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東京医科歯科大ら、量子干渉で量子ビットを長寿命化する技術
~量子コンピュータの性能向上に期待
2020年1月28日 14:57
東京医科歯科大学、理化学研究所および東京大学による研究グループは、「反超放射」を利用した量子ビットの長寿命化に成功した。
量子コンピュータで用いられる量子ビットは、基底状態|0>と励起状態|1>の重ねあわせで情報を保管する。超伝導量子コンピュータでは、微小な電気回路で構成される人工原子「超伝導量子ビット」に対して、マイクロ波の「ゲートパルス」を照射してゲート操作を行なう。そのさいに量子ビット1つ1つを操作するために、「制御線」と呼ばれるマイクロ波照射用の導波路をそれぞれの量子ビットに結合し、そこからゲートパルスを照射して操作する。
しかし、量子ビットと制御線を結合すると、量子ビットの自然放出を誘発してしまうため、量子ビットの寿命を縮めてしまう。逆に結合を弱くすると、寿命は延びるものの、ゲート操作にかかる時間が長くなる。そのため、量子ビットの制御線への結合に伴う自然放出は避けられないものと考えられていた。
同グループではこの問題を解決するため、データ量子ビット(DQ)を結合した制御線上に、DQと同じ共鳴周波数をもつ量子ビット「非線形フィルター(ジョセフソン量子フィルター、JQF)」をさらに結合させた状態で、ゲート操作(ゲートパルスの照射)を試みた。JQFの結合はDQのものよりはるかに強く、両者の間隔は共鳴波長の半分程度になるように設定する。
ゲートパルスを照射していない場合、JQFは制御線に強く結合するため、素早く基底状態|0>に緩和する。このとき、DQが基底状態|0>のときはそもそも自然放出を起こさないが、励起状態|1>のときも自然放出を起こさなくなる。これは反超放射と呼ばれる量子干渉効果によるもので、JQFによって、DQは自己の状態に関わらず緩和しなくなり、量子情報が劣化せず保持される。
ゲートパルスを照射した場合、JQFはパルスと相互作用して「吸収飽和」を起こし、基底状態|0>と励起状態|1>が半々の確率で存在する「混合状態」となる。このとき、JQFはゲートパルスを完全に透過するため、JQFがない場合と同じようにDQに対して素早いゲート操作が行なえる。
ノットゲート(量子ビット反転)を繰り返し行なう実験では、JQFがない場合は自然放出によって振動が鈍っていくのに比べて、ある場合は振動が鈍らずに継続していることがわかる(図1)。
これまでは、データ量子ビットの制御線に別の量子ビットを結合させると、2つの量子ビット間で生じる相互作用によってゲート操作の正確性が失われると考えられていた。しかし、今回の研究で、2つの量子ビットが結合している場合でも、結合強度が大きく違う場合は有用に働く場合があると判明した。これは従来の考え方を大きく覆すものとなる。
JQFは、自身に対する制御が不要な受動性デバイスで、データ量子ビットとの空間的距離を厳密に制御する必要がなく、データ量子ビットと巨視的に離れているので意図しない相互作用が発生しないという3つの特徴があり、複雑な量子コンピュータ回路にも技術的に組み込みやすい。同グループでは、量子コンピュータの計算能力向上に直ちに効果を発揮できるとしている。