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「人の仕事の3割はAIに任せられる世界がくる」Dell Technologies Forum 2024 - Japanレポート
2024年10月8日 16:20
デル・テクノロジーズは3日、カンファレンスイベント「Dell Technologies Forum 2024 - Japan」を都内で開催した。
例年、ITトレンドやテクノロジー、ソリューションの企業導入事例などを紹介しているイベント。今年は「AI Edition」と題してビジネスにおけるAIの活用を念頭に、AIを用いた生産性の向上やデータマネジメント、エッジコンピューティング、セキュリティ、インフラ、プラットフォーム設計など多岐にわたるテーマについて議論するセッションを実施した。
本記事では基調講演の模様をお伝えする。
データはAIの燃料そのもの。オンプレミスへの回帰も進む
デル・テクノロジーズ株式会社 代表取締役社長の大塚俊彦氏は、ビジネスにおけるAI活用に関して「生成AIへの期待と現状」「People-Firstアプローチ」「差別化要因としてのデータ」の3テーマに言及。同社独自の調査結果を交えつつ、現状と課題を整理した。
調査によれば、AIおよび生成AIが業界を大きく変えると回答した企業はグローバルで80%、日本国内では70%に到達しており、多くの企業が期待を寄せているとした。
また調査対象のうち、AIの導入を進めている企業の割合はグローバルで57%、日本では66%といずれも過半数に達しつつも、AI活用の観点では、生成AIの進歩スピードに追いつくことに苦労している企業は国内で65%となっており、活用の意向はありつつも、キャッチアップの部分で課題を抱えている現状を報告している。
「People-Firstアプローチ」は、AIの活動が人々の生産性を高める一方で、人間にしかできないことに集中して生産性を向上する視点のこと。AIの導入によって生産性が飛躍的に向上したと回答した企業はグローバルで79%、日本国内では62%となっている。生産性を向上するために必要なスキルとしては「新たな学びへの意欲」「AIの活用力」「クリエイティブな発想力」の3つを挙げた。
「テクノロジーの進化に合わせて、我々も常に新しいことを学び続けることが重要です。とりわけAIの活用に関しては、どのようなビジネスの領域/プロセスで最も高い効果を生み出せるのかを把握できるか。多くのユースケースを学び、活用力を養うことが求められます」(大塚社長)
大塚社長は講演の中で、オンプレミス/エッジにおけるデータは差別化要因であり、同時に「AIの燃料そのもの」であると位置づけている。その管理と保護については、ほとんどの企業がオンプレミスもしくはクラウドとのハイブリッド環境でのデータ活用を検討しており、セキュリティの重要性を認識しているとした。
一方で、データをリアルタイムのインサイト(役立つ形での知見)に変換できている企業はグローバル/日本ともに約30%程度にとどまり、多くの企業では現状、データの価値をフルに活用できているとは言えないと話した。こうした現状を受け、AIにおけるデータの活用を促進する形態として「データのあるところにAIを持っていくこと」を提案している。
AIの導入を加速する5つの原則
Dell Technologies グローバルチーフテクノロジーオフィサー&チーフAIオフィサーのジョン・ローズ氏は、AIの導入に先立って留意すべきポイントや、AIがもたらす業務の変化などについて解説した。デルが提供している「Dell AI Factory」も紹介している。
ローズ氏によれば、産業用途でAIを使うことによって起こる変化は「考える仕事を機械に任せられる」ことだという。これまで人間が創造性を発揮して判断/思考することで成立していた仕事は、近いうちにも全体の20~30%が機械に任せられるようになると予想。いずれはAIによってパーソナライズされたコンテンツやバーチャルアシスタントが提供されたり、ソフトウェアが自動的に作られたりすることが当たり前になり、結果としてAIは、企業や社会の中心的なものになっていくのではないかとの見解を示している。
