森山和道の「ヒトと機械の境界面」

先端技術館TEPIA、展示をリニューアルオープン
〜3DやAR、ロボット、エコ技術から最先端の育毛剤まで



 東京・青山にある「先端技術館TEPIA」(機械産業記念事業財団)は、展示を4月から入れ替え、新展示65点を加えてリニューアルオープンした。テーマは「ハイテクが拓く夢・みらい」。情報通信、健康・医療、都市生活、環境・エネルギーなどの分野の日本の「ものづくり」を中心に力強さをアピールする先端技術と製品に焦点を絞った。今年度からは「テーマ展示」も開催し、今年はコンピュータ・グラフィックス(CG)を紹介する。

 メイン展示は、5つの領域に分かれている。5つの領域とは、3DディスプレイやAR技術などICT全般やロボットを紹介する「くらしとコミュニケーション」、医療技術と福祉やユニバーサルデザインなどを含める「健康と医療」、認証技術など防災セキュリティなども含める「都市とモビリティ」、効率的な送電網を意味するスマートグリッドや自然エネルギーなどからなる「環境とエネルギー・資源」、そして「小さな世界と高機能素材」。主立った展示物をご紹介する。

 まずはエントランス展示から。NECAvio赤外線テクノロジー株式会社による赤外線サーモグラフィ装置「サーモショットF30」は、国産の赤外線装置としては最小・最軽量(300g)のカメラ。敢えて普通のカメラとデザインを似せたという。価格は50万円程度で、単三形電池で動く。16カ国語表示が可能。

 株式会社ナックイメージテクノロジーの「パノラマボールビジョン」は、武蔵野美術大学の橋本典久氏により発案された球体映像出力システム。320個のフルカラーLEDを一列に並べたLEDアレイ6本を高速回転することで残像効果で球面画像を形成している。期間限定展示で、4月14日まで展示されたあと、その後は、7月1日から8月31日まで出展される予定。

赤外線サーモグラフィ装置「サーモショットF30」。外見は普通のデジカメに近い パノラマボールビジョン
【動画】で見ると高速回転している様子が分かると思う

 続けて、メイン展示。「くらしとコミュニケーション」ゾーンでは小学生向け展示らしく、ディスプレイの仕組みなどが基本から解説されているほか、電子ペーパー端末や、最近また流行し始めているAR技術を活用した製品などが出展されている。

 大日本印刷は、AR(拡張現実)技術を使ったソリューションを2つ出展していた。マーカーを隠したり画像を認識させることでカタログの画像を変えたり、バーチャルなおみくじが体験できたり、CGキャラクターのアニメーションが重畳されて動くといったものだ。

飛び出すARカタログ。液晶カラーTV、プラズマディスプレイ、有機ELの仕組みなどが解説されている
【動画】ブラザーの電子ペーパー端末ドキュメントビューワ「SV-100B」。連続83時間使える
【動画】ARを使ったバーチャルおみくじ
【動画】大日本印刷による飛び出すARカタログ。マーカーをかざすとCGの人が乗り込む

 ブラザー工業株式会社の「眼鏡型網膜走査ディスプレイ」は、映像信号をレーザーに変換して網膜に照射することで、目の前に映像があるかのように呈示する。残念ながらいま展示されているものはモックアップ。今年秋に商品化予定で、そのあとは実物に置き換えるという。

 産総研の「QR-JAM」はQRコードの中心部をイラスト化する技術。TEPIAでの展示では、この技術を使って、イラスト部分を「カギ」として用いることもできるというデモを行なっていた。QRコードの誤り訂正技術をうまく使うことで、複数のQRコードに適合させるカギを作ることもできる。またクーポン配布などにも活用出来るのではないかという。読み取りには特別なソフトウェアは必要ない。

