ニュース
Premiere ProがAI動画生成に対応。トランジションなどを自動で作れるように
2024年10月15日 16:09
Adobeは10月14日~10日16日(米国時間)に、Creative Cloudの年次イベント「Adobe MAX」を、米国フロリダ州のマイアミビーチコンベンションセンターにおいて開催している。初日となった10月14日午前には、同社 CEO シャンタヌ・ナラヤン氏など幹部が登壇する初日基調講演が行なわれた。
この中でAdobeは、同社の生成AIモデルの動画版となる「Firefly Video Model」、およびそのFirefly Video Modelを搭載した最新版のPremiere Proなど、Creative Cloud関連の新機能などを発表するとともにデモした。
新しい技術、信頼されること、社会との対話の3つが生成AIの導入で重要
Adobe MAXは、例年LACC(ロサンゼルスコンベンションセンター)で開催されてきたが、本年は2017年のラスベガス以来、7年ぶりにロサンゼルス以外の場所で開催されることになった。本年の会場は、フロリダ州のマイアミビーチコンベンションセンターとなる。
マイアミビーチのあるフロリダ半島は、まだ雨期の時期で、前週にはハリケーン「Milton」(ミルトン)が通過したばかり。マイアミとは反対側のタンパ市などで被害が出るなどした。一時は開催が危ぶまれたが、マイアミビーチそのものは被害が軽微だったということで、無事予定通り開催されることになった。
10月14日の午前中には、同社 CEO シャンタヌ・ナラヤン氏ら幹部が登壇し、Creative Cloudの戦略に関して説明を行なった。
近年のAdobeは、2023年3月のAdobe Summitで発表した生成AIモデル「Firefly」の強化をCreative Cloud戦略の中心に置いている。今回のAdobe MAXでもそうしたFireflyに関するアップデート、そしてPremiere Pro 、Photoshop、Lightroom、Illustrator、After EffectsなどCreative Cloud製品向けの生成AIを使った多数の新機能が発表されている。
ナラヤン氏は「生成AIが登場したことで、多くのビジネスが転換期を迎えている。Adobeもそうした生成AIのパワーを理解して、メジャーなシフトをしている段階だ。新しい技術、そしてそれを提供する上での信頼されること、社会との対話という3つの基本的な方針をもち、生成AIの機能を提供している」と述べ、3つの基本的な方針を重視しながら生成AIの導入を進めていると強調した。
その上で、社会との対話という意味もあり、今回のハリケーンの被害に遭った地元や、地元のクリエイターコミュニティの再建の手助けになるように、従業員とAdobeとの合計で100万ドル規模の寄付をアメリカ赤十字などに対して行なったことを明らかにした。
生成AIは人間を置き換えるものではない。むしろクリエイターの仕事は増える
Adobe デジタルメディア事業部門担当上席副社長 兼 CBO(最高事業責任者) デイビッド・ワドワーニ氏は、同氏が統括するCreative Cloud部門の戦略などに関して説明した。
ワドワーニ氏は「生成AIはクリエイターの生産性を向上させ、その活動の範囲を広げていく。我々の目的はクリアであり、生成AIは人間を置きかえるものではなく、クリエイターを助けるものだ」と述べ、生成AIは人間であるクリエイターを助けて生産性を向上させるものだと強調した。
その上で2年以内にデジタルコンテンツの需要が5倍になり、クリエイティブに関連した雇用は2倍になると予想を示し、生成AIによりクリエイターの生産性は上がり、さらにデジタルコンテンツへの需要が増えるので、むしろクリエイターの雇用が増えると述べた。
ワドワーニ氏はAdobeが生成AIを構築する上で、以下の4つの基本ルールがあると説明。これにより、Adobeの生成AIで生成したコンテンツは安心して商用利用ができると強調した。
- AIモデルの学習はパブリックドメインないしはAdobeのストックサービス「Adobe Stock」で学習を許可されたコンテンツのみであること
- 学習に活用したStockのコンテンツ所有者に何らかの利益があること
- 顧客のコンテンツでは学習を行なわないこと
- インターネット上のコンテンツは学習に利用しないこと
