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Qualcomm、「赤いエリートのAIは青いウルトラと比較して3倍速い」とMWCでライブデモ

左側がSnapdragon X Eliteを搭載システム、右が販売されているASUSのCore UltraノートPC。画像生成の処理がSnapdragon側は終わっていることが分かる

 Qualcommは、スペイン王国バルセロナ市で2月26日(現地時間)から開催されているMWC 2024に出展し、同社がMWC 2024に合わせて発表した新しい技術やソリューション、各種デモなどを展示している。

 この中でQualcommは昨年の10月に発表したSnapdragon X Eliteを搭載したノートPCと、Intelが昨年の12月に発表して既に搭載製品が市場に出回っているCore Ultraとの比較デモを行なった。Snapdragon X Eliteを搭載したノートPCはNPUだけ、Core Ultraを搭載したノートPCではNPUを含むSoC全体で処理を行ない、AI推論処理で3倍高速だとアピールした。

 このほかにも、Qualcommが発表した新しい5Gモデムとなる「Snapdragon X80 5G Modem-RF System」(以下Snapdragon X80 5G)のデモや、オンデバイスAIのデモを行なった。

赤い彗星ならぬ赤いエリートが、青いウルトラをNPUの性能で3倍速いとアピール

Qualcommが公開したビデオの公式スコア。Stable Diffusionの処理がSnapdragon X Eliteは7.22秒、Intel側は22.26秒

 今回のQualcommは、主にオンデバイスAI(エッジAI)関連の発表を多数行なっており、今回のMWC 2024の展示会場でもそうした展示を行なっている。その中でも注目は、Qualcommが昨年の10月にマウイ島で行なった「Snapdragon Summit」で発表された同社の次世代WoA(Windows on Arm、Arm版Windows)向けのSoCとなるSnapdragon X Eliteのデモだ。

 Snapdragon X Eliteは、同社が自社設計した新しいArm CPU「Oryon」(オライオン)を搭載しており、かつGPUとNPUの性能も大きく引き上げた製品になっている。製造はTSMC N4(4nm)ノードで製造されており、SoC全体で大きな性能が向上しており、Intelの第13世代Coreと比較して2倍、Apple M2と比べて50%高速だとアピールしている。

 そのSnapdragon X Eliteは発表こそ昨年(2023年)の10月だが、搭載製品は今年(2024年)の半ばとQualcommは説明しており、その間にIntelは第13世代Coreの次の世代に相当する「Core Ultra」発表し、既に多くのPCベンダーが搭載製品を発表し、実際に市場で販売している。このため、比較の対象が第13世代CoreからCore Ultraに変わったこともあり、今回のデモになったと考えられる。

 比較対象として用意されていたのは、ASUSのノートPCで、CPUはCore Ultra 7 155H(Pコア6コア、Eコア8コア、LP-Eコア2コア)が採用されていた。もともとCore Ultra 7 155Hは、TDPが28Wで、Turbo Boost時の上限が64Wというのが標準スペックになるが、OEMメーカーによっては薄型を実現するために、TDPを下げて設定している場合があるのだが、QualcommによればこのASUSのノートPCは20Wに設定されている製品になるという。ディスプレイは14型になる。

 なお、Qualcommのシステムはレファレンスシステムで、16型ディスプレイでTDPは23Wに設定されていると説明があった。ただ、両方にフェアに言えば、現在のノートPCの性能は、TDPよりも上のレンジ(具体的にはTurbo Boostなどのターボ時の廃熱機能)などが性能差につながっているので、より大型のディスプレイを搭載し本体のサイズが大きいQualcommのシステムの方が、放熱的には有利なはずでやや有利なコンフィグであることは指摘しておく必要がある。

Qualcomm側の設定、NPUだけを利用して生成することが分かる
Intel側の設定、Qualcommの説明員によればOpenVINOを利用して作られたプラグインでIntel側の性能を最大限発揮できる設定

 デモでは画像生成AIアプリケーションであるStable Diffusionを利用して、Qualcomm側はQualcommの開発キットを利用して作られたSnapdragonのNPUを利用するプラグインを利用し、Intel側はIntelのOpenVINOツールキットで作られたプラグインを利用しており、テキストはCPU、UNet+とUNet-はNPU、VAEはGPUとSoC全体を使う設定で行なわれている。つまり、CPUとGPUを使わないQualcomm側の設定はQualcomm側に不利な設定と言える。

Qualcomm側は7秒程度で終わったが、Intel側は生成が続いている

 結果は、Qualcommが約7秒、Intel側が約22秒と公式に公開された動画同様の結果となっており、3倍強の性能を発揮していることが確認できた。この差の大きな要因は、NPU自体の処理能力だ。Qualcommは昨年のSnapdragon SummitにおいてSnapdragon X Eliteの性能を45TOPSと明らかにしており、それに対してIntelはCore Ultraの発表時にNPUの性能を11TOPSと明らかにしている。

 つまり、NPUの性能自体の性能差が3倍以上あるので、それがこうした結果につながっていると言える。

 Microsoftは、Copilotのオンデバイス処理の開始に向けてSoCベンダーに対してNPUの性能を上げてほしいと要請しており、一説によると40TOPS以上が必要だと要請しているという。その意味で、現時点でそれを満たせているのはQualcommのSnapdragon X Eliteのみとなり、AMDやIntelがそのNPU性能を大きく引き上げる製品を出せる今年の末ぐらいまではQualcommのリードが続くことになりそうだ(もっともQualcommもまだSnapdragon X Eliteを搭載した製品を市場に出せていないという意味では同じだが)。

5G-Advancedに対応したモデムSnapdragon X80や、Snapdragonを搭載したAi Pinのデモが行なわれる

 Qualcommはこのほかにも、今回のMWCで発表した5G-Advancedに対応して6xCA(Carrier Aggregation)に対応したSnapdragon X80のデモ、LMM(Large Multimodal Model)をSnapdragon X EliteのオンデバイスAIで処理するデモ、また、QualcommのSnapdragonを搭載したウェアラブルAIデバイスとなる「Ai Pin」のデモなどを同社ブースで行なった。

Snapdragon X80のデモ、6xCAで6つの帯域を束ねて下りの通信速度を引き上げられる。ただ、通信キャリア側の基地局側の対応がもちろん必要
Ai Pinのデモ、普通のバッジのようだが、ローカルでは音声認識をしてクラウド側のLLMが応答する仕組みになっている。音声認識にQualcommのSnapdragonが利用されている。