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オムロンの卓球ロボットと対戦できる!未来館で8月4日まで

 東京・お台場にある日本科学未来館は7月28日から8月4日まで、オムロン株式会社が開発した卓球ロボット「FORPHEUS(フォルフェウス)」の最新機種(第7世代)を一般公開する。プレイヤー2人がダブルスを組んで、ロボットとラリーができる。

 研究開発の「いま」を見せるシリーズ企画「Mirai can NOW」の第1弾として開催中の企画展「空想⇔実装 ロボットと描く私たちの未来」の一環。「未来は叶えるもの」というコンセプトで、ロボット開発で繰り返されてきた「空想と実装のサイクル」を来館者にも体験してもらいたいというのが趣旨だ。

 卓球ロボットのFORPHEUSは、6つのカメラや各種センサーを使って、プレイヤーの動きを計測し、感情などを推定。単にラリーを続けるだけではなく、ダブルスを組んだプレイヤー2人のパフォーマンスが向上するようにプレイを続けることができる。

 これまでに「国際ロボット展」などに出展されたことはあるが、一般来訪者が最新機種とラリーを体験できるのは今回が初めて。人と機械の協調と私たちの未来を想像させてくれる技術の1つとして展示される。日本科学未来館 科学コミュニケーター 太田努氏は、ほかの展示と同じく、「どんなことができるようになったらいいか、来館者に想像してもらいたい」と述べた。

一般の人が第7世代フォルフェウスを体験できるのは今回が初めて
日本科学未来館 科学コミュニケーターの太田努氏
「空想⇔実装 ロボットと描く私たちの未来」の一環
「空想⇔実装 ロボットと描く私たちの未来」は無料ゾーン内

ダブルスプレイヤー間の連携を高めるようにラリーを続ける卓球ロボット

卓球ロボットFORPHEUS。オムロンの技術を集めて作られている

 卓球ロボットの名前「FORPHEUS(Future Omron Robotics technology for Exploring Possibility of Harmonized aUtomation with Sinic theoretics)」は、オムロン独自の未来予測理論「SINIC理論」に基づく、人間の創造性や可能性を引き出すオムロンの姿勢を表わす造語。卓球ロボットのビジネス化を想定しているわけではなく、「人と機械の融和の具現化」を示すもの、そしてオムロンのコア技術「Sensing & Control + Think」のシンボルとして2013年から開発を続けている。

 オムロンが目指す「人と機械の融和」とは、人と機械の関係性の3段階、すなわち人作業の「代替」、機械と人が一緒に働く「協働」、そしてその拡張として「人間らしさを引き出すオートメーション」を意味している。

オムロンが目指す「人と機械の融和」
「Sensing & Control + Think」のシンボルとして開発中

 ロボットの詳細はオムロン株式会社 技術・知財本部 ロボティクス R&D センタ ロボティクス開発部の水山遼氏が解説した。

 オムロンは多様なセンシングと制御技術、そしてソリューション化技術を持っている。FORPHEUSは高解像度カメラを使って、プレイヤーの表情、まばたきの頻度を計測する。顔画像からは脈動による肌の色の変化を読み取って心拍数とその変動を計測する。これら身体反応のデータから、ダブルスペアの互いの感情の同調具合いを「共感の度合い」として推定する。

オムロン株式会社 技術・知財本部 ロボティクス R&D センタ ロボティクス開発部の水山遼氏。大学院時代は緊張時の脳内メカニズムの研究に従事
ロボットはプレイヤーの状態を測定・推定して数値化する

 さらに別の2台のカメラでボールの位置を3次元計測。モーションセンサー2台ではプレイヤー2人の骨格から前後・左右の動きを測定する。これらの情報から、お互いがパートナーのレベルに合わせた速さでボールが打てているか、パートナーの動きに合わせてラリーを交互に行なっているかなどを分析し「連携度合い」を数値化する。動きの連携の度合いを0から100の数値で算出することで、単にラリーを続けるだけではなく、2人のパフォーマンスを高めていくようにボールを打ち返す。

