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富岳を利用して世界の気象機関の500倍となる大規模気象計算を実現

NICAM-LETKFデータ同化システムの実行の流れとデータの移動量

 国立環境研究所理化学研究所富士通株式会社、株式会社メトロ、東京大学らによる研究グループは、富岳を用いた大規模な全球気象シミュレーションおよびデータ同化の複合計算を実現した。

 現在の気象予測は、世界中の気象観測情報と、コンピュータによる数値シミュレーションに加え、観測データとシミュレーションを数学的につなぐデータ同化による複合計算によって実現されている。集中豪雨や台風などよる気象災害を抑える面でも、精度の高い気象予測が求められているが、一方で精度の向上には計算量やデータ量が膨大となり、現実的な時間内で計算を終わらせるのは困難だった。

 今回研究グループでは、スーパーコンピュータの富岳と、全球高解像度大気モデルNICAM、局所アンサンブル変換カルマンフィルタLETKFなどの科学計算ソフトウェアと協調設計を行ない、現在気象庁で行なっているものの30倍以上となる1,024個のアンサンブル計算を実現。それぞれの計算機に近いSSDでデータの読み書きを行なったり、シミュレーション結果の劣化を抑えながら、実数の精度を落とし桁数を減らして高速化を図るなどといった設計がなされている。

データ同化部分の計算時間の結果

 その結果、倍精度実数を用いた場合と比べて、大部分に単精度実数を用いた場合のほうが計算が高速となり、アンサンブル数の増大にともなう計算時間の増加を抑えられた。最大規模となる3.5kmメッシュ/1,024メンバーの計算では、富岳全体の82%のノードを利用して、シミュレーション部分で29PFLOPS、データ同化部分で79PFLOPSの計算性能が発揮できるという。

【お詫びと訂正】初出時に、単精度実数と倍精度実数を逆に書いておりました。お詫びして訂正させていただきます。

 今回得られた結果により、スーパーコンピュータによる複雑なソフトウェアの計算の大規模化や高速化の可能性が示されたほか、データ同化処理は気象予測だけでなく、温室効果ガスや大気汚染物質の吸収・排出量の推定などにも用いられる手法のため、各分野での研究に活用できるとしている。