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NPUなんて飾りだ!その認識、これを読めばちょっと変わるかも

デビット・フェン氏

 インテルは2月3日に、東京都内でプライベートイベント「Intel Connection Japan 2026」を開催。基調講演の後、登壇者のうちの一人であるデビット・フェン氏(クライアント・コンピューティング事業本部副社長兼クライアント・セグメント担当本部長、以下敬称略)にインタビューをする機会を得た。

 同社が掲げる“AI PC”の戦略は、初めてNPUと呼ばれるAI PC処理に特化したプロセッサを内蔵したCore Ultraシリーズ1、すなわちMeteor Lake世代まで遡る。それ以降、NPUについては性能向上や効率改善を図りながらここまで進化してきた。

 しかしながら、一般的なPC利用において、電源を投入してからすぐに“仕事を始める”CPUとGPUに対して、NPUはあまりにも“暇を持て余している”のではないか?という疑問は当然湧く。それなのにNPUの存在意義は本当にあるのか?それを搭載したAI PCを推進する魂胆とは?このあたりをズバリ聞いてきた。

――過去のGPUが登場した際は、ゲームがキラーアプリとなり、普及を牽引しました。一方でNPUは普及だけが先行し、「背景ぼかしを低電力で実行できる程度のもの」という認識になってしまっていて、キラーアプリが登場していないように思われます。業界全体としていつ頃キラーアプリが登場し、NPUが必要不可欠になるとお考えでしょうか?

フェン: AI PCによる変革というのは、NPUだけが担っているとは考えていません。CPUとGPUが協働し、そしてようやくエコシステムが立ち上がりつつあるというのが現状です。

 ここ2年半、ISV(独立系ソフトウェアベンダー)との協業などによって、200ほどの機能がNPU上で実現されてきました。そのサイズは小さなものから大きなものまでありますが、ここでのポイントは、モデルのサポートによってCPUとGPUも同時に動いているということです。

 確かに現時点ではNPUを必須とするようなキラーアプリは登場していないが、AIモデル自身が広がっています。ユーザーがそのAIモデルを使いたい、やりたいことを実現できるアプリがNPUを活用する時、初めてNPUの価値に気づきます。いずれその時がやってくると確信しています。

CyberLinkの動画編集ソフトで、CPU、NPU、GPUがすべて動作している様子。これは2024年にLenovoが開催した製品発表イベントで、Intelが示したデモ
AI PCによって実現する性能向上。これも2024年のイベントにおけるIntelのスライド

――NPUに取り組んでいるのはインテルだけでなく、AMDやQualcommも積極的に搭載していますが、TOPS(1秒間に処理できる命令数)の数字ばかり向上していて、ユーザー体験に直結していないのではないかという声もあります。その数字をいかにして価値へと転換し、ユーザー体験の向上につなげるおつもりでしょうか。

フェン: 確かにTOPSの向上とユーザー体験の向上はイコールではありません。問題の1つはTOPSの定義の仕方にあり、各社が共通で横並びにできるわけではない点です。もう1つは、すでに成熟したGPUなどと異なり業界のスタンダードがないという問題。1つのNPUで動くプログラムが、他社で動かないためだ。

 こうした中で、我々のアドバンテージはソフトウェアの開発環境とXPU(CPU/GPU/NPUを1つとして扱う技術)戦略だ。我々が提供しているOpenVINOは、NPUとGPUを容易に扱うことができ、さまざまなAIのニーズに対して対応できる。また、オープンソースであり、Hugging Faceなどを通じて見つけることができる。

これはサーバー向けの説明だが、クライアントにも同様のことが当てはまる。

 さらに“Day 0 All Model”を掲げており、OpenVINOツールキットを介して即日インテルのハードウェア上でモデルを展開できる。そしてXPUにより広範なハードウェアに対応できる。この仕組みは競合他社にはなく、誇りだと思っている。

編集部注: フェン氏は直接ユーザー体験向上につながるとは述べなかったが、インテルの仕組みによって、TOPS値が高いNPUがユーザー体験に直接結びつかない事態を避けられるという認識でいいだろう。

――現在のNPUの用途は「省電力化による長時間バッテリ駆動」といった、モバイルシーンで恩恵を受けることが多いイメージですが、省電力以外にもNPUを活用する価値はあるとお考えでしょうか。

フェン: もちろんです。XPUの話にも関係しますが、NPUは「AIワークロードを駆動できるエンジン」を提示しているわけです。つまり、AI処理からCPUとGPUのリソースを解放できるのです。

 一例として、(将来登場するであろう)AIのゲームアシスタントを挙げましょう。ゲームをプレイしている最中は当然CPUとGPUが稼働しています。仮にAIゲームアシスタントで、ボスの倒し方といった攻略を考えさせる場合、CPUとGPUのリソースを消費し、ゲームのフレームレートの低下を招きます。

 NPUを利用すれば、そうしたAIワークロードをCPUとGPUからオフロードでき、フレームレート低下を防げる。同様に、CPUとGPUがフル稼働しているほかのシーンにおいても、AI処理をオフロードできるメリットが見えてくるでしょう。

