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AMD、2015年までに日本のGPU市場でシェア50%超を目指す

 この度、AMDアジアパシフィック/日本(APJ)地域担当副社長であるデイビッド・ベネット氏が来日したタイミングでインタビューする機会を得た。ベネット氏は本社勤務の前に、日本AMDで2年間働いていたこともあり、日本市場への理解や関心も高い。そのベネット氏は、2015年までに日本における同社のGPUのシェアを50%超にまで引き上げたいと豪語する。インタビューにはコンシューマー事業部マーケティングマネージャー森本竜英氏にも同席頂き、GPUを中心に話を伺ってきた。

AMDデイビッド・ベネット氏

 現在AMDでは、世界をAPJ(日本、韓国、印度、東南アジア、オーストラリア、ニュージーランド)、中国(中国、香港、台湾)、EMEA(欧州および中東、アフリカ)、北米(アメリカ、カナダ)の地域に分け、営業を行なっている。

 ベネット氏は2007年に日本AMDに入社。2年後に故郷であるカナダへ異動となり、コンシューマビジネスを担当。カナダは旧ATIのお膝元ということで、AMD GPUの人気は高く、ATI時代から50%以上のシェアを維持しているという。その後、米Hewlett-Packard(HP)のグローバルアカウント担当を経て、2014年1月からシンガポールに異動し、現在の役職に就いている。

 AMDは6月にCOMPUTEXで法人向けのAPUブランド「PRO」を発表したが、法人向けノートPCでのAMD APUの採用数は日本が2番目に多いという。また、コンシューマ向け製品でも、ローカルOEMとの折衝は重要であるため、ベネット氏は1カ月1回程度の頻度で来日しているのだという。

ゲームコンソールでの採用を勢いにMantleやHSAも訴求

 AMDは7月18日に第2四半期の決算を発表した。これによると、PlayStation 4やXbox OneにカスタムSoCが採用されたことで、2013年から業績が大きく回復した。PC市場からは、ゲームコンソール市場は別のフィールドに見えるが、ゲーミングコンソールでのAPU採用は、PCゲーマーにも恩恵をもたらすとベネット氏は説明する。

 というのも、昨今のゲーム開発はマルチプラットフォームを採用するが、最初に開発を行なうのはゲームコンソールであり、ここでAMDアーキテクチャに最適化がされているため、後にPCに移植された際に、その優位性が発揮されるからだ。

 ゲームに関する話題としては、Mantleも業界で注目を集めている。Mantleはまず超メジャーフランチャイズの最新作である「Battlefield 4」で採用。従来のDirectXよりも、ハードウェアに近いAPIであるため、これを利用することで性能が45%も向上する。

 まだ、対応タイトル数は少ないものの、現時点でEAの「Frostbyte 3」、Oxide Gamesの「Nitrous Engine」といったゲームエンジンが対応しているほか、Crytekの「CryEngine」も対応を表明しており、今後対応タイトルは着実に増えていく見込みだ。

右は日本AMD森本竜英氏

 日本AMDでも、スペシャルチームを結成し、6月からソフトウェアベンダーに対して全国でセミナーを行なっている。非常に感心は強く、2~3時間程度のセミナーの時間が2倍に延長されることもざらだという。これには、実装が簡単なこと、性能が飛躍的に上がること、そしてAMDのアーキテクチャがゲームコンソールにも採用されているというのが寄与しているそうだ。日本からも遠からず対応ゲームが登場の見込みだという。

 なお、業界標準のDirectXもバージョン12で、Mantleのように抽象性を薄め、ボトルネックを解消する方向性を打ち出している。同等の性能/仕様である場合、基本的にメーカー独自より業界標準技術の方が分がある。これについて、AMDではMantleは今すでに利用できるという優位性を強調する。「Tomb Raider」で採用された髪の毛をリアルに表現する「TressFX Hair」技術のように、ソフトウェアベンダーがゲームの差別化に利用するのにも好適だとしている。

 また、同社はDirectX 12登場以降もMantleを訴求していく予定だが、実装が容易であるため、ソフトウェアベンダーにとっては両方に対応させたとしても、その負荷は少ないとしている。さらに、MantleはAMDの専売特許のように思われるが、競合他社による対応が必要となるものの、NVIDIAのCUDA同様、その中核部分はAMD以外のGPUでも理論的には利用できるため、DirectX 12とMantleは併存していく可能性もある。

 Mantleと並んでAMDが今、業界に対して広く採用を呼びかけているのがHSAだ。「Kaveri」でサポートされたHSAは、CPUとGPUを統合したプログラミングフレームワークで、これによりRadeonコアでのGPGPUの活用が劇的に容易になる。GPGPUというと、HPC(High Performance Computing)などスパコン的な用途が思いつくが、物理演算や映像処理など一般ユーザーにも広く恩恵がもたらされる。

 こちらはMantleと違って、対応ソフトが出てくるのは概ね1年ほど先と見られるが、HSAに向けた開発を行なうHSA Foundationには、AMD以外に、Imagination、ARM、Samsung、Qualcomm、TI、MediaTekといった主要なSoCメーカーが加盟している。中でもQualcommとMediaTekはすでにHSA対応チップの開発を表明しており、将来性が有望視されている。

