ニュース

「パーソナルコンピュータは、パーソナルコンパニオンに」HPが予言。AIがPCに変化をもたらす

HP 社長兼CEOのEnrique Lores氏

 HPは米カリフォルニアシリコンバレーの本拠地、パロアルトにおいて、HPとして初となるプライベートイベント「HP Imagine 2023」を開催した。プレス、アナリストに向けた丸1日のイベントで、午前中の基調講演をメインに、この日のために特別に設営されたShowCaseエリアでの展示、そして、各事業担当者との個別セッションまで、豊富なコンテンツが盛り込まれ、周到に準備されたイベントだった。

 同社の主たる事業部は、いわば、PCを始めとするハードウェア製品や、買収したPoly社のコミュニケーション関連製品などを扱うPersonal Systems事業部、企業のITサービスソリューションやセキュリティ関連を提供するWorkforce Solutions事業部、そしてプリント事業を扱うImaging, Printing & Solutionsなどが筆頭だ。

 基調講演では、これらの事業部のプレジデントが壇上に上がり、それぞれの事業におけるホットな話題をお披露目した。

 1時間を大幅に超える長時間の基調講演だったが、その冒頭にステージに立って、このイベントの開催を宣言したHP 社長兼CEOのEnrique Lores氏は、現在の社会を取り巻く3つのトレンドをあげ、今、まさに変わろうとしているパソコンの定義について説明した。

 3つのトレンドというのは、次の3点だ。

  • 今がフレキシビリティ(柔軟性)の時代であるということ
  • 今がAIの時代であるということ
  • 今が信頼の価値が重要な時代であるということ

 そんな中で、人々がどのように働きたいかに関して、求めるものは根本的に変わったとLores氏はいう。それらがすでに起きる兆しはコロナ以前からあったことだが、人々が変わる、まさにその移行期にコロナ禍が世界を襲い、そしてその移行を加速したことを同氏は強調した。

 同氏は今日のPCの定義が大きく変えることになるだろうと予測する。パーソナルコンピュータは、パーソナルコンパニオンに移行することになるというのだ。AIにアクセスするコストはどんどん安くなり、今後は80%安くなるのだそうだ。その結果、より素早くAIにアクセスできるようになる。すなわち、それがAI PCの誕生につながる。

 ローカルでAI処理ができるAI PCは、データとプライバシーの保護の点でも大きなメリットを産む。データをクラウドにアップロードすることなく、大規模言語モデルを処理することで、プロセスは、今よりもはるかにシンプルになるとLores氏は説明する。

 続いて登壇したのはPresident, Personal SystemsのAlex Cho氏だ。同氏もまた、人々が仕事と夢を実現できるように、イノベーションと新たなレベルが解き放たれる時代だと宣言する。そしてAIは業界全体にとって、そして個人的にも非常に重要な要素になることを改めて確認した。

President, Personal SystemsのAlex Cho氏

 その過程の中で、PCがパーソナルコンピュータからパーソナルコンパニオンに変わることで、誰もがAIの可能性を最大限に得ることができるようになると同氏は言う。

 20世紀の終わりにインターネットが劇的な進歩を遂げ、世界中の人々に新しい体験を提供するようになり、PCに求めるものをインターネットが変えた。また、同じことが起こるとCho氏。結果としてAIがPCに求めるものを変えるというわけだ。

 AIはその背後にあるデバイスやコンピューティングが人間のできることを劇的に変化させる。AIは単に未来について語られる言葉ではなく、すでに経験していることであるとも。

 そして、Cho氏はワークフロー・コラボレーションの新しい標準を確立するというHP AI Studioを発表した。

 ますますチームスポーツに近いものになってきているデータサイエンスを推進するためには、人々は協力しあわなければならない。今日は、それがなかなか難しいものの、その共同作業ができるようにしなければことは進まない。複数の人がクラウドとオンプレミスの両環境で同じプロジェクトに貢献できるようになれば、新しいレベルの生産性とAIモデル開発が実現できる。

 プライベート AI モデルとアプリケーションの構築とカスタマイズを簡素化する新しい AI ワークステーションソリューションスタックを含めNVIDIAと協力しながら今後数カ月以内に新しい AI エンタープライズ ソフトウェア ツールを統合して提供を開始する予定だという。

 Cho氏は、PCの所有は個人的なコンパニオンを持つようなものだという。自分にとって重要なことを識別でき、あらゆる情報を読み解き、カスタマイズされた要約を提供できるデバイス、それがPCだ。しかもその処理をローカルで行なう。そのAI体験こそがAI PCの本質だとCho氏は言う。

