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Qualcomm、メタバース向けHMDの次のトレンドはMRと強調、Lynxが「R1」をデモ

Lynx Mixed Realityの「Lynx R1 Headset」、MR用HMD、前面にRGBカメラが2眼ついていることが特徴的

 Qualcommは、2月28日(現地時間)より始まったMWC 2022に出展し、Snapdragon XRの第2世代となる「Snapdragon XR2」についてもアップデートを行なった。

 Qualcomm XR製品管理担当 副社長 ヒューゴ・スワート氏は、同社がVR、MRとXRと総称されるメタバース向けのHMD(ヘッドマウントディスプレイ)の次のトレンドは、VRとRGBカメラからの現実世界の映像を組み合わせたMRになると考えていると述べた。そしてそうしたMRのアプリケーションを作成するソフトウェア開発環境として「Snapdragon Spaces」を提供し、広くアプリケーション開発者に採用を呼びかけていると強調した。

 そのQualcommのSnapdragon XR2を採用したMR HMDとして、フランスのベンチャー企業であるLynxが開発しているLynx R-1がMWCでデモされた。

VR HMDなどで採用が進むSnapdragon XR2、MetaとHTCが主力製品に採用

Qualcomm XR製品管理担当 副社長 ヒューゴ・スワート氏

 Qualcommは2019年の12月に行なわれたSnapdragon Tech Summit 2019において、同社のXR(VR、AR、MRの総称、現代的な言い方をすればメタバース)向けのSoCとしては最新製品となるSnapdragon XR2 Platform(以下Snapdragon XR2)を発表した。それから2年が経過し、その前世代となるSnapdragon XR1 Platform(以下Snapdragon XR1)を含めて、さまざまなデバイスに採用が進んでいる。

 例えば、Facebook Technologiesが販売するVR HMDの「Oculus Quest 2」には、SoCとしてSnapdragon XR2が採用されている。Oculus Quest 2を単体型のHMDとして使う場合には、Snapdragon XR2がさまざまな処理を行なう仕組みになっている。Oculusと人気を二分するVR HMDのHTC VIVEの最新製品「Focus 3」もSnapdragon XR2が採用されており、この2社を押さえているだけでもかなりのシェアをSnapdragon XR2が占めていることがわかる。

Oculus Quest 2、Snapdragon XR2採用
HTC VIVE Focus 3、Snapdragon XR2採用
MicrosoftのHoloLens 2hSnapdragon 850を採用
LenovoのThinkReality A3 smart glasses
Ray-BanのStoriesはSnapdragon Wearを採用

 ARも同様で、Lenovoが提供している「ThinkReality A3 smart glasses」には、Snapdragon XR1が採用されており、スマートフォンと接続して利用したり、PCと接続してそのディスプレイに利用することも可能になっている。

 Qualcomm XR製品管理担当 副社長 ヒューゴ・スワート氏は「VRやARに関しては普及段階に入ってきたと言える。今年これから普及が進む製品としてはMRがあると考えている。我々が定義するMRとは、VR HMDのヘットセットにRGBのカメラを装着したもので、それにより外部の映像と仮想空間の映像が混じり合って表示される形になる」と述べ、MRが今年のメタバースにおける次のトレンドになると述べた(なお、MicrosoftもHoloLens 2をMRと呼んでいるが、HoloLens 2の場合はシースルーのディスプレイに仮想現実をマージする形になりQualcommの定義とは違うが、現実と仮想現実をマージするという意味では同じ考え方だ)。

Snapdragon SpacesにはHMDのメーカーやゲームエンジンのベンダなどが参加しており、アプリケーション開発者が簡単にアプリを開発できる環境を整えている。

 Qualcommは昨年「Snapdragon Spaces」という構想を明らかにしている。このSnapdragon Spacesは、一種のソフトウェア開発キットを含んでおり、アプリケーション開発者にAPIやソフトウェア開発環境などを提供する。そうしたAPIなどを、Snapdragon XRシリーズを搭載したデバイスを製造するメーカーが搭載して出荷することで、アプリケーション開発者がアプリケーション以外の部分のことをあまり考えてなくても手軽に提供できるようにして、エコシステム全体の拡張を目指すという仕組みになっている。

 スワート氏によれば「EpicのUnreal EngineやUnityといったVR、ARで利用されているゲームエンジンもSnapdragon Spacesの一部として提供している。それにより、Unreal EngineやUnityの開発環境を利用してVR、ARのアプリケーションを作成した開発者にとっては、Snapdragon Spacesを利用することで簡単にMR用のアプリケーションを作成することができる」と述べ、日本にも多くいるVR、ARのアプリケーション開発者にSnapdragon Spacesを利用してもらい、アプリケーションを開発してほしいと呼びかけた。

Lynx Mixed RealityがR1をMWCでデモ、仮想現実と現実が混じり合った体験は楽しい

Lynx Mixed Realityの「Lynx R1 Headset」

 こうしたSnapdragon XR1/XR2を利用してデバイスを製造しているのは、MetaやHTC、Lenovoのような大企業だけでなく、スタートアップ企業も参画している。フランスのパリにベースを置くLynx Mixed Realityは「Lynx R1 Headset」を設計し、既にクラウドファウンディングなどを通じて販売を開始しているという。

レンズ部分
前面にはRGBカメラとIRカメラなど複数のセンサーが搭載されている

 同社によればLynx R1 HeadsetはSnapdragon XR2をSoCとして採用し、6GBのLPDDR5メモリ、128GBの内蔵ストレージとmicroSDカードスロットを備えており、Android 10のOSとUnity3Dの動作環境が用意されている。ディスプレイは1,600×1,600ドット/リフレッシュレートは90HzのLCDが2つ搭載されている。センサーはポジショントラッキング用にB&Wカメラが2つ、ハンドトラッキング用にIRカメラが2つ、さらに現実世界の撮影用にRGBカメラが2つとなっており、他にジャイロセンサーと加速度センサーが用意されている。

装着したところ
バーチャル空間でつかんだ玉を……
現実空間の机の上に置こうとしているところ、なお単体で動作しており、PCには画面出力をしているだけ

 外部との通信はWi-Fi 6ないしはBluetooth 5.0で、USB Type-CでPCやスマートフォンなどに接続することができるほか、内蔵バッテリで3時間動作することができる。今回はそうしたMRのデモとして、仮想空間の玉をつかんで、現実世界の机の上に置いたりということが可能になっていた。実際に筆者も体験してみたが、MicrosoftのHoloLens 2のような体験がより安価なHMDで体験できるというのは大きな意味があると感じた

 同社のWebサイトによれば現在開発者向けに販売しているStandard Editionは599ドル+送料となっており、企業向けのEnterprise Editionは1,099ドルという価格設定になっている。将来的にコンシューマ向けなどに販売するときには、サポートコストなども考慮に入れないといけないため、もう少し高い価格設定になる見通しだということだった。