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来年のPhotoshopはすごいかも?Adobe開発中の超賢い除去機能とか新技術いろいろ

AdobeがAdobe MAX 2025で開催したSneaks

 Adobeは、10月28日から10月30日(現地時間)に年次イベント「Adobe MAX 2025」を、米国カリフォルニア州ロサンゼルス市のロサンゼルスコンベンションセンターで開催している。会期2日目となる10月29日には、クリエイターを紹介する基調講演や、Adobe MAXで最も人気があるセッションとなる「Sneaks」が行なわれた。

 Sneaksは、Adobeの若手研究者が開発中の新製品やサービスを紹介するイベントで、参加者はビール片手にヤンヤの歓声を浴びせながら見るという砕けた雰囲気で行なわれるのが特徴になっている。今回もAdobeの研究機関であるAdobe Researchで開発された10の新しい技術が披露され、多くの観衆の歓声を浴びていた。

実際に今年のPhotoshopやIllustratorに採用された新技術は昨年のSneaksでデモされていた

Adobe MAX 2025の2日目の基調講演に登壇したジェームズ・ガン氏(右)、左はAdobe フェロー ジェーソン・ラビーン氏

 Adobe MAXは、初日と2日目の基調講演や3日目に行なわれるブレイクアウトセッションがメインのコンテンツで、基本的にはCreative CloudなどのAdobe製品の今を学ぶためのセッションとなる。

 基調講演は、CEOのシャンタヌ・ナラヤン氏を始めとする同社の幹部が登壇して新製品を説明。2日目の基調講演は、Creative CloudやFireflyなどのAdobeのクリエイターツールを利用してコンテンツを作っているクリエイターが登壇するセッションになっている。

 今回のAdobe MAXでは「スーパーマン」の監督や「アベンジャーズ」シリーズの製作総指揮で知られるジェームズ・ガン氏が登壇して、クリエイターとしてどのようにコンテンツを作成しているかについて語った。

 その一方で、SneaksはAdobeの未来を示すセッションとなっている。このSneaksに参加するのはAdobeの研究所(Adobe Research)に所属している研究者で、実際に普段研究している研究成果を発表する場としてSneaksが用意されているのだ。

 Sneaksで発表された研究成果のうち、いくつかはそのまま実際の製品に搭載されている。たとえば、昨年のAdobe MAX Sneaksで発表された研究成果のうち、Project Perfect BlendはすでにPhotoshopの製品版に搭載されている。

 Project Perfect Blendは、Adobe MAX合わせで投入されたPhotoshopの最新版となるPhotoshop 2026(v27.0)に「調和」機能として搭載されており、人物や物体などを置いた時に背景と影や光の当たり方をAIが調整する機能となる。

 また、Project TurntableはIllustratorのベータ版にターンテーブル機能として搭載されており、すでにCreative Cloudユーザーが実際に試せるようになっている。

 このように、Sneaksで紹介された機能は、1年後に製品に実装されることもあるし、モノによっては数年後に単体製品として登場する場合もある。

2024年のAdobe MAX SneaksでデモされたProject Perfect Blend、今年のMAX合わせで公開されたPhotoshop 2026(v27.0)で「調和」機能として搭載された
2024年のAdobe MAX SneaksでデモされたProject Turntable、今年のMAX合わせで公開されたベータ版のIllustratorに搭載

 その意味では、非常に真面目な内容なのだが、Sneaksのイベントそのものはかなり砕けた雰囲気で行なわれる。

 Sneaksは開催場所にもよるが、ビールなどのアルコールが配布されることが通例なので、多くの観客はビール片手に講演を見ることになる。明らかにビール飲みすぎで気持ちが盛り上がっている人もいたりして、初めて大観客の前でプレゼンするようなAdobeの若手研究者をイジってあげようという雰囲気が充満した環境で行なわれる。

ビールなどのお酒が配布される、超並んでいるけども……
会場ではお菓子やお酒が配られている。ポップコーンにビールの組み合わせとくればまるで映画を見るような感覚でSneaksを見る人が多い

