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日本郵便、配送ロボットを既設マンション内で運用実験

 日本郵便株式会社は配送効率を高めることを目的として、屋内でのラストワンマイル配送での配送ロボットの可能性を検証する実証実験を、2021年2月下旬から3月下旬までの予定で、実際のマンションで行なっている。

 実験は複数台の配送ロボットとエレベータ、運行管理システムを連携させて、実際に居住者がいるオートロックシステムつきマンション内での荷物配送を行なうもの。

 日本郵便では2017年度以降、配送ロボットの実証実験を継続的に行なっている。2019年度には日本郵便本社でエレベータ連携の試行を行なった。

 今回は2020年9月末から11月まで実施した公道での輸配送実証実験に続く取り組みで、エレベータ連携を前提として屋内配送を行なう。国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)による「自動走行ロボットを活用した新たな配送サービス実現に向けた技術開発事業」の補助を受けている。

複数台のロボットによる屋内配送実証実験

配送ロボット「RICE」

「RICE」。54×50×76cm(幅×奥行き×高さ)

 今回の実証実験は日本郵便のほか、株式会社日立製作所(運行管理システムの試作および運行の実施)、株式会社日立ビルシステム(配送ロボットのエレベータ連携対応)、アスラテック株式会社(配送ロボットの提供および運行の実施)という座組み。3月23日、この実験の様子が報道陣に公開された。場所は千葉県習志野市内のマンションである。

RICE。事前にマッピングしたマンション内を自律走行
自分でエレベータを呼んで乗り込み、目的階に移動できる

 使用されているロボットは、香港のRice Roboticsが開発し、ソフトバンクグループのロボットスタートアップの1つであるアスラテックが日本代理店となっている「RICE」。54×50×76cm(幅×奥行き×高さ)、重量55kg。最大積載量は10kg。運べる荷物のサイズは最大で36×22×27cm(同)まで。

 センサーは磁気エンコーダ、超音波センサー、LiDRAR、ジャイロ、3Dカメラなどを搭載。駆動輪は2つで前後に補助輪があり、その場回転ができる。バッテリはリチウムイオン電池で、駆動時間は約8時間。充電時間は2時間。

 RICE自体を使って作成するマップとセンサーを活用して自律走行することができ、最高速度は4km/h。走行可能最小道幅は80cm。Wi-FiのほかLTEを搭載しており、エレベータ管理システムと連携する。パスコードで認証してフタを開けることができる。

 ロボット自体のステイタスはAWS上の「RiceCore」というWeb管理ツールで見ることができる。アスラテックのロボットエバンジェリスト・今井大介氏によれば、Rice Roboticsの各種対応は非常に早く柔軟だという。今回の実験では5台の「RICE」が運用されている。丸っこく角がとれたフレンドリーな外見は住民にも高評価で、親和性が高いという。

今回は5台を運用
蓋をあけたところ

複数台ロボットによる屋内搬送

マンション入り口までは人が配送する

 今回の試行ではマンション居住者宛ての荷物を配達員がマンションの入り口まで配送。入り口から受取人の住戸の玄関までの配送をロボット「RICE」が行なう。

 具体的には、配達員は到着後、スマホアプリを使ってマンション内に待機しているロボットを玄関先まで呼び出す。ロボットがオートロックドアのところまで来るとドアは開くので、配達員はロボットの蓋を開けて、配送先を設定し、荷物を格納する。そしてロボットをスタートさせる。この出発時点で配達開始のLINEが利用者宛に自動発信される。

ロボットが来たらオートロックが開くので、配達員がロボットに荷物を入れる
配達員は端末でロボットに配達登録を行なう

 ロボットは住居用通路を自律移動し、エレベータに向かう。そして無線でエレベータの呼び出しを行ない、到着したらカゴ内の「開く」ボタンを無線で操作。行き先階を登録し、目的階に到着して降車する。エレベータは人と共有できる。

