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3カ月で26万回も利用された社内向け生成AI。さらなる利用拡大を図るパナソニックコネクト
2023年6月29日 06:24
レッツノートやタフブックといったPC事業などを担当するパナソニックコネクトは、ChatGPTなどの生成AIを活用した社内向けAIアシスタントサービス「ConnectAI」の活用状況などについて説明した。3カ月間の利用回数は26万回に達し、1日の利用回数は約5,800回に到達。想定の5倍以上の活用になっていることなどを明らかにした。「社員の利用データから見ると、ChatGPTはビジネスに有効であると判断した」(パナソニックコネクト IT・デジタル推進本部戦略企画部シニアマネージャーの向野孔己氏)と総括している。
また、今後は自社特化AIへと進化させ、自社の公式情報をもとに、ユースケースに合わせた回答を可能にするAIの試験運用を2023年9月から開始する。さらに、2023年10月以降に、カスタマーサポートセンターの業務での活用を目指す。
AIアシスタントは2月に導入。現在はグループ全体で9万人が利用
パナソニックコネクトは2023年2月17日から、AIアシスタントサービス「ConnectAI」を国内の1万3,400人の社員を対象に導入してきた。当時は、国内大手企業が生成AIを社内で活用する事例がめずらしく、その取り組みが大きな注目を集めた。
ConnectAIでは、Microsoft Azure OpenAI Serviceを活用。パナソニックコネクトがビジネス用途にカスタマイズを加えたChatGPTや、法人向けサービスのGPT-3.5およびGPT-4をベースとしており、社員が社内イントラネット上からアクセスして、いつでもAIに質問できるようにすることで、業務の生産性向上につなげることを目指してきた。
導入プロジェクトは生成AIが話題になる前の2022年10月18日にスタート。サービス開始当初は、「ConnectGPT」の名称だったが、現在は「ConnectAI」に改称している。また、パナソニックグループ全体では、ConnectAIをベースにした「PX-AI」(PX-GPTから改称)を、2023年4月14日から導入しており、国内グループ社員9万人が利用している。
パナソニックコネクト 執行役員 アソシエイト・ヴァイス・プレジデント CIO兼IT・デジタル推進本部 マネージングダイレクターの河野昭彦氏は、「パナソニックコネクトは、特定分野において、最先端AIを活用したソリューションはかなり前から提供してきたが、チャットやメールなどのように、社員全員が利用するツールにはAIを活用してこなかった。だが、2023年2月から実際にConnectAIを活用してみて、最新テクノロジーを企業に持ち込むにはいくつかの気付きがあった」とした。
さらに、「一から作らず、あるものをいかに使いこなすことを考え、いいものが出てきたらそれに切り替える身軽さを持つといった『自分達で頑張らない』こと、様子を見るのではなく、効果が見えなくても、とにかく使ってみるといった『早くやることが正義』という考え方が必要である。また、必要な時にいつでも使える『従業員に安全、簡単に使える環境を提供する』といったことも大切だ。これらを実行するには、挑戦することを評価する企業カルチャーを持つことが大切である」などと述べた。
また、「これらの成果を公開することで、日本の企業の生産性や効率性をあげることに貢献したいと考えている」とも語った。
利用実績は想定の5倍以上、導入後3カ月で5,800回/日
これまでのConnectAIの活用実績については、いくつかの指標を用いながら説明した。
まずは、想定の5倍以上の活用実績が生まれたということだ。冒頭に触れたように、3カ月間の利用回数は26万回、1日あたりで5,800回の利用実績があるという。
「社員数やほかのシステムの利用回数から、1日あたり1,000回の利用を想定していたが、それを大きく上回った。勤怠管理ツールなどとは異なり、日常的に使わなくてもいいツールであるにも関わらず、利用回数が上昇傾向を維持している。社員が業務に利用して効果があると感じているからこそ、利用回数が高止まりしている。また、想定以外の有効利用があり、技術部門以外の社員も多数利用している。自らのキャリア形成に関する質問や、製造業らしい素材などに関するプロンプトも多数ある」という。
社員からの評価は、5点満点中、3.6点を獲得しているという。だが、内訳を見ると、サービス開始の2月17日から採用したGPT-3.5では2.8点だったが、3月13日から提供を開始したChatGPTでは3.8点へと上昇。4月21日から提供しているGPT-4では4.1点にまで高まったという。「OpenAIでは、モデルが変わるごとに精度が上がっていると発表しているが、パナソニックコネクトの社員の評価も同様である。人に役立つ回答を出すことが増えている」と述べた。