その上で、同社が独自に開発して、自社製品向けに展開している生成AIのファウンデーションモデル「Firefly」の拡張に関して説明した。Adobeは、2023年3月にFireflyを発表してから、静止画向けの「Firefly Image Model」、ベクター向けの「Firefly Vector Model」(今回から正式版に昇格)、デザイン向けの「Firefly Design Model」など、用途別に複数のファウンデーションモデルを開発して投入してきた。
今回のAdobe MAXでは最新の「Firefly Image 3 Model」が発表され、従来のFirefly Image 2 Modelに比較して最大4倍の速さで画像生成が可能になることが明らかにされたほか、新たなモデルとなる「Firefly Video Model」が発表された。
Firefly Video Modelは「生成拡張」(Generative Extend)、「テキストから動画生成と画像から動画生成」(Text to Video & Image to Video)などの機能を備えており、トランジション(動画と動画のつながり部分)でクリップを拡張して映像のギャップを埋めるなどの機能が利用できる。
Premiere ProはAI映像生成が可能に。3D版Illustratorとも言えるProject Neoも登場
Adobe 上級副社長 兼 クリエイティブ製品事業部 事業部長 アシュレイ・スティル氏はCreative Cloudの各製品の新機能に関して説明した。Premiere ProとFrame.io、Photoshop、Illustrator、Express、Lightroomなど各製品の新機能に加え、新しいベータ版の製品として「Project Neo」が紹介された。
Premiere Pro
今回のAdobe MAXで一番強調されていたのがPremiere Proだ。Premiere Proは、Adobe Firefly Video Modelが生成AIのエンジンとして実装され、「生成拡張」(Generative Extend)、「テキストから動画生成と画像から動画生成」(Text to Video & Image to Video)といった機能が利用できる。
デモでは生成拡張の機能を利用して、クリップとクリップの間のトランジション(移行部分)をFireflyが生成し、自然に動画をつなげてくれる様子が実演された。これまでであれば、動画の編集者がそのトランジション部分をマニュアルで作っていたと考えると、それを自動で生成してくれる機能は非常に生産性が高い機能だと言える。
この生成拡張は、現在Premiere Proのベータ版で利用可能で、Creative Cloudを契約しているユーザーであれば、Creative Cloudアプリの「ベータ版アプリ」からPremiere Proのベータ版をダウンロードすることで利用できるようになる。
また、Snapdragon XベースのCopilot+ PCへの対応に関してもアップデートが行なわれた。すでにAdobeは、Armネイティブ版としてPhotoshop、Lightroomの2つのアプリを、それ以外にx64からのエミュレータ版としてAcrobat、Illustrator(ベータ版)、InDesign(ベータ版)が提供されている。最近では、いずれもエミュレータ版となるが、Premiere Pro(バージョン23.6.8)、Media Encoder(バージョン23.6.8)の2つが提供開始されている。
Adobeのスティル氏はNPUへの対応について、「Premiere Proは、AdobeのソフトウェアでNPUをサポートする最初の製品になる」と述べた。スティル氏はそれをArm版やApple Silicon版に限っていないので、x86版も含めたNPU対応となる可能性が高いが、現時点でAdobeがどのISAで最初にNPUをサポートするのかは明らかにしていない。
Frame.io
Frame.ioは、Webアプリのバージョンが上がって「V4」へと進化し、よりレビューなどがやりやすくなっているほか、カスタムメタデータの機能をサポートし、必要なコンテンツをより容易にグループ化してコレクションの作成を行なえる。
また、デジタルカメラからFrame.ioに直接静止画や動画をアップロードする機能である「Camera to Cloud」に、新しくキャノン、ニコン、ライカの3社が参加する計画であることが発表された。現時点ではどのモデルで対応するのかは明らかになっていないが、将来的にはFrame.ioのCamera to Cloudが提供するAPIを、カメラ本体側のファームウェアがサポートすることで、デジタルカメラで撮影した画像や映像を直接Frame.ioにアップロードできる。
