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「市場シェアや売上台数を最優先」。NEC PCの新しい法人事業戦略

 NECパーソナルコンピュータ(NEC PC)は、法人向けPC事業の戦略について説明した。あわせて法人向けAI PCの新製品を発表した。

 NECは、2025年4月から、法人向けPCの販売機能を、NECからレノボグループ傘下のNEC PCに移管しており、現在、NECブランドのPCは、法人向け、個人向けともに、調達、設計、研究、開発、生産、マーケティング、販売、サポートのすべての機能を、NEC PCに一本化している。

 NEC PCの檜山太郎社長は、「1つのチームになることが重要ではない。先々のロードマップ、製品情報、技術動向などをお客様やパートナーに対して、いち早く伝えることができるようになり、ユーザーの価値やニーズ、パートナーの要望、市場の変化にもいち早く対応でき、製品開発に反映できる。こうした流れを作ることが重要になる。新たな組織によって、日本のお客様に伴走し、ユーザーのニーズを受け止めながら、法人向けPC事業を拡大していく」と意気込みを語った。

NECパーソナルコンピュータ代表取締役執行役員社長の檜山太郎氏
NECパーソナルコンピュータ執行役員コマーシャル営業推進本部長の飯田陽一郎氏
日本のユーザーに寄り添う存在へ

 また、NEC PC 執行役員 コマーシャル営業推進本部長の飯田陽一郎氏は、「2025年4月からスタートした製造と販売の一体化や、一気通貫の仕組みは、『NEC PC 3.0』と位置づけられるものになる」とコメント。「NEC PCの法人事業の方向性として、マーケットシェアや売上台数を最優先にしていく」との姿勢を示した。

製造と販売の一体化

 その方針を裏づけるように、法人向けPCの販売機能をNEC PCに統合して以降、NECブランドの法人向けPCは、市場成長を上回る成長を達成しているという。

 国内法人向けPC市場におけるNECブランドPCのシェアは、15%にまで引き上げることが、当面の目標となりそうだ。

NEC PC 3.0

 同社では、PC-8001やPC-9800シリーズ時代など、NECによるPC事業の時代を、「NEC PC 1.0」とし、2011年からのレノボグループとのジョイントベンチャーにるPC事業を「NEC PC 2.0」と位置づけ、2025年4月からのNEC PCによる一体運営を「NEC PC 3.0」とする。

NEC PC 3.0

 NEC PC 3.0では、2つの事業の柱を掲げた。

 1つ目は「当たり前の徹底」である。

 「これまでのNECによる法人向けPCの取り扱いでは、多くのポートフォリオの1つという位置づけであったため、PC事業としては当たり前というべきことができていない点があった」と反省する。

 ここでは、顔の見える営業体制、将来を見据えた投資、PC事業として適正な価格の3点から施策を推進する。

 顔の見える営業体制では、パートナー担当制を敷き、窓口を一本化することで、シンプルな構成とし、責任範囲も明確にするという。また、営業所への駐在や、NECの全国の支社との連携も図る。

 檜山社長は、「従来の仕組みでは、法人ユーザーとの対話がNECを通じたものになっていたため、時間がかかっていたり、フィルタがかかりやすくなったりという課題があった。新たな体制では、直接お客様と対話をして、その声を迅速に製品に反映できる。また、NECではソリューション提案の1つの商材としてPCが位置づけられていたが、PCを主軸にした対話ができ、PCに対する要望を引き出しやすい環境に変わる点も大きなメリットになる」と語った。

 将来を見据えた投資としては、技術やマーケティングへの投資に加えて、パートナー支援における投資を増やすほか、イベントの開催やツールの提供などの販促支援も強化するという。

 PC事業として適正な価格では、案件獲得を最優先とする姿勢を打ち出し、パートナーとの協業による戦略案件の獲得においても積極的な投資を進めるという。従来はNEC PCから出荷したものを、もNECを通じてパートナーや顧客に提供する仕組みとなっていたが、新たな体制では、NEC PCから、直接パートナーや顧客に出荷できるようになるため、階層が減少。競争力ある価格設定が可能になる。2025年4月以降の適正価格による提案で、「大口案件については、前年同期比2倍の獲得率になっている」としている。

ブランドの再強化

 2つ目が「ブランドの再強化」だ。

ブランドの再強化の取り組み

 ここでは、パートナーコミットメント、国内アセットの最大活用、製品力の強化の3点に取り組む。

 パートナーコミットメントでは、「どこよりも密に、誠実に連携を図る」とし、コミュニケーションの改善にも乗り出す。

 NECと契約していた法人向けPCの販売パートナーのすべてと、新たな販売契約を締結。「顧客やパートナーに対して、直接、取引を行ない、コミュニケーションも行なう。日本の市場に求められる製品やサービスを提供していく」と述べた。

 なお、NECとの関係については、今後も連携を継続し、販売店会への参加、営業活動での連動、ソリューション開発における協業を進めていくという。NECの直販ルートを通じた販売も継続的に行なう。

 国内アセットの最大活用では、「NEC PCは、日本市場だけを見た事業を行なっており、日本国内に、開発から販売までのすべての機能を有している。日本の市場ニーズを満たす製品を作り、外資系ブランドにはできない対応を、日本のお客様に提供することができる」(飯田本部長)と述べた。