利用ケースとしては、「質問」が最も多く、全体の59.7%を占め、社員の評価は4.0点。「プログラミング」の利用率は21.4%で、社員評価は4.3点と高い結果になっている。また、「文書作成」は10.1%で、3.4点。「翻訳」は4.9%で、4.2点。「要約」は1.7%で、3.4点などとなっている。「どれも高い評価を得ていると判断しているが、特にプログラミングや翻訳に対する評価が高い。難しい内容の文書生成については、評価点が低い傾向がある」とした。
生産性向上の事例としては、プログラミング業務を開始する前に、拠点の緯度と経度のデータを収集する作業に6時間かかっていたものが、ChatGPTにより5分に短縮し、36倍の生産性向上を実現した例や、社内のオールハンズミーティングの参加者から得た約1,500件のアンケートの結果分析が、従来の9時間から6分に短縮し、90倍の生産性向上が実現できたケースをあげた。
また、質問に関しては、「データアナリストが、自分のキャリアオーナーシップについて、考えないといけない要素を教えてください」、「耐薬品性、耐衝撃性、難燃性(UL94 V-0)を満たすことのできる樹脂材料を複数あげてください」、「360度カメラの映像をLTE回線で映像伝送し、遠隔地からVRゴーグルで閲覧するシステムの使用用途をいくつかあげてください」といったケースを紹介。
「キャリアに関する質問は想定していなかったが、それに対しても、ChatGPTは的確に回答した。素材に関する質問でも該当する7種類の材料をあげながら、使用目的や条件によって最適な材料が異なる場合があるという点も指摘している。さらに、新たな技術をもとにしたビジネスの提案も行なうといった成果も出ている」と評価した。
一方、3カ月間で不適切利用のアラートが上がったものは、26万件中でわずか84件に留まり、それらも人が確認すると、重大な問題はないと判断できるものだったという。
具体的に検知された例として、「電気分野での自殺回路の意味を教えてください」、「寄生インピーダンスとはなんですか」、「切削加工で四角に穴をあける方法を教えて」という3件をあげ、「自殺回路は、電子回路などの一部で、正常に機能しなくなったときに回路自体を破壊するための仕組みのことだが、自殺という言葉を検知したとみられる。寄生インピーダンスは、電気回路の特性によって発生する抵抗のことであり、聞き慣れない言葉は別の言葉と解釈して検知したようだ。また、切削という言葉が暴力的なワードとして検出された可能性が高い。最後は人が検証して問題ないことを確認した」と説明した。
ConnectAIでは、不適切な利用を検知するプロセスとして、OpenAIが提供するチェックツールの「モデレーションAPI」、マイクロソフトが提供している「コンテンツフィルター」、OpenAIそのものが不適切な質問には回答しない「OpenAIでの対応」という3段階で対応。プロンプトに入力された内容が不適切でないことを自動的に確認し、不適切と検知したものは人による目視で確認を行なっているという。
回答できない質問への対応や正確性の担保が課題
ChatGPTの活用における課題についても指摘した。
パナソニックコネクトの向野シニアマネージャーは、「自社固有の質問には回答できない」、「回答の正確性を担保できない」、「長いプロンプトの入力が手間」、「最新の公開情報は回答できない」という4点をあげた。
「これは生成AIを活用したいと考えている多くの企業が直面する課題である。ConnectAIでは、それぞれに対策を打つ予定である。企業データを活用できるシステムの構築や、回答の引用元の表示、音声入出力機能を追加するといった仕組みを検証している段階にある。また、検索エンジンと連携することで最新情報にも対応することにも取り組む」とした。
AI利用を止めるのではなく、安全な利用を促進
パナソニックコネクトがConnectAIを導入した目的は、「業務生産性向上」、「社員のAI活用スキル向上」、「シャドーAI利用リスク軽減」の3点だという。
パナソニックコネクトの向野シニアマネージャーは、「生成AIは資料作成などの非定型業務にも活用できる点が特徴であり、情報収集、情報整理、ドラフト作成まではAIが行ない、最後の仕上げや判断といった創造性が必要な部分だけを人が行なうようになる。また、検索エンジンはキーワード中心の利用であったが、生成AIでは自然言語中心の利用になる。人に頼むのと同じように丁寧に頼むと、期待した結果が返ってくる傾向があり、状況や何をして欲しいのかを適切に伝える必要がある。プロンプトエンジニアリングのスキルを高めなくてはならない。
