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「Adreno X2」は2.3倍のGPU性能、ゲームの互換性も90%を超えてきたとQualcomm
2025年11月19日 23:00
Qualcommは同社の米国本社があるカリフォルニア州サンディエゴ市において「Snapdragon Architecture Deep Dive 2025」を開催し、同社のPC向け最新SoC「Snapdragon X2 Elite」に関する詳細を説明した。
本レポートではGPUに関する詳細と、これまで互換性に問題が発生していたゲームパブリッシャーが提供するアンチチートツールへの対応状況などを紹介していく。
第8世代のAdrenoをベースにした新しいGPUアーキテクチャとなったAdreno X2
Snapdragon X2 Eliteに内蔵されているGPUは、Qualcommが自社設計した「Adreno X2」だ。この名前は従来の「Adreno X1」に対し、単なる第2世代という印象を与えるかもしれないが、実際には完全な新アーキテクチャを採用しており、従来比2.3倍の性能向上を実現している。
Adreno X2が完全な新しいGPUアーキテクチャであることを説明するためには、同社製GPUの開発経緯に触れる必要がある。QualcommのGPUは大本をたどるとAMDに買収される前のATI Technologiesが開発して販売していたモバイル用GPU「Imageon」(イマジオン)にある。
AMDがATIを買収した後、AMDはImageonのライセンスをQualcommに供与し、それがQualcommのAdrenoの最初の世代となった。その後2009年にImageonの事業そのものがQualcommに買収され、Qualcomm側の開発チームと合流して今に至っている。Adrenoは、GPUアーキテクチャの違いにより世代分けされており、前述のImageonベースの第1世代から、現在は最新の第8世代がモバイル向けのSoCなどに採用されている。
以前は公にAdreno 3xx、Adreno 4xxと3桁の数字で世代が変わるようになっていたのだが、近年Qualcommはそうした数字のブランドを公表するのはやめており、Qualcommの社内名やドライバなどにその名残を残すだけになっている。
近年のモバイル向けSoCでは、2023年に発表されたSnapdragon 8 Gen 3ではAdreno 750、2024年に発表されたSnapdragon 8 EliteではAdreno 830、2025年に発表されたSnapdragon 8 Elite Gen 5でAdreno 840となっており、Adreno 750は第7世代のAdreno、Adreno 830/840は第8世代Adrenoと一目で判別できる(こうした内部名をGPU名にした方がユーザーにも分かりやすいと思うのだが……)。
両者の最大の違いは、スライスと呼ばれる単位で構成され、その数によって拡張可能なアーキテクチャになった点だ。スライスの中には、メモリコントローラを除くGPUに必要なすべてが入っており、そのスライスを増やしたり、減らしたりすることで対応できる製品カテゴリを広げることが可能になる。
たとえば、前出のSnapdragon 8 Elite向けのAdreno 830/840では3スライス構成になっており、将来的に第8世代Adrenoでローエンド版を作ろうと思えば2スライスにしたり、IoT向けにGPUの性能がそんなに必要なければ1スライスにする、というように、デザイン上の伸縮が非常に容易になっているのだ。
今回のQualcommが発表したAdreno X2も、第8世代Adrenoがベースになっている。モバイル向けのAdreno 830/840との大きな違いはスライス数だ。Adreno 830/840では3スライス構成になっていたが、Adreno X2では4スライス構成になっており、それにより演算器の数(FP32 ALUなど)が増えているのだ。
4つのスライスを採用したAdreno X2、演算器が約33%増加していることが特徴
Adreno X2とAdreno X1のスペックを比較した表が以下の表1になる。
| ブランド | Adreno X2 | Adreno X1 |
|---|---|---|
| アーキテクチャ世代 | 第8世代 | 第7世代 |
| スライス | 4 | - |
| SP(シェーダプロセッサ) | 8 | 6 |
| FP32 ALU/GPU | 2048 | 1536 |
