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“コスパでも絶対性能でも進化を続けるRadeon”を日本AMD森本氏が解説
~5GHzを達成した「FX-9590」も本邦初公開
(2013/6/28 00:00)
このところ、日本AMDの鼻息が荒い。古いビデオカードを同社製APUに交換してしまうというキャンペーンで大きな注目を集めたのは記憶に新しいが、その背景には、ソニーの「PlayStation 4」そしてMicrosoftの「Xbox One」という次世代ゲームコンソール機にAMD APUの採用が決まり、これがPCゲーム環境においても同社にとって追い風となっていることが少なからず影響しているようだ。そのあたりの事情を、同社マーケティングマネージャージャパン セールス&マーケティング本部の森本竜英氏にうかがった。
現在、同社がゲーミング向けに訴求しているのが、シングルGPUとしてハイエンドとなる「Radeon HD 7970」(以下、HD 7970)そして「Radeon HD 7970 GHz Edition」(以下、HD 7970 GHz)だ。HD 7970は2011年12月、HD 7970 GHzは2012年6月に発表ということで、すでに市場に出てから1年から1年半が経過している。競合のNVIDIAが直近にGeForce GTX 700シリーズの新製品を連続して出しているのとは対照的で、AMDはやや手をこまねいているようにも見える。だが、実態はそうではないと森本氏は指摘する。
GeForce GTX 770は、コアはGK104であり、2012年3月に発表されたGeForce GTX 680と基本的には同じチップを採用している。GTX 780はGK110という上位のコアを採用しているが、これもHPC向けのTeslaでは、やはり1年前に投入されたものだ。つまり、この1年でGPUのチップに変化がないのは、AMDもNVIDIAも同じということだ。
では、実際の性能はどうなのかというと、森本氏は、「Tomb Raider」、「Dirt: Showdown」、「Hitman: Absolution」、「Sleeping Dogs」といったタイトルで、HD 7970 GHzが同価格帯のGTX 770に対して1~2割程度性能が高いという検証結果を示した。
もちろん、各GPUは、それぞれ得意とするタイトルがあり、全てのゲームタイトルでHD 7970 GHzがGTX 770に勝るわけではないということに留意する必要がある。実際、過去に行なったレビューでは、GTX 770の方がHD 7970 GHzよりも良い結果となるものがあった。
ただし、その点を踏まえてもなお、森本氏はHD 7970 GHzがGTX 770に対する優位性を持つとする。その1つが、ゲームのバンドルキャンペーンだ。日本AMDでは6月8日より、Radeon HD 7000シリーズに各種ゲームをダウンロードできるクーポンを同梱する「ゲームはやっぱりAMD!」キャンペーンを実施している。もらえるゲームはGPUにより異なるが、HD 7900シリーズでは、「Crysis 3」、「Bioshock Infinite」、「Far Cry 3 Blood Dragon」という約1万5千円相当のゲームを無償でダウンロードできる(クーポンがなくなり次第キャンペーンは終了)。
もう1つが、Radeonの現行製品は、今後も強くなっていくという潜在性だ。発売から1年が経過し、その間にドライバがアップデートされたことで、同じゲームタイトルであっても、性能が改善されてきた。とはいえ、これはNVIDIAも同じ。森本氏が示唆するのは、最新ゲームコンソールのAMD APU採用によって、AMD製品への最適化が急速に進みつつあるということだ。
任天堂の「Wii U」そして、今後登場するMicrosoftのXbox One、ソニーのPlayStation 4は、いずれもRadeonコアを内蔵したSoCを搭載する。これらのゲームコンソールでの開発はPCで行なわれるわけだが、そのGPUドライバはもちろんAMDが開発している。そして、PlayStation 4とXbox Oneは、CPUもAMDのx86コアを採用しているので、今後コンソール用タイトルのPCへの移植性はさらに増すわけだが、そうしたタイトルが登場した時、それらはすでにRadeonへの最適化が済んだ状態で登場することになる。
これまで、どちらかというとNVIDIAと協業し、GeForceに最適化を行なうゲームベンダーが少なくなかったが、次世代機へのAPU採用で一気に風向きは変わり、ゲームベンダーからAMDへ協業を依頼してくるということも、にわかに増えてきているのだという。前述のキャンペーンバンドルタイトルも、最適化が図られたものだ。
次世代機のタイトルではないが、Tomb Raiderでは、AMDが開発したさらさらヘアを表現する「TressFX Hair」という技術が実装されたという事例もある。
さらに、CrossFireへの最適化を行なうベンダーも多くなってきている。これまで、CrossFireに最適化されたタイトルは1つ2つ程度しかなかったが、DirectX 11ではCrossFireによるスケーリングの効果が高いこともあり、今後登場する超ビッグタイトルでも、CrossFireに特化した最適化が図られるという。
つまり、HD 7970は枯れたハードではあるが、この先もゲーム側の対応によって、競合に対する優位性をさらに増すというわけだ。
4K表示についても、Radeonは優位だという。森本氏は、競合製品ではDisplayPortで特定のディスプレイに繋いだ際、4Kでは60Hz表示ができないが(6月26日現在)、Radeonは、かねてよりEyefinityで培った技術を活かし、4Kで60Hzを問題なく表示できるとしている。
そういった追い風に乗るべく、日本AMDでは積極的にキャンペーンやイベントを行ない、製品の訴求を図っていく。前述のクーポン同梱以外では、GPUではないが、同社は5月末に、古いビデオカードを同社に送るとA10 APUがもらえるというキャンペーンを実施した。森本氏は、当初、2週間くらいで1,000通の応募があれば良いかくらいに考えていたようだが、蓋を開けてみれば、サイト公開からたったの2時間で応募が1,000通に達したのだという。予想を上回る反響だったので、その第2弾というのも検討しているそうだ。また、これは日本独自のキャンペーンだったのだが、反響は海外にも波及し、AMD韓国でも実施を決定したという。
このほかにも、7月から9月にかけて、Radeon購入者を対象とした、「パーティイベント」を企画しているそうだ。まだ、詳細は決まっていないが、Radeonを購入して、パーティに参加したら、なぜか帰りにAPUを持たされていた、というような検討中の内容を森本氏はほのめかしてくれた。
こういった日本独自のキャンペーンなどを立て続けに行なう背景には、もちろん競合との競争もあるのだが、AMD全社での組織変更により、日本がAPAC地域の傘下に入ったことで、日本側の声が通りやすくなったことが寄与しているのだという。また、AMD本社において、世界的に見てハイエンドユーザーの割合が多い日本市場に対して、テコ入れをする必要があるという認識が出てきていることもあるそうだ。
ここまでは、既存製品の話だが、新製品では、最大5GHz(Turbo時)での駆動を実現した「FX-9590」の話題が先日注目を集めた。これについては、まだ、発売時期も価格も未定だが、日本での投入の予定はあるという。ただし、今のところCPU単体での発売は予定がなく、PCに組み込まれた形で発売されるそうだ。
そして今回森本氏は、そのFX-9590の実物(エンジニアリングサンプル)を見せてくれた。実は、FX-9590は先にアメリカで開催されたE3 2013の同社ブースで、実動デモが行なわれていた。なんと森本氏は、そのシステムからCPUを引き抜き、さらっと日本に持ち帰ったのだという。今回は写真のみだが、日本にまだ1つしかないFX-9590をここに紹介したい。
「紳士」のあだ名で親しまれている森本氏だが、なにやら、いろいろとやんちゃなイベントもあれこれ考えているようなので、ユーザーとしては続報を期待して待ちたいところだ。