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理研ら、量子コンピュータへの応用につながる量子スピン液体を解明

2次元正方格子上のJ1-J2ハイゼンベルグ模型の量子スピン液体相における励起構造

 理化学研究所豊田理化学研究所、および早稲田大学理工学術院総合研究所による共同研究チームは8月13日、マシンラーニングを活用して量子スピン液体相を解明したと発表した。

 絶対零度環境でもスピンが整列せず、量子力学的に揺らぐ量子スピン液体中では、スピンが分裂したかのような特殊な励起「スピノン」が起こるとされている。通常とは異なる量子もつれの特性を持つことなどから、量子コンピュータにおける量子計算に有用だと考えられているが、一方で理論的な取り扱いが難しく、量子スピン液体相が実在するのか、またどのような性質なのかはこれまで明確に分かっていなかった。

人工ニューラルネットワークの一つである制限ボルツマンマシンの構造の概念図
2次元正方格子上のJ1-J2ハイゼンベルグ模型とそのスピン配置の競合

 研究チームでは、この問題の解決にマシンラーニングを活用。人工ニューラルネットワークの一種である制限ボルツマンマシンと物理学で用いられる関数を組み合わせ、量子スピン間のもつれを捉えることに成功した。計算には、スーパーコンピュータの京および富岳の持つ大規模な計算リソースを利用しており、非常に高精度な結果が得られたという。

 また、この手法を2次元正方格子上のJ1-J2量子ハイゼンベルグ模型に適用したところ、強く量子もつれしている量子スピン液体が実現できることも分かった。さらに、量子スピン液体状態での励起構造を調べると、同液体ではスピンの励起が分裂し、独立した粒子のように振る舞う分数化と呼ばれる現象も確認できたという。

 研究チームは、今回量子スピン液体相を示すスピン模型が見つかったことで、現実の物質を用いた量子スピン液体の実現や、スピノンの量子コンピュータへの応用が期待できるとしたほか、マシンラーニングと物理学との親和性の高さも明らかとなったことから、今後の分野融合研究の活発化にもつながるとしている。