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なぜパナソニックはCESの基調講演に再び戻ってきたのか?CTAファブリツィオ会長に聞く

パナソニックグループ グループCEO 楠見雄規氏(左)とCTA 会長 キンゼー・ファブリツィオ氏(右)

 例年1月に米国ネバダ州ラスベガス市で開催されているCESは、世界最大のデジタル関連の展示会として、そしてその年に発表/発売される製品がお披露目される場として知られる展示会だ。PC製品に関しても、その年向けの新製品の多くがCESに合わせて発表されることが多いため、PC Watchでも多くのCESリポートが上がっており、読者の皆さまにとっては馴染みのある風景だろう。

 CESを主催しているのはCTA(Consumer Technology Association、全米民生技術協会)という米国の業界団体だ。そのCTAは、10月1日に東京都内で記者会見を開催し、2025年1月7日から開催予定であるCES 2025の初日基調講演に、パナソニックグループ グループCEO 楠見雄規氏が登壇すると明らかにした。CTAの会見には、CTA 会長 キンゼー・ファブリツィオ氏が登壇し、CES 2025の見どころなどを説明した。

CES 2025はコロナ禍後で最大規模の見込み。新しい注力分野は量子技術

2025年のCESのスローガンは「DIVE IN」。直訳すると「飛び込もう」だが、意訳すると「さぁ一緒に行こう」といったところか

 CTAはもともとラジオを製造するメーカーの業界団体としてスタートしたが、80年代から90年代にはTVやAV機器、90年代後半からデジタル、その後はITなど、新しく成長してきた産業を取り込んで成長してきた歴史がある。それまではCEA(Consumer Electronics Association、全米家電協会)というのが名称だったのを、2015年に現在のCTAへと変更し、今に至っている。

CTAとCESは2024年にロゴを変更している、CES 2025はこの新しいロゴの下で行なわれる

 そのCTAが主催する世界最大のデジタル技術向けの展示会CESも、従来はConsumer Electronics Show(家電展示会)という名称の略称とされてきた。本来であればCEAがCTAに名称が変更されたタイミングで、Consumer Technology Show(一般消費者技術展示会)とでも改称されればよかったのだろうが、すでにCESというブランド名称が普及していたこともあり、「CESはCESであって、もはやConsumer Electronics Showの略称ではない」という説明がされるようになって今に至っている。

 ちなみに読み方については、CESはかつて「セス」と呼ばれる事もあったが、現在CTAの公式は「シーイーエス」と読んでいる。

 そうしたCES 2025は、2025年1月7日に会期初日を迎える。しかし、実際にはその前々日と前日(5日と6日)が報道関係者向けのプレスデーに設定されており、特に1月5日には出展社のうち数百社が集まって目玉となる展示物を報道関係者に公開する恒例の「CES Unveiled」が開催される予定だ。

CTA 会長 キンゼー・ファブリツィオ氏

 CTA 会長 キンゼー・ファブリツィオ氏は、現時点では確定的なことは言えないが、来年のCES 2025は本年を上回る規模で行なわれる可能性が高いと示唆した。まだすべての出展社などが決まっていない段階でそう言えるのには根拠があり、「昨年、一昨年と改装中で使っていなかったサウスホールがCES 2025では展示ホールとして復活する。サウスホールはアクセサリーの展示が中心となり、ほかにもケーブルメーカーなどが出展する予定だ」と述べた。

LVCCのウエストホール、自動車関連専門のホールとなっている(CES 2022で撮影)
奥の左建物がノースホール、右側がセントラルホール(CES 2023で撮影)
閉鎖されていたサウスホール(CES 2022で撮影)

 CESのメイン会場であるLVCC(Las Vegas Convention Center)にはウエスト、ノース、セントラル、サウスの4つのホールがあるが、2022年から使われている新しいウエストホールは自動車向けで、フィンテックやクラウドなどのベンダーが出展しているノースホール、ソニーやパナソニック、Samsung Electronics、LG Electronicsの大手メーカーが毎年出展しているセントラルホールなどは例年通りの展示となる見通し。

 スタートアップやスマートホーム、スポーツテックなどが結集するVenetian Expoもこれまで通りの予定で、シンプルにサウスホール分が増えたことになる。このサウスホールは、1Fと3Fが展示ホールになっており、かなり巨大な展示会場なので、そこが展示ホールとして復活することで、展示面積が大きく増えるのは間違いないだろう。

