セイコーエプソン、プリンタの機種と生産量を倍増へ
~情報関連機器事業の方針説明で羽片忠明常務取締役が言及

セイコーエプソン 情報関連機器事業セグメント担当 羽片忠明 常務取締役

10月18日 開催



 セイコーエプソンは18日、プリンタやプロジェクタなどで構成される情報関連機器事業における今後の事業方針について説明。その中で、2011年度の製品投入機種数が、2009年度比で2倍規模に達していることなどを示すとともに、2012年度には、インドネシアおよびフィリピンでのインクジェットプリンタの生産体制を倍増以上に引き上げることを明らかにした。

 セイコーエプソンの情報関連機器事業セグメント担当・羽片忠明常務取締役によると、「従来は複数の機種を個別に開発するという体制になっており、部品調達や設計において非効率性があった。2008年度から製品の群開発を開始し、プラットフォーム化、共有化を推進。これにより、総原価の低減と製品ラインアップの効率が図れるようになった。共通化したプラットフォームをベースに、製品の用途ごとに機能を付加し、部品や金型の共通化を図ることで収益性を大きく改善した」と語る。

 インクジェットプリンタでは、2011年度にはコンシューマ系とビジネス系を含めて39機種をラインアップしているが、2009年度にはこれが20機種弱と半分だったという。また、レーザープリンタやプロジェクタも、2011年度には大幅に製品ラインアップを拡充している。

 プラットフォーム化に関しては、インクジェットプリンタでは、コンシューマ向けメインストリーム製品、PX-400系の小型モデル、ビジネス系ブリンタの3つのプラットフォームに集約する方針を掲げ、これをベースに、ヘッドを選択したり、接続機能などを組み合わせて製品化していくことになるという。

 一方、生産体制の増強では、現在、インドネシアの生産拠点では年間600万台の生産体制を、2012年度には1,300万台体制に、フィリピンの生産拠点では年間270万台を、600万台へと拡充する。さらに、中国で生産しているプロジェクタについても、2012年度にはフィリピンの生産拠点で100万台規模で新たに生産を開始することも明らかにした。

インクジェットプリンタの生産体制を倍増する2009年度に比較して、2011年度の製品ラインアップは倍増しているセイコーエプソンではプラットフォーム戦略を推進している

 今後のコンシューマ向けプリンタ製品の方向性については、「小型化と接続性が重要になると考えている」とセイコーエプソンの情報画像事業本部長・奥村資紀業務執行役員が回答。「新製品のPX-400では、複合機がここまで小型化したのかという驚きを提供できる。小型化は大きな差別化になると考えている。また、どこからでもプリンタにつながることも大きな特徴。写真プリントは全体的に減少傾向にあるが、手軽につながるという提案はプリント機会を増やすことにもつながり、プリントボリュームの拡大にも寄与する」などと語った。

 小型化の成果としては、2011年に投入したPX-434Aでは、2010年に発売した製品に比べて体積で約39%削減、重量では約26%削減、部品点数では約37%削減したという。

セイコーエプソン 情報画像事業本部長 奥村資紀 業務執行役員小型化を図ったコンシューマ向けインクジェットプリンタのPX-434A左がPX-434A。従来のPX-403Aに比べて大幅に小型化を図っている

●オフィス領域と新興国にも重点的に取り組む

 また、プリンタ事業においては、ビジネス領域(オフィス市場)と新興国市場への取り組みも重点ポイントに掲げる。

 ビジネス領域については、「『オフィスプリンタ=レーザープリンタ』という常識を変え、インクジェットプリンタならではの高速性、高耐久性、高品位印刷の実現とともに、1台のプリンタで、ハガキや封筒にも印字できる多様性の強みを訴求していく。企業の多くは、1回の印刷が5枚以下というケースがほとんど。少数印刷での速さと綺麗さを両立し、約10分の1という低消費電力、大容量インクによる低コストなどを訴求していく」とした。

 2011年度は、ビジネス向けインクジェットプリンタの製品数を大幅に拡充し、全世界で18機種をラインアップ。2011年度の同分野における販売台数は、2009年度比で2倍を目指す方針を示した。

インクジェットによってビジネスプリンタ領域にも踏み出すビジネスブリンタのラインアップを大幅に拡充
2011年度は18機種のビジネスプリンタを投入したビジネス向けインクジェットプリンタのPX-1700F

 新興国市場に関しては、2011年度に6色インクを搭載した新たな新興国市場向け製品として「L800」を投入。従来製品で展開していたインドネシア、タイ、インド、中国に加えて、南米、ロシア、東欧、中近東など29の国と地域に拡大。また、新興国向けモノクロ印字専用モデルの機能強化版「K300」も新たに投入して、26の国と地域で販売を開始するという。