| FP32 ALU/スライス | 512 | - |
| FP32 ALU/SP | 256 | 256 |
| RTU/GPU | 16 | - |
| テクセル/1クロック周波数 | 128 | 96 |
| トライアングル/1クロック周波数(レンダーフロントエンド) | 4 | 2 |
| ピクセル/1クロック周波数(レンダーバックエンド) | 64 | 48 |
| フラグメント/1クロック周波数(MSAA) | 128 | 96 |
| クラスターキャッシュ/スライス(X1は/2SP) | 128KB | 128KB |
| AHPM(GEMM)/GPU | 21MB | 18MB |
| AHPM(GEMM)/スライス(X1は2SP) | 5.25MB | 3MB |
| AHPM(GEMM)帯域幅 | 4TB/s | 2TB/s |
| 共有L2キャッシュ/GPU | 2MB | 1MB |
Adreno X2とAdreno X1の大きな違いは、Adreno X2がスライスアーキテクチャを採用していることだ。Adreno X1(およびAdreno 7xx)では、スライスは採用されておらず、GPUはコマンドプロセッサ、レンダーフロントエンド、SP、共有キャッシュ・メモリという大きくいって4つの部分から構成されていた。
それに対してAdreno X2およびAdreno 8xxでは、レンダーフロントエンド、SP2つを束ねて1つのスライスとしており、Adreno X2ではこのスライスが4つ、Adreno 830/840ではスライスが3つあるという構造になっている。つまり、GPUはコマンドプロセッサ、スライス、共有キャッシュ・メモリという3つの部分から成り立っている。これが大きな違いとなる。1スライスあたり2基のSPを搭載するため、Adreno X2のSPは計8基となり、従来のAdreno X1(6基)から増加した。
それぞれのSPには128基の32bit ALU、256基の16bit ALUというSIMD型シェーダプロセッサの構成は同じなので、Adreno X1ではGPU全体に換算すると1,536基の32bit浮動小数点ALUが搭載されていたが、Adreno X2ではそれが増えて2,048基に増加する。ALUの数=性能であるので、これが、Adreno X2の性能が大幅に向上した理由だ。
また、メモリ階層も改良されている。Adrenoでは、L1命令キャッシュ、ローカルメモリ(AHPMないしはGEMM)、クラスタキャッシュ、そして共有L2キャッシュという4種類のキャッシュ・メモリを備えている。このうちローカルメモリが18MBから21MBに増量されており、シェーダプロセッサへのメモリ帯域は2TB/sから4TB/sに倍増している。
また、GPU全体で共有するL2キャッシュも1MBから2MBに倍増している。さらに、メモリバス自体も、最大で3チャネル構成(Snapdragon X2 Elite Extremeのみ)になるので、メモリ帯域幅は最大228GB/sへと引き上げられており、メモリの帯域幅が重要となるGPUではそれも処理能力の向上につながっている。
ハードウェアでレイトレーシング処理を行なうRTU(Ray Tracing Unit)が追加されており、シェーダプロセッサそれぞれに2つのRTUが装備されており、GPU全体で16基のRTUが用意されている。MicrosoftのDXR 1.1、Vulkan Ray Pipelineといった業界標準のAPIに対応しており、それぞれに対応したゲームタイトルなどでハードウェアによるレイトレーシングが実現される。ほかにもスケジューラの改良、ジオメトリ演算の改良など細かな部分にも手が入っており、GPU全体で性能や高効率を実現している。
こうした改良により、Adreno X1と比較して同じ消費電力であれば70%性能が向上し、同じ性能(3DMark Time Spy)でよければ電力効率は125%改善するとQualcommは説明している。Adreno X2ではさらに電力をかけることが可能になっており、最大性能を発揮する設定で従来世代(Snapdragon X Elite X1E-84-100)と比較するとAAAタイトルのフレームレートでは2.3倍の性能を発揮するとQualcommは説明している。
アンチチートツールのArm対応が進みゲーム互換性は90%以上の段階に来ている
なお、Qualcommは課題となっているAAAタイトルでの互換性問題の解消に向けてさまざまな取り組みを行なっている事を明らかにしている。
