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遠隔操作や自動運転で“3密回避”。新型コロナ時代に必要とされるロボット技術とは
2020年6月17日 14:52
パーソナルモビリティによるラストワンマイル移動ビジネスを展開するWHILL株式会社と遠隔操作ロボットビジネスを進めているMira Robotics株式会社は2020年6月17日、合同で「With/After社会のロボティクス」と題したメディア向けセミナーを開催した。
両社に加えて、東京大学名誉教授の佐藤知正氏、ロボットエバンジェリストの羽田卓生氏らがWith/Afterコロナ時代に応じた新生活様式について議論した。ロボットは新型コロナによって新たな価値を持って社会を支えるようになるという。
ロボットに加わった「社会の3密回避」という新たな価値
はじめに東京大学名誉教授の佐藤知正氏が「コロナがもたらすロボットルネサンス」と題して講演した。新型コロナウイルスによるパンデミックによって、ロボットに「消毒」や「リモート看護」、リモートワーク支援、サプライチェーン確保、遠隔操作アバター、SDGs(持続可能な開発目標)の達成などの新しい価値が加わり、With/Afterコロナ時代を経て、ロボットは社会に溶け込んでいくことになるという。
佐藤氏は、新型コロナ感染症には、①生命にかかわる病気、②人と人を引き離す病気、③人の奔放な活動を制限する病気、の3側面があると整理。それぞれの面で、ロボット技術などの活用の加速が期待されている。消毒ロボットや介護ロボットなどの活用が、社会実験として強制的に進められつつある。
そして従来のようなハードウェアの売り切りではなく、使いこなしを含めたサービスを提供する「RaaS(Robot as a Service)」産業が付加価値を増していると述べ、非接触・3密回避のため、産業用の世界でも人と人との間に入るロボットが注目を浴びているとして、MiraRoboticsとWHILLを紹介した。
海外でもさまざまな搬送ロボットや紫外線による消毒ロボットが活用されている。タイなどでも活用が積極的に進められているという。また、サイバー/フィジカルの融合技術も必要だろうと述べた。
ロボットシステムを考えるときは「環境――ロボット――人」をまとめて考えること、それぞれの間が重要だと指摘し、今は環境が変わった時代であり、ロボットと人間の関係も全世界で変わりつつあると語った。
これまでは人間の機能を拡張するロボットが考えられていたが、これからは制限するようなロボットが着目されるようになり、アフターコロナ時代は、これまでになかった新しい作業ロボット、行動ロボット、社会ロボットが生み出されるだろうと述べた。
とくにアバターロボットやeスポーツに貢献するようなロボットが出て来るのではないかという。また技術立国である日本は世界に目を向けて、単なるハードウェアだけではなくロボットをバリューチェーンの1つとした日本式ものづくり現場の輸出、そして生活現場の輸出、サプライチェーン強化とニーズ探索を進めるべきだと強調した。
そして「ロボットはこれから社会のなか、人間のなかに溶け込んでいく」と語った。人のなかに入っていくというのはサイボーグ的なもので、「これを実現できればロボットルネッサンスが起こる」と述べた。これからは身近な存在としてロボットが活躍するだろうし、新型コロナはそのきっかけとなり加速されるだろうと述べた。
遠隔操作ロボットが浸透する前提がそろった
ロボットエバンジェリストの羽田卓生氏は「With/After コロナ時代に求められるロボティクス、ニューノーマルを支える技術」として、おもに遠隔操作ロボットについて講演した。
いま人口減少下にある日本は、労働者50人に1人が外国人労働者になっており、労働に深刻な問題を抱えている。これらの背景を踏まえて羽田氏は「遠隔操作ロボットが浸透する前提がそろってきたのではないか」と述べた。
いますぐ社会実装をすることを考えると、法制度・社会・技術それぞれの面から見て、遠隔操縦が最適だという。VRグラスの価格低下、オープンソース技術の進化、5Gによる通信インフラ整備などだ。
遠隔操作ロボットにも何台のロボットを人がどのように操作するかによって、1:1型、1:1+AI型、1:N型、N:1型、N:N型などに整理できるとした。ロボットがある程度自律して動けるのであれば、ポイントポイントで人が介入するだけでいいので、同時に複数のロボットを人が操ることができるようになる。また、複数の人が操作することで、状況に応じて、最適な操縦者をあてることもできる。ロボットやAIの完全な成熟を待つよりも、今すぐやることが重要であり、遠隔操作ならばそれが可能だと述べた。
清掃の品質要求が高まるwithコロナ時代にロボットで応える
Mira Robotics株式会社は、同社が開発中の各種センサーを搭載したアバターロボット「ugo」の遠隔操作によって、警備や清掃、点検などのサービス提供を目指すスタートアップ。現在はどのように使えば作業員の負担が減少できるのかについて実証実験を行なっている(ビルを警備する半自動の遠隔操作ロボット。Mira Roboticsと大成が共同開発参照)。
Mira Robotics代表取締役CEOの松井健氏は新型コロナに対応するために、不特定多数の人が触る可能性が高い共用部のドアノブやスイッチなどを除菌する紫外線照射ハンドなどを開発している。現段階では導入されていないが、日々の巡回作業のついでに消毒するというコンセプトで検討を進めているという。
松井氏は「withコロナ時代には清掃の品質要求が高まるだろう」とし、日常除菌の自動化、ロボットやセンサーを使った施設内環境や人の動きの見える化、非対面・非移動の新しい働き方・分散型社会が重要になると述べた。最終的にはアバターロボットを活用したビルメンテナンスパッケージを国内外に販売していくことを目指す。