 「アジア地域における大容量インクタンク搭載プリンタの販売数量比率は2011年度第1四半期で10%を突破。2011年度は年間を通じて20%以上の水準を目指す。これにより、アジア地域における平均販売単価は大幅に上昇すると考えている。また同時に、本体で収益を得るというビジネスモデルの転換にも踏み出すことになる。新興国市場における製品数は十分に満足できる段階にはない。新興国てはビジネス用途での利用が多いため、高いコストパフォーマンスを求めるユーザーが多い。コスト競争力の高い製品を投入していく」(セイコーエプソンの情報関連機器事業セグメント担当・羽片忠明常務取締役)などとした。

新興国向け専用モデルのL800大容量の6色インクを搭載している
新興国市場向けの展開。販売対象国を拡大しているアジア市場においては大容量インクタンクモデルを20%に引き上げる

 そのほか、プリンタ事業においては、商業・産業領域への取り組みを加速する考えを示し、デジタル捺染分野、デジタルミニラボ、軟包装印刷機などのパッケージ印刷、看板や掲示物などのほか、半導体マーキングシステムへも踏み出したことを紹介。「従来のレーザー方式の半導体マーキングシステムでは、ICパッケージの表面をレーザーで削るため、薄型化しているパッケージにおいては半導体へのダメージがあり、印刷も不鮮明。これが解決できる」と語ったほか、「プリンタ事業においては、マイクロピエゾテクノロジーを核に、ホームやビジネス、商業・産業分野などのありとあらゆるプリンティングの世界を変えていく。印刷のオンデマンド化を実現し、新しい印刷の世界を提案する。2011年度にはインクジェットプリンタ事業に占める商業・産業領域の売り上げ構成比は20%を突破することになる。今後も着実に歩みを進め、事業成長を支えていく」などとした。

商業・産業領域にもプリンタ事業を拡大商業・産業領域の売上比率を20%以上に引き上げる
デジタルミニラボや半導体マーキングシステムなどにも参入

●ビジネスシステムやプロジェクタ事業を強化

 一方、ビジネスシステム事業においては、流通、小売、銀行、医療などをターゲットに、シリアル・インパクト・ドット・マトリクスプリンタ(SIDM)やターミナルモジュール(TM=POS用小型プリンタ)を投入。中国における飲食店での徴税システムや、金融機関における通帳記帳、小切手の電子処理記録、複写帳票の出力での用途に加え、レシートや明細書の発行、ラベルやチケット類の発行などの用途提案を行なうという。

 「SIDMでは全世界で約60%のシェアを獲得し、TMでは全世界約45%のシェアを獲得している。既存市場においては、特定用途需要に適合した製品で展開。タブレット端末やスマートフォンからのデータ通信および印刷を可能にするTMのインテリジェント化や、カラークーポンの印刷などのオンデマンドカラーによる価値提案といった新たな利用提案を促進していく」とした。

SIDMプリンタへの取り組みTM事業への取り組み
台湾向けに出荷している連続用紙対応プリンタ。個別対応する薬袋を印刷している米国市場向けに出荷している小切手スキャナーのTM-S1000日本でも出荷しているカラークーポンプリンタのTM-C700

 プロジェクタ事業においては、オフィス市場、教育市場、サイネージ市場における大画面映像を用いたビジュアルコミュニケーション、ホーム市場向けの手軽に楽しめる超大画面映像の提供をキーポイントとし、同社が取り組む3LCDによる優位性を訴求し、大会議室やコンサート会場、複数のプロジェクタを使用したマルチスタックなどの提案、コンシューマ領域における3D映像表示の提案や、iPhoneやiPadとの接続による映像表示などの提案を行なうという。

3D表示が可能なプロジェクタ「EH-TW6000W」iPhoneが接続できる「MG-850HD」

●省、小、精の技術を究め、極める
セイコーエプソンが垂直統合の自社開発、自社生産にこだわる背景

 なお、セイコーエプソンの情報関連機器事業セグメント担当・羽片忠明常務取締役は、「当社は、長期ビジョンであるSE15においては、『コアとなる強みに集中し、省、小、精(しょう、しょう、せい)の技術を究め、極める』ことを目指す。これにより、世界中のお客様に感動していただける製品を創出し、強い事業の集合体を構築。持続的な事業成長を果たしていくことができる」などとした。

 加えて、「エプソンが垂直統合型にこだわるのは、自らの手でモノづくりに取り組み、常に改善の連鎖を生むことで、モノづくりの見えざる資産をつくり、これを継承する人材の育成が可能になるからだ。独創的なお客様価値の実現と合理化効果の最大化も両立できると確信している」と語った。

(2011年 10月 19日)

[Reported by 大河原 克行]