そして、AIは多くの社員が利用し始めるのは明らかであり、それを止めるのは難しい。それならば、リスクが高いシャドーAIの利用ではなく、安全なAIの利用を促進することが大切である。企業は、AIをビジネスに活用するかどうかを議論するのではなく、AIをいつから、どのように活用するかを検討すべきである」と述べた。
また、「生成AIは、一時的なトレンドではなく、インターネットやスマホなどと同じ技術革新を果たすものになると考えている。今のように騒がれなくなるタイミングが訪れ、インターネットやスマホと同じように、日常生活で、普通に利用される時代がやってくると予測している」と語った。
今後は社外秘の情報への対応やカスタマーサポートでの活用も
パナソニックコネクトでは、今後も、AI活用を推進する方針を打ち出している。
2023年9月からは、公開されている自社固有の情報に関して回答するAIの活用を、全社員を対象に試験運用として開始。2023年10月以降には、自社固有の社外秘情報に対しても回答してくれるAI活用を開始するほか、カスタマーサポートでもAIを活用するという。また、2024年度以降は、個人特化型AIに進化させ、個人の役割に応じて回答するAIの活用や、職種や役割に応じて回答してくれるAIの活用を開始する。
すでに2023年6月から、自社特化AIの実現に向けて、自社公式情報活用検証プロジェクトを開始している。これは、自社データをChatGPTと連携させ、有効に機能するかどうかの検証を行なうものになるという。
公開されているWebサイトで約3,700ページ、2017年からのニュースリリースで495ページ、パナソニックコネクトのパブリックサイトで約3,200ページを検証対象とし、自社データを加味したセマンティック検索により、企業固有の回答を可能にする。大規模言語モデルはそのまま活用しながら、自社データは別のデータベースに保管し、ユーザーのプロンプトに応じて、自社データを挿入することで企業固有の回答を行なうことができる。
たとえば、これまでは「コネクトの会社概要を教えてください」と入力しても、ChatGPTで利用できる学習データが2021年9月までのため、2022年4月に設立したパナソニックコネクトについては理解できない。そのため、ChatGPTの回答は、「コネクトの詳細な情報について、私の知識の範囲では提供できません」とするに留まっていた。しかし新たな自社特化型AIでは、「パナソニックコネクトは、2022年に設立されたパナソニックグループの会社である」といったように、的確な情報が得られるようになる。
ここでは、音声で質問ができるようにしており、自然言語のために長文化する文字入力の手間を省いたり、音声で読み上げたり、情報の引用元を表示して回答の正確性を担保できるようにしたりしている。
また、カスタマーサポートへの適用については、保守や運用業務の効率化、回答の迅速化を目的に、生成AIを導入することになる。
「カスタマーサポートにはFAQのデータが蓄積されているが、検索性が低いという課題のほか、オペレータが検索した結果をもとに文章を作り、メールで回答するといった状況にある。ChatGPTとの連携により、柔軟な検索を実現するとともに、回答する文書のドラフトまでを自動的に作成できるようになると考えている」と述べた。
オートノマスサプライチェーンにもAIを活用
なお、説明会では、サプライチェーンマネジメントソフトウェア子会社であるBlue Yonderが目指している「オートノマスサプライチェーン」の実現に、AIを活用していく考えを示した。
パナソニックコネクト 執行役員 ヴァイス・プレジデント CTO兼技術研究開発本部マネージングダイレクター、知財担当、現場ソリューションカンパニー シニア・ヴァイス・プレジデントの榊原彰氏は、「現場のデータをリアルタイムでセンシングし、解釈し、クラウドソリューションと組み合わせて、現場にフィードバックするといった柔軟なトータルサプライチェーンマネジメントを実現したいと考えている。2023年5月に開催したBlue Yonderの年次イベントでは、大規模言語モデルをUIに取り入れていくことを発表し、自然言語で指示を出したり、注意喚起をしたりといったユースケースを示している」と述べた。
また、ロボティクスの制御において、大規模言語モデルと、世界モデルのNewtonian VAEを組み合わせて、自然言語文で指示する未知のタスクおよび動作に対して、自律制御するというPoC(概念実証)を実施。高確率でのタスク命令に対応したコード生成と、ロボットの制御に成功したことを紹介した。