 ゲームで最重要視されるのはレンダリング性能だが、映像の品質も見逃してはならない要素だ。その点で最近注目を集めているのは4Kだろう。映画などの映像分野ではまだ4Kネイティブのコンテンツは非常に少ないが、PCゲームの世界ではすでに4K対応がなされており、液晶ディスプレイの価格が下がってきたことで、にわかに脚光を浴びている。

 AMDでは2世代前の製品から4K出力に注力しており、マルチディスプレイによる4K超の解像度すら対応可能だ。動画についても、OpenCLあるいはHSAを利用したGPGPUエンコーダが開発中となっている。

 余談となるが、最初AMDが独自に規格化していたGPUとディスプレイのリフレッシュレート自動同期化技術は、標準規格としてDisplayPort 1.2aに採用されることが決まった。これについては、GPUでは「Radeon R9 290/R9 290X/R7 260/R7 260X」が対応予定で、今後の新製品は全てこの機能に対応する。ディスプレイパネルは今後対応が広まる見込みという。

 同社では未発表の製品についてコメントをしないが、2015年登場予定のSoC「Project SkyBridge」について話を聞くことができた。

 SkyBridgeは現時点では1つのコードネームだが、x86と64bit ARMの2種類が存在し、それぞれピン互換となっているという他に類を見ない特徴を持つ。高密度サーバー、組み込み、セミカスタム化分野、超低消費電力クライアント分野などが想定ターゲットとされる。

 まだ細かい仕様は明らかにされておらず、例えば両者で同じスペックのGPUコアを積むのかといったことは分からない。ただし、例えばルーター用途ならARMというように、Windows機器なら必然的にx86というように、基本的にはそれぞれのアーキテクチャが持つ利点を活かした市場に投入される見込み。

 自作ユーザーとしては、これが「Kabini」がソケット型SoC「Athlon」、「Sempron」シリーズとして投入されたように、一般ユーザーが換装して自作ARM PCを作ったりできるようになるのか気になるところだが、この問いに対してベネット氏は、その可能性はゼロではない、と答えてくれた。

日本市場でシェア5割奪還を目指す

 日本市場でのAMDの情勢はどのようなものなのか? 日本は米国、韓国と並び、比較的にハイエンドGPUが売れる傾向にあるという。直近のハイエンド製品としては「Radeon R9 295X2」があるが、ベネット氏は日本での同製品の売り上げに満足しているという。また、先端製品についても、Kaveriは登場後すぐ売り切れとなってしまったように、出足は良い。

 しかし、最も数が出て、売上の柱となるのはメインストリームとその上の位置付けとなる製品だ。現在のRadeonでいうと、「R7 250」や「R7 250X」あたりの製品について、ユーザーのニーズに合致する製品は用意できているのに、その訴求がうまくできておらず、課題となっている。今後はこのあたりに注力していくという。

 3~4年前の同社の国内GPUシェアは5割近かった。しかし、BCNのデータによると、現在では2割弱程度にまで下がっているという。その原因についてベネット氏は、マーケティングよりもセールスに注力した点や、過去数年の営業の仕方に問題があったと内省する。だが、製品の性能や価格を考えれば、シェアは50%を超えていないとおかしいとベネット氏は話す。ゲームコンソールでの採用といった追い風などをうまく訴求することで、2015年にはシェア50%を奪還するとベネット氏は意気込む。

 だが、日本のゲームトレンドは欧米や韓国とは異なる。海外のキャンペーン戦略をそのまま持ってきても、必ずしもうまくいくとは限らない。その点はAMDも把握しており、日本独自の施策を打っていく。

 その1つとして、AMD製品へのスクウェア・エニックス「ドラゴンクエストX」バンドルが計画されている。すでに両社は協業を始めており、ドラゴンクエストXは、AMD APU/GPUへの最適化が日々行なわれている。バンドル計画の詳細はまだ明らかにされていないが、まずはミドルレンジのAPUに、その後GPUにバンドルされることになりそうだ。これは日本のみの施策となる。

 また、これは2013年のことだが、競合製品を含め古いビデオカードを送ると、当時最新のA10 APUに無償で交換するという非常にユニークなキャンペーンを行なったのも記憶に新しい。これも、米国本社の許可を得て、日本独自に行なったものだ。このほかにも、直近ではA10-7800が日本で先行発売されるという事例もあった。

 こういったことを行なうのは、AMDにとって日本市場が、アジアだけでなく全世界の視点から見ても、非常に重要と捉えられているからにほかならない。例えば、元々モバイル機器向けである「Athlon 5350」などのSoCが自作市場向けにソケット型で登場したのは、同社ワールドワイドマーケティング担当副社長のレスリー・ソボン氏が、国内のパートナーやショップからヒアリングを行ない、そこからのニーズとして上がってきたものに応えた結果なのだ。それほど同社は日本市場の意見に真剣に耳を傾けている。

 ベネット氏は、今後もこういった日本独自の施策を交えながら、同社製品の良さを理解してもらうべく、活動を行なっていきたいとしている。

(若杉 紀彦)