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Ryzen、Snapdragon、M1に比べて第11世代Coreはどこが優れているのか? Intelが解説
2021年5月31日 11:30
5月31日よりオンラインで開催されているCOMPUTEXに先立って、Intelはオンラインで記者説明会を開催した。説明会に登場したのは、IntelのChief Performance Strategistであるライアン・シュラウト氏。元々テックメディアでプロセッサを専門に追いかけていた記者出身として知られるシュラウト氏は、IntelでCPUやGPUなどのパフォーマンスを説明する役割を担っている。
そのシュラウト氏は、現在のIntelのノートPC向け主力製品である第11世代Coreプロセッサ(Tiger Lake)と、Ryzen 5000シリーズ、Snapdragon 8cx Gen 2(Microsoft SQ2)などとの性能差や、macOSデバイスとWindowsを比較した強みなどに関して説明した。
CPUやGPUの特徴を正しくアピールするために置かれているベンチマークの専門家という存在
CPU、GPUなどの演算に利用するプロセッサの性能というのは単純な数値で解説するのは実に難しい。例えばCPUの性能というのは、クロック周波数、内部の実行エンジンの実行効率(難しく言うと、IPC=Instruction Per Clock-cycleという言葉で表現される、1クロックあたりに実行できる命令数。このIPCが高ければ高いほどCPU内部の実行効率が良いという意味になる)、さらには半導体を製造する製造技術(製造プロセスルール)など複数のパラメータで決まってくる。
そうしたCPUやGPUの性能を数値化するためのプログラムが「ベンチマーク」だ。ベンチマークを使って自社や他社の製品の性能を計測し、自社製品の強みを説明するのが各メーカーの「テックマーケティング」と呼ばれる担当者である。今回Intelの記者説明会に登場したライアン・シュラウト氏はその1人で、元々は米国のテックメディアであるPC Perspectiveを自ら立ち上げて、自ら記者として活躍していた。
実際筆者は何度もIntelやNVIDIA、AMDといったプロセッサベンダーの取材の場でご一緒したことがあるほどだ。その後、Intelに現在のポジションで入社したことは英語のテックメディア界隈ではとても話題になった。
ただ、シュラウト氏のような例は別に珍しいわけではなく、米国のメディア業界では普通のことだ(余談だが日本ではテックメディアから実業、またはその逆という事例はあまり多くない)。実際NVIDIAも同じような担当者を雇用しているという前例もある。こうした製品の性能を説明する相手は、元々同じビジネスをしていた記者なのだから、元記者が適任ということなのだろう。
記者として、そしてその記者の書いたリポートをお読みいただく読者にとって重要なことは、そうした製品のパフォーマンスを説明する担当者が「何を言ったか」はもちろんだが、同時に「何を言わなかったのか」にも注目すると、本当のところが見えてくる。というのもあたり前だが、自社の製品の弱みを説明するマーケティング担当者などこの世にはいないからだ。
今回シュラウト氏は、第11世代Core H45とAMD Ryzen 5000シリーズ・Hプロセッサ、第11世代Core(UP3)と5000シリーズ・Uプロセッサ、第11世代Core(UP3)とSnapdragon 8cx Gen 2(Microsoft SQ2)、WindowsとmacOSという4つの比較を行ない、それぞれの競合製品との比較でIntelの強みをアピールした。
無論、逆にAMD、Qualcomm、Appleが自社製品をアピールするときには、Intelの弱みとなる部分を自社の強みとして主張する。従って、両者の主張を比較してみると、両者の強み、弱みが見えてくると言える。
今回のこのリポートで紹介しているのはIntelが主張しているIntelの強みということになるので、Intelの弱みを知りたい場合には、過去記事でAMD、Qualcomm、Appleの主張を伝えている別のリポートを併せてお読みいただきたい。
第11世代Core H45はAMDのRyzen 5000シリーズ・Hプロセッサを性能で上回る
