「先端技術館@TEPIA」がリニューアルオープン
~丸めて畳めるスピーカーから次世代衛星用イオンエンジンまで

4月8日 リニューアル



 財団法人機械産業記念事業財団(TEPIA)が運営する「先端技術館@TEPIA」(住所:東京都港区北青山2-8-44)は4月8日からリニューアルオープンした。テーマは「もと輝く未来へ。世界をリードする日本の先端技術」。情報通信、健康・医療、環境・エネルギーなどの分野などの展示のほか、「宇宙も産業のフィールドだ!」と題して宇宙関連技術を紹介するテーマ展示を行なう。

 「TEPIA」では機械・情報産業を中心とするテクノロジーの展示を行なっている。科学館とは違って産業技術の視点で展示品が集められており、全部で112点。うち新展示は80点となる。2010年の来館者は4万人。入場は無料だ。

 メイン展示は以下の5つの領域、13の技術分野からなる。

  1. くらしとコミュニケーション
    「ディスプレイ」「ICT」「生活支援ロボット」
  2. 健康と医療
    「ヘルスケアと福祉機器」「医療機器」
  3. 都市とモビリティ
    「防災・セキュリティ」「モビリティ」
  4. 環境とエネルギー・資源
    「エネルギーと環境」「リデュース・リユース・リサイクル」「都市環境」「燃料電池」「省エネルギー」
  5. 小さな世界と高機能素材
    「高機能素材」

 このほか期間限定のトピックス展示やワークショップのほか、ロビー展示、プロローグ展示がある。ここではリニューアルオープン前日の4月7日に行なわれたプレビューの模様から、各展示の中から主だったものを写真中心にご紹介する。

テープカットの様子プレスプレビューの様子5つのメイン展示

●ロビー展示、プロローグ展示、トピックス展示

 まずはエントランスとトピックス展示である「感性価値創造イニシアティブ」展示から。トピックス展示は前期(4/8~7/3)と後期(7/5~10/2)に分かれていて、展示も入れ替えになる。ロビーでは三菱重工業のロボット「Wakamaru(ワカマル)」などが迎えてくれる。

株式会社イエロー「タタメット」。平たくたたんで収納できるが強度は産業用ヘルメットと同等山本光学株式会社「SWANS スノーゴーグル」。レンズをグローブをはめたまま着脱・交換可能なゴーグル株式会社マーゼンプロダクツ「アソブロック」。高精度に作られた3種のジョイントと白黒だけのシンプルなユニットからなる大人向けブロック玩具
三菱重工業株式会社、ダイワラクダ工業株式会社によるコミュニケーションロボット「Wakamaru」。音声認識で簡単な会話が可能オムロン株式会社による「セグメントセンサ」。性別・年代分析システム。0.005秒で笑顔も判定できる

 中でも目を引いたのは、ヤマハ株式会社による「TLFスピーカー」である。厚さ1.5mmしかなく、重さはA0サイズで400gと軽量で丸めて畳んだりすることもできるスピーカ-で、スピーカー本体を覆う表面の布などには印刷もできる。移動体付随情報表示装置株式会社による次世代インタラクティブサイネージ「フキダシステム」ともコラボ展示となっている。「フキダシステム」は1台のビデオカメラで一定の壁あるいは床面を移動する人に合わせて個別に情報を呈示できる。その人専用に個別に広告や施設案内を呈示可能というもの。

 「TLFスピーカー」は、見たところ、何がスピーカーなのかさえ分からない。壁だと壁そのものがスピーカーで、ポスターだとただのポスターにしか見えないからだ。普通のスピーカーと違って平面波のため音が拡散せず、他の音とも交じりにくい特性があり、遠くまで伝わる。早稲田大学山崎芳男享受のアイデアを元にヤマハが開発したもので、原理はいわばコンデンサをスピーカーにしたと考えればいいそうだ。欠点は低音が今ひとつであることだが、年内の製品化を目指しているという。

移動体付随情報表示装置株式会社による「フキダシステム」ヤマハ株式会社によるTLFスピーカー。厚さ1.5mm、重さA0サイズで400g。丸めて畳めるスピーカーTLFスピーカーはフキダシステムともコラボ展示

●メイン展示「くらしとコミュニケーション」「健康と医療」「都市とモビリティ」「環境とエネルギー・資源」「小さな世界と高機能素材」

 メイン展示では各技術分野の内容がパネルで解説されるほか、さまざまな展示品の多くを実際に体験して理解することができる。例えば「ディスプレイ」分野の展示では電子ペーパーや3Dパネルの仕組み等が解説されている。もちろんブリヂストンの電子ペーパー「AeroBee」や、東芝のグラスレス3Dレグザなどの実物も展示されている。

