000を超える画像データを組み合わせから学習を開始し、そこに100を超える製品をテストして構築している。また、肌の解析で正確性を実現するために、被験者などのデータサイエンティストにより分類済みの15万件のデータを活用して学習している」と述べ、最先端の生成AI、画像認識などのAI技術を活用し、ロレアルの持つ膨大なデータを活用してビューティジニアスを構築したと述べた。
また、ロレアルは、アクセシビリティ(障害者がそのほかのユーザーと同じように利用できるようにすること)やサステナビリティ(持続的成長)に関する説明を行ない、同社が以前のCESで発表した障害者のお化粧をサポートする機器「HAPTA」、そして水の利用量を69%削減したシャワーヘッド「Water Saver」などを紹介した。
最後にロレアルは消費電力が高い機器の1つであるヘアドライヤーの新型として「AirLight Pro」を発表し、それを開発したスタートアップ企業「Zuvi」を買収してロレアルグループに向かい入れたことを明らかにした。ロレアルによれば、AirLight Proは従来型に比べて59%スムーズに髪がセットできるのに、消費電力は31%削減されており、持続的成長が可能なビューティテックを実現できるとアピールした。