この互換性問題の解消は2つの側面がある。1つ目はQualcomm側のドライバやゲーム向け設定ツールの課題、そしてもう1つがプレイヤーの不正を監視する「アンチチートツール」との互換性問題だ。
前者に関しては、これまでよりもグラフィックスドライバのアップデートを定期的に行なっていく計画だと明らかにした。今後はできるだけ速やかに新しいドライバを公開していきたいと明らかにしている。
現状QualcommのWebサイトを見る限りは、3月、6月、9月に新しいドライバが公開されており、四半期に一度新しいドライバが公開される計画になっている。今後はこうしたドライバの公開ペースを上げていきたいとQualcommは説明しており、最終的にはAMD、Intel、NVIDIAが行なっているようなマンスリードライバの提供、またデイゼロドライバ(新しいAAAタイトルがリリースされて性能や互換性などに問題が発生したときにすぐに公開される暫定的なドライバのこと)のペースにまで持って行きたいと説明した。
後者のアンチチートツールに関しては、現状はゲームパブリッシャーの対応待ちとなるがこの1年でかなり対応が進んだという。そもそもWindows on Armでは、x64からArmにバイナリ変換しながら動作するバイナリトランスレータ(Prismトランスレータ)が用意されている。このバイナリトランスレータでは、一度変換するときにその変換キャッシュを作成して(つまりある種のArmコードをストレージに吐き出して)、2回目以降は高速に動作できるようになる仕組みだ。このため、基本的にはx64向けに作られたゲームも1回目の起動にはやや時間がかかるものの、2回目以降は比較的高速に起動して動作する。
GPUへの描画命令は、DirectXなどの標準的なAPIを叩く形になるので、GPUの性能をフルに引き出してゲームを実行することができる。このため、基本的にはx64向けに作られたゲームはWoAでもそのまま動作する。
しかし、ゲームパブリッシャーが、不正防止のためにインストールが必須となるアンチチートツールは、カーネルモードのドライバなどとしてシステムにインストールされるため、Windows 11のバイナリートランスレータでは対応できないのだ。
Windows 11のバイナリトランスレータは、ユーザーモードで動作しているコードは変換でき、x64で書かれたアプリケーションはそのまま実行することができる。しかし、カーネルモードのデバイスドライバなどは変換できないため、こうしたことが起きているのが現状だという(x64用の特別なプリンタドライバが動かないというのも同じ原因)。このため、アンチチートツールに関してはゲームパブリッシャーのArmネイティブ版対応待ちという状況になっていた。
Qualcommによれば、すでに「Epic Games Online Services」「Tencent ACE Anti Cheat」「Roblox」「Denuvo by Irdeto」「InProtect GameGuard」「Battle Eye」「Uncheater」などのアンチチートツールに関しては、Arm版が用意され提供が開始されている。たとえば、Epic Games Online ServicesのEasy Anti-Cheat(EAC)がすでにArmネイティブ版の提供を開始しており、それによりEpic Gamesの人気ゲームタイトル「Fortnite」がWoAで実行できるようになっている。
残る大物はEA(Electric Arts)などの対応(現状F1などのEAのタイトルがWoAで動かないのはアンチチートツールが原因だと考えられる)で、それも今後進んでいく可能性が高い。
Qualcomm エンジニアリング担当 上級副社長 エリック・ディマース氏は「昨年(2024年)Snapdragon X Eliteを出荷した段階では70%程度の互換性と言っていたが、今年は90%程度が動作するようになっていると認識している」と述べ、大物への対応はほぼ終わり、あとはロングテールのゲームなどにどう対応していくかになってきていると説明した。
Qualcommによれば、すでにUnityやUnreal Engineなどの主要なゲームエンジンのArm対応も進んでおり、Microsoftが提供しているコンパイラーのArm対応ももちろんすでに済んでいる。その意味で、今後はArmネイティブのゲームが徐々に登場することが期待できるだけに、次の段階へ進んでいくことになる。
























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