 ヤマハ株式会社はこちらでも人に聞こえない高音でデジタルデータを伝送する技術「INFOSOUND」を出展し、テキストデータを音で送るデモが行なわれていた。ごく普通のスピーカーで使えるところがポイントで、例えばショップ内ならお客に手持ちのスマートフォンなどでBGMを受信してもらうことで情報提供が可能になる。またTVなどでは番組連動コンテンツを流すこともできる。

 大日本印刷株式会社は「オープンノート」を出展。生徒が紙に書いたことをリアルタイムに比較できるツールで、紙とペンを使ったスタイルと、電子黒板などの間をつなぐための道具だ。周南マリコム株式会社による独居高齢者見守りシステム「カデモ」は家電製品の電源コードに機器を取り付けるだけで家電のON/OFF状況を判断し、外部からケータイを通じてWebや電子メールでモニタリングできる。ドライバー1本で容易に設置できる。

人に聞こえない高音でデジタルデータを伝送するヤマハ株式会社「INFOSOUND」大日本印刷株式会社「オープンノート」周南マリコム株式会社の独居高齢者見守りシステム「カデモ」

 神奈川工科大学によるウェアラブル・パワーアシストスーツはエアバッグを使ったもので、筋肉の動きを硬さセンサーで検出し、それに応じてアシストする力が作り出される。空気なので柔らかい点が特徴。アシストする関節は肘・腰・膝関節。バッテリを搭載し、コードレスで稼働できる。装置類は全て背面にあるため介護する相手と接触する部分は人体のみ。肩や腕のユニットは二重関節になっていて、人間の動きになめらかに追従する。また同じくベローズ式パワーアシストハンドも出展されていた。こちらは手指が固まった人のリハビリ用の道具で、アシストスーツ同様にエアポンプと切り替え弁を使って交互に吸気と排気することで伸展収縮する。

 富士重工業株式会社、住友商事株式会社、埼玉工業大学はオフィス内の専用部を掃除できる小型清掃ロボットを出展。株式会社日鉄エレックスは「e耳くん2.0」を出展。人間の耳から漏れ出ている自分の声を拾って伝えるマイクで、外部騒音環境下でもクリアな通話ができる。

神奈川工科大学「ウェアラブル・パワーアシストスーツ」バッテリ搭載、コードレスで稼働可能神奈川工科大学「ベローズ式パワーアシストハンド」
富士重工業株式会社、住友商事株式会社、埼玉工業大学のオフィス内の専用部を掃除する「小型清掃ロボット」株式会社日鉄エレックス「e耳くん2.0」キャノンによる現実と仮想をシームレスに繋ぐ「ミクスド・リアリティ技術」は、7月以降に実物展示が行なわれる予定。

 株式会社ミュー、龍谷大学、大阪医科大学は「自走式カプセル内視鏡」を出展。小型磁石を付けたヒレを外部から磁力でコントロールして自走できる。東レ株式会社の高感度DNAチップ「3D-Gene」は、検出感度を従来モデルより高めて、高いデータ再現性を実現したDNAチップ。これまで検出困難だった微量検体や低発現領域の検出を可能にした。このほか、走査電子顕微鏡の原理解説模型なども今回新たに展示されている。走査電顕は試料を電子線で走査して、試料から出る二次電子を検出する。その仕組みを模型で解説している。

株式会社ミュー、龍谷大学、大阪医科大学「自走式カプセル内視鏡」東レ株式会社「高感度DNAチップ 3D-Gene」走査電子顕微鏡の原理解説模型

 日本AIR断震システム株式会社は「エアー断震」システムの模型を出展。「エアー断震」とは地震発生時に地面と基礎の間に空気を送り込んで家全体を浮かべるシステムだ。通常の「免震」システムが1/5くらいであるのに対して地震動を1/37まで減衰させられるという。既に一部施工されており、2011年3月11日の東日本大震災、3月15日の静岡県東部地震でもエアー断震設置住宅では、震度4以上の揺れを感じることはなかったという。

 このほか、ニューメディカ・テック株式会社は「トランク式災害対応浄水装置」を出展。雨水を浄化するシステムがトランクに一式収まっているもので、85Wで太陽光発電装置や車のシガープラグでも使用できる。三菱化学株式会社「ジオアシートPV Eシリーズ」は薄膜太陽電池と防水シート等の建材を一体化したモジュールで、フレキシブルなアモルファス太陽電池からなり、あちこちに巻き付けて使うことができる。「創エネ」に貢献することが期待されているという。