Intelが5月11日に発表したのが「第11世代インテルCoreプロセッサ・ファミリー Hシリーズ」(以下第11世代Core H45)だ。Tiger Lake-H45というコードネームで知られる同製品は、Willow CoveコアCPUを8コア内蔵しているというTiger Lakeファミリの中では最もCPU性能が高い製品となっており、ハイエンドゲーミングノートPCやコンテンツクリエーションノートPC向けと位置づけられている。
その詳細に関しては先週の記事で詳しく解説しているのでそちらをご参照いただきたい。
この第11世代Core H45に関しては既に多数の製品がOEMメーカーからも発表されており、COMPUTEXでもDellのAlienwareブランドの製品がプレビューされるなど、新しい搭載製品が続々と登場している。
Intelは、第11世代Core H45の最上SKUとなるCore i9-11980HKと、AMDで現在最上位となるRyzen 9 5900HXとの比較データを公開した。利用されたシステムは、どちらもGeForce RTX 3080を搭載しているシステムだ。ゲーミングでも、コンテンツクリエーションでもCore i9-11980HKを搭載したシステムが、Ryzen 9 5900HXのシステムを上回った。
また、Ryzen 9 5900HXの1つ下のSKUとなるRyzen 9 5900HSとの比較もされており、同じ65Wの設定時に、Core i9-11980HKが上回るというデータが示された。
ただ、AMDがまだ市場では販売できていない、Ryzen 9 5980HXとRyzen 9 5980HSと比較してどうかというのは当然の疑問で、それはAMDの搭載製品が市場に出回るのを待つ必要があるだろう。
新しいCore i7-1195G7はRyzen 7 5800Uを特にGPUやビデオデコード/エンコードの性能で上回る
続いてシュラウト氏は、今回のCOMPUTEXにおいて新しく2つのSKU(Core i7-1195G7とCore i5-1155G7)が発表された第11世代Core(UP3)と、AMDのUシリーズ・プロセッサ(TDP 15W)の最上位となるRyzen 7 5800Uとの比較について触れた。
そうした製品の比較の前にシュラウト氏は「最初に言っておきたいのは、Intelは第11世代Coreを発表してすぐにOEMメーカーから製品が登場した。しかし、AMDのRyzen 7 5800Uは1月に発表されて、ようやく今月に搭載製品が市場に投入された。このタイムラグの差は小さくないと言うことは指摘しておきたい」と述べた。
確かにそれは正しい。実際、第11世代Core(UP3)はIntelが9月に発表した後、1カ月もしないうちに市場に搭載製品が登場したし、日本でも10月には最上位モデルのCore i7-1185G7がもう買えるようになっていた。それに対してAMDのRyzen 7 5800Uを搭載した製品は、5月に入って海外市場で販売を開始したが、まだ日本市場では販売されていない。AMDの弱点として、そうした搭載ノートPCが市場に登場するまでの時間の長さは否定できないだろう。
シュラウト氏はAMDのRyzen 7 5800Uに対するCore i7-1195G7の強みとして、内蔵GPU(Xe Graphics)の高い性能を上げた。Ryzen 5000シリーズの内蔵GPUはVega世代で、今となってはかなり旧式のGPUになっている。最新のアーキテクチャであるXeに基づいているXe Graphicsが上回っているのは当たり前なのだが、それがあまり理解されていない(どうしてもCPUの方に注目が集まりがち)ので、こうしたアピールを行なっているということだろう。
シュラウト氏は「Xe GraphicsはDirectX 12 Ultimateの機能であるSampler Feedbackに対応している。それにより性能を向上させ、メモリ利用率を下げることができる」とする。3DMarkのSampler Feedbackの機能テスト時に、Xe Graphicsでのオン/オフを比較すると、オンの場合が1.23倍のスコアになり、この機能に対応していないRyzen 7 5800U内蔵のVegaでは、オンにしたXe Graphicsと比べて2.34倍のスコアになると説明した。
