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日立、人間の幸福感を高めるAI活用の新技術を開発

実証実験への参加者は首から名刺型ウェアラブルセンサーを下げて業務を行なう

 日立製作所は、人工知能を活用して、各個人の行動データをもとに、働く人の幸福感向上に有効なアドバイスを自動作成する新技術を開発。同技術を用いた社内実証実験を開始した。

 同社では、2015年2月に、身体運動の特徴パターンから、「幸福感(組織活性度)」を定量化する技術開発を発表。名刺型ウェアラブルセンサーからデータを収集し、集団の幸福感を高めることに取り組んできたが、新技術はこれを活用したものになる。

 日立グループの国内営業部門の約600人を対象に実証実験を開始。対面情報を収集する赤外線センサーと、身体の動きを検知する加速度センサーを搭載した名刺型ウェアラブルセンサーを首から下げておけば、時間帯や会話相手などを細分化した大量の行動データを自動的に収集。これらを同社の人工知能「Hitachi AI Technology/H」で分析。各個人にカスタマイズした形で、職場でのコミュニケーションや時間の使い方など、ひとりひとりの幸福感の向上に繋がる行動についてのアドバイスを自動的に作成し、配信する。

 利用者は、スマートフォンやタブレットを通じて、人工知能から提供される日々のアドバイスを確認。職場での行動に反映できるという。

日立製作所 研究開発グループ 技師長の矢野和男氏

 日立製作所 研究開発グループの矢野和男技師長は、「幸福感の向上は社会におけるもっとも重要な課題の1つであり、企業においては、さらなる生産性向上に向けた従業員ひとりひとりの強みや個性を生かす新たな経営が求められている。日立は、10年以上に渡って、人や組織の活性度、幸福感と、生産性の関係性に着目し、研究を重ねてきた。昨年(2015年)は、名札型ウェアラブルセンサーを活用して、行動データを把握できるようになり、組織の幸福感と生産性との関連も実証できている」と語る。

 ウェアラブルデバイスを使用し始めて1カ月を経過すると、人工知能からアドバイスが日々届くようになる。アドバイス内容は、「Aさんとの5分以下の短い会話を増やしましょう」、「上司のBさんに会うには午前中がお勧めです」、「夜は早めに退社してみましょう」といったものになるという。

名刺型ウェアラブルセンサー
アドバイスの表示例

 「リーダーが、社員に対してもっと声がけをした方が、組織が活性化するといった場合に、人工知能が指示を出すといったことが可能になる。本来、会話すべき内容であるはずなのに、メールで済ましている場合が多く、それによって発生する課題を解決することにも繋げたい」という。

 なお、プライバシーに配慮し、個人のデータは他者から閲覧できない形で管理。会話やデスクワークを行なっているという判断は動きの状況から判断したものであり、会話の内容や、使用しているPCの操作内容などのデータは収集できないようになっている。

 昨年の技術発表以降、既に、三菱東京UFJ銀行や日本航空など、13社で実証実験を行なっており、コールセンターでの実証実験では、従業員の幸福感が高めの日は、低めの日に比べて、1日あたりの受注率が34%高いことなどが明らかになっている。

スマートフォンに表示されている

 「店舗では幸福度が高いと売上高が15%高いという結果が出たり、開発プロジェクトにおいても、開発後2カ月間でこのプロジェクトがうまく行かないといったデータが、開発者の身体から出ており、実際に開発されたものが売上高に貢献しなかったというものもあった。実証実験では、予想以上に社員の幸福感を高めたいという企業が多かった。この1年間は、組織として従業員を活性化することにフォーカスしてきたが、今回の技術は、個人にアドバイスすることで、組織全体を活性化することになる。人工知能のアドバイスをひとりひとりが積極的に、継続的に活用することで、それぞれの関係に、より良い変化が訪れる。休み時間を活性化することで社内が活性化したり、自分自身には気が付かなかった時間の使い方の提案が行なわれたりといったこともある」という。

 だが、これは1人ごとの幸福感を推し量るものではなく、あくまでも組織としての幸福感を推し量るといった動きに留まる。

 「個人の幸福感を推し量るには、家庭での状況などを取り入れる必要があり、そこまでの計測は不可能」としている。

 日立社内での実証実験では、幸福感の目標値を社内で設定。さらに、これを実行した結果、受注額の上昇に繋がったかどうかも評価するという。「受注額の上昇については、景気動向や市場変化の状況なども勘案しながら評価することも必要になる」としている。

 同社では、今回の試行の成果を取り込んで、国内外の企業や組織に同技術を提供。働く人の幸福感の向上と、それに伴う組織の活性化を通じた企業の生産性向上を支援するという。

 「10人以上の環境から成果が出ることになる。早ければ2016年度内にも、サービスの提供を開始することになる。社内での成果をもとに、満を持して市場投入したい」という。現時点では、価格は未定だという。

 販売方法や提案方法などについては未定としているが、「売上高をこれだけ上げたい」という観点からの導入なども可能になりそうだ。