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Microsoft、Intelファブを使って半導体を製造へ

左からIntel 7、Intel 4、Intel 3、Intel 20A、Intel 18Aという「4年で5ノード」の5ノードのウェハを紹介するIntel CEO パット・ゲルシンガー氏

 Intelは、2月21日(現地時間)に、同社初となるファウンドリ(半導体受託製造)事業向けイベントとなる「Intel Foundry Direct Connect 2024」を、米国カリフォルニア州サンノゼ市にあるサンノゼ・コンベンションセンターにおいて開催した。

 この中で、Microsoftのサティヤ・ナデラCEOがビデオメッセージで登場し、MicrosoftがIntel 18Aのプロセスノードを活用してIntel Foundry Serviceで同社ブランドの半導体製品を製造する計画であることを明らかにした。

Intel Foundry Servicesの本格的な立ち上げを狙うIntel

Intel CEO パット・ゲルシンガー氏

 イベントの冒頭でパット・ゲルシンガーCEOは「私がCEOに復帰してから約3年が経った。新しい戦略を打ち出した当初の反応はさまざまだったが、我々は着実に計画を実行してきた」と述べ、「4年で5ノード」(5Node4Years)という意欲的なプロセスノードの開発を進めてきたことなどを振り返った。

Intelは製品部門とファウンドリ部門の間に壁を作り、それぞれ相互にやりとりができないようにしている。1つの会社に2つの会社があるような形になっている。

 ゲルシンガー氏は「我々Intelを完全に2つにわけて、製品部門とファウンドリの間に壁を作った。それぞれにセールスチームを設けるなど、2つのチームは情報をやりとりできないようにしている」と述べ、Intelの製品部門(Core UltraやXeonを開発して販売する部門)と、Intel Foundry Servicesはそれぞれ別の会社のような位置づけになっており、Intelの製品部門はIntel Foundry Servicesにとって「ゼロカスタマー」(社内に存在する顧客という意味)であることを強調した。

2024年までに第2位のファウンドリに

 その上で、生成AIに代表されるようなAIが半導体市場を急速に変えていっていることを指摘し、「Intel Foundry ServicesはAIに注力しており、将来的には可能な限りのAIチップを受託製造していきたい」と述べ、2020年代の後半に起きると予想されている、AIアクセラレータ(GPUやAI専用チップ)の需要爆発に備えた体制づくりを行なっていると説明した。そして事業の目標として、2030年までにファウンドリ業界で2位に上がりたいと説明した。

2025年に出荷予定のClearwater Forestを公開、Intel 18Aで製造される

 その上で、4年で5ノード戦略の最後のピースとして、今年の末までに製造を開始する計画のIntel 20A、Intel 18Aの開発が順調に進み、Intel 18Aで製造される具体的な例として「Clearwater Forest」(クリアウォーターフォレスト)を公開した。

 Clearwater Forestは、今年(2024年)の前半中にIntel 3で製造され「Sierra Forest」として投入されるEコアだけのデータセンター向けCPUの後継製品で、2025年に投入が計画されている。公開されたパッケージを見る限りは、2つのダイが搭載される形になっており、Sierra Forestとその点では同じようだ。Intel 18AはIntel Foundry Servicesで顧客が本格的に採用するプロセスノードになる見通しで、その開発が順調に進んでいることを印象づけたという意味で大きな意味がある。

Intel 14Aのテストウェハ

 また、別記事でも紹介した通り、IntelはIntel 18Aの次の世代のプロセスノードとして高NA EUVに対応したIntel 14Aを25年以降に投入する計画を明らかにした。詳細は別記事をご参照いただきたい。

MicrosoftはIntel 18Aで自社半導体を製造することを明らかに

ビデオ出演したジーナ・レモンド米国商務長官

 ゲルシンガー氏は「ムーアの法則はまだ完了していない。ムーアの法則は今も生きていて、さらに良くなっていく」と述べ、今後もムーアの法則を実現していくために、今後も後工程の技術も含めてさまざまな開発を続けて行くと説明した。

 その上で、現在の半導体産業は、50年前の石油ショック時に世界が経験したような、エネルギーの地政学的な偏りが発生していることを指摘。「現在の半導体製造は80%がアジアに集中しており、欧米は20%になっている。2020年代の終わりまでには50:50に戻すことが重要で、米国政府を初め各国政府がそう取り組んでいる」と述べ、米国では米国チップ法(US Chip Act)と呼ばれる米国に半導体の製造施設を復活させることを促進する法律が制定され施行されていることなどを説明した。

