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物流の救世主!? ロボットたちが荷物の配送・集荷を担当。QBITと森トラストが自動搬送サービスを事業化
2021年6月2日 06:10
ロボットスタートアップの株式会社QBIT Roboticsは6月1日、館内配送集荷サービスの実証実験を、デベロッパの森トラスト株式会社と東京都港区虎ノ門にある「城山トラストタワー」で6月2日〜7月2日の1カ月間実施すると発表し、一部をメディア公開した。実際の荷物を使ってビル内での配送・集荷サービスの実証実験を行なう。そのために複数メーカーの自動搬送ロボットとロボットアームをクラウドで統合した「大規模オフィスビル向け館内配送集荷サービス」を開発。今後事業化するために検証する。
複数ロボットを効果的に利用、物流事業者の館内滞留時間を最少化
QBIT Robotics(QBIT)は2018年創業。主にサービスロボットを手がけるスタートアップで、プラットフォームビジネスを志向した「ロボティクス・サービス・プロバイダ」を名乗っている。
今回の実証実験は物流拠点から住宅や指定地への配送(ラストワンマイル物流)での、ロボット活用を促進する国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の「自動走行ロボットを活用した新たな配送サービス技術開発事業」の補助を受けて実施される。
実験では西濃運輸株式会社、佐川急便株式会社、そして城山トラストタワーの複数テナントの協力により、実際の荷物を用いる。システムは荷物の大きさと届け先に適した搬送ロボットを自動選択し、配送・集荷を行なう。ロボットアームが登載された専用荷物棚に専用ケースに納めた小型荷物を載せると、自動搬送ロボットへ自動積み込みが行なわれる。
使用される搬送ロボットは3種類。Saviokeの「Relay」、Pudu Roboticsの「PuduBot」、Keenon Roboticsの「Peanut」。Savioke「Relay」はエレベータ連携、自動ドア連携、小型荷物搬送に、Pudu Robotics「PuduBot」とKeenon Robotics「Peanut」は自動ドア連携、中型荷物搬送に用いられる。前述のように、ロボットは荷物の大きさに応じて自動選択される。
Universal Robotsの協働ロボットアーム「UR5e」にOnRobotのバキュームグリッパーとビジョンシステムを組み合わせた「ロボットアーム搭載荷物棚」はQBITの独自開発。マーカーとビジョンを使うことで、自動搬送ロボットの停止位置ズレに対しても荷物の積込み/荷下ろしができる。専用ケースに入らない荷物は現在は扱うことはできない。
今回見せてもらったデモは2種類。ロボットで34階のフロアまで小さい荷物を配送するものと、逆にロボットを集荷場から呼び出して、荷物をロボットに託して配送業者へ引き渡すというもの。
最初に配送から見せてもらった。こちらで使われるロボットはSaviokeの「Relay」。ロボットは荷物を搭載すると自動でスタートする。ビル内を走行するためにはセキュリティロックのかかった自動ドアを通過する必要がある。通常は人がIDカードを使って開錠しているが、今回は自動ドアと自動搬送ロボットの連携は、デジタルキーの会社であるビットキーの制御装置とクラウド連携することで行なっている。
客先にロボットが荷物を届けると、タブレット上で通知されるので、PINコードを使って蓋を開けて取り出し、ロボットを送り出す流れ。帰還したロボットはまた自動で専用ケースを荷物棚に戻す。物流事業者、テナント、館内スタッフなどの各々利用者は、それぞれがタブレットで動作するアプリを使う。
このほか、クラウド上でロボット、ビル施設、利用者アプリの全体を統合管理するために「全体統合管理ソフトウェア」を開発している。
現実にはまだ印鑑が必要だが……