CESでの注目産業領域

 ファブリツィオ氏によればCES 2025では、AI、デジタルヘルス、エンタープライズ(フィンテックやクラウドなど)、エンターテインメント/カルチャー(音楽や動画配信など)、スマートホーム、持続的成長性/スマートシティー、交通/モビリティ、量子技術などが注目分野になっており、CTAでは特に量子技術を成長する分野の1つに挙げている。

 「量子技術に関しては非常に多くの可能性がある。それを活用することで医療や交通などの既存の産業を変革するポテンシャルがあり、将来的には人間の宇宙進出に役立ち、宇宙との通信をよりよくするなどの可能性も考えられる。我々はCES 2025で量子技術について多くの話しをする予定だが、これは始まりに過ぎないと考えている」と述べ、量子コンピュータなどの量子技術が将来の柱の1つになる可能性を見据えていると説明した。

10年以上ぶりにパナソニックがCESの基調講演に復活。持続可能性や社会を変える技術に期待とCTA

CTAの会見で講演するパナソニックグループ グループCEO 楠見雄規氏

 今回のCTAが東京で会見を開いた理由の1つは、発表内容が日本企業に関係しているからだ。それはCES 2025の初日朝基調講のスピーカーが、日本のパナソニックグループのグループCEO 楠見雄規氏になるというものだ。

 CESの基調講演は複数の講演があり、1番格式が高いとされるのは「開幕基調講演」と呼ばれるプレスデー2日目(CES 2025では1月6日)の夕方に行なわれるもので、Microsoft創業者のビル・ゲイツ氏が現役だった頃は、同氏の指定席だった基調講演だ。この開幕基調講演は、CESの開幕を告げる講演として重要視されており、多くの企業がその枠を押さえたがっている人気の枠だ。

 それに次いで重要視されているのが、今回パナソニックの楠見グループCEOが登壇する初日朝基調講演で、会期初日(1月7日)の朝に行なわれる。会期中の最初の基調講演となり、CTA関係者によるオープニングスピーチなどのセレモニーもあるため、ここも開幕基調講演と並んで重要な講演枠とされている。

パナソニックはCESに1967年から毎年出展している

 CTAの記者会見に登壇した楠見氏は、「パナソニックは1967年にニューヨークで行なわれた最初のCESに出展してから毎年CESに出展しており、57年という長いパートナー関係にある。パナソニックグループはテクノロジーで社会課題や地球環境問題を改善していくと言うことを社是にしており、それはCTAやCESの方向性とも合致している。CESはテクノロジーのトレンドに対して最新のインスピレーションを得られるイベントの1つで、米国市場とコミュニケーションを取るだけでなく、世界の皆さまとコミュニケーションを取れる。

 CES 2025でパナソニックは「Well into the Future」をテーマに、モノと心が共に豊かになる社会の実現に向けて、地球環境問題の解決だけでなく、豊かな社会の実現に向けて努力していく。今回の基調講演では、社会の持続的可能性を高める革新的な技術に焦点を当てて講演していきたい」と述べた。

 この初日朝の基調講演だが、CES 2023ではアメリカの農機具メーカーであるジョン・ディア、CES 2024ではフランスの化粧品メーカーのロレアルと、ここ数年は一見デジタルとはあまり関係なさそうな企業が登壇してきた。そしてパナソニックが続くことになる。

 日本でパナソニックと言えば、依然としてエアコンや冷蔵庫といった白物家電、AV機器、そしてレッツノートブランドのPCといった製品ラインアップを持つ総合家電メーカーという顔が目立つ。一方海外では、家電やAV機器などのB2C向けももちろんあるが、自動車向けのサプライヤー(IVIやEV向けバッテリ)、業務用のカメラ(ネットワークカメラやテレビ局用のカメラ)などのB2B向けの製品の方がよく知られるようになっている。

CESでのパナソニックブース(CES 2023で撮影)

 このため記者会見では基調講演での登壇に対し、「今やパナソニックと言えばどちらかと言えばB2B向けの方が強いのに、どうして一般消費者向けのCESに?」という質問もあった。

 そうした質問に対してファブリツィオ氏は、「CESではB2Cだけでなく、B2Bのソリューションも重要視してきた。2023年のジョン・ディア、2024年のロレアルなど、今や既存の産業が汎用のプロセッサとソフトウェアを組み合わせて新しいイノベーションを提供している。ジョン・ディアは農業にイノベーションを起こそうとしており、CES 2024に初出展していただいたクボタも同様だ。そしてロレアルはデジタルを利用して化粧品にイノベーションをもたらそうとしている。