 このため、クリエイターが本当に欲しいと思っているような魅力的なデモを行なえば、それこそスタンディングオベーション的な大歓声を浴びることになるが、その逆だとつらいことになる。Adobeの若手研究者にとっては、晴れの舞台ではあるが、その成果次第で悪夢の舞台に変わるというなかなか厳しい判定が下される場でもある。

Sneaksで披露される新技術を開発しているのはAdobe Research

Adobe Research責任者のギャビン・ミラー氏

 すでに述べたとおり、こうしたSneaksで自分の研究成果を発表しているのは、主にAdobeの研究開発組織である「Adobe Research」に所属している研究者だ(それ以外の場合も少数の例がある)。

 Adobe Researchは、Adobeの研究開発を行なうための組織で、121という多数の分野で多くの研究開発が行なわれている。近年Adobeが登場させた新しいアプリケーションや新機能の多くはこのAdobe Researchで開発されたものだ。

 たとえば、今やPhotoshopユーザーにとっては絶対手放せない便利機能としては「オブジェクトの選択」(Object Selection)がある。

 人間の髪の毛のような、仮に手で範囲を指定していくと、それだけ数時間が過ぎてしまうようなものをAIが代替してくれることで、時間泥棒な作業も瞬間で終わらせてくれる優れたツールだ。

 オブジェクトの選択では、対象にしたい物体をブラシで囲むだけと、人間がやる作業は必要最小限だが、前述の通り髪の毛などの細かな部分も含めてほぼ完璧に物体の指定をしてくれるの。そのため、瞬時に物体の切り抜きを行なって、別の背景に貼り付けたり、別のレイヤーに移動したりという作業を瞬時に終わらせることができる。

 コンテンツに応じた塗りつぶし(Content Aware Fill)も同様で、現在の生成AIベースのコンテンツに応じた塗りつぶしも、Adobe Researchの開発した技術が元になっている。

 このオブジェクトの選択はAdobe Researchで開発され、それがSneaksでデモされて大きな反響を得たうえでPhotoshopに実装された機能になる。

 前述の最新版のPhotoshopに実装された「調和」やIllustratorのベータ版に実装されたターンテーブル機能など、最近ではより短期間で実際の製品に搭載する例は増えており、SneaksでのデモはAdobeの将来の製品展開を予想する上でも重要なイベントと言える。

Adobe Researchの研究成果がSneaksで発表され、製品になるまでのプロセス

 ただし、このSneaksで採用されたものがそのまま製品に採用されるというわけではないそうで、Adobe Research責任者のギャビン・ミラー氏によれば「200もの自薦他薦でノミネートされた候補から最終的に10に絞っていく。Sneaksで発表されたものが、そのまま製品になるのではなく、製品部門が選択したものがロードマップに乗り、改良されてから実際の製品に搭載される。その時には製品部門側でのブラッシュアップも加わるので、実際には元のアイデアからかなり進化したものになることも少なくない。さらに、リリースされたあとで反響などを研究者にフィードバックして次の研究が始まる」とのことだ。

技術的温故知新はよくあるという

 また、すでにあるアイデアを別の技術で実装するという発表も少なくないという。たとえば、今年のSneaksで披露されたProject Turn Styleは、昨年のSneaksで披露されたProject Turntableと見た目や機能は同じだが、実装方法は異なっているという。そうした例は意外と多いそうで、ちょっとした温故知新のようなものだとギャビン氏は説明した。

ライティングの仮想やり直しや物体除去をより自然に行なう新機能などが披露される

Adobe主任部長でCreative Cloudエヴァンジェリストのポール・タラーニ氏(左)、ジェシカ・ウイリアムズ氏(右)

 今回のSneaksは、Adobe主任部長でCreative Cloudエヴァンジェリストのポール・タラーニ氏とアメリカの女優でコメディアンのジェシカ・ウイリアムズ氏が司会として行なわれた。

 AdobeのSneaksでは、著名なコメディアンが参加して、ツッコミどころ満載の発表などにツッコみをいれる役を果たすことが通例で、その役が今回はウイリアムズ氏になる。日本で言えば、お笑いコンビのツッコミ担当がゲストとして呼ばれていて、司会役を務めるAdobeの社員と一緒に盛り上げる役を担う形になる。