眼鏡型網膜走査ディスプレイ。モックアップ 産総研の「QR-JAM」。真ん中にイラストにした「カギ」をいれることができる

 生活支援ロボットもいくつか展示されている。株式会社日本ロジックマシンによるホーム介護ロボット「百合菜(ゆりな)」は、高齢者をベッドから車椅子やトイレ、浴槽などに移乗するためのロボット。タッチパネルのほか音声認識で操作でき、可搬重量は各アーム80kg、両腕総可搬重量は120kgで、電動車椅子としても使うことができる。本体重量は160kg。

 株式会社西澤電機計器製作所による自動ページめくり器「ブックタイム」は「今年のロボット大賞」も受賞したロボットで、本のページをめくってくれるロボット。食事支援ロボット「MARo」は岐阜大学工学部 矢野研究室が研究開発しているロボットで、液状のスープなどもこぼさずうまくスプーンで運ぶことができる。

株式会社日本ロジックマシンによるホーム介護ロボット「百合菜(ゆりな)」 自動ページめくり器「ブックタイム」(左)と食事支援ロボット「MARo」(右) ロボットの基本的な仕組みについても図解されている

 NPO 法人国際レスキューシステム研究機構の「能動スコープカメラ」も2008年の「今年のロボット大賞」受賞したもの。工業用のスコープカメラに振動する繊毛を付けることで、瓦礫の間をぬって内部に進入させることができる。従来のスコープカメラよりも広域な環境探査ができるようになったという。操作を実際に体験してみたが、なかなか思い通りの場所に行かせたり、カメラ画像のみからカメラの位置を知ることは難しい。

能動スコープカメラ。工業用スコープカメラに振動する繊毛を付けたもの。先端のカメラ映像を見ながら操作する
【動画】能動スコープカメラ

 「健康と医療」ゾーンでは、ヘルスケアと福祉機器などが展示されている。伊藤光学工業株式会社の色弱模擬フィルタ「バリアントール」はカラーユニバーサルデザインのためのツール。グラフィックデザイナが使って、色弱の人がどのように色を見分けにくいのか体験するためのツールだ。HOYA株式会社の「エアウェイスコープAWS-S100」は気管挿管を行なう道具。先端にCCDカメラがついていて、挿管トレーニングが行なえる。オムロンヘルスケア株式会社は太陽電池パネル付きで電源がない地域でも用いることができる血圧測定器具などを出展していた。

 このほか、株式会社京都医療設計の「生体吸収性ステント」や、株式会社東芝ディスプレイ・部品材料統括が出展している「電流検出型DNAチップシステム」などは、普通の人は滅多に見ない機械だろう。蛍光タンパク質などを使うことなく、電流を使ってDNAの発現を検出できるDNAチップシステムである。ユーザーはDNAチップが内蔵されたカセットにサンプルを注入して装置にセットするだけ。試薬の注入や反応などは全てこの機械が行なう。価格は500万円程度で、現場に使ってもらうことを目指しているという。

色弱模擬フィルタ「バリアントール」 オムロンヘルスケア株式会社の各種ヘルスケア機器 エアウェイスコープ AWS-S100
電流検出型DNAチップシステム「Genelyzer」 生体吸収性ステント 岐阜大学のバーチャル解剖模型。三次元で内蔵を観察できる

 株式会社パーソナルの指紋認証式キャビネットは、ワンタイム・ワンスライド式の指紋認証ロッカーである。指をセンサーにスライドさせて指紋を登録、ふたを閉める。そしてまた指をスライドさせて、解錠する。指紋データは1回きりしか使われず、指紋の事前登録も必要ない。普通のコインロッカーに置き換えが可能なロッカーだ。

 アイディールブレーン株式会社の床免震装置ミューソレーターは、特殊加工された鋼板を使った敷物である。ものを滑らせることで倒さない。美術館などへの適用を考えているという。なお同社ではさらに大型のマットをコンピュータ・サーバ用にも展開している。