一方、荷物の配送をロボットに託すデモは中型の荷物を使うためPudu Roboticsの「PuduBot」が使われる。ロボットは同じフロアのある場所から呼び出されると、自動でスタートしてその場まで移動。荷物を受け取ったらまた集荷場に戻ってくるというものだ。
ロボットは位置推定方式もそれぞれ異なるため、動き方も違う。最終的に集荷場までロボットが戻ってくると、スタッフがロボットから荷物を取り出して受け取り、配送に出る。
このようなサービスによって、理想的には物流事業者はビルの入り口に設けた集荷場までの立ち入りで済むようになるので、サービス実装できれば館内滞留時間を最少化できるというわけだ。今後の実証実験ではそのような姿を将来目標として、実際の荷物の量の測定や、ロボットの自律移動精度、ロボット運用ポリシーそのほかを検証する。
ただし現実的には「まだ伝票に印鑑をもらう必要がある」といったハードルも存在する。一方で、伝票に代わって利用者アプリ間で情報伝達することで配送集荷状況が施設外の物流事業者・テナントからもリアルタイムで把握可能になるメリットもあり、そのための仕組みは既に開発されている。
また、ロボット相手なので、気兼ねなく30分刻みで何度でも集荷依頼ができる、物流事業者は集荷状況を施設外から確認した上で、まとめて集荷できるといったメリットもあるとしている。
最適ロボット配車、配送集荷スケジューラを持つ「館内配送集荷基盤」を開発
コロナ禍の現在、「非対面・非接触」による荷物の配送は感染リスク低減のために重視されておりロボットの活用も期待されている。また、物流現場は慢性的な人手不足が課題だ。アフターコロナ時代には、さらに深刻化し、都心部の大規模なオフィスビルや、地方の大規模な商業施設等で、館内配送集荷の自動化ニーズが高まると予想されている。
一方、自動搬送ロボットの低価格化は加速しており、レストランやホテルなどのサービス業では100〜200万円台の安価な自動搬送ロボットが導入され始めている。現在は専任スタッフが専用アプリを用いて1台ずつ指示しているが、今後、大規模施設内で様々なロボットを多数台活用する際には、ロボット群の全体管理/制御を自動的に行なうシステムが必要となる。
そこでQBITは今回の実証実験開始に向けて、ロボットを使った館内配送集荷モデルに基づく業種パッケージとして、最適ロボット配車機能や配送集荷スケジューラを持つ「館内配送集荷基盤」を開発した。これにより、ビルの施設や利用するロボットの構成、配送集荷ポリシーの組合せに対応できる館内配送集荷サービスを実現したとしている。
エッジ制御基盤とクラウドアプリケーション基盤を連動
QBITは今回、様々な業種サービスやロボット種を問わず共通して用いることができる「クラウド・ロボット・アプリケーション基盤(ロボット共通の位置管理やロボットの群制御)」を開発し、ロボットを活用した様々な業種パッケージの開発を容易にした。
QBITは、これまでにもロボット依存部を局所化することでロボットサービス用プログラムの移植性を高め、ロボットアームと自動搬送ロボットなどの異種ロボット間連動を容易にする「エッジ・ロボット制御基盤」を開発していた。
今回、「エッジ・ロボット制御基盤」を「クラウド・ロボット・アプリケーション基盤」と連動させることで、様々なロボット活用アプリケーションが短期間で開発できるようになったとQBITのCTO 広屋修一氏は語る。
今後はロボットによる館内配送集荷サービスを事業化
今後は、今回の実証実験の結果を踏まえて館内配送集荷サービスの完成度を高める。そして自動搬送ロボットとロボットアームを用いた館内配送集荷サービスを事業化し、2021年後半からのサービス提供開始を目指す。
当面のターゲットは、オフィス延床面積10万平方m以上の国内大規模オフィスビル(約1,600棟)と、敷地面積3万平方m以上の国内大規模ショッピングセンター(約400カ所)。まずは大型の施設をターゲットとする。
また、今回開発したロボット化館内配送集荷モデルのほかに、オフィス設備の自動貸出回収やオフィスビル内での自動巡回販売等、ロボットを活用したビル価値向上モデルも開発しており、不動産業界・建築業界に向けて販売を開始する予定。