ロボットはマンション通路を自律走行
エレベータには自分で乗り込む

 ロボットが配送先の住戸玄関に到着すると、受取人のLINEに到着の連絡と、荷物を取り出すためのパスワードが通知される。受取人が不在のときは、ロボットは荷物等を保持したまま一度マンション内の待機場所へ戻り、受取人から依頼があったタイミングで、再配達を行なうことが可能。その都度、新しいPINコードがロボットから自動発行される。

 なお、ロボットがエレベータを使っている場合でも居住者はエレベータを利用することができる。

ロボットのパスコード入力画面
スマートフォンに届いたパスコードでロボットの蓋を開けて荷物を取り出す
住民側に届くパスコード通知画面

 ロボットの運行管理システムは複数台のロボットを運用することができる。システムはロボットの詳細なステータスや配達/走行状況を一元管理し、ロボットのカメラ映像を確認して緊急時に操作介入することもできる。

 今回の実証実験で配達管理、遠隔監視の要件を確認する。ロボットとエレベータとの通信には、MQTT(Message Queuing Telemetry Transport)を利用している。

配送終了後、ロボットは自動でステーションに戻る
運行管理システム。ロボットのステイタスほかを閲覧できる

「実証」から「実装」へ

日本郵便株式会社 オペレーション改革部長 五味儀裕氏

 日本郵便株式会社 オペレーション改革部長の五味儀裕氏は、「官民一体になってシステム設計をすすめてきた。今回は各社の協力を得て、屋内における配送ロボットの実証実験。昨年(2020年)は社内メール便の実験を行なった。今回は実戦に近いかたちで実証を行なわせてもらった。

 検証項目はいくつかある。エレベータとの連動、受け取ってもらうまでのシナリオなどいくつかの実証項目がある。おおむね順調。住民にも実機を見てもらう説明会も行なって理解を求めた」と語った。

 これからは「実証」から「実装」を目指し、次の3年間くらいを目処に開発を進めるという。

 今回のようにオートロックのあるマンションでは通常は、下で呼び出してオートロックを開けてもらい、その都度各住宅を訪問して荷物を配送しているが、大型マンションになると配達にかかる時間数がどんどん伸びてしまい、なかには10分以上かかるところもある。

 そのようなところから実用化していくことになるのではないかと見通しを語った。実際にロボットを導入するときにどのようなコスト分担になるのかなどについては、今後、他社との協議も含めて検討していくという。

 経済産業省 物流企画室 室長の西野健氏は、「屋内だけでなく屋外でも配送ロボットの実証を進めている。このビジネスは新しいものなので『はじめて』が多い。日本郵便がはじめてに取り組んで実証実験に取り組んでいる点にはわれわれも感謝している。官民合同で取り組みながら関連省庁と取り組んでいきたい」と語った。

 なお国はロボットの公道走行実証に向けて今年度(2021年度)に関連法案を提出し、さらに実証実験を進める予定。今回は小型低速走行のロボットの実証実験だが、「今後は中型のニーズも高まると見ており、官民協議会を交えて支援していきたい」と語った。

経済産業省 商務・サービスグループ 消費・流通政策課 物流企画室 室長 西野健氏
株式会社日立製作所 公共システム事業部 パブリックセーフティ推進本部 主任技師 藤田将史氏

 株式会社日立製作所 公共システム事業部 パブリックセーフティ推進本部 主任技師の藤田将史氏は「われわれは2017年度から実証実験に参加している。ロボットと連携させた運行管理システムで貢献していきたい」と語った。ロボットとの連携について、現在はMQTTを用いているが、今後ほかのプロトコルが用いられても対応可能とのことだった。

アスラテック株式会社 代表取締役社長 酒谷正人氏

 アスラテック株式会社 代表取締役社長の酒谷正人氏は「RICEはソフトバンク本社のビルでコンビニから品物を届けたり、ホテルのルームサービス、ショッピングモール内での案内などにも使われている」と事例を紹介。とくにユーザーフレンドリーな外見など親しみやすさも重視しながら、ロボット導入を進めていきたいと語った。

 ロボット配送の感想を求められた住民の方のお一人は「今後はこういうものが広まっていくのだろうと思う。広まってほしい」と語った。