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6G以降の無線通信実現につながるグラフェンでテラヘルツ波を増幅する技術

試作したグラフェントランジスタのドレイン電圧を上昇させながらテラヘルツ波パルスを照射した結果

 東北大学、モンペリエ大学、ロシア科学アカデミー、ポーランド国立高圧物理学研究所らによる研究グループは、グラフェンを使用した電池駆動によるテラヘルツ電磁波の増幅に成功した。

 テラヘルツ波は、波長が10μmm~1mmの電磁波で、その振動周波数はほぼすべての物質において指紋スペクトルが存在するなどといった特徴を持ち、分光やイメージング、超高速無線通信などさまざまな分野への応用が期待されている。

 なかでも、次世代の超高速無線通信である6Gや7Gに向けてテラヘルツ波の利用が欠かせないが、一方でトランジスタやレーザーなどにおけるテラヘルツ帯の動作は、本質的な物理限界のため困難とされてきた。加えて、室温で動作し小型集積化が可能、かつ電池で駆動するテラヘルツ増幅素子やレーザー素子は、6Gや7Gの送信手段として必要となるが、実現に至っていない。

 そこで、従来の半導体素材より大きく優れた性質を持つ炭素原子の単層シートであるグラフェンに着目。グラフェンは炭素原子が蜂の巣格子状に結晶化した単原子層の材料で、すでにグラフェンを利得媒質としたテラヘルツレーザー発振の実証に成功しているが、-163℃の低温環境においてわずかな増幅利得が得られたもので、室温で高強度な動作を実現するには、電子と光子の直接相互作用の動作限界を超える大きな増幅利得が必要だった。

 電子と光子の相互作用を向上させる手段として、プラズモン(電子集団の電荷振動量子)を利用するものがあるが、今回研究グループでは、グラフェンのプラズモンがテラヘルツ波光子と高効率で相互作用する点に注目し、二重回折格子ゲートと呼ばれる構造を用いたグラフェントランジスタを試作。実験は室温環境下で行なわれ、ドレイン電圧を上昇させながらテラヘルツ波パルスをグラフェントランジスタに照射し、透過したパルス波の時間応答波形から吸収特性を測定した。

実験結果で得られた特性の2次元プロット

 実験の結果、ドレインバイアスがあるしきい値以下では、グラフェンプラズモンの共鳴周波数をピークとする強い吸収スペクトルが確認された。ドレインバイアスが上昇するにつれて、ピーク周波数は低域側に移動(レッドシフト)し、吸収率が低下した。

 ドレインバイアスがあるしきい値を超えると、0~3THzの範囲においてグラフェンは吸収率が0の状態を示した。さらに上昇させると、逆に増幅特性を示し、ピーク周波数において最大利得が9%に達した。また、ピーク周波数はドレインバイアスの上昇につれて高域側に移動した(ブルーシフト)。

 グラフェンの電子と入射する電磁波の光子が直接相互作用した場合、吸収係数および増幅利得はどちらも最大で2.3%に留まるとされており、今回の結果はこの4倍と巨大な増幅利得となった。あわせて、グラフェン内の電子を救急車の移動、プラズモンが振動する波を大気中の音波と見立てると、レッドシフトとブルーシフトのあいだにドップラー効果と逆ドップラー効果が共存するような現象がみられた。これにより、テラヘルツ波の周波数を能動的に変調できることも明らかとなった。

 今回の研究では単層のグラフェンを用いたが、多層化したものを使えば層数分利得が向上させることも可能だとしており、室温下かつ乾電池での駆動が可能で高利得なテラヘルツ波増幅素子や、高強度テラヘルツレーザ素子の実現につながるとしている。