 そうした米国チップ法を推進している米国商務省のジーナ・レモンド長官は、ビデオで登壇し、Intel Foundry Servicesへの期待を語っている。

 なお、米国チップ法自体は、Intelのような米国企業だけでなく、TSMCやSamsungなどの(米国にとっての)外国企業が米国に製造施設を作る時も有効で、TSMCがアリゾナに建設した製造施設などもその対象になっているが、言うまでもなくその本命はIntel Foundry Servicesだ。

 レモンド長官は「コロナ禍で半導体の供給体制に大きな課題があることが見えてきた。特定の国や地域だけに偏っているのは問題で、米国はチップ法を作って米国内で半導体を製造する体制を復活させていく。それに伴い仕事が増え、学生にとっても半導体産業が魅力的な就職先になる。

 米国にとっては、全てを米国で作るのが最善で、前工程から後工程まですべてを米国で作るようにしていくべきだ。また、製造キャパシティを増やしていくことも大事で、よりモダンな工場を米国内に建設していく必要があるだろう。

 AIに関しても米国が先導して開発が進んでいることを誇らしく思っており、国際競争上のアドバンテージでそれは今後も伸ばしていく必要がある」と述べ、Intel Foundry Servicesの工場を始めとして、米国内の半導体製造施設に今後投資を行なっていくことで、米国を再び半導体の供給網の中で重要な地位を占めるところまで復活を目指すと強く強調した。

Microsoft サティヤ・ナデラCEO

 講演の最後には、Microsoftのサティヤ・ナデラCEOがビデオ出演し、同社が将来の半導体製品をIntel Foundry ServicesのIntel 18Aノードで製造する計画であることを明らかにした。

 現在、Microsoftの半導体製品は、Qualcommが設計してMicrosoftブランドとしている「Microsoft SQ」シリーズと、Microsoftが自社設計したArm CPUを採用した「Cobalt」、同じく自社設計のAIアクセラレータの「Maia」などがある。

 SQシリーズは通常Qualcommが設計し、ファウンドリに委託して製造するので、可能性として高いのはMicrosoftが自社設計しているArm CPUないしはAIアクセラレータだと考えられるのではないだろうか(今回Microsoftは具体的に何をIntel Foundry Servicesで作るのかを明らかにはしていない)。

OpenAIのサム・アルトマンCEO、一番好きな生成AIアプリケーションは科学技術の発見につながるAI

パット・ゲルシンガーCEO(左)とOpenAI サム・アルトマンCEO

 イベントの最後には、パット・ゲルシンガーCEOとChatGPTで一躍有名になったOpenAI CEOのサム・アルトマン氏による、座談会が行なわれた。

 その中で生成AIモデルが年々巨大化しており、1兆パラメータというより巨大な生成AIのモデルも考えられているがとゲルシンガー氏が問うと「AIのモデルは用途によって必要なサイズが異なっている。つまり将来はそういう巨大なパラメータをサポートしたモデルが必要になる用途が出てくると考えられているからだ。ただ、自分としては将来、1人が1つのモデルを持つようになる、そういう時代が来ると考えている」と述べ、現在PC業界が取り組もうとしているようなローカルでAIモデルを動かすAI PCのような取り組みが発展していって、1人が1つのモデルを持ち、人間の好みなどを学習していきながら発展していくような形になっていくだろうと説明した。

OpenAI サム・アルトマンCEO

 また、世界各国に招かれて首相や大統領などの国家のリーダーと話をしていることを聞かれると「各国政府は安全なAIを求めている。ただ、アプローチは1つではなく、それぞれみんな違うアプローチを取っている。とはいえ、誰と話してももっと進んだモデルがほしいと言われることは共通している」と述べ、どこの国にいっても、もっと進んだモデルが求められ、そしてより安全なモデルを作ってほしいと言われると説明した。

 生成AIのさまざまなアプリケーションの中でどれが個人的に好きかをゲルシンガー氏に問われると「科学技術の新発見につながるような使い方だ。社会にポジティブなインパクトがある」と述べ、科学的な発見を助けたりするAIが自身の好みで、そうしたものに興味があると述べた。