日本AIR断震システム株式会社「エアー断震」システムの模型ニューメディカ・テック株式会社「トランク式災害対応浄水装置」三菱化学株式会社「ジオアシートPV Eシリーズ」

 モビリティに関する展示もある。株式会社グローバルエナジーによる「飛行艇ベルシオン」は、翼がなく、機体胴体部の両端から空気を逃がさないようにして揚力を引き出すというもの。ヤマハ発動機株式会社「エレクトリックコミューターEC-03」は家庭用AC100Vコンセントから充電できる。株式会社ワイディーエスの「ホイールチェアビークル(WCV)S-01」は、車椅子用の電動トライク(三輪車)だ。近日中に製品版が完成する予定で、展示品もそれに入れ替えられるという。製品版では高電圧化して「燃費」ならぬ「電費」を改善した。なお車両はミニカー登録で原動機付き自転車扱いとなる。運転には普通免許が必要となる。

株式会社グローバルエナジー「飛行艇ベルシオン」ヤマハ発動機株式会社「エレクトリックコミューターEC-03」株式会社ワイディーエス「ホイールチェアビークル(WCV)S-01」。車椅子用の電動トライク

 レンゴー株式会社、株式会社エコ・フロンティアによる「スーパーエコロジー換気ユニット e-fan8」は、一見エアコンか換気扇のようだが、高性能な透湿膜と、六角形の対向流型構造で熱交換する換気ユニットである。例えばエアコンをつけているときに普通に換気扇を回すと熱も一緒に逃げてしまう。だがこの全熱交換型換気装置では、外気と室内の空気をすれ違わせることで、熱と水蒸気を外気と交換し、空気だけを取り替えることができる。寝室などには最適だという。もちろん節電もできる。同社パンフレットによれば、熱交換機能無しの場合の夏季電気料金が32,227円の場合、e-fan8を使うと23,697円まで、そして冬季の場合、熱交換機能無しで13,371円を685円まで下げられるという。

 古河電気工業株式会社の「ハイドロスタッフ」は、ポリプロピレン樹脂を使ったユニットとシートなどを組み合わせることで、簡単に雨水流出抑制施設、いわゆる「見えない貯水池」などを構築できるシステム。コンクリート工法に比べると、工期も1/10で安価にすむという。株式会社エフピコの「エコトレー」は、使用済の食品トレーを回収してペレットにしたあと、再びトレーに成形するシステム。全国に拠点を設置することで純度の高いトレー回収を実現した。再びトレーまで成形するところまでもっていっているのはここだけだという。

レンゴー株式会社、株式会社エコ・フロンティア「スーパーエコロジー換気ユニット e-fan8」古河電気工業株式会社「ハイドロスタッフ」株式会社エフピコ「エコトレー」

●テーマ展示「宇宙も産業のフィールドだ!」

 テーマ展示では「宇宙も産業のフィールドだ!」と題して、現在、宇宙で使われている技術や、暮らしの中で応用されている製品などが展示されている。株式会社ジーエス・ユアサテクノロジーは、「人工衛星用大型リチウムイオン電池」を出展。準天頂衛星「みちびき」などに搭載されている電池で、衛星用として主流のニッケル水素電池に比べると2倍以上のエネルギー密度、3倍の高電圧が得られる。

 シャープ株式会社は「宇宙用化合物太陽電池」を出展。InGaPトップセル、InGaAsミドルセル、Geボトムセルの3接合層構造で高変換効率を実現。宇宙光(約135mW/平方cm)に対して変換効率は約29%。

 そして財団法人無人宇宙実験システム研究開発機構は、「次世代衛星用大推力イオンエンジン」を出展していた。「はやぶさ」に搭載されたイオンエンジンの約30倍となる250mNの推力を持つイオンエンジンで、既に地上検証で3,000時間の寿命試験を達成したという。

株式会社ジーエス・ユアサテクノロジー「人工衛星用大型リチウムイオン電池」シャープ株式会社「宇宙用化合物太陽電池」財団法人無人宇宙実験システム研究開発機構「次世代衛星用大推力イオンエンジン」

 「先端技術館@TEPIA」の入場料は無料である。このほか、ビデオライブラリーやイベントなどもある。近くまで行く機会と時間があったら、気軽に立ち寄ってみてはいかがだろうか。

(2011年 4月 11日)

[Reported by森山 和道]