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東大、フッ素樹脂表面に半導体結晶を高均質に塗布製膜できる技術
2020年10月10日 06:10
東京大学大学院工学系研究科物理工学専攻の研究グループは8日、液体を強くはじくフッ素樹脂の表面上に半導体結晶を高均質に塗布製膜できる技術を開発し、理論限界に迫る高急峻スイッチングを実現したと発表した。
有機半導体の一種である塗布型有機半導体(TFT)は、溶剤に溶かして作ったインクを塗って乾かして半導体デバイスを簡易に構築できる一方で、その高性能化には、撥液性が極めて高いフッ素樹脂などのゲート絶縁層の上に、均質に半導体薄膜を積層して形成したデバイス構造が有利とされている。
しかし従来の塗布法では、インクが強くはじかれ丸くなってしまい、薄い液膜の形成が困難で、低分子系有機半導体の均質製膜は不可能だった。つまり性能を保持しつつ、低電圧と安定駆動化、スイッチングの急峻化の達成が課題となっていた。
そこで研究グループは、TFTの構成要素であるソース/ドレイン電極が、ゲート絶縁層上で半導体層に接していて、かつ溶液を濡れ広げやすい金属でできていることに着目。半導体溶液が電極上で濡れ広がることで形成された薄い液膜を、シャボン膜メカニズムの活用で、撥液性の高い絶縁層表面にも引き伸ばし、維持することを目指した。
具体的な製膜方法としては、まず高撥液絶縁層Cytop(アモルファス性フッ素樹脂)上に、U字型の金属膜パターンで3方が囲まれた領域を形成。その領域上にブレードコート法による製膜を行なう。これにより、金属膜上とおなじ半導体層が形成されることが確認できた。これによって得られた半導体薄膜に偏光顕微鏡観察やX線解析測定を行なってみたところ、優れた結晶性を有することが確認できたという。
この方法を用いて、ボトムゲート/ボトムコンタクト型の有機TFTを制作し、電気特性を評価したところ、ゲート電圧を固定しドレイン電圧を変化させる出力特性において、低ドレイン電圧では電流値が直線的に増加、高ドレイン電圧では電流値が一定になるという典型的なデバイス特性が得られた。
また、ドレイン電圧を固定し、ゲート電圧を変化させる伝達特性には、0Vボルト近傍での高急峻な立ち上がり特性と、ヒステリシスがなく4.9平方cm/Vsという良好な移動度を確認。スイッチング鋭さの指標であるSS値は、平均で67mVと、理論限界(室温では60mV)に近い特性を実現したという。
この技術はプリンテッドエレクトロニクスの革新技術になると期待されており、多数の材料にこの塗布製膜法を適用。実用化に有利なボトムコンタクト素子で高い性能を発揮するために有利になる材料要件の探索と、材料/プロセスの一体的な開発を進めていく計画。