 ここでは、NEC PCが持つ2つの事業場が差別化になることを強調した。

 山形県米沢市の米沢事業場では、PCの生産拠点であるだけではなく、「品質を担保するための要」と定義。設計品質、部品品質、製造品質とともに、障害などが発生した場合の品質保証のすべての機能を集約しており、「新製品を投入したり、お客様に製品を届けたりする場合の品質を担保するだけでなく、お客様のもとで問題が発生した場合にも、どこよりも早く問題を解決できる」と自信をみせた。現在、米沢事業場の強みをさらに強化する取り組みを開始しているという。

米沢事業所の定義

 また、群馬県太田市の群馬事業場では、NECフィールディングと連携し、国内での修理率を100%としており、「製品修理のマザーサイト」と位置づけた。AIや先端技術を活用した故障部分の特定などを進めており、その一例として、不具合の申告内容をもとに、修理が可能な確率や、費用の概算など予測して、顧客に伝えることができるサービスを紹介した。また、AIなどの活用により、新人エンジニアの修理対応台数が5倍以上になり、スキル要件の緩和によって採用人員を増やしたり、需要に応じて修理ラインの増強が可能な柔軟性を実現したりといった成果につながっているという。

群馬事業所

ビジネス向けPCでも攻めの商品作り

 製品力の強化は、「メーカーとしての1丁目1番地の取り組みになる」とし、「お客様やパートナーが求める製品を一緒に作り上げていく」と語った。

 飯田本部長は、「日本のお客様だけを対象にした事業を進めているNEC PCは、日本のお客様特定のニーズを解決する責任がある。持ち運びに適した軽さや、満員電車で移動する際に求められる堅牢性などは、日本ならではのニーズであり、国内において、企画、開発、調達、製造、販売、サポートまでを行なえるNEC PCだから作り込むことができる」とした。

 今回発表した新製品は、長時間バッテリ駆動を実現することで、電池切れの不安に振りまわされたり、充電器を持ち歩くため、カバンが重くてかさばるといった課題を解決したりといったように、日本で多いビジネスユースの課題にフォーカスしたモノづくりを行なっていることを示し、「どんな時でもフルパフォーマンスを発揮できる製品を作った。『止まらないあなたに、止まらないPCを』を提供する」と語った。

NEC PCが新たに発表した法人向けPC「VersaPro UltraLite タイプVY」

 NEC PCが新たに発表した法人向けPC「VersaPro UltraLite タイプVY」は、13.3型ディスプレイを搭載したモバイルノートPCで、重量は1kgを切り、このクラスでは世界最長のバッテリ駆動時間を実現したCopilot+ PCである。

 動画再生時には約20.1時間、アイドル時には40.2時間のバッテリ駆動を実現。東レ製のカーボン素材を採用することで軽量化を図っている。

 NECパーソナルコンピュータ商品企画本部本部長の森部浩至氏は、「約995gの軽量ボディに、1日のハードワークを余裕でこなす大容量バッテリを搭載した。外出先でPCを頻繁に利用するモバイルワーカー、オフィス内の多様な場所でオンライン会議を頻繁に行なうビジネスユーザーに最適なPC」と位置づけている。また、「個人向けPCでは攻めの商品づくりができていたが、ビジネス向けPCでは守りの商品作りだった。ビジネス向けPCでも攻めの商品作りに転換する」と語った。

NECパーソナルコンピュータ商品企画本部本部長の森部浩至氏

 詳細については別記事を参照してほしい。

AIであふれるデータの受け皿としてのPC

 なお、NECからNEC PCに移管した法人向けPCの販売組織は、教育分野向けのGIGAスクール端末も担当することになるが、NEC PCの檜山社長は、「GIGAスクール構想第1期と同様に、レノボ・ジャパンとNEC PCをあわせて、トップシェアを取りに行く」と意欲をみせた。

 NECブランドのGIGAスクール端末の商談も進めており、2025年度以降の入札に対しては、NEC PCの専任部門により、積極的に参加していくという。

 すでにGIGAスクール構想第2期の端末導入はスタートしているが、レノボ・ジャパンとNEC PCをあわせて、現時点で約3割のシェアを獲得していると見ている。

 また、NEC PCの檜山社長は、AIの登場によるPC市場の変化についても説明。「このタイミングだからこそ、体制を一体化したことに意味がある」とし、「AIの普及はまだ入口であり、これからはAIエージェントが登場し、日常の生活をサポートしていく。また、今年(2025年)は、AIエージェント同士がコミュニケーションを取る最初の年になる。A2A(Agent to Agent)の動きや、MCP(Model Context Protocol)によるエージェント同士の接続が可能になり、MicrosoftではWindowsやCopilotの上でMCPを搭載することを発表している。

AIの進化に伴うエッジAIのデータ分散化への対応

 NEC PCでは、調達から営業までを同じチームで対応することで、AIによるPC市場の変化に向き合い、お客様に価値を提供できる」とした。また、「MCPの登場などによって、AIが標準化することによって、データ通信量が増加し、データセンターでの電力消費も課題となる。あふれ出るデータの受け皿が必要であり、そこにPCの役割がある。1980年代に、メインフレームがダウンサイシングし、その受け皿としてPCが活用され、分散化していったように、AIによって分散化する流れが加速し、その受け皿がPCになる。NEC PCは、そこに向けて、どんなデバイスが必要なのかを1つのチームとして開発していく」と語った。