NECパーソナル、9.9mm厚のAndroid端末コンセプトモデル「MGX」を公開
~視線操作や新たなスクラッチリペア技術にも言及

9月27日 発表



 NECパーソナルコンピュータは27日、同社の開発、生産拠点である米沢事業場で開発中のPC用技術やプロトタイプについて公開した。

NECパーソナルコンピュータの高塚栄執行役員常務

 「製品化はない」としがらも、開発コードネームで「MGX」と社内で呼ばれる薄さ9.9mmのAndorid端末や、2013年以降の製品に搭載される技術などを明らかにし、「今年7月以降、レノボグループとしてスタートしたが、NECパーソナルコンピュータにおける研究開発費は削減どころか、増加傾向にある。今後も、国内PC市場において必要とされる技術を先行開発し、日本のユーザーが求めるPCを開発していく。この姿勢はこれまで以上に加速する」(NECパーソナルコンピュータの高塚栄執行役員常務)とした。

 MGXは、すでに1年程前に社内では完成していたコンセプト端末であり、薄さ9.9mm、重量350g、そして215×109mmというポケットに入るサイズを実現したもの。「MG」にはモバイルギアという意味が含まれており、モバイルPCとして一部に根強い人気を誇っていたモバイルギアの発展系としても位置づけられ、米沢事業場において、水面下で開発されていたものだ。

 V字ギヤリングを採用し、1mmのスロトークを持つことで打ちやすいキーボードを追求するとともに、1,024×600ドットの7インチ有機ELディスプレイを搭載し、ベゼルレスタッチパネルとしていた。

 連続動作時間は約10時間。2軸ヒンジを採用し、360度のディスプレイ開閉を可能にし、さらにこの薄型の筐体内に、HSUPAおよび無線LANを内蔵。キーボードの下はほとんどがラミネート型リチウムイオンバッテリで構成されており、基板は極めて小さいスペースに収められているという。

NECパーソナルコンピュータの商品開発本部・小野寺忠司本部長

 同社商品開発本部・小野寺忠司本部長は、「品質および機能と、薄さをトレードオフすることなく両立した製品。またユニットレイアウトなどの安易な方法で薄型化するのではなく、要素ごとに薄型化を追求したことで実現した製品。結果として、最終価格が8万円前後となり、コストの高さから市場への投入は見送ったが、ここで得た技術は、すでにNECのモバイルPCの中に活かされている。今後のUltrabookなどの製品化においても活かせる技術が多いと考えている」と語る。

 MGXでは、スリットアンテナ技術の採用による金属筐体における無線感度の確保、回路内蔵液晶ドライバIC採用による基板レス液晶の実現、複合積層板構造による薄型化、薄型ラミネートリチウムイオン電池の採用、ステンレスとプラスチックによる軽量井桁構造の実現、多層および高密度のリジットフレキ基板による3次元コネクタ実装技術などを活用しており、これらの技術が、今後のNECパーソナルコンピュータの製品に活かされることになるという。

コンセプトモデルとして開発したMGX
9.9mmという薄さを実現した2軸ヒンジを採用し、360度開閉が可能

●ハンズフリーを実現する視点操作を初めて公開

 2013年以降の実用化を目指す視線操作も今後の技術的進化が期待されるものだ。

 ディスプレイ上の対象となる部分を見るだけでそれを認識し、ハンズフリーによる操作が行なえるのが、視線操作の特徴だ。

 視線操作を行なうための専用装置から、網膜上の近赤外線の反射像(プルキニエ像)と、瞳孔の関係位置から視線方向を推定。複数のウィンドウを表示している際に、見るだけでアクティブにしたいウィンドウを選択したり、ワードファイルで文章を読み進めるだけで自動的に画面がスクロールするといったことが可能になる。

 大画面ハプティクス技術は、タッチパネル技術を進化させたもので、画面をタッチするたびに振動が起こり、これにより、操作する際の楽しさや利便性を提供することができるという。

 「これまでは小さな画面でのハプティクスは可能だったが、大画面でのハプティクスを実現したのは初めてだろう。アクチュエータの選択と、取り付け位置の検証を繰り返すことで、大きなパネルを均等に振動させ、さらに、筐体にその振動が伝わらずに、パネルだけが振動する最適な環境を実現した」という。

 今後は、クリックとドラッグの操作で振動を変化させたり、ペイントアプリケーションでは、鉛筆や筆の操作において、それぞれの質感を感じるような振動を実現するように改良を加えていくという。