AIに特有の現象としては「進化するスピードの速さ」を挙げた。広く活用が進んでいるLLMやSLM、RAGやAIエージェント、AI PC、ベクトルデータベースといったツールのほとんどは直近の数年で急速に普及したものであり、これはコンセプトだけではなく、それを支えるテクノロジーも速いペースで世に出ていることを意味していると話した。
こうしたスピード感を念頭に、AIの導入を加速する5つの原則を挙げている。
1つ目は「データは差別化要因である」こと。AIはツールであり、AIが生み出す価値の根幹にはデータがあるとした。特に企業が持つデータのほとんどはオンプレミス環境にあり、意思決定の観点でもデータについて慎重に考えることはきわめて重要だと強調している。
2つ目は「AIをデータのある場所に持っていく」こと。データの移動は特に費用と時間を消費することから、スピード感を持ったAIの導入と運用に適切ではない。データが社内にあるならば、それを処理するコンピューティング資源もまたオンプレミス環境に構築すべきであるとした。
ローズ氏によれば、高性能なAIを運用/構築したい場合、すべてのワークロードに当てはまるわけではないものの、データはオンプレミスに置いた方が結果的にコストパフォーマンスが良くなるケースが多いとしている。
3つ目は「IT規模の適正化」。今後3年でほとんどのほとんどのコンピューティング資源はAIワークロードとして使われることになるだろうとの予想がされており、AIインフラの規模や企業の在り方は変化を迫られるという。これに対応するため、今のうちから自社のITインフラ上でAIを使い、どのように利益を出すかの着地点を想定しておく必要があるとしている。
4つ目は「オープンなアーキテクチャの利用」。AIが今後数年の間にどう変わっていくかは予測できないが、いくつもの技術革新が起きることは予想できる。そのような変化を見据えたうえで今やっておくべきことは、ベンダーロックイン(特定の製品やサービスから移行しにくい状態)を防ぐことだという。
AIのコアシステムを作るときに1つの製品やサービスに依存してしまうと、それがその時点でどれほど良いものであったとしても、いつか行き詰まる可能性がある。これを防ぐために、オープンなアーキテクチャを利用して柔軟性を担保することが必要だという。
5つ目は「オープンなエコシステム」。将来の予測は誰もできないが、1社だけですべてのAIニーズをカバーできる企業は存在しない。多くの企業が一体となってAIを盛り上げて行くことが必要となると話した。
また、これら5つの原則に加えてデータセキュリティや信頼性、さらにサステナビリティの観点では消費電力や冷却性能も考慮する必要があり、これらを総合的に考慮してAIの導入を加速するガイドラインの作成を進めるよう呼びかけた。
デルが顧客企業に対してAIの導入促進を図る施策の1つが、5月に発表したDell AI Factoryだ。AIの導入や開発に必要なインフラや各種ソリューション/サービスをまとめて提供する。顧客企業は「どのモデルがいいのか」「どのサーバーを使うべきか」「どのようにインフラを構築するか」などを考える必要なく、複雑性が排除された状態で、AIアプリケーションの構築を行なうことができる。
このほかAI PCについても言及しており、データセンターのワークロードをクライアントに分散できることを大きな優位点として挙げた。
NTTデータやKDDIなどによる生成AIの活用事例も紹介
続いてのパネルディスカッションでは、株式会社NTTデータ グループグローバルイノベーション本部Generative AI推進室室長の本橋賢二氏とKDDI株式会社 経営戦略本部DATA&AIセンター長の木村塁氏が登壇。大塚社長を交えて、主に生成AIの活用や推進状況をテーマに議論が行なわれた。
ここでは両社による生成AIのユースケースが紹介された。KDDIではカスタマーサポートへの活用を実施したといい、AIによる自動対応によって顧客の待ち時間を短縮したほか、サポート対応可能時間の拡大などが可能になったという。
一方のNTTデータでは「パーソナライズ」の観点から代表的な事例を紹介。化粧品会社の日本ロレアルとの取り組みでは、AIが顧客の購買履歴や特徴を学習し、チャットボットの形で提供。これまで販売員が売り場で行なっていたことを代替し、購買につなげているという。
また、ライオンの事例として、技術伝承に役立てたユースケースを紹介した。ここではドキュメントのない暗黙知にあたる職人技をAIに学習させてマニュアルに加えることで成果を出したと話した。