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日立、集団の幸福感を測定する技術を開発
(2015/2/9 15:04)
株式会社日立製作所は、集団の幸福感を身体運動の特徴パターンから、「ハピネス度」として定量化する技術を開発した。また、日立ハイテクノロジーズでは、この技術を利用して、組織活性度を計測できるウェアラブルセンサーを開発。組織活性化に向けたサービスを提供する。
今回の技術は、幸福感(ハピネス度)が高いと、業績や健康に対して好影響を及ぼすという考え方をベースに、それを実現する指標を、リアルタイムに定量化することを目的に、開発したものだ。「幸福優位7つの法則」などの著者として知られるショーン・エイカー氏が、「ハーバード・ビジネス・レビュー」の2012年5月号でまとめた「PQ:ポジティブ思考の知能指数」によると、高いハピネス度は、健康、長寿、結婚の成功、年収、昇進を高めることに繋がり、ハピネス度が高い場合には、業務生産性で37%、創造性で3倍になるなどの成果が出ているという。
「だが、従来の研究では、自己申告型のアンケートを使用することでしか推し量ることができず、客観的なものではなかった。今回の技術を使うことで、客観的に、それでいてリアルタイムな計測が可能になる。これを生かして、業務の生産性向上や、業績の向上に繋げることができる」と、日立製作所研究開発グループ中央研究所主管研究長の矢野和男氏は語る。
名札サイズのデバイスで、加速度センサーにより身体運動を計測。基準よりも活発な動きをした頻度や持続時間を集計して図表化。その分布により、高ハピネス度が発生しているかどうかを計測するという。
「加速度は毎秒50回計測し、一定の基準を超えた活発な動き(発熱量)が計測された場合に、それが、1分間という短い時間でも、1時間という長い時間でも1回と数える。その頻度と、身体運動の持続時間を、縦軸に頻度、横軸に身体運動の持続時間をとり、図表上に分布させたときに、図表が富士山のような、すそ野が広いなだらかな分布が見られた場合、高ハピネスが発生しているということが分かった。また、絶壁型のような分布を見せた場合には、ハピネス度が低いという状況になる。これは、アンケートによって幸福感を計測するCES-Dによる集計結果と相関したことから導き出すことができる」(矢野主管研究長)とする。
活発な動きをしていることを計測しているという点では、外勤営業をしているような職種の方が高い発熱量が高いのではないかと思えるが、活動量と発熱量とはまったく異なるものであり、たくさん歩けば発熱量が上がるというものではない。
「歩いているか、座っているかどうかは、ハピネス度とは無関係。運動時間だけを持続させてもハピネス度は高くならない。うなずきやタイピングなどを含めたあらゆる小さな動きを元に、身体状態の持続時間が指標化されている。そのため、さまざまな職種においての集計が可能になる」という。
ただし、複数のデータを集計することで計測できるものであり、個人ごとのハピネス度を測ることはできない。「センサーを取り巻くさまざまな場の幸福感を広く捉えて、数値化したものになる。個人のハピネス度を数値化したり、抽出することは原理上できない。だが、これはプライバシーの保護という点でも望ましい特徴である」とした。
日立製作所が行なった研究調査では、7社10組織、468人を対象に、5,000人日、50億点の計測を行なったという。これらのデータを元に分析したところ、従業員のハピネス度の高低でコールセンターでの受注率は約3倍増減したことが分かったという。
「コールセンターでは、休憩時間に話が弾んだ場合の方が、ハピネス度が高まるという結果が出た。そこで、同世代のオペレータを一緒に休憩時間をとるようにしたことで、受注率を高めるといった応用が可能になった」という。集計データを元に、最も効率的な社内レイアウトに生かすといった使い方や、ビルの従業員に合わせた最適な空調システムの稼働、エレベータの運用といった活用も可能になるという。
だがその一方で、業績が良くても、ハピネス度が高いという結果にはならないとも指摘する。
「日々の変化から組織のハピネス度向上に寄与する要因と阻害要因に気が付くことで、職場を改善したり、他の部門とハピネス度を比較して、組織運営のペストプラクティスを抽出することもできる。上位KPIとして、それを元に施設環境やIT環境などを改善。従業員の満足度向上、企業業績の向上、住民の幸福向上施策を支援することができる。日立グループでも導入する予定である」と言う。
日立ハイテクノロジーズでは、この技術を活用し、人間の行動データを取得および解析し、組織の生産性に強く相関する「組織活性度」を計測できる新ウェアラブルセンサーを開発。同社が展開している「ヒューマンビッグデータ/クラウドサービス」の新たなソリューションとして、クラウドによるデータ蓄積および分析を行なうサービスとして提供を開始する。
ウェアラブルセンサーは、名札型のもので、社員などが首からぶら下げることで、自動的に人間行動データを収集する。人間行動データとは、誰と誰が、いつ、何分間、対面したかという「対面情報」、活性度や滞在、立ち止まりなどの「身体的な動き」、会議室やテーブル、バックオフィスなどの「場所」といったデータで構成され、これらの情報を元に個人の活性度を推し量る演算機能を搭載している。
ウェアラブルセンサーの液晶画面には、行動継続時間や個人の活性度トレンドが表示され、装着者はリアルタイムに個人の活性度を確認することができる。表示部には、「SUCCESS」として、一定記述の継続時間に達した回数や、「OOPS」として継続時間に惜しくも達成しなかった回数を表示。行動変革を促すメッセージも表示する。ここで集計した人間行動データを組織で集計・平均することで、「組織活性度」の定量化できる。
日ごとの「組織活性度」の変動の推移は、クラウドサービス上で確認でき、利用者はWebブラウザで確認できる。さらに、データの一部はWebからダウンロードすることができ、Excelなどに読み込むことで、組織生産性向上に関する行動の抽出が可能となることから、プロジェクト管理、研究開発管理、組織統合管理への活用のほか、コールセンターや物流センター、流通店舗などのサービス業務の生産性向上、顧客満足度向上に活用できる。
日立ハイテクノロジーズでは、2月10日から受注活動を開始。4月からウェアラブルセンサーなどの提供を開始する。ウェアラブルセンサーの価格は、1年間のレンタル方式で1台あたり10万円(税別)。「最低で5人以上から利用でき、10人、20人でも集計は可能。だが、1,000人や1万人という規模の方が、より大きな価値を出すことができると考えている」(日立ハイテクノロジーズ新事業創生本部本部長付の須崎喜久雄氏)という。
企業向けに「組織生産性向上支援サービス」としての提供のほか、「メンタルヘルストータルソリューション」として、保険会社に対するコンサルティングサービスへの活用などを想定している。