指紋認証式キャビネット 防災という意味で非常食なども出展 ドライブシミュレータなども出展されている
【動画】床免震装置ミューソレーター

 産総研は、2004年に開発発表した「PMP-2」をベースに開発している「小型・軽量パーソナルモビリティ」を出展。セグウェイのように立ち乗りで移動できるパーソナルモビリティだ。衝撃吸収機能なども持ち、4cm程度の段差は乗り越えることができ、屋外移動の研究を、つくば特区で行なっていく予定だという。実際に乗車体験もしてみたが、動きがややピーキーなセグウェイといった感じだった。

【動画】産総研の「小型・軽量パーソナルモビリティ」。
台車部分には障害物を検知するためのレーザーレンジファインダー 左右への旋回は右手のボタンで操作する 右手側には安全装置もある

 「環境とエネルギー・資源」関連の展示にも力が入れられている。株式会社ウィンドレンズの「風レンズ風車WL300」は、「集風レンズ」を使って出力を2〜3倍に向上した風力発電機。発電効率は風速の3乗に比例する。そのため風を絞って風車にあてることで発電効率を高めたという。定格出力は3kW。

 関西電力株式会社は遠隔検針用の「ユニット式電力量計」を出展。1,200万台の電力量計を置き換え、遠隔で計量することを目指している。パナソニック株式会社は家庭用リチウムイオン電池を出展。ノートPCで使用されており、量産実績のある電池を組み合わせることで家庭用や自動車などに用いることができるという。

風レンズ風車「WL300」 ユニット式電力量計 家庭用リチウムイオン電池

 株式会社ブレストは不要プラスチックを熱分解で石油に戻す、卓上油化装置「Be-h」を出展。ポリプロプレン、ポリエチレン、ポリスチレンを電気ヒーターでガス化し、冷やして油を取り出すことができる。油はそのままでもボイラーの燃料等には使えるが、蒸留すれば、各成分に分けることができる。家庭用の100Vコンセント1本で使えるという点も面白い。学校等での環境授業には良い効果がありそうだ。

 有限会社オリエンタルホープの「ホワイトゴート」はシュレッダーくずを再生して、トイレットペーパーに自動的に再生する完結型古紙リサイクル装置。世界最小の全自動ペーパーリサイクル装置だという。なお「ホワイトゴート」とは「白ヤギ」という意味である。

卓上油化装置「Be-h」 完結型古紙リサイクル装置「ホワイトゴート」 シュレッダークズから再生されたトイレットペーパー

 株式会社マサキ・エンヴェックは、太陽光発電で上下方向の水流を起こすことで間接的に藻などを除去する「水すましミニ」を出展。ゴルフ場の池など数十カ所に設置されて稼動しているという。重量は見た目よりも軽く、20kg程度。アンカーで係留して使う。そのほか燃料電池などの出展も多かった。

 また新素材コーナーでは、ホソカワミクロン株式会社による機能性ナノテク育毛剤「ナノイパクト ダブルテラ」などが出展されていた。これは育毛成分を封入した直径160nmの粒子を配合した育毛剤で、1日で2兆個のナノ粒子が毛根に浸透することと徐放効果によって、新鮮な育毛剤を常に塗り続けているのと同じ効果があるというもの。

ソーラー式水質改善装置「水すましミニ」 燃料電池コーナーも 東芝モバイル燃料電池「Dynario(ディナリオ)」。今年の3月に販売終了
ナノイパクト ダブルテラ ナノ粒子をつかったDDS(ドラッグ・デリバリー・システム)の一種だという

 財団法人機械産業記念事業財団会長の福川伸次氏は、「焦点を技術と人間の関係にあてた」とし、これまでTEPIAの展示は主に産業技術に焦点があてられていたが、時代のニーズや社会的関心が人間中心になっていることに合わせたという。展示は常設だが毎年入れ替えていく予定としている。このほか年間8回のワークショップや夏休み期間中にはサイエンスフェスタ、冬季にもサイエンスショーを開催する。学校教育の一環としても利用できるとしている。昨年度の来館者は年間4万人。

財団法人機械産業記念事業財団会長 福川伸次氏 テーマ展示「コンピュータグラフィックス」 NECのコミュニケーションロボット「PaPeRo」なども展示されている