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AIやハイブリッドワークの先、量子コンピュータ時代を見据えた日本HPの新製品
2024年3月28日 16:58
株式会社日本HPは27日、AIテクノロジー内蔵PCとして、Core UltraまたはRyzen 8000シリーズを搭載した個人/法人向けPC新製品を多数発表した。製品のスペックなどについては既報をご覧いただきたい。本稿では、同日開催された新製品発表会の模様をお届けする。
急発展するAIと定着したハイブリッドワークに対応
発表会では初めに、同社執行役員 パーソナルシステムズ事業本部 本部長の松浦徹氏が登壇し、働き方の変化などについて説明を行なった。
内閣府の調査によると、コロナ禍を経て、テレワークが可能な人が都内で5割、全国平均でも3割まで広がっているという。この結果を紹介しながら同氏は、ハイブリッドワークはすっかり定着したと考えていると説明した。同社においても、コロナ禍以前からハイブリッドワークを導入していたが、今ではほぼすべての社員が週1回以上、家など会社以外の場所から仕事をしているという。
またAIについては、ビジネスリーダーやナレッジワーカーを対象としたHPの調査によれば、グローバルでも日本でも、人と仕事との関係性改善において重要な役割を果たすと考えているという結果が得られており、ワークライフバランスなどにおいてもAIがよい影響をもたらすと期待されていると分析している。
今回日本HPでは、こういったハイブリッドワークとAIの2つのメガトレンドを踏まえた新製品を投入。1月に個人向けに発表した「HP Spectre x360」シリーズおよび「HP OMEN Transcend 14」に続くAIテクノロジー搭載PCの第2弾となり、個人向け、法人向け、プロフェッショナル向けに一気にラインナップを拡充する。
特に、さまざまな場所で働くハイブリッドワーク、パーソナルで機密性の高いデータを利用するAIにおいては、セキュリティの重要性が非常に高まっていくことから、法人向け製品のHP Endpoint Security Controllerと呼ばれるチップを刷新。ビジネスPCとして世界初を謳う、量子コンピュータによる攻撃からファームウェアを保護する機能を搭載し、将来のリスクにも対応できるとしている。
加えて、AIを活用した消費電力削減やリサイクル素材の活用など、サステナビリティへの取り組みも推進していると説明した。
個人向けでは第2弾となるNPU搭載製品を投入
次に、同社パーソナルシステムズ事業本部 コンシューマービジネス本部 製品部 プロダクトマネージャーの吉川直希氏が登壇。個人向け製品となる新型「HP Envy x360」シリーズについて紹介した。
HP Envyシリーズは、確かな性能、先進的な機能、柔軟なスタイルを特徴とするハイパフォーマンスPCで、副業やフリーランス、クリエイターなどといった幅広いユーザーをターゲットとした製品となる。今回の新製品では、Core UltraまたはRyzen 8000シリーズをCPUとして採用し、AI推論演算に特化したNPU(Neural Processing Unit)により、全体の性能向上や電力効率の改善を図っている。
NPUに関しては、オープンソースの音声編集ソフト「Audacity」とOpenVINOプラグインを用いたAI楽曲生成のデモを紹介。第12世代Core搭載のHP Envy x360 13と、Core Ultra 7搭載のEnvy x360 14の比較では、NPUの活用によって生成時間を約80%短縮できたという。
AI関連の機能としてはさらに、ユーザーのPC利用パターンを学習し、CPU温度やファンノイズ、エネルギー消費などを最適化するAI機能「HP Smart Sense」を搭載。Copilot in WindowsにワンタッチでアクセスできるCopilotキーの装備によって、AIアシスタントをより身近なものとしており、NPUを使ってWebカメラの映像に背景ぼかしやオートフレームといった補正を適用できるWindows Studio Effectsもサポートしている。
そのほか、本体素材にリサイクルアルミニウム、内部にリサイクルプラスチックを使用するなど、本体の随所に再生素材を採用。外箱や緩衝材も紙ベースのものを使用しており、製品全体で環境にも配慮しているという。
新型セキュリティチップで量子コンピュータの脅威に今から備える
続いて、同社パーソナルシステムズ事業本部 クライアントビジネス本部 CMIT製品部 部長の岡宣明氏が、法人向けおよびモバイルワークステーションPCの新製品について紹介した。
同社の法人向け製品では初のNPU搭載機種の展開となり、計8機種を投入。Core UltraまたはRyzen 8000シリーズを採用したAIテクノロジー内蔵PCとなっており、フラグシップからスタンダードまで幅広くラインナップする。
中でも「HP EliteBook 635 Aero G11」については、日本市場の強い要望に応えた製品だといい、日本で求められる軽量さを重視した設計を採用。オールメタルの頑丈な筐体でありながら、重量を約1kgに抑えている。なお、本製品は日本で先行リリースされ、追って海外の一部市場にも展開する予定だという。
一方、モバイルワークステーションPCでは、新筐体採用の「HP ZBook Power G11」を投入。Thunderbolt 4やUSB 3.0、Gigabit Ethernetなど幅広いポートを備え、プロフェッショナルユースにおいてもドック要らずな拡張性を特徴としている。
また、法人向けおよびプロフェッショナル向けとなるワークステーション製品では、セキュリティ専用のハードウェアチップとなるHP Endpoint Security Controller(ESC)を従来から搭載してきたが、今回これをGen 5へと刷新。これによって、量子コンピュータによるハッキングからファームウェアを保護する世界初のビジネスPCを実現したとしている。
このESCについては、同社エンタープライズ営業統括 営業戦略部 プログラムマネージャーの大津山隆氏が登壇して詳細に説明した。
通常、PCの電源を投入するとまずCPUに電源が入るが、ESCを搭載したデバイスでは、CPUに先行してESCに電源が入る。ESCはファームウェアの改ざんなどPCへ何らかの変更が加えられていないかをチェックし、問題がなければそのまま起動、問題があった場合はそれを検出し正しいものへ修正してから起動するといった働きをして、PCを保護する。あわせて、フォレンジックに必要がある場合に向けてログも記録している。
こういった仕組みの基礎には非対称暗号(公開鍵と暗号鍵による暗号化)のアルゴリズムを使ったデジタル署名技術が用いられている。しかし、今後実用化が見込まれる量子コンピュータではこの非対称暗号を非常に早く解読できるとされ、デジタル署名の仕組みが破られてしまう可能性がある。
そこで今回刷新したESC Gen 5では、従来の非対称暗号アルゴリズムに加えて、耐量子暗号アルゴリズムを搭載。どちらのアルゴリズムでも動くため、現時点で現場に導入したとしても、将来的に量子コンピュータが実用化され脅威となった際に、ハードウェアを変更することなく対応できると紹介した。なお、今後発表される同社製PCのESCについては、基本的にすべてGen 5を内蔵していくという。
非対称暗号やデジタル署名は今やさまざまな場所で活用され、基幹技術の1つとも言える状況にあるため、これが破られることのインパクトは非常に大きい。現状まだ量子コンピュータは実現していないが、インフラ関係など特にセキュリティの重要性が求められる組織では、すぐに耐量子暗号への移行を計画していく必要があると説明した。