ロゴの横にある2つのカメラでボールの位置を3次元計測
横のカメラはプレイヤーの骨格を推定
バイタル等を計測、共感度と連携度を推定
共感度と連携度を高めるようにラリーを続ける

 また、ロボット自体の状態やラケットのラバーの汚れもリアルタイムに監視。ラバーの表面状態に応じて高さや角度を制御することで、返球精度を維持する自己調整機能を持つ。それをすべてオムロンの統合コントローラで制御している。ロボットの制御周期は500μs。ボールの軌跡予測やプレイヤーの能力・感情推定のセンシングと、最適なラケットスイングの計画と実行の制御の両方を、動かしながら同時に実行する。

 ロボットは「このダブルスの関係性にはどんなラリーを続けるのが最適か」を判断しながらラリーする。水山氏は、相互理解には共感と連携の2つが必要であり、高速ラリーが続く卓球は「Sensing & Control + Think」のデモとして最適なのだと語った。

ラケットの状態などもリアルタイムセンシング。ネット部分のカメラでプレイヤーの顔画像を取得する
ロボットを制御するコントローラ。そのほか、PCも併用する
センシングと制御を同時に実行
演出用も含めて合計7つのカメラでプレイヤーや球の動きを計測

チームパフォーマンスを高める機械へと進化

第7世代のコンセプトはチームパフォーマンスを高める機械

 2013年に開発された第1世代はラケットにあてるのがやっとだったが、その後徐々に進化してきた。プロジェクションでボールがどこに落ちるか示すことによる人のコーチング、さまざまな人への対応(第3~5世代)、そしてスクウェア・エニックスとの共同研究によるプレイヤー個人の中でのばらつき、モチベーションの向上(第6世代)などを経て、第7世代はチームの可能性を引き出すことを目指して開発が行なわれた。人と人との相互理解を助け、チームパフォーマンスを高める機械だという。なお開発メンバーは毎年入れ替わっており、主に若手が担っている。

開発当初は球にあてるのがやっとだった
その後の進化

今後は非言語情報の伝達サポートへ応用

 この技術は今後、機械を介すると伝わりづらい「非言語情報」を伝達し、人と人との間の阿吽の呼吸を実現することに寄与するものだという。たとえばオンライン会議や今後の遠隔医療などで、声の抑揚やスピードをより相手に伝えやすくするように機械が自動サポートすることに応用する。来館者には「人の可能性を引き出す技術」であることを感じてもらいたいという。

 また、来館者から、どんな機能を期待するのかフィードバックを得たいとのことだった。なお新型コロナ対策としてアルコール消毒、マスク着用などを徹底し、体験時間は5分以内とされている。顔の表情の認識はマスクをしたままでも可能なように調整している。

言葉だけでは伝わらない情報をより伝えやすくする技術などへ応用していく
今では卓球選手のウォーミングアップに使えるくらいの性能はあるという

特別展「きみとロボット ニンゲンッテ、ナンダ?」も開催中

特別展「きみとロボット ニンゲンッテ、ナンダ?」

 日本科学未来館では、特別展「きみとロボット ニンゲンッテ、ナンダ?」も開催中だ。こちらは約90種類130点のロボットを集めた展示会で、会期は8月31日まで。特別展の料金は大人2,100円(団体1,900円)、小学生~18歳以下1,400円(団体1,200円)、3歳~小学生未満900円。主催は日本科学未来館、朝日新聞社、テレビ朝日。

 こちらでも期間限定のスペシャルイベントが企画されている。7月30日と31日には、川崎重工業の人型ロボット「Kaleido Friends(カレイドフレンズ)」のダンスショーが1階コミュニケーションロビーで行なわれる。Kaleido Friendsはダンスだけではなく話もするという。

 また、8月2日と3日にはソニー・インタラクティブエンタテインメントが研究開発中の人型ロボット「EVAL-03」のミラーリング体験が行なわれる予定。そのほか詳細は公式ページをご覧頂きたい。