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未来のPhotoshopやIllustratorはどうなるの?Adobe MAXのSneaksで明らかに

Adobe MAXで最も人気のセッションとなる「Sneaks」

 Adobeは10月14日~10日16日(米国時間)に、Creative Cloudの年次イベント「Adobe MAX」を、米国フロリダ州のマイアミビーチコンベンションセンターにおいて開催している。2日目には、もっとも人気を集めるイベントの1つである「Sneaks」が開催された。

 今年(2024年)は、生成AIを活用したPhotoshopやIllustratorといったCreative Cloudアプリケーションの将来の新機能候補が多数紹介された。

昨年のSneaks登場のProject Neoはベータとして登場

オークワフィナさん(左)とAdobe デザインエヴァンジェリスト ケルセイ・スレイ氏(右)が共同で司会を行なった

 Adobeのフラグシップ年次イベントは、3月に行なわれるAdobe Summitと10月~11月に行なわれるAdobe MAXの2つがある。前者はAdobeが大企業などを対象にして提供しているデジタルマーケティング(メールやWeb、SNSなどを通じてキャンペーンやマーケティング活動を行なうこと)のツール「Adobe Experience Cloud」のためのイベントで、ターゲットになるのはB2Cのデジタルマーケティングを展開している大企業など。それに対して後者は、クリエイター向けに提供している「Adobe Creative Cloud」をテーマに、組織の規模を問わないクリエイターをターゲットにしたイベントになる。

 その2つのイベントで、2日目の夕刻に行なわれる恒例のイベントが「Sneaks」。米国でのカンファレンスでは、3日間のうち2日目までに重要なイベントを詰め込むことがほとんどであり、3日目は細かなセッションが行なわれるだけになるのが通例。つまり、2日目の夕方というのはある意味イベントのトリとも言える時間だ。Adobe SummitやAdobe MAXではそれがSneaksであり、そのあと「BASH」という名前の巨大パーティーが行なわれる。

 Adobeのビジネス方針などが説明される、真面目な感じの初日基調講演とは違い、Sneaksはもっと砕けた感じで行なわれる。ただ、例年はお酒が配られ、それを片手に見るのが普通なのだが、今年のMAXでのSneaksはそうしたお酒の配布はなしで、例年とはやや異なる雰囲気の中で行なわれた。

 登壇するのは「Adobe Labs」というAdobeの研究開発機関に所属している研究者だ。このSneaksで発表した製品が実際に製品として採用される例もあり、研究者にとっては「登竜門」の1つだといっても過言ではない。たとえば、今年のAdobe MAXで正式なベータ版として提供されることが明らかにされた「Project Neo」は、昨年(2023年)のSneaksでデモされたプロジェクトが元になっている。このことからも、今年のSneaksで発表されたプロジェクトが来年実際に製品として登用されることもあるので、その意味でもそれぞれの内容には要注目なのだ。

 こうしたSneaksだが、今年はアメリカの俳優でラッパーのオークワフィナさんが共同司会を務めている。オークワフィナさんは、2020年のゴールデングローブ賞を受賞した俳優で、アジア系の女性としては初めて同賞を受賞している。Sneaksの間中、研究者に適切なツッコミをいれたりしながら会場を盛り上げた。

PhotoshopやIllustratorの新機能などが多数紹介

Project Clean Machine

 「Project Clean Machine」は、フラッシュの反射が写り込んでいる写真やビデオか、あるいは花火写真などにフラッシュをたいてしまっている場合などで、一時的にカメラを遮るような物体を簡単に削除するもの。静止画にだけでなく動画にも適用可能で、フラッシュばかりの動画も簡単にきれいな動画にすることが可能だ。

こんなフラッシュが写り込んでいる写真も
範囲を指定するだけで
フラッシュなどをきれいに消せる

Project Remix A Lot

 「Project Remix A Lot」は、適当に書いたスケッチを、生成AIがより洗練されたデザインに変えてくれるツール。荒いアイデアから始めて、インスピレーション画像(要するにこんな風にしてほしいというイメージ)を利用して、スケッチを洗練したデザインにしてくれる。デザインになったあとも編集が可能で、そのデザインを複数にコピーしたりサイズを変えたりということが可能。さらにデザインを生成拡張することも可能になっている。スケッチがデザインに変わった時には、観客からヤンヤの歓声が飛んでいた。