――クラウドのAIの進化のスピードは凄まじく、常にローカルNPU処理の先を行っていると思います。自宅でもGPT-OSS-120Bなどを走らせていますが、最新のクラウドモデルと比較するともはや隔世の感があります。現時点でNPUでAIモデルを処理するメリットは「プライバシー」「データ安全性」「オフライン動作」程度で、それ以外あまり見いだせないように思えますが。

フェン: 確かにLLMなど多くのAIのフロンティアモデルはクラウドが提供しています。しかしローカルでAIを実行するもう1つのメリットとして「コスト」を挙げたいと思います。それは1回の投資で済むという点です。たとえば画像生成をする場合、クラウドでは回数に制限がありますが、ローカルでは(時間が許す限り)無限に生成できます。

 CES 2026の時に、スタートアップ企業と組んで、XPUを駆使して、常にカメラでキャプチャをして映っている物体を認識する、というデモをお見せしました。これを24時間365日、常にリアルタイムでクラウドで実行しようとすると莫大な費用がかかります。でもそれがローカルなら、1回の小さな投資で済むわけです。

 つまり、長時間使われるようなアプリケーションであればあるほど、ローカルでAIを処理するメリットが出てくるというわけです。

――AIの開発者やコミュニティに対して、資金面での援助をするなどして、協力/推進するといった取り組みはあるのでしょうか。

フェン: 実は多くの開発者の話を聞くと、彼らはお金が欲しいというより、技術面でのサポート、モデルのサポートを充実させてほしいという要望のほうが強くあります。そこで我々はISVなどに対して、2024年にAI PC Developer Programを開始しました。つまり開発者キットの充実を図りつつ、AIソフトウェアを推進していきたいと考えています。

2024年に展開したAI PC Developer Program

――そういえばCore Ultraシリーズ3では、NPUの世代進化はもとより、GPUを大きく進化させてきました(特にCore Ultra X)。この理由をお聞きしたい。

フェン: GPUの強化は複合的な要因があります。1つは単純に3Dコンピュート性能の強化です。これによりゲーミングノートPCにアプローチできます。またLLMの処理や3Dレンダリングといったクリエイティブ作業も、GPU上で動作するAIによって強化されたものであり、コンテンツ制作においてもGPU強化は威力を発揮します。

 また今回、強力なAIアクセラレーション機能を持つXMXエンジンも、前世代から受け継ぎました。

 元々高性能なゲーミングPCといえば、厚くて、重くて、バッテリ駆動時間も短いものだという認識があったと思いますが、Core Ultra Xでその認識や状況を一変させることができると思います。

Core Ultra Xシリーズでは、GPUが12コアに増えた

――アーキテクチャや製造プロセスを一新させたCore Ultraシリーズ3が今年(2026年)無事リリースされましたが、AMDは新アーキテクチャのプロセッサを投入せず、対照的ですね。勝機はあると見込んでいますか。

フェン: 答えはとってもシンプルで「Yes」だ。ただ、Core Ultraシリーズ3はまだ(従来の製品と同様)ランプアップしている期間であり、フルラインナップとはいえない。昨年末(2025年)にOEM向けに大量出荷しているので、ラインナップの増強については今後進んでいくことでしょう。ここはスピード感を持ちながら、市場のニーズを見極めて投入していきたい。


 今回のイベント全体を通して感じたことは、AI PCにおいてNPUは事実上必須要件となっていながらも、GPUのように華がある「表立ったプロセッサ」ではなく、あくまでも「影武者」としての存在感だ。

 もっと平たく言ってしまおう。昔「ファイナルファンタジーVII」や「バイオハザード」をプレイするためには「PlayStation」を買う必要があり、それがキラーアプリとなった。つまりユーザーの興味を惹く新しいソフトは、新しいハードウェアを必須としたからだ。

 しかしNPUのケースは若干異なり、「いつも使っているソフトがアップデートで、いつの間にかNPUでオフロード処理できるようになっていた(Adobe Premiereの例)」「これまでCPUやGPUが処理していたAI処理を、NPUが肩代わりするようになり、省電力化したり、(CPU/GPUのリソースが解放されたことで)より高性能になった」という、これまでのユースケースの延長線上にあるユーザー体験の改善だ。

音声をテキスト化/翻訳するK-kaleidoのスピーチコネクトのデモ。こちらは40TOPS以上のNPUが動作要件に入っているので、数少ないNPU必須アプリの1つなのだが、キラーアプリになりうるか?と言われればそうではないだろう。ただ、クラウドではなくローカルで処理できるので、「バッテリ駆動時間を延長」「セキュリティが担保できる」というユーザー体験の向上だ

 もちろん、Windows 11環境下においては、NPU=40TOPSの要件をクリアしなければCopilot+ PCとはならず、一部機能がWindowsのAI機能が使えないという事実は変わらないため、NPUの登場によって提供できるソフトの“新規性”を否定するつもりはないのだが、長らく1つのソフトを使い続けているユーザーも、いつの間にかNPUによる恩恵を授けられるかもしれないといったあたりで、今後もさらなるNPUの進化に期待したい。