ラストワンマイル移動にも自動運転で対人距離を
WHILL株式会社については同社広報マネージャーの辻阪小百合氏が紹介した。
WHILLはラストワンマイル移動のサポートをミッションとする会社で、2020年6月現在、12の国・地域でビジネスを進めている。日本では65歳以上のうち1,000万人が500mを超えて歩くことが困難だと言われていることから、1km以内の短距離移動にフォーカスを絞って、プラットフォーム構築を行なっている。
長期の日常使い、レンタルでの中期間活用、オンサイトでの短期利用の3つにわけて、それぞれにビジネスを進めている。具体的にはショッピングモールや横浜市みなとみらい地区の散策実験などを行なっている。
WHILLは6月8日には羽田空港にて「自動運転パーソナルモビリティ」として採用されて実用化されたと発表を行なった。空港での乗り継ぎに用いるもので、返却は自動で行なわれるため人手がいらない。
もともとは車椅子を押すサービスの人手不足解消が目的だったが、ここにきて、対人距離を保つことができるという点が評価されて導入にいたったという。
モビリティにはステレオカメラやLiDARなどを追加装備しており、衝突を回避することができる。また空港移動用に大型の荷物置きも備える。
今後については、依然として第2、第3パンデミックへの対処のため安全に配慮したオペレーションがこれまで以上に必要となるだろうと述べ、羽田への導入を皮切りとして、これまでに実証実験を進めてきた空港への本格導入を進めたいと語った。
強制的な社会実験によって加速する変化、ロボットとビジネスの行方
このあと、パネルディスカッション「With/Afterコロナ時代への提言」が行なわれた。
佐藤氏は「環境が変わったのだからロボットも人間も変わる」と述べ、Mira Robocitsの松井氏は「変わるにしてもいろいろな選択肢がある。リモートワークが進むことで時間の使い方が変わるし、休み方もフレキシブルになるだろう」と受けた。
WHILLの辻阪氏は「変わることと変わらないことがあると考えている。外出が健康維持に重要であることは変わらないため、ラストワンマイルの位置づけは強化していきたい。一方業務移動が減るために反動として楽しむための移動が増えるのではないか。ロボットや自動運転での代用や中長期的にはスタンダードになるだろう。世のなかの加速スピードにあわせてスピーディに事業展開していくことが必要だと考えている」と述べた。
松井氏も「もともと人手不足解消ということでアバターロボット活用を提案しているが、新型コロナによって事業継続のための手段としてのアバターの可能性が出て来た。海外でもニーズが出てきている」と述べた。
辻阪氏も「変化というよりもメッセージが追加されたと考えている。人の移動や作業を代替するのはいずれ来る未来だったが、それが一気に加速したと思っている」と語った。
第2波に向けての準備について佐藤氏は「医療崩壊しないようにサポートするためのロボット技術が注目されるだろう」と述べ、「壮大な社会実験が行なわれているのだから、果敢に挑戦して『良いもの』を残していくことが重要だ」と語った。これからのロボットは単なる作業だけではなく、社会に大きな影響をもたらすものになると考えているという。
Miraの松井氏は、新型コロナは多くの国が協力していかないといけない問題で、そのなかでデジタル化技術が活用できるだろうと述べた。WHILLの辻阪氏は、社会の姿勢として柔軟さとスピーディさが求められると述べた。
現時点でのロボット技術は社会の要求に応えられるのか。どんな課題があるのか。
松井氏は「働き方を変えてもらうことでロボットも可能性がある。現在は軽作業しかできないし複雑なことはできないが。タスクの切り出し方で活用領域を増やしていくことはできる。課題はインフラ面。通信環境がまちまちだ。ロボットが活用されることも想定されておらず、電波が気軽に活用できない」と述べた。
辻阪氏も「電波もあるし物理的な環境の課題もある。一般市街地を走ろうと思うと走りづらい状況がある。WHILLが空港にフォーカスしているのはニーズがあることもあるが、段差や悪路がなく、もともとロボットに整ったインフラがあることもある。ロボットフレンドリーな街はモビリティフレンドリーでもある。普通に走るためには道路・施設も最適化していかないといけない」と述べた。
ロボット自体が自動車のようなインフラになるために何が必要だろうか。佐藤氏は車検や免許制度など責任の所在、制度面・規制面の課題を挙げた。
松井氏は「ロボット単体でのインフラ化は難しい。むしろ今のインフラをロボット化するほうがスムーズ。ロボットはセンサー、アクチュエータ、コントローラなので、いわゆる『ロボット』は全体から見た一部。ロボットがインフラのデータを収集して人に提供することもできるし、人自体がアクチュエーターでもある。全体をロボットとして捉えることが社会インフラになっていくのではないか。結果的にそれがロボットの普及になるのではないか。ゆくゆくは街全体がスマートシティになっていく」と述べた。
辻阪氏は「自動車や道路がインフラになったのニーズがあったから。人の移動や作業を助けるロボットは必ず需要があるので、何らかのかたちでインフら化していく。われわれは段階を踏んで公道への進出を考えていきたい。どういう操作をしていけば人と共存していけるようになるのかはケーススタディを積み重ねていきたい」と語った。
今回のセミナーが2社合同で行なわれた理由は、Mira Roboticsと辻坂氏がもともとつながりがあったことによるという。現時点で具体的な計画があるわけではないが「将来、何かを一緒にできれば」と締めくくられた。