荒いスケッチに変換をかけるだけで
洗練されたデザインにAIが書き換えてくれる

Project In Motion

 「Project In Motion」は、2Dの画像などから、アニメーションを簡単に作れるツール。プロンプトで指示をだすことで、それを水彩画にしたり、カラーを変えたりという編集が自由自在にできる。どんな雰囲気にするかは、参照ファイルを参照してそれを元に作れる。

2D画像からアニメーションを簡単に作る

Project Super Sonic

 「Project Super Sonic」は、プロンプトを利用してビデオのサウンドエフェクトを作成し、プロンプトなしでビデオ内のオブジェクトをクリックすることでサウンドを生成できる。サウンドのタイミングを声で制御することも可能で、直感的な操作が可能になる。

 また、タイムラインに直接サウンドを追加してレイヤー化し、バックグラウンドとフォアグランドのエフェクトをミックスし、プロンプトのバリエーションから選択して最適なサウンドを得ることが可能。デモでは、宇宙船の映像に、宇宙船が離陸する時の音、モンスターの音を人間の声を参照して映像に合うように生成AIにより生成された。

プロンプトを利用してサウンドエフェクトを作成し、ビデオのオブジェクトをクリックするとサウンドを生成できる

Project Hi-Fi

 「Project Hi-Fi」はPhotoshopのプラグイン。ホテルの部屋のデザインを行なうのに、プロンプトにほしいイメージを文字で入力すると、Firefly Image Modelが作成してくれる。

 また、鉢植えの植物の葉を増やすのにブラシで書くと、それを元に葉を増やしてくれる。ソファの大まかな図から、プロンプトに指示をいれることで高品質なデザインに書き換えてくれる。さらにカメラを利用して撮影した物体を、シーンの中に取り込むことが可能。

カメラを利用して撮影した物理的なイラストをシーンの中に取り込める

Project Scenic

 「Project Scenic」は3Dシーンレイアウトを、一度プロンプトに指示を出すだけで構築でき、2D画像の作成を容易にするもの。カメラの制御を行なうことが可能で、ここのオブジェクトを調整するのが容易になり、そこから画像生成プロセスにより高度にな画像を生成できる。それにより、レイアウトやカメラビュー調整の試行錯誤を減らし、3Dシーンをより正確に編集できるようにする。

3Dシーンのレイアウトを簡単に作成できる

Project Perfect Blend

 写真を合成するときに問題になるのは、手前に置いた人間と背景の明るさがあっていなかったりすることで、そのまま合成するとチグハグな画像になってしまうこと。「Project Perfect Blend」ではハーモナイズモデルという独自の生成AIのモデルを使う。合成する被写体を置いてハーモナイズボタンを押すと、手前に置いた人間と背景を自動で同期して影や照明を調整してくれる。調整できるのは人間だけでなく、猫のような動物も可能。

男性の写真を切り抜いておいたあとで、ハーモナイズボタンを押すと背景との調整を自動で行なう

Project Know How

 既にCAI/C2PAの取り組みでコンテンツクレデンシャルの仕組みをAdobeは提供しているが、「Project Know How」はその将来バージョンの候補の1つで、デジタルおよび物理的な世界におけるコンテンツの信頼性を確立させるための機能。カメラに物理的なポスターなどを映すと、ウオーターマークの機能を通じて、受け手がビデオや画像の来歴を確認できる。

物理的なポスターも来歴情報を見られるようになる

Project Turntable

 「Project Turntable」は、2Dベクターアートを、生成AIで、3Dで簡単に回転できるようにデータ変換を行なう。その回転させたベクターアートは新しい角度から見ても2Dアートのままとして利用できる。ボランをクリックしてスライダーを動かすだけで、グラフィックスを3Dオブジェクトのように回転させることができる。

2Dのベクターアートを3Dに変換して回転できるようにする