さらにその先では、Frame.ioからLightroomへ写真や映像などを出力することも可能になっており、撮影した写真をすぐにLightroomで編集したいというニーズに対応できるという。
Photoshop
「不要な物を検出」(Distraction Removal)は、電柱や電線などを自動で認識して削除する機能。デモでは複雑な電線の写真なども電線だけをきれいに消すことに成功していた。また、ベータ版の生成ワークスペース(Generative Workspace)ではデザイナーがアイデア出しをしたり、コンセプトを考え直したりといったことが可能になる。
不要な物を検出は本日より、新しいPhotoshop(V26.0)で提供される。生成ワークスペースなどのベータ版機能はベータ版のPhotoshopで提供されることになる。
Illustrator
「パス上オブジェクト」(Objects on Path)は、Illustratorのアートボード上で任意のパスに沿ってオブジェクトを素早く吸着、整列、移動できる機能。Firefly Vector Modelを利用した「生成塗りつぶし (シェイプ)」(Generative Shape Fill)の機能では、さまざまな形状の物体にベクターデータを素早く追加することで、クリエイターの生産性を向上させる。
これらの新機能は本日より、新しいIllustrator(V29.0)で利用可能になっている。
Illustratorの3D版とも言えるProject Neo
Project Neoは、2023年のAdobe MAXのSneaks(Adobeの研究者が開発中の機能を紹介するセッション)で紹介したアプリケーションで、ベータ版ソフトウェアとして提供が開始されると明らかにされた。
Project Neoは簡単に言えばIllustratorの3D版といったもので、3Dの物体をベクターで描画できる。Project Neoで作成した3DデータはそのままIllustratorに読み込み可能で、Illustrator上のベクター画像として活用できる。
こちらは今後、限定のベータ版ないしはベータ版アプリとして提供される。
Lightroom
Lightroomは、Windows版やmacOS版がバージョン8.0に、Android版とiOS版がバージョン10にアップデートされるなど、デスクトップ版、Web版、モバイル版のいずれもバージョンアップされている。
いずれのプラットフォームでも動作速度が改善されたほか、「クイックアクション」と呼ばれる写真の内容に合わせて肌のなめらかさや背景のボケを調整する機能などに対応している。
Lightroomの新機能は、新しいデスクトップアプリやモバイルアプリで利用可能になっており、Creative Cloudないしはモバイルアプリのストアなどから更新版として入手可能だ。
デジタルキャンバスに動画や画像を置いてアイデア出しなどに使える「Project Concept」
Adobeはこれ以外にも、よりライトなクリエイターツールになるExpressも更新している。ExpressはWebベースのクリエイターツールで、AIを使った新機能を搭載することで、企業のアセット管理などが容易になり、ブランドイメージを守りながら、クリエイターではないマーケティング担当者などがデジタルコンテンツを容易に加工して展開できるようになる。
また、3月のAdobe Summitで発表されたGenStudioは、企業でデジタルコンテンツのアセット管理をクラウドベースで行なうツールになる。「Adobe GenStudio for Performance Marketing」はその中でも、デジタルマーケティングを展開する企業やビジネスパーソン向けのツールで、アセットの管理から広告への展開、そしてその効果の測定などが一括で行なえる。
Google Campaign Manager 360、Meta、Microsoft Advertising、Snap、TikTokなどのWeb広告プラットフォームとも連携でき、より効率の良いデジタルコンテンツの作成ワークフロー、評価、広告展開までを一貫して行なうことが可能になる。
講演の最後には、コンテンツの作成に利用できるデジタルキャンバス機能「Project Concept」のデモが行なわれた。
このProject Conceptは大きさなどに制限のないキャンバスになっており、そのキャンバスの上で静止画、動画、音声などさまざまなコンテンツを置いておき、複数の複数のユーザーがそれを同時に編集できるようになっている。浮かんだアイデアをそのキャンバスにコンテンツの形で置いておくことで、組織内のチームが皆でアイデア出しするといったことが可能になる。現時点では先行公開での限定ベータとして提供される。