 展開については、来年の発表を待ってほしいと同氏。その代わりというわけではないが、新規のハードウェアとして、すでに先日のニュースで紹介済みのHP Spectre Foldable PCとHP Envy Move 23.8 inch All-in-One PCを披露した。

 これらの新ハードウェアの詳細については以下の記事を参照されたい。

 また、Cho氏はゲーミング市場についても言及し、全世界の38億人のゲーマーが社会的につながり、彼らが自己表現や創造性を発揮するための新しい方法を見つける手段として市場はさらに拡大を続けていると指摘する。

 HPのゲームソリューションはOMENブランドで知られているが、ゲームの枠を超えてHyperXから登場するオーディオミキサーなど、ストリーミング配信関連製品を紹介した。

HyperXから登場するオーディオミキサーなど、ストリーミング配信関連製品

 Personal Systems事業部のテリトリーは広い。Cho氏はさらに、Polyのコミュニケーション関連製品ビジネスについても紹介を進める。

 AI主導のソフトウェアによって、会議の参加者を個別にフレーム化、複数の人が部屋にいても、全員が公平な映り方を得られ、遠隔参加者がボディランゲージや表情を分け隔てなく得られるというものだ。

 今後は、部屋の中央以外にも設置できるカメラやPCのカメラの併用なども活用できるようにする予定だという。そして、すべては良いつながりのためであり、そのためのイノベーションであるとした。

 このあと、President, Workforce SolutionsのDave Shull氏が登壇、企業ITについて、従業員の生産性を重視するAI主導の洞察構築により、コラボレーションをよりよくし、会社をデジタル的に変革していくために、ITマネージャーがあらゆる問題を予測し、問題が発生する前に解決できるように支援するプラットフォームとしてのHP Workforce Central のリリースを発表した。

President, Workforce SolutionsのDave Shull氏

 HP Workforce Central によって、IT リーダーが適切なテクノロジと最高の仕事体験をすべての従業員に提供することが容易になるという。傾向を特定することで、より適切な意思決定ができるようにするということだ。それによって、誰かが失敗する前に、行動を起こして修正することができる。それはPCの故障による業務の中断などが起こらないようにするということでもある。

 さまざまな要素をひっくるめて、企業のITに貢献できることを、ちょっと目を離した隙にノートPCを盗まれた同氏自身の失敗が、遠隔からの消去で事なきをえた自身の経験を例に説明した。

 また、PCの化粧直しと再利用であるリファブリッシュメント事業についても言及し、世界中のHP従業員基盤での実験をもとに明らかになった事実を顧客に提供していくことを約束した。

 最後に登場したのはPresident, Imaging, Printing & SolutionsのTuan Tran氏だ。

President, Imaging, Printing & SolutionsのTuan Tran氏

 A3機とA4機のラインの全面的な刷新、コンパクトなトナーカートリッジについても言及、地球にやさしいことを強調した。

 サーフボードにカラフルなイラストを印刷するラテックスプリンタや、新たな素材を扱える3Dプリンタに加え、HPは商業ビルの壁のレイアウトに多くの時間が費やされていることに注目、建設現場の壁位置を床に印刷する動くプリンタなどを紹介した。

建設現場の壁位置を、走行しながら床に印刷するプリンタ

 さらに、インクや紙がなくなる前に、カートリッジや用紙を顧客に届けるサービスなども紹介、24時間365 日のサポート、翌日のエクスプレス交換が受けられ、トナーと追加の用紙をすべて月々の料金で自宅まで届けるという。インクと紙があれば、人々はより多く印刷するのだということをアピールした。

 だからこそ、箱から出してすぐに簡単に印刷できるようにすることにこだわってきたこの10年だったと同氏。カフェラテと同じくらいに安い月額料金で、他に類を見ないホームプリントサービスを開始すると発表した。それによって印刷のカテゴリが再燃するだろうと同氏は言う。

 さらに3Dプリントについては、ヘルスケア消耗品、スポーツ用品など、パーソナライゼーションに価値が見出されるカテゴリに威力を発揮するとし、ブルックスの高品質、高性能ランニングシューズを紹介した。

3Dデザインによるランニングシューズを実際に履いてステージに登壇したTran氏。自身はサーファーでもあるという

 イベント「HP Imagine 2023」は、コロナ禍の3年間を模索しながら過ごしたHPが、新たな始動を宣言するためのものであり、いわば、HPはこのイベントでリセットしたとCEOのEnrique Lores氏はいう。自分の想像力を大切に(Love your Imagine)と付け加えて基調講演を終えた。