視線操作を認識する機器。ディスプレイの下部に配置されている大画面ハプティクス技術を搭載したディスプレイ

【動画】視線操作のデモ。視線を動かしてファイルを選択。長くみると画像を拡大するといったことができる

●スクラッチリペアはさらに進化する

 デザイン面ではスクラッチリペア機能の進化を紹介。IMF(フィルム)成形への進化によって、より幅広い製品への活用が可能になったとする。

 「スクラッチリペア機能は、傷がついてもすぐに修復する塗装技術として、5年前にまずは1機種に採用したが、スプレー方式としていたため、表面に異物が混入し、塗装面に歪みが出たりといったこと課題があったほか、歩留まりが悪いという問題もあった。そのため、プレミアムモデルにしか採用できなかったのが実態だった。このほど、フィルムへの塗装が可能になったことで、滑らかで透明感を持ち、上質な塗装が可能になったほか、コストは従来の50分の1にまで削減できるようになった。これによりネットブックなどの普及モデルにもスクラッチリペア機能を搭載することができるようになった」という。

 今後は、新たな技術との融合により、機能美を実現する新たなスクラッチリペアへと進化することを明らかにし、全製品へのスクラッチリペア機能の搭載が可能になるとした。

IMF(フィルム)方式を採用したことで質感の向上とともにコストダウンを実現これが新たに採用したIMF(フィルム)スクラッチリペアを施したLaVie LLシリーズの天板

【動画】スクラッチリペアのデモ。一度白い傷がついたものが消えるのがわかる

●省電力化にも新たな技術を活かす

 また、使用電力の削減機能として、人感センサーを搭載したPCを投入。離席した際には自動的に省電力へ移行し、自動的にディスプレイをオフにすることができるといった提案を行なっている。

 すでに企業向けデスクトップPCのMateタイプMGに搭載。今年10月からはA4ノートPCであるVersaProタイプVDにも同機能を搭載する。

 離席を検出する技術には、近接センサー、焦電センサー、カメラによる検出といった手法が用いられるが、NECパーソナルコンピュータでは、消費電力が少なく、コストが小さい近接センサーを採用。検知後、わずか1秒でオフにし、着席するとすぐにオンにすることができる。

 「デスクトップPCでは、ディスプレイを消すだけで20W程度の消費電力の削減が可能になる。技術開発に当たっては、どんな服装や姿勢でも近接センサーが認識するように調整を行なった。社内では100人程度のモニターに試験をしてもらい、反応が鈍い服装をしていた人には、その洋服を長期間借りて実験を行なった」という逸話も披露した。

手前の丸い部分が近接センサー。A4ノートPCにも搭載デスクトップではディスプレイ部に近接センサー搭載した離席した際の消費電力変化を見える化することもできる
かつてはマウスやキーボードに別方式のセンサーを採用した試作機を開発した経緯もあった

●5つの独自技術領域に力を注ぐ

 こうした一連の技術を紹介した小野寺本部長は、「NECパーソナルコンピュータでは、材料構造技術、信頼性技術、ユーザーインターフェイス技術、デザイン技術、エコ技術の5つの独自技術領域に注力することで、魅力的な製品の創出につなげていきたい。これにより、国内シェア30%の早期達成、CS(カスタマーサティスファクション)の最大化も図る」などとする。

 さらに小野寺本部長は、製品開発の基本方針を「クライアント&クラウド時代に向けた魅力的な商品開発」とし、「CS No.1に向けては、安心、簡単、快適といったこれまでの取り組みに加えて、環境技術を新たな軸として捉え、さらに、ダントツの商品競争力と品質技術力強化へこだわること、PC技術を活用した新規領域商品の創出に取り組む考えである。IntelやAMDが提供する基本アーテキチクャーやAV、ネットワーク、セキュリティといった汎用技術を、タイム・トゥ・マーケットをベースにした最適なタイミングで採用するとともに、当社が取り組む材料構造技術をはじめとする5つの独自技術を活用することで、PCコア技術を活用した新カテゴリ商品の創出にも積極的に取り組んでいく」とする。

NECパーソナルプロダクツの開発基本方針5つの独自技術分野にフォーカスする

 例えば、ユーザーインターフェイス技術では、今回公開した大画面ハプティクスや視線操作のほか、ハンドジェスチャ技術の進化に加えて、脳波BMI技術を活用して、「人間の自然な動作で操作できるユニバーサルユーザーインターフェースの実現を目指す」とする。

 「マウスやキーボードのアシストからスタートするものの、将来的にはキーボードを不要にするユーザーインターフェイスに成長させたい」とする。

 さらにエコへの取り組みとしては、待機電力の削減として、未使用時の無駄な電力削減に取り組み、Deep S5技術の採用などにより最大で約80%の電力削減が可能になるほか、電力表示機能になよりオフィス全体でエコ連携できる提案を行なうという。

 今回の新たな技術への取り組みを見る限り、NECパーソナルコンピュータは、レノボとの合弁以降も積極的な技術開発に取り組む姿勢が維持されていることが分かる。そして、小野寺本部長は、「これ以外にも見せたい技術がたくさんある」と語る。今回公開された技術、そして公開されなかった技術が、今後のNECブランドのPCに、いつ、どんな形で搭載されるのかが楽しみだ。

(2011年 9月 28日)

[Reported by 大河原 克行]