Project Motion Map

 Project Motion Mapでは、AIが動かないベクターグラフィックを解析し、それを表現力が豊かなアニメーションに自動生成する生成AIツール。クリエイターは、キーフレームの調整といったアニメーションの知識などがなくても、簡単に動作するアニメーションを作成することが可能になる。

Project Clean Take

 動画を編集していると、動画のフレーム編集よりも大変なのが音声の編集だ。たとえば、録音しておいた音声に問題が発生した場合には、再びスピーカーの人を呼んで録音し直すなどの作業をやり直す必要がある。

 そうした時に、Project Clean Takeを使うと、AIが発音ミスの修正、声の分離、ソース分離技術を利用したノイズ除去、ライセンスを得ていないバックグランドミュージックの削除、話し方の改善(声の感情を変える)などを数秒でやってくれる。ポッドキャスト、映画制作者、放送用の番組作成といったスタジオ品質の音声を必要とする動画編集者にとって強力なツールになる。

Project Surface Swap

 インテリアデザイナーが部屋のデザインを行なう時に、実際に撮影した写真から、ソファの記事や床の素材などを瞬時に変更するツール。AIが素材表面のテクスチャを認識してその領域を自動で選択し、素材表面のデザインをほかの素材の表面デザインに変更することで実現する。

Project New Depths

 3D写真の編集ツールだが、物体をレイヤーに分割して、直感的に操作可能。色や形、構図を3D空間に置いて、スライダーなどで調整できる。また、物体を移動するだけで奥行きのデータを、自動で調整して正しく表示可能。難しいと考えられている3D写真の編集をより手軽に行なえることを目指している。

Project Light Touch

 アマチュアであろうが、プロであろうが、カメラマンが後悔する瞬間は、ライティングの設定の間違いに撮影後に気がついたときだろう。

 ライティングの設定は撮影前にしかできないのだが、このProject Light Touchは撮影後にそれを行なえる。AIのパワーを利用して、太陽やスタジオライティングを調整する感じで光源を再配置。昼を夜にし、太陽の影を消し、焦点や雰囲気などを調整することができる。

Project Scene It

 3Dシーン制作ツールで、構造とスタイルの両方を調整して、思い通りの3Dシーンを作成可能になる。すでに提供されているImage-to-3D、3D-to-Imageの技術をベースにして、それぞれの物体に参照した画像をタグ付けして、独自の見た目の物体にすることを可能にし、かつそれを3D空間の中で自由に動かせる。

Project Trace Erase

 すでにPhotoshopやLightroomでは必要ないオブジェクトを簡単に除去する仕組みが用意されているが、消した後は周囲の画像を利用して合成する形になるため、影や反射が残るなどやや不自然な消え方になってしまっていることもあった。

 Project Trace Eraseでは、影や光源の当たり方による反射、環境の歪みなどを理解して、物体を消去するため、より自然で周りの状況や環境にあった物体の削除を実現する。デモでは車両を消したときに、水面に映っていた車両の反射も同時に消していた。

Project Frame Forward

 動画というのは、基本的に1秒間に30枚程度の静止画の集まりなので、より詳細に丁寧に動画を編集したいと思えば、1フレーム(1枚の静止画)それぞれに編集をかけていく必要がある。しかし、Project Frame Forwardでは1つのフレームに指示(人や物体を消す、あるいは加えるなど)とテキストプロンプトを加えると、それがほかのフレームにも変更が適用されていき、結果的に動画全体で高い精度の編集が可能になる。これにより、高品質な動画編集を、従来よりも短時間で実現できる。

Project Sound Stager

 Project Sound Stagerは、動画の映像やテンポ、感情の濃淡などを分析し、専用のサウンドデザインロジックがレイヤー化されたサウンドスケープ(耳が捉えた音風景という意味、カナダの作曲家が提唱した概念で、街角で聞こえてくるざわめきなどのこと)を作成してくれる。AIのサウンドデザイナーと会話形式で調整しながら最終的なミックスを調整することができる。

Project Turn Style

 画像内の2Dオブジェクトをまるで3Dであるように編集できるツール。画像内の要素を回転して、再配置し、アップスケール機能を利用して質感を向上させ、光源の当たり方や詳細などを保ったまま編集可能。