また、ビデオエンコード性能についても説明し、Ryzen 7 5800Uのハードウェアビデオデコーダ/エンコーダ(VCN)と、Core i7-1195G7のハードウェアビデオデコーダ/エンコーダ(QSV)の機能比較を行ない、IntelのQSVの方が圧倒的に対応している形式が多いことなどをアピール。4K 10bit HEVCを1080p HEVCにエンコードする場合に8倍近く高速に行なえることも指摘した。
なお、GPUやビデオエンコーダ/デコーダなどに関しては大きな時間を割いたが、一般的なCPU性能が効いてくるベンチマークなどに関してはSYSmark 25などのデータについて触れた程度で、あまり説明はしなかった。
Arm版WindowsのSnapdragon/Microsoft SQとの比較では互換性と性能で上回る
第11世代Coreと、QualcommのSnapdragon 8cx(およびそのMicrosoft版となるSQ1/SQ2)に関しては、アプリケーションの互換性と性能を説明した。
シュラウト氏はその代表例として、Adobe Creative Cloudのアプリが、現時点ではPhotoshop、Camera RawとLightroom CCの3つしかないことを指摘した。Microsoftはx64のエミュレーション機能を搭載したArm版Windows 10をWindows Insider Program(Devチャネル)を通じて配布しているが、いまだ製品版のWindows 10には未実装のまま。このため、現状Adobe Creative Cloudで利用できるアプリケーションはArmネイティブ版が提供している前出の3つだけなのだ。
これに対してx86環境では22個のアプリケーションがインストール可能だ。IllustratorやPremiere Proなどほかのツールを必要とする場合には、現状Arm版Windowsではどうしようもないという状況が続いている。また、Logicool(海外ではLogitech)のツールやExpress VPNをインストールしようとすると互換性の問題が発生すると指摘した。
そして性能に関しても、Core i5-1135G7を搭載したSurface Pro 7+とMicrosoft SQ2を搭載したSurface Pro Xの製品を比較して、どちらも同じネイティブ版があるMicrosoft Edgeなどを含めて、Core i5-1135G7を搭載したSurface Pro 7+が上回ると説明した。ただし、モバイル機器として重要な割合を占めるバッテリ駆動時間に関しては特に言及がなかった。
macOSデバイスとの比較ではAAAゲームの充実度などの点でIntel+Windowsが上回る
最後にIntelから自社製のArmプロセッサへの移行を進めているAppleのmacOSデバイス(MacBook、iMacなど)との比較について説明した。
特にApple M1ベースのMacBook Proなどについては「依然としてArmをネイティブでサポートするアプリケーションは多くなく、ディスプレイの互換性に課題があったり、外付けで使うeGPUやSSDとの非互換性などが指摘されている。そうしたことを考慮に入れれば、PCの方が実利用環境ではメリットが多いと考えられる」と述べ、最近Intelが米国で行なっているPCとM1 Macとの比較などに関して繰り返した。
その上で、PC側の大きなアドバンテージとしてシュラウド氏が主張したのはゲームタイトルの充実度の違いだ。ゲーム配信として世界最大のストアと言って良い「Steam」をmacOS版で開けば、対応ゲームがWindowsに比べて少ないのはすぐ気がつくだろう。シュラウド氏が指摘しただけでも、APEX Legends、Monster Hunter World、Call of Duty、Overwatch、PUBG……などはmacOS版には用意されていないとする。同社の調査によれば、AAAタイトルなどメジャーでポピュラーなゲームのうち半分はmacOS版で遊べないという。
また、macOS版が用意されている場合でも、dGPUを搭載したMacBook Proなどで世代が古いCPUやdGPUが搭載されているため、Core i5-11400HとGeForce RTX 3060などの新しいCPUやdGPUが搭載されているPCの方が高い性能を発揮するとアピールした。
ただ、最新のCore i7-1195G7とM1を搭載したMacBook Proとの性能やバッテリ駆動時間などの比較に関して、今回は特に言及されることはなかった。