 CESではそうした従来の大企業が、新しいイノベーションを展示することも当たり前のようになりつつあるのだ。パナソニックも、B2CからB2Bまで実に幅広いソリューションをお持ちで、CESでユニークなイノベーションを見せてくださるだろう」と述べ、過去の遺産(Legacy)を多く持ち、さまざまな産業に対して製品を提供しているようなパナソニックだからこそ、世界を変えていくような新しいイノベーションを提案できると期待感を表明し、それこそがパナソニックが初日朝基調講演に登壇する理由だと説明した。

 なお、今回のパナソニックの初日朝基調講演の登壇決定は、CES 2025の基調講演ラインアップの中で先陣を切って発表されたものになる。今後は開幕基調講演やそのほかの基調講演のラインアップが徐々に発表されていくことになるだろう。CTAによれば、パナソニックがCESの基調講演に登壇するのは10年以上ぶりということで、間違いなく注目の基調講演の1つになるだろう。

【お詫びと訂正】記者会見での質問部分について、初出時に「どちらかと言えばB2C向けの方が強い」と記載しておりましたが、正しくは「どちらかと言えばB2B向けの方が強い」となります。お詫びして訂正いたします。

スタートアップの祭典Eureka ParkはCES 2025でも実施。日本のジェトロも日本ブースを出展

2022年のCESでのジェトロブース。こうした各国のブースがEureka Parkの中にある。国家と国家の次世代イノベーションの覇権をかけた競争の場でもある

 もう1つここ数年のCTAが力を入れている施策が、スタートアップ企業だけを集めた展示会内展示会となる「Eureka Park」(エウレカパーク)だ。テクノロジーを活用して革新的な製品を世に問おうとしているスタートアップ企業の育成を目的としている。

 Eureka Parkには、要するに「予算はないけれど良い新製品ならある」というようなスタートアップ企業がローコストで出展できるように、出展費などを安く抑える仕組みが採用されていると聞く(具体的に金額などはビジネス上の問題なのでもちろん公表されていない)。特定の条件を満たすことで、スタートアップ企業はEureka Parkに出展し、力の入った新製品を世に問えるかたちだ。

 CTAによれば、Eureka Parkに出展するには以下のような条件を満たす必要があるという。

  • 一般消費者向けのテクノロジーであること
  • 2024年1月1日より前には出荷されていない製品であること(つまり新製品であること)
  • 展示する試作品、製品やサービスは自社ブランドのものであること(OEM/ODM向け製品などは許可されない)
  • Eureka Parkへの出展は2年目まで(3年目以降はCESの一般フロアに行く必要がある)
  • 他社のIP(知的所有権)を侵害していないこと
  • CTAからみて、製品やサービスが革新的であると判断できること

 まとめると、独自でユニークなアイデアがあってそれを形にできる能力があり、Eureka Parkに出展するのが2年目までのスタートアップ企業であれば参加できる取り組みだと考えられる。ここの「形にできる能力があり」というところが意外と重要で、きちんとPoC(Proof of Concept)を作り上げられたスタートアップだけがEureka Parkに出展し、その製品を展示できるということだ。

Eureka ParkはVenetian Expoの一階に設置される

 こうしたEureka Parkには、日本からもジェトロ(独立行政法人日本貿易振興機構)が参加し、「J-Startup/JAPANパビリオン」という名称の日本ブースを出展する計画だ。ジェトロのCES出展募集ページによれば、日本のスタートアップ企業などに対してデモブース出展費、施工費などを補助して日本のスタートアップ企業の出展を促すかたちになっている。

 ジェトロではCESだけでなく、MWCのスタートアップ向け展示会内展示会になる4YFNなどほかの展示会でも同じような取り組みを行なっており、我が国のスタートアップ振興に努めている。なお、そうした取り組みを行なっているのは日本だけでなく、EUやアジアなどからもEureka Parkに出展しており、各国の競争が繰り広げられている。

CTA 会長 キンゼー・ファブリツィオ氏

 そうしたEureka Parkで各国が成功するためには何が必要かとファブリツィオ氏に問うと、「大事なことは展示している製品や技術がイノベーティブ(革新的)であるかということだ。そうした製品を展示している国の展示会は多くの来場者を集めており成功している。結局、それが最も近道ということだ」と、非常にシンプルだが、非常に納得できる答えが返ってきた。

 ファブリツィオ氏によれば、ジェトロのブースはブース自体が美しいだけでなく毎年ユニークな製品を展示しており、Eureka Parkの中でも注目を集める存在だと評価されているとのことで、日本のテクノロジー界隈にとっても、CES 2025でもEureka Parkに設置される日本